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インタビュー・コラム

高齢者の背骨をより確実に、より安全に治療したい 脊椎外科医の視点で挑戦する株式会社スパインクロニクルジャパン

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株式会社スパインクロニクルジャパンは、高齢者に最適で新しい脊椎手術インプラントを提供することを目指して誕生したスタートアップ企業です。高齢者は、骨粗鬆症により骨が脆くなるため、既存の手術デバイスでは治療が難しいことが多く、合併症の発生や再手術が必要となるリスクが高いことが明らかとなっています。そこで同社は、上記課題を解決する新しい脊椎治療デバイスの開発に挑戦しています。創業者であり、脊椎外科専門医でもある米澤則隆先生に、起業の動機、高齢者脊椎治療の課題、今後の事業展望などについてお聞きしました。

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米澤則隆(株式会社スパインクロニクルジャパンCEO、創業者)

高齢化先進国の日本において得た知見により、世界の高齢者を助ける脊椎治療機器を届けたい

――まずは、自己紹介からお願い致します。

石川県金沢市生まれで、家族が病院(整形外科米澤病院、金沢市)経営をしています。開業したのは私の祖父(米澤繁男、脊椎外科医)であり、当時はまだ珍しかった整形外科専門病院を石川県金沢市内に開業しました。その息子にあたる、父も叔父も、そして兄も弟も整形外科医になりました。そんな「整形外科一族」の中で、幼い頃から医療機器は身近な存在で、祖父が米国の新しい術式(PLIF)をRalph Bingham Cloward博士を招待して米澤病院で行ったエピソードを祖父より多く聞かされ、私もまた医師の道を歩みたいと考えました。そして、金沢大学医学部に進学し、金沢大学整形外科の多くの先生方のご指導を頂き、脊椎外科医の経験を積みました。

――整形外科医である先生が、起業に挑戦することになったきっかけを教えて下さい。

患者さんを治療していると、どうしても症状の再発と合併症の問題に直面します。一旦は改善しても再手術が必要となることも決して珍しくありません。それが起きないように様々なリスクを管理しながら治療を行いますが、それでも限界があります。14年の脊椎外科治療歴の経験から、その理由のひとつが医療機器の制約であると考えるようになりました。「より優れたデバイスがあればもっと安全に、患者さんを治療できるのに、限られたデバイスしかない」と感じていました。

私の臨床のスタンスとしては患者さんに最適な治療を提供するために、手術の必要性の可否から手術方法の選択、そして実際の手術及び術後管理まで最善を尽くしたいと考えています。様々な先生に相談しながら最善策を探ることもあり、その中でキーになったのが、叔父の米澤嘉朗先生(整形外科米澤病院・診療部長)が考案した、経皮的椎体形成術(セメント充填手術)と脊椎インプラントとを組み合わせる術式でした。海外でも術式の有効性が報告されており、革新的な方法であったことから、実際の術式を経験した結果、非常に優れていることがわかりました。問題は、手術に使用する医療機器が、国内で承認された用途とは異なることから、この手術に最適化された機器が承認されていれば、より多くの高齢者の治療で使用され、治療の恩恵を受ける患者さんが増えるのではないかと考えました。

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(左)米澤則隆氏、(右)米澤嘉朗先生

当時、自分で作るという発想はなく、国内外の複数の医療機器メーカーに「こういう機器を開発してほしい」と話をもちかけました。本国に提案をあげて頂いた外資企業もありましたが難しいことがわかり、そうしているうちに新しい医療機器の多くは海外のスタートアップで開発され、大手企業に売却して世界に普及しているという事実を知りました。そこで、起業家の先輩であり、同じ脊椎外科医の大谷隼一先生(株式会社クオトミー創業者)に相談をしたところ、大きな後押し・応援を頂き、起業することを決意致しました。

脊椎を連結固定せずに、可動性を維持しながら
骨粗鬆症脊椎骨に対する最大の治療効果を提供する

――貴社が現在開発中の技術について教えて下さい。

私たちは、骨セメント充填術と専用のインプラントを組み合わせた新しい内固定技術の開発に挑戦しています。超高齢化社会の日本で、治療の機会が多い疾患の一つが脊椎圧迫骨折です。加齢によって骨が脆くなると、転倒等により椎体が骨折して、潰れてしまいます。いったん骨折を受傷すると背中が大きく曲がり変形したり、下肢の神経痛や、歩行困難、難治性腰痛といった症状が出現する場合もあります。現行の手術治療には、潰れた椎体をバルーンで整復して、骨セメントを充填する経皮的椎体形成術、または複数の椎体を外側から金具で完全に固定する脊椎固定術が行われますが、いずれも再骨折や骨セメント・インプラントの緩み等のインプラント関連合併症の割合が高く、別の椎体にも負荷がかかることが課題でした。

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骨セメント充填と脊椎インプラントを組み合わせた新しい内固定技術のイメージ

さらに、私たちは腰部脊柱管狭窄症や成人脊柱変形といった、従来の脊椎連結固定インプラントで治療していた疾患における合併症(隣接椎間障害)の発生リスクを抑えることが可能となる、コア技術と組み合わせて使用する改良・脊椎ケージの開発も同時に進めています。従来の脊椎骨を連結固定する術式に加えて、脊椎骨を安定化する"第3の術式"の開発を進めています。現在、国内の複数の企業と連携して上記製品の開発を行っています。

――海外で同様の治療デバイスは製品化されているのでしょうか。

現在、日本と同様に高齢化が進む欧州のある企業が、弊社と近い治療のコンセプトをもつ製品を開発し、臨床導入段階となっています。弊社が開発する高齢社向けの脊椎治療機器のニーズは、欧州以外には、日本をはじめ高齢化がすすむ東アジア地域に多いと考えています。一方で、多くの欧米で開発された治療機器は、必ずしも高齢の骨粗鬆症がすすんだ日本人の高齢者の脊椎治療には適していないところがある、と考えています。

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新しい脊椎医療機器の薬事承認および普及には多くの関門がある
臨床試験(治験)を通じて有効性を明らかにしたい

――貴社のインプラント技術によって、どのような恩恵が期待できるのでしょうか?

