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イベントレポート

第27回 LINK-J ネットワーキング・ナイト「ニューロサイエンスが切り開く 未来と再生医療の深化」を開催(1/30)

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1月30日(水)、日本橋ライフサイエンスビルディングにて「第27回 LINK-J ネットワーキング・ナイト ニューロサイエンスが切り開く未来と再生医療の深化」を開催いたしました。(主催:LINK-J)

本イベントは岡野栄之氏(LINK-J 理事長、慶應義塾大学医学部教授、慶應義塾大学大学院医学研究科 委員長)を座長に、霊長類における脳科学研究の最前線をお伝えすることを目的に開催いたしました。

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初めに、岡野氏より、脳科学研究の最新動向をご説明頂きました。2013年にオバマ前大統領が発表したBRAIN initiative(ブレイン・イニシアティブ)をはじめ、脳の構造・機能を解明する大規模なブレインマッピングプロジェクトが、世界中で進められています。これらのプロジェクトにおいて、解析技術の進歩と、霊長類モデル動物の研究が、重要な役割を果たしています。脳科学研究の最前線で活躍されている、本イベントのご登壇者のみなさまをご紹介頂きました。

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「マーモセットの脳科学」

Marcello Rosa氏(Monash University(オーストラリア)バイオメディカル学部 生理学科 教授)より、マーモセットを用いた脳科学研究についてご説明頂きました。

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マウスはヒトと同じ哺乳類であり、遺伝的な相同性も高いことから、古くから、様々な研究分野でモデル動物として利用されてきました。しかし、近年の研究で、脳の機能や構造が、ヒトと異なり、ヒトの脳神経疾患の病態も一部しか再現できないことなどが明らかになってきました。一方で、霊長類であるマーモセットは、高い認知機能、手の巧緻性、社会性に関わる機能など、ヒトとの類似性が高く、脳科学研究のモデル動物として、近年注目が高まっています。このマーモセットを用い、Rosa氏は、「幼年期に一次視覚野(V1)に損傷を受け失明した人が、視覚とは異なる感覚で視覚情報を認識する」という現象の解析を進められています。MRIを用いた解析では、マーモセットが一次視覚野(V1)を損傷した時期に依存して、第五視覚野(MT)の反応が変化しており、幼年期の損傷ならば、第五視覚野(MT)の反応が維持できることがわかりました。このことから、幼年期に損傷を受けたマーモセットは、通常とは異なる経路、領域で視覚情報を認識していることが明らかになりました。

「シナプスの可塑性:基礎研究から臨床へ」

高橋琢哉氏(横浜市立大学大学院医学研究科 生理学教授 医学博士)より、脳卒中後のリハビリテーションに有効な薬の開発と、シナプスで神経伝達物質を受容するAMPA受容体を可視化する技術の開発について、ご説明頂きました。

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高橋氏は、動物が新しいことを学習する際に、AMPA受容体がシナプスに移行することを発見された、シナプス研究の第一人者です。現在は、シナプス移行を促進する薬剤を同定し、脳卒中後のリハビリテーションに有効な薬の開発に取り組まれています。治験を開始され、その結果が注目されています。また、PETトレーサーの開発により、ヒトの脳で初めてAMPA受容体を可視化することに成功されました。この技術を用い、鬱病、統合失調症などの患者の脳の解析を進められています。これまで医師による主観的な診断がなされていた精神疾患の領域で、分子レベルの解析データが得られており、その病態が次第に明らかになってきています。解析で得られた科学的なデータに基づき、診断方法や治療法の開発、創薬を進めていくことが、今後の脳科学研究の重要な方向性の一つであるとご説明頂きました。

「内視鏡型蛍光顕微鏡による自由行動下マーモセットの大規模神経活動記録」

近藤崇弘氏(慶應義塾大学 医学部 生理学教室 特任助教)より、自由行動下でマーモセットの脳の神経活動を記録する、カルシウムイメージング技術の開発についてご説明頂きました。

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Inscopix社が開発した超小型顕微鏡は、自由に行動するマウスの脳の神経活動を記録することができます。これまで、脳の神経活動を記録するには、頭部を固定する必要がありました。しかし、この技術により、日常的な活動における神経活動や、社会的な行動における神経活動を記録する事が可能となりました。しかし、霊長類ではこの技術が確立されておらず、近藤氏はマーモセットを用いて、技術の開発に取り組まれています。課題となったのは、カルシウムイオンと結合して神経活動を可視化する蛍光タンパクの発現効率です。マウスと異なり、霊長類では発現効率が非常に低い為に、神経活動を可視化できませんでした。そこで、遺伝子発現を制御するTet-OFFシステムを用いて、発現効率を向上させ、100個から200個の神経細胞の活動を、同時に可視化する事に成功されました。マーモセットを用いれば、マウスでは見ることができない、複雑な手の動きに伴う神経活動や、社会的行動に伴う神経活動を記録できるため、様々な脳神経疾患のメカニズム解明と、治療法開発へ貢献することが期待されています。

「霊長類コモンマーモセットを用いた新規パーキンソン病モデル」

小林玲央奈氏(理化学研究所 脳神経科学研究センター 研究員、慶應義塾大学 医学部 生理学教室 訪問研究員)よりパーキンソン病モデルマーモセットについてご説明頂きました。

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パーキンソン病の原因遺伝子を組み込み込んだマーモセットは、ヒトのパーキンソン病患者でみられる広範な症状を再現します。ヒトのパーキンソン病治療薬を投与すると、その症状の一部に改善がみられ、脳画像解析の結果では、ドーパミンニューロンの変性が示唆されるなど、ヒトのパーキンソン病の病態を、細胞、分子レベルまでよく再現していました。このパーキンソン病モデルマーモセットを用いた研究により、疾患メカニズムの解明と、創薬や治療法開発が促進されることが期待されています。

「Inscopix brain mapping platform for neuroscience discovery and next-generation therapeutic development」

Dr. Jonathan Nassi氏(Inscopix, Inc.(米国)科学者)より、Inscopix社のブレインマッピングプラットフォームについてご説明頂きました。

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Inscopix社が開発したnVistaは、たった2グラムの顕微鏡と針のように細いレンズで、自由行動下のマウスの脳の神経活動を記録できる、画期的な製品です。また、Inscopix社は、機器の開発だけでなく、神経活動を可視化するイメージング技術や、解析によって得られたデータを分析するソフトウェア、研究者向けのトレーニングなど、解析に必要な一連のプラットフォームを提供しています。世界中で、さまざまなテーマの脳科学研究に利用されており、創薬、病理メカニズムの解析、診断や治療方法の開発を促進する新たな技術として、大きな注目が集まっています。

セミナー後はラウンジにて、懇親会が行われました。当日は、民間企業、大学関係者など幅広い層から、約50名の方にご参加いただき、誠にありがとうございました。参加者からは、「新しい技術、解析方法が大変興味深いものでした」「今後の研究の展開が楽しみです」「想像以上に面白かったです」など多数のご意見をいただき、盛況な会となりました。

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