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イベントレポート

老化研究の最前線(1)「老化研究産学連携シンポジウム」を開催(11/9)

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2020年11月9日(月)、Zoomウェビナーにて老化研究の最前線(1)「老化研究産学連携シンポジウム」を開催いたしました。
(主催:国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)老化メカニズムの解明・制御プロジェクト、共催:LINK-J

本イベントは、国内を代表する老化研究機関や産業界から、老化研究について最新の研究内容や老化研究の取組みについてご発表いただき、アカデミアと企業との共同研究の受け渡しの場の提供や将来的にはコンソーシアムを形成し、研究の成果をサポートできる体制を構築することを目的としたイベントです。今回のイベントでは、アカデミアや産業界からの研究者や代表者8名が登壇し、最新の老化研究についての話題や企業での老化研究に対する取り組みなどについてご発表されました。

(1)「個体老化の制御を目指す栄養介入と炎症抑制」 
国立長寿医療研究センター 研究所副所長 丸山 光生 氏
丸山氏からは老化に伴い生体内で生じる細胞老化、炎症性サイトカインの産生を、栄養介入することで抑制できることについてご報告いただきました。具体的には、動物モデルを用いて乳酸菌(KW3110)を16ヶ月齢のマウス(ヒトでは40~50歳)に6ヶ月間長期摂餌させることで、加齢に伴う腸の炎症抑制、血中のサイトカイン量の抑制、網膜の老化の進行を抑えることなどがご紹介されました。

(2)「東京都健康長寿医療センターのTR研究の取り組み」
東京都健康長寿医療センター研究所 副所長 重本 和宏 氏
重本氏からは東京都健康長寿医療センターにおける老化研究の取組みについてご紹介されました。取組みの一つとして、東京都健康長寿医療センターが有する高齢者ブレインバンクやPETなどの画像診断情報を用い、ビッグデータを活用した健康長寿データベースを構築する「認知症未来社会創造センター」のの取組みや、食事と運動の介入により、介護予防が可能であることが紹介されました。また、上咽頭神経への電気刺激が骨密度軽減に効果があることがご紹介されました。


(3)「スーパーセンチナリアンから元気高齢者まで:多年代コホート研究か
ら見えること」 
慶應大学医学部百寿センター 専任講師 新井 康通 氏

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新井氏からは慶應義塾大学医学部百寿センターで長年取り組んでいる百寿者やスーパーセンチナリアン(110歳以上)の元気高齢者コホート研究についてご紹介いただき、百寿者もスーパーセンチナリアンも糖尿病、高血圧などの心血管危険因子が低いことをご説明いただきました。また、血液バイオマーカーの加齢変化による研究では、心臓、腎機能、肝臓に関連するバイオマーカーとの相関が高いことが示され、心臓と腎臓の循環システムの老化が、究極的にはヒトの寿命を規定しているのではとの仮説をご紹介いただきました。

(4)「"未来の社会を支える会社"になるために人生100年時代における帝人グループの老化への取り組み」
帝人株式会社 代表取締役社長執行役員CEO 鈴木 純 氏

鈴木CEO.png

鈴木氏からは、帝人グループの概要、帝人ヘルスケア事業の取組み、人生100年時代における帝人グループの老化への取組についてご紹介いただきました。会社として健康寿命を延伸すること、プロダクティブ・エイジングの実現をめざしており、最近の取組みとして、未病・予防領域として、機能性食品、サプリメントの販売を手掛けていることが紹介されました。また、フレイル治療薬の開発として、AMED_CiCLEプロジェクトへの参画について説明されました。最後に「未来の社会を支える会社」になることを目指していることなどもご紹介いただきました。

(5)「RNAモドミクスに基づく老化メカニズムの理解と応用」
東北大学加齢医学研究所モドミクス医学分野 教授 魏 范研 氏
魏氏からは所属する東北大学加齢医学研究所のミッションについて紹介されました。また、2型糖尿病の発症研究から、発症に関わる危険因子Cdkal1に着目し、Cdkal1tRNAのメチル化修飾に関わることを見出しました。派生研究としてtRNAの修飾異常が老化関連性疾患の発症に関与することから、RNA修飾を網羅的に解析する「RNAモドミクス」技術を確立しました。この解析法の応用例として、ミトコンドリア病についての解析例が紹介され、タウリン修飾が有意に低下することが示されました。現在、この解析手法を用い、個体老化マーカーの解析を実施していることが紹介されました。

(6)「老化と腎臓:創薬の可能性」
AMED老化PJ・片桐拠点/京都大学大学院医学研究科 教授 柳田 素子 氏

柳田先生.png
柳田氏は、加齢に伴い低下する腎臓機能について紹介されました。高齢者は急性腎不全から回復しにくいことがこれまで知られており、マウスモデルにおいても、障害のある腎臓では、腎臓の血管の周りに三次リンパ組織が形成され、修復が遅れることが示されました。三次リンパ組織は背景腎の障害や炎症に応じて成熟すること、ステロイドの投与により縮小、消失することがわかり、三次リンパ組織は、加齢に伴う腎修復不全の治療薬標的として有望であることが紹介されました。

(7)「オルガノイドによる大腸上皮老化研究」
AMED老化PJ・片桐拠点/慶應義塾大学医学部 教授 佐藤 俊朗 氏
佐藤氏は、幹細胞を培養皿の上で(in vitroで)培養し、増殖する技術(オルガノイド技術)を開発し、加齢とともに大腸上皮で蓄積する遺伝子変異について研究をされています。オルガノイド技術を用い、潰瘍性大腸炎上皮幹細胞では、炎症性のサイトカインの一つであるIL-17を介した炎症シグナルに関連する遺伝子の変異が蓄積されることが示されました。さらに、遺伝子変異が生じた大腸上皮細胞では、IL-17に対して耐性ができ、腸内細菌叢の変化、粘膜の免疫異常が起こることが紹介されました。


(8)「加齢性睡眠障害/早朝覚醒の鍵を握る生体リズム機構」
AMED老化PJ・片桐拠点/京都大学大学院薬学研究科 教授 土居 雅夫 氏
土居氏は、ヒトは加齢により体内時計のリズムがだんだん弱くなることで、睡眠障害や炎症、糖尿病、がんなど病気の原因となることが知られており、このリズムを元に戻すことで、加齢性疾患の遅延が可能になるのではないかと考えています。体内時計の中枢である視交叉上核に存在するGPCRと呼ばれる受容体を網羅的に探索した結果、夜間cAMPを強力に抑え、朝型に関係する因子Gpr176を発見しました。現在この分子を標的にした加齢性不眠治療薬の開発に挑戦していることが紹介されました。


質疑応答の時間には活発な議論が展開され、有意義な時間となりました。ご参加頂いた皆様、誠にありがとうございました。
12月8日には老化研究の最前線(2)「国内老化研究機関・連携推進会議」を開催致しました。イベントレポートはこちらをご覧ください。

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