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イベントレポート

老化研究の最前線(2)「国内老化研究機関・連携推進会議」を開催(12/8)

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2020年12月8日(火)、Zoomウェビナーにて「老化研究の最前線(2)『国内老化研究機関・連携推進会議』」を開催いたしました。(主催:国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)老化メカニズムの解明・制御プロジェクト、共催:一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J))

11月9日開催の老化研究の最前線(1)「老化研究産学連携シンポジウム」のイベントレポートはこちらをご覧ください。


少子超高齢社会では、生活習慣病、がん、感染症、うつ、認知症、フレイルなどの疾患が、大きな社会的・経済的負担となっています。日本における急激な少子高齢化問題において、加齢性疾患をはじめとするライフサイクルにおける諸疾患の病態メカニズムの解明や、各ライフステージにおける諸疾患の治療法、予防法を確立することはまさに喫緊の課題です。

本会議では、国内の老化研究機関の主要メンバーにお集まりいただき、今後の老化研究コンソーシアム、さらにはオールジャパン体制の実現に向けた、国内連携の推進・強化について議論を深め、将来的な展望を明確にすることを目的としています。第一部では各老化研究機関からの取組みについて、広く皆様にご紹介いただきました。

(1)「AMED老化プロジェクトのこれまでとこれから」
AMED老化PJ・プログラムスーパーバイザー/医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長 米田 悦啓 氏

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米田氏は、AMED老化メカニズムの解明・制御プロジェクトの事業概要、研究成果について紹介されました。AMED老化プロジェクトは、1)老化機構・制御拠点、2)個体・臓器老化研究拠点、3)研究推進・支援拠点からなり、各拠点が連携しながら健康寿命の延伸に繋がる老化研究を推進しています。最新の研究成果の一例として、「老化細胞除去に関わる化合物の取得に成功」、「個体老化と制御しうる細胞競合メカニズムを解明」、「精子の成熟を調節する鍵分子を発見」、「心と体をつなぐ脳神経回路のメカニズムを解明」、「皮膚の若さの維持と老化のメカニズムを解明」、「潰瘍性大腸炎で特定の遺伝子変異の蓄積を発見」などが紹介されました。最後に、これからの老化研究に関しては、老化研究のすそ野を広げ、研究の活性化を継続すること、そのためには多様な若手研究者の育成推進が重要であることが紹介されました。

(2)「認知症と長寿研究」
慶應大学医学部百寿総合研究センター センター長、医学研究科長 岡野栄之氏

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岡野氏は、認知症に関する最新の研究成果と、百寿総合研究センターで行われている百寿サンプルを用いた解析例などについて紹介されました。アルツハイマー病、パーキンソン病、ALSなどの疾患は、90%以上は遺伝的要素が認められない孤発性であるため、治験において患者の層別化が臨床試験を成功させるために重要です。そこで岡野氏の研究室では、ヒトiPS細胞から脳オルガノイドやグリア細胞等を作成する技術を確立し、孤発性アルツハイマー病の層別化や個別化医療につながる研究に活用していることなどが紹介されました。また、長寿研究に関しては、百歳以上の長寿者のサンプルを用いた遺伝子解析から、APOE4が長寿者に顕著に少ないこと、また、2型糖尿病、循環器疾患、認知症になりにくい人が長生きする傾向があることが示されました。最後に、慶應義塾大学では、基礎と臨床の一体型の研究体制に加えて、コホート研究、トランスレーショナルリサーチを盛り込んだ研究体制を敷いていることなどが紹介されました。

(3)「長寿医療研究センターにおける老化研究の現状と将来展望」
国立長寿医療研究センター 理事長 荒井秀典氏

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荒井氏は、国立長寿医療センターにおける研究体制、進行中のプロジェクトについて紹介されました。国立長寿医療センターでは老化研究と認知症研究を2つの大きなミッションととらえ、認知症に関するアジア最大のデータベースを構築していることや老化に関するフレイル、サルコペニアに関するデータベースも現在構築中であることが説明されました。国立長寿医療センターが目指す老化研究の取組み、方向性として、「分子、細胞レベルでの基礎的老化研究」、「モデル動物を用いた個体老化研究」、「高齢者を対象とした臨床、疫学、ゲノム研究」などに取り組んでいることが説明され、進行中のプロジェクトとして、1.老化細胞可視化除去マウスを用いた細胞老化と呼吸器疾患、2.老化に伴う睡眠変容の制御機構と老化制御における重要性の解明、3.サルコペニアの本態解明と関連因子の探索同定に関する研究、など最新の研究についても紹介されました。


(4)「老化関連課題:認知症、フレイルを克服する予防/創造の新たな取り組みについて」
東京都健康長寿医療センター 理事長 鳥羽研二氏


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鳥羽氏は、健康寿命の延伸を第一のキーワードとして、現在国内で実施されている老化研究の総覧や東京都健康長寿医療センターで行われている老化研究への取組みについて紹介されました。近年、健康寿命を損なう原因が脳血管疾患から認知症、フレイルといったものに移ってきており、「今後、健康寿命を考える上で認知症、フレイルに対しどのように対策するかが重要である」と、説明されました。フレイルに関しては、脳血管障害や透析などにより疾患が進行するが、運動などの介入により予防できることも説明いただき、特に、フレイル予防の社会実装について、大田区の例を取り上げられ、栄養や運動の介入により介護予防が可能であり、介護費用を顕著に削減できることが示されました。また、東京都健康長寿医療センターで実施している最新の研究例として、加齢に伴う糖鎖変化の解析、画像バイオマーカーとしてのPETトレーサーの開発、高齢者ブレインバンクを用いた解析例などが紹介されました。

(5)「スマート・エイジング実現のための東北大学加齢研の戦略 ~環境ストレス老化研究から認知症一次予防社会実装まで~」
東北大学加齢医学研究所 所長 川島隆太氏

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川島氏は、東北大学加齢医学研究所の全体像や老化研究への取組みについて紹介されました。加齢医学研究所では加齢を後ろ向きの考えではなく、成長や人間の発達など前向きにとらえる「スマート・エイジング」を提唱しています。拠点・センターの説明として、東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターでは、認知症ゼロ社会を実現するために、認知機能トレーニングすることで、脳の可塑性(体積増加)や認知機能の向上を実現しており、一人当たり20万円近い介護保険費用の節税効果があることが紹介されました。また、附属環境ストレス老化研究センターでは環境ストレス(肥満モデル、習慣的運動モデルなど)を与えた老化マウスを作成し、将来的な供給や共同研究を計画していること、また、附属脳MRIセンターではポスト高齢化社会として自殺の問題が考えられるため、どのように自殺を予防していくのか、これらの問題を解決できる人材育成プログラムの開発を目指していることが紹介されました。


ご視聴いただいた皆さま、登壇者の皆さま、誠にありがとうございました。
LINK-Jではライフサイエンスに携わる研究について産官学を問わずこれからもお届けしてまいります。
ぜひご参加ください。

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