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インタビュー・コラム

第8回 日本橋再開発とライフサイエンス構想

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柔軟なビジネスマインドで時代を切り拓いてきた「くすりの街」日本橋本町。これまでのコラムでは、昭和半ばごろまでの街の変遷をたどってきました。今回は平成に入り、景気の後退で失われた街の賑わいを取り戻すための「日本橋再生」の歩みを振り返ります。

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日本橋復興を目指して

江戸時代から、経済や文化の中心地として常ににぎわいを見せていた日本橋。大正時代に起こった関東大震災では街の9割以上が消失するという壊滅的な被害を受けながらも、奇跡的な復興を遂げてきました。

ところが、1990年代後半ごろから、その様相は一変します。バブルがはじけ景気が急速に悪化し、証券会社が林立する日本橋兜町では、1997年に山一證券が倒産。証券取引の電子化などの影響もあって金融マンが減少し、潮が引くように街の人通りが途絶えました。また、1999年には東急百貨店日本橋店(旧白木屋)も撤退し、買い物客も激減したのです。

このままでは人が来ない街になってしまう、日本橋をなんとかしなければ――。この危機感から始まったのが、今日まで続く「日本橋再生計画」です。かつては交通の要衝であり、各地から人々や物産が集まって活気にあふれていた日本橋。その姿を取り戻そうと、歴史的建造物や伝統ある老舗を「残しながら」、街の景観や路地のにぎわいを「蘇らせながら」、新しい街を「創っていく」を合言葉に、三井不動産が中心となって、再生計画が立案されました。

都市再生計画によって、あたらしい日本橋の街へ

「日本橋再生計画」では、「産業創造」「地域共生」「界隈創生」「水都再生」の4つのコンセプトのもと、都市の再生が推進されています。まずは商業的な賑わいを取り戻すため、2004年の「COREDO日本橋」を皮切りに、続々と商業施設がオープン。日本橋エリア初の映画館や、美術館も開業、江戸情緒あふれるイベントを定期的に行うなど、文化的な発信もなされるようになりました。

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なかでも、コンセプトの一つである「産業創造」については、どんなことができるのかという議論が重ねられました。日本橋は、かつては呉服屋が軒を並べており、証券会社も林立する商業の街。同時に、江戸時代から薬種問屋が集まる「くすりの街」としても知られていました(第1回 日本橋本町はなぜ「くすりの街」になったのか<江戸時代編>)。日本橋再生計画にたずさわってきた三井不動産株式会社の新原昇平さんは、当時のことをこう振り返ります。「くすりは日本橋の地場産業であると同時に、これから伸びる産業だという期待がありました。そこで、『医薬品産業といえば日本橋』と言われるような街づくりをしよう、という発想が生まれました」。

「場」づくりと「機会」づくりの両方を目指した産業創造

従来の医薬品関連企業は、研究開発から製品開発まで自社の中でおこなうのが一般的でしたが、これからの時代はもっと多様な業種・分野の人たちが、分野を超えて人的・技術的に交流しながら事業を進める、オープンイノベーションが必要ではないか――。そうした考えから、医薬だけでなく医学、理学や工学、情報通信技術や人工知能といった新たなテクロノジーを含めた幅広い「ライフサイエンス分野」を産業の要にしたのです。

まずは、ライフサイエンスにかかわる人々が集まることのできる"場"をつくろう。
しかし、どのような"場"をつくれば人が集まってくるのか――?

熟慮の末に、研究者の発表、医学研究会、情報交換会などさまざまなイベントを開けるような「場」をつくることにしました。こういったイベントを通じて、この「場」では、ライフサイエンス領域の人たちがお互いにリアルな交流ができるような「機会」を提供することにしたのです。日本橋の産業創造においては、この両方を同時に進めながら、新しい価値を創ることに重点が置かれたのです。

2014年には、旧アステラス製薬の本社である「日本橋ライフサイエンスビルディング」が加わり、拠点を拡大され、ライフサイエンス領域にかかわる人が集まり始めました。医療分野の研究開発や産学連携などを推進する「国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)」、「日本製薬工業協会」、「再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)」などの団体、大学などのアカデミア、医療機器やヘルスケアベンチャーなど、産官学の有志が続々と集まってきました。日本橋をライフサイエンスのあらたな集積地にする、という試みは、しだいに軌道に乗り始めたのです。

map_nihonbashi.png日本橋を中心とした医薬品企業が集積するエリア(青字は現在9箇所となった日本橋ライフサイエンス拠点を示す)

続く>> 第9回 ライフサイエンス領域の産官学連携の要「LINK-J」誕生

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