まずは、既存の脊椎連結固定インプラントによる手術を一部回避することが期待できます。手術に要する時間を短縮し、身体への負担も軽減することができるようになります。1箇所のセメント充填とインプラント挿入だけであれば、必要な手術時間は20〜25分程度です。原則、全身麻酔の上で実施しますので、麻酔開始から退室までの時間を含めても、1時間ちょっとで治療が完了します。脊椎固定術と比べて侵襲性も低く、脊椎を連結させて固めるわけではないので、可動性も確保できます。合併症や再手術のリスクも低下することが期待でき、比較的リスクの高い患者さんでも、安定した治療成績を出して治癒が期待できると考えています。

――従来の治療では、どのような合併症が起きやすいのでしょうか?

たとえば、脊椎固定術の場合は、金属器具で脊椎全体を連結固定するため、インプラントの緩みが生じることがよくあります。大きなトラブルに繋がらないことも多いですが、場合によっては埋設した器具が皮膚を突出して、皮膚のトラブルを生じることがあります。またうまく連結固定できても、隣接する脊椎骨に負荷が生じ、その部位で変形や骨折を起こしてしまう合併症の発生リスクがあります。つまり、脊椎全体を連結固定する既存の脊椎固定インプラントによる治療方法は、高齢者にとっては非常に負担の大きい手術であると考えています。そこで、弊社が開発する椎体単体を補強するインプラント、およびその関連する術式の有効性を治験によって明らかにして、治療成績の向上や治療戦略の革新につがるような製品を開発したいと考えています。

――現時点のチーム体制について教えてください。

おかげさまで、昨年起業してから多くの方のご指導・サポートを頂き、また協力企業様のおかげで、研究開発事業を進められています。同じ脊椎外科医で開発に携わる北川亮さん、そしてシリアルアントレプレナーである平崎誠司さんの参画を経て、現在の研究・事業化チームは、顧問の先生方などを含めると総勢8名で事業を推進しております。
今後は、さらに脊椎医療機器の開発体制の強化し、各製品の知財戦略の遂行、開発スピードをアップさせていきたいと考えております。また多くの脊椎外科臨床医師の先生方とシナジーとなるような研究体制の構築にも努めていきたいと考えています。

――将来的には、どのようなビジネスモデルを目指していきますか?

第1種医療機器製造販売業許可を取得して、多くの現場の脊椎外科臨床医の先生方に新しい医療機器をお届けできるようにしたいと考えています。臨床試験を通じて、現在開発中のインプラントおよび手術器具の有効性を明らかにし、薬事承認の取得を目指します。同時に海外(FDA)における製品の承認も同時進行で行っていきたいと考えています。臨床的な有用性(POC)と安全性は、過去の研究にて一部はすでに明らかとなっています。一方でまだまだ多くの課題を有しており、皆様に相談させて頂きながら事業を推進しております。

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東京・日本橋は同じ未来を目指す仲間たちと出会える場所

――起業にあたってはX-DOJOに入り、その後プレモパートナー(株)主催のMedTech Angels Demo Dayにも受賞されました。

大谷先生にXVCの津嶋辰郎さんをご紹介いただき、X-DOJOのプログラムに参加しました。その後、プレシード出資を頂いたり、プレモパートナー(株)主催のMedTech AngelsではLINK-Jさんよりライフサイエンス賞を頂いたりしました。それによって色々なご縁があり、他のプログラムに参加させて頂き、製品開発やビジネスの考え方についても学びました。現在、家族や地元からも多くの⽅よりご⽀援・応援を頂いており、⼤変感謝しています。事業を成功させて、恩返しをしたいと考えています。

――現在は、東京・日本橋のライフサイエンスビルに入居されており、LINK-Jにも特別会員として参画されています。率直な感想をお聞かせ下さい。

日本橋にいることで、同じスタートアップの仲間にも出会うことができ、共に未来に向かって進める環境が整備されているのは、非常にありがたいです。もちろん金沢市内にも、スタートアップ向けシェアオフィスがないわけではありませんが、医師出身の起業仲間となると、なかなか見つかりません。その意味では、日本橋には、常にスタートアップ仲間と出会える環境があって、ここにくると安心感があります。

――今後の展望とメッセージをお願いします。

現在は、骨粗鬆症を有する椎体骨折に対する治療用インプラントとして開発していますが、将来的には、日本だけでなく世界の患者さんの治療に役立つ治療機器を開発できればと考えています。私の印象として、整形外科医はアイデアマンが多い印象があり、事業化のアイデアを持っている先生も決して少なくないと思っています。弊社がそのロールモデルのひとつとなれるよう頑張りたいと思っています。ありがとうございます。

yonezawa.png米澤則隆 株式会社スパインクロニクルジャパン最高経営責任者・最高技術責任者・創業者

金沢大学医学部卒業。卒業後は初期研修を経て、金沢大学整形外科に入局。石川県済生会金沢病院(金沢市)や厚生連高岡病院(富山県)、浅ノ川総合病院(金沢市)、金沢大学附属病院など金沢大学の系列病院で研鑽を積み、脊椎治療に特化した脊椎専門外科医として活躍する。2022年9月に株式会社スパインクロニクルジャパンを設立。

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