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インタビュー・コラム

サポーターコラム#3『医療のイノベーション』

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現在ホットな話題や今更中々聞けないコト・・・など、ライフサイエンスに関わるあらゆる話題についてLINK-Jサポーターの意見を聞いてみたい!ということでスタートした「サポーターコラム」。第三回となる今回は、医療におけるイノベーションのあり方と今後の可能性について、LINK-Jサポーターの山本雄士先生にお伺いしました。

医療のイノベーションの過去・現在・未来

第2回の辻丸光一郎先生より、「医療のイノベーションについてご意見を聞きたい」とのバトンを頂戴したので、私からは「イノベーションの定義」と「私が考える医療イノベーション」について、私見を紹介させて頂きます。

イノベーションは「技術革新」と表現されることが多いですが、技術に限った話ではありません。新しいアイデアや仕組みによって、製品やサービスなどがより身近に/より安価に/より手軽に享受できるようになる変化を指す概念です。イノベーションには、過去のイノベーションとの連続性を有する持続的なイノベーションと、過去に前例がない非連続的なイノベーションの2種類があります。たとえば、医療における新薬の開発は大昔から人類が挑戦してきた持続的なイノベーションの典型例といえます。一方で、「病気にさせない医療」のような新たな価値観は以前からあった概念とはいえビジネスモデルでの成功例がまだないことから、非連続的なイノベーションの種といえます。もっとも、たとえば「認知症を完治させる薬」ができたら、前例がないという意味では非連続的なイノベーションということもできるでしょう。両者の区別は、商材やビジネスモデルなど、どの視点に立つかによっても異なります。

医療技術のイノベーションの一つの流れは、「より患者サイドに近づく」方向への進化です。かつては一部の大学病院や基幹病院しか提供できなかった最新の診断技術や医療技術は、技術の進歩や低価格化などによって施設の裾野が拡大し、患者さんにとってより身近な存在となってきました。一方で、技術をより高度にすることが次なるイノベーションの種であるとして投資され続けてもいます。これらの動きは、医療に限らず様々な業界で起きている現象であり、技術深化という持続的なイノベーションにおける当然の流れとして、今後も続くと思われます。

患者さんに身近になっていくイノベーションは同時に、医療(医薬品や機器だけでなく従来型医療の価値でさえも!)のコモディティ化も招きました。そこで現れてきたのは、ブランド力やサービス力といった、新たな価値を医療に付加するという考え方です。さらに、ビジネスやITの分野では当たり前に語られているエクスペリエンス(未知の体験)の向上という概念が医療の世界でも登場しています。

では、その次に予想される医療イノベーションは何でしょうか。私は「これまで認識されてこなかった、潜在顧客といわれる強いニーズがあるわけでもない層(私はこれを無消費者層と定義しています)の取り込み」が本格化すると予想しています。価格競争や高付加価値路線で顧客を奪い合うよりも経営的に健全であり、ブルーオーシャン(競合企業が存在しない未開拓市場)市場として更なる成長が見込めるからです。

医療における無消費者層としては、たとえば「健康問題がまだ顕在化しておらず、これまでほとんど医療機関との接点がないが、実は医療的なアプローチが有用だと思われる層」の存在があります。海外では、プライマリ・ケアが根づいていたり、産業構造上この問題に対応しやすい国もありますが、日本ではまだうまく機能する基盤がありません。現行法が定義する日本の医療の枠組みの中では、すでに疾患状態にあって医療を必要とする人たちにサービスを提供するのが医療の役割であり、そうでない人たち、特に健康状態はよくないが疾病までには至らない人たちとのつながりは希薄でした。いわば「現代医療のエアポケットにいる彼ら」と医療のつながりの深化は、次の医療イノベーションになると考えています。私はこれを「医療の拡張」と呼んでいます。

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この領域には、小売業や保険業など既存の医療業界のプレイヤーとは異なる企業の参入が相次いでいます。産業としてはいまだ試行錯誤の段階にありますが、もし彼らのサービスの対象者が従来の医療側にまで拡大してきた場合、医療の枠組みに変化を与えることになるかもしれません。日常的な医療行為は新たなプレイヤーの独壇場となり、従来の医療機関の役割は高度先進医療や繊細な技術を要する外科手術など、非常に高度かつ専門性の高い医療行為に限定される、そんな未来もありえるのです。医療業界に足を踏み入れ始めた新たなプレイヤーが医療業界の仕組みや医療の次の訴求価値を理解し、無消費者層の囲い込みに成功するのか、あるいは従来の医療の担い手が先に無消費者層の存在に気づいて、彼らに積極的にアプローチをすることで反撃に転じるのか。今後の動向に注目です。

雑駁ではありますが、医療の世界におけるイノベーションの現状と今後の展望について、私見を披露させて頂きました。次回はICTとAI技術進歩によって、新たなサービスや価値が生み出されることでもたらされる未来の医療へのインパクトついて、エキスパートのご意見をお伺いしたいと思います。

山本 雄士 氏  株式会社ミナケア 創業者・代表取締役(医師・産業医)/ LINK-Jサポーター

東京大学医学部を卒業後、同付属病院、都立病院などで循環器内科などに従事。日本人医師として初めてハーバードビジネススクールを修了(MBA)。日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医。科学技術振興機構フェロー、内閣官房企画調査官、慶應義塾大学クリニカルリサーチセンター客員准教授などを経て、2011年にミナケアを創業。健康を守り、育てるコンセプトである「健康投資」を提唱し、投資型医療という新たな産業及び医療モデルを創造している。

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