Menu

インタビュー・コラム

サポーターコラム#5『ウィズコロナ時代のヘルスケア・スタートアップが意識すべき「狭間」と「仲間」』

  • twitter
  • Facebook
  • LINE

石見さん_トップ画像.png

ライフサイエンスに関わるあらゆる話題についてLINK-Jサポーターの意見を「聞く」リレーコラムの第五回。
今回は、ウィズコロナ時代のヘルスケア・スタートアップが意識すべき「隙間」と「仲間」について、メドピア株式会社代表取締役社長CEO石見陽氏にお伺いしました。

ウィズコロナ時代のヘルスケア・スタートアップが意識すべき「狭間」と「仲間」

COVID-19は一瞬で世界を変えてしまった。地震、豪雨などの災害、他にもテロや戦争などの危険がある中で、感染症がこれ程まで人類全体の脅威になることを誰が想像できただろうか。私は、1999年に医師となり、現在も臨床医を続けながら会社を経営している。その医学部時代に、ある教官が「21世紀は再び感染症の世紀になる」と言っていたことを覚えている。この教官は、結核や肺炎などの古くから存在している細菌が、そのうち抗生剤に耐性ができて効かなくなり、再び感染症によって死ぬ人が増える、と警鐘を鳴らしていたのだ。その頃の私は、「まぁ、その時はまた新しい抗生剤を開発すればいいだろう」くらいに軽くとらえていた。
しかし、このCOVID-19は、単に治療薬がない(ウィルスなのでそもそも抗生剤は無効だが)だけでなく、感染の過程、診断後の振る舞いからして、我々医師にとって知らない部分が多すぎる。先日テレビで感染症の専門家が「我々医師は、感染症について実は何も知らなかったのかもしれない」と自虐気味に呟いていたことがとても印象に残っている。

前置きが長くなったが、本稿では、このCOVID-19によって変わったビジネスシーン、特にヘルスケア・スタートアップの業界プレイヤーが意識しておくべきことについて私見を述べたい。

私は、COVID-19と共に生きていく時代(ウィズコロナ)を受けて、これからのヘルスケアは各ステークホルダー相互が独立・断裂・隔離していた状態から、急激に依存・継続・融合の方向に向かっていくと考えている。ヘルスケア業界をライフステージごとに「セルフケア(ウェルネス・予防)」「医療」「介護」と三つに区切った場合、ステージごとにサービスを提供する企業や医療施設群、各種サービス、データレイヤーに至るまで、「個人」を切り口に全てが融合していく世界に突入していく。
これは、他業界ではO2OやOMOなどの文脈で語られていたことではあるが、70代のスマートフォン普及率がようやく半数を突破したことから、スマートフォンを持つ「個人」を起点として、各サービスが統合されている環境がようやく整ったこと、そして何よりCOVID-19により、どこまでいっても「リアル」が優先されてきたヘルスケア業界に待ったなしの「オンライン」の波が来たことによる。

その波の象徴的な事例と言えば、「オンライン診療の推進」だろう。少し改革のアイコンとして扱われ過ぎたきらいがあり、医療の質への不安・事務的な負担・経済的補償の不備のおかげで、浸透していくにはまだ時間がかかると考えているが、この騒動の中、一定の進捗があったことは間違いないだろう。
実は、オンライン診療はこのタイミングでテクノロジーのイノベーションが起きたわけではない。技術的には双方がスマートフォンを持っていればかなり前から実現可能であった。今回の流れは、政府によるサービス提供の規制緩和、すなわちサービスのイノベーションが起きたと捉えるべきだ。そして、このイノベーションによって起きたことは、実は、今まで遠い存在だった「医療提供者」と「消費者」がようやくオンラインで繋がった、ということなのではないかと思う。

私は、これまでイノベーションに消極的だった医療提供者と消費者が繋がったことによって、波及効果としてこれまで交わることの少なかった、医療提供者と先述の「セルフケア事業提供者(ドラッグストア・フィットネスジム・サプリメント製造等)」「介護提供者(訪問診療所・介護施設等)」の相互連携や横展開が増えていくと考えている。今までは医療提供者は真摯に医療に取り組んでいれば収益を上げられていたが、COVID-19の影響で収益が急速に悪化している。同時に、国民は少なくとも短期的には病院に行かなくても多くのことが済むことに気づいてしまった(もちろん、今後がん等の致死性疾患が重症化して発見される事態になるのは望まないが...)。医療提供者側としては、医療そのもの、という本丸は守りながらも、この機会にセルフケア、介護などの周辺領域に進出せざるを得ないという側面があり、実はそれは国民側が求めていたことでもあるのではないだろうか。

Healthtech_LINKJ.png

最後に、ヘルスケア業界を目指すスタートアップの皆様に、最近利用している図の紹介と共に一言お伝えしたい。これまで述べてきたように、この業界は今までにない勢いで変化が進むものと想定される。その業界にチャレンジする際は、上述の各プレイヤーの「狭間」を繋ぐことを意識するのと同時に、是非、トライアングルの一角である中の人(医療提供者)を「仲間」に加えることを検討して欲しい。ビジネスエグゼクティブによるEconomics, 技術者の推進するTechnology, そこに医療の中の人がMissionという魂を注ぎ込むことで、あなたのビジネス展開のスピードは間違いなく早くなるはずだ。

石見 陽 氏  メドピア株式会社 代表取締役社長CEO(医師・医学博士)/ LINK-Jサポーター

1999年に信州大学医学部を卒業し、東京女子医科大学病院循環器内科学に入局。循環器内科医として勤務する傍ら、2004年12月にメドピア株式会社(旧、株式会社メディカル・オブリージュ)を設立。2007年8月に医師専用コミュニティサイト「MedPeer(旧、Next Doctors)」を開設し、現在12万人の医師(国内医師の3人に1人)が参加するプラットフォームへと成長させる。2014年に東証マザーズに上場。2015年より、ヘルステックにおける世界最大規模のグローバルカンファレンス「HIMSS & Health 2.0」を日本に誘致して主催。 現在も週一回の診療を継続する、現役医師兼経営者。
共著「ハグレ医者 臨床だけがキャリアじゃない!」(日経BP社)、その他「世界一受けたい授業」や「羽鳥慎一モーニングショー」など各種メディアに出演し、現場の医師の声を発信。

pagetop