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イベントレポート

『「細胞デザイン拠点」が作る新しい細胞価値の創成からライフサイエンス研究の潮流変革まで』を開催(2/26)

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2021年2月26日(金)、LINK-Jは「細胞デザイン拠点が作る新しい細胞価値の創成からライフサイエンス研究の潮流変革まで」をオンラインにて開催しました。本イベントは、LINK-Jネットワーキング・トークの第9回目として、今回は細胞デザインをテーマに、次世代の細胞活用方法について細胞デザイン拠点に関わる研究者の皆様にご講演頂きました。

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登壇者
村田 昌之 氏(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
佐藤 守俊 氏(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
武部 貴則 氏(東京医科歯科大学 統合研究機構 教授、横浜市立大学 特別教授 / コミュニケーション・デザイン・センター センター長、シンシナティ小児病院 オルガノイドセンター 副センター長)
吉村 昭彦 氏(慶應義塾大学医学部 教授)

リベラルアートからの産学連携の新しいカタチ「細胞デザイン拠点」が作る新しい細胞価値の創成から、ライフサイエンス研究の潮流変革まで

まず、オーガナイザーとして東京大学の村田昌之先生より、細胞デザイン拠点(CBDL:Cell-Based Design Laboratories)の設立経緯と、研究の目標についてご説明いただきました。 CBDLは東大・村田研、東工大・加納研の2つの研究グループを統合した、細胞を「細胞」を利用するあらゆる学問領域・産業界に、細胞を理解し利用する「知識と技術」そして「人材」を提供することで細胞の新しい「価値」を創出する研究・開発・教育の実験拠点です。
この実験拠点では、従来の低分子化合物による創薬に加え、機能賦活化細胞の作成や疾患モデル細胞などを用いた創薬・細胞医薬を行うため、細胞設計、操作、評価というステップを高速に循環させることで、創薬・細胞医薬の支援技術プラットフォームを確立しようということがコンセプトになっています。

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様々な細胞設計・編集・評価技術を持つ拠点コアメンバーがハブとなり、細胞を利用する同業・異業種間の開発研究の連携を促進するアカデミア発の実験拠点創成を目指しています。
村田先生の研究室では、細胞の「設計」「評価」技術として、創薬・細胞医薬支援技術としてのマルチスケール解析法の構築を進められています。
マルチスケール解析法(MSA法)とは、細胞群に入力した特定のシグナルに同期して活性化・不活性化するタンパク質群の動態変化を大量の細胞の細胞染色画像のビッグデータを基にタンパク質ごとに特徴量として定量化し、その時間同調性を基に「共変動ネットワーク」という従来法とは質の異なる新規のタンパク質ネットワークとして可視化する手法です。

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村田先生は、肝細胞に対するインスリン応答の共変動ネットワークや、抗がん剤の作用機序について解析した結果などを示され、標的タンパク質を見つけることだけでなく、主作用・副作用も含めたネットワークから、重要なタンパク質を抽出できることをご紹介頂きました。

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として、セミインタクト細胞リシール法の概要についても解説頂きました。リシール法は、細胞膜に穴をあけて細胞質を流出させ、病気の細胞や組織から調製した細胞質と入れ替えることで、いわば細胞を一種の試験管にしてその中で病気の細胞内環境で起こるいろいろな出来事を生化学や生物物理学的手法で解析する実験系です。これを「病態モデル細胞」と言いますが、同じ方法で「正常モデル細胞」も作成して、正常・病態モデル細胞のフェノタイプの確認や、ローカリソミクス(細胞における生体物質の局在制御酵素の同定法)、メタボローム解析、遺伝子変動解析などと合わせて、病態に特殊な状態を観察したり、病気の原因分子を見つけたりすることができます。さらに、様々な病気の進行モデル細胞を作成し、MSA法により正常から病気への相転移する細胞状態の変化をタンパク質ネットワーク変化から読み取ることもできる可能性も示されました。このように、村田先生の研究室では、新しい細胞編集技術とマルチスケール解析を中心とした細胞設計・評価技術を最適に組み合わせて、細胞医薬・創薬支援プラットフォームの構築が進められています。

細胞をデザインする光操作技術

佐藤守俊先生からは、細胞に光を当て、細胞をコントロールするマグネットシステムという技術についてご紹介頂きました。この技術は、遺伝子工学的に任意のタンパク質(A、B)をマグネットシステムに付加し、光照射でAとBを結合・活性化させ、照射が無い状態では不活性化させることができるテクノロジーです。この技術をCRISPR-Cas9に応用し、光照射でゲノムの塩基配列を書き換えることができる「PA-Cas9」の開発にも成功されています。

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また、ゲノムを書き換えるだけでなく、遺伝子発現を光でコントロールする「Split-CPTS2.0」によってiPS細胞から神経細胞への分化を操作する事例もご紹介いただきました。この技術によって、既に分化した細胞から、別の分化した細胞へのダイレクトリプログラミングの光操作も可能になりつつあることを示唆されました。
実験動物で用いられるCre-LoxPシステムの遺伝子ノックアウトや遺伝子発現の光操作を行う「PA-Cre」を開発し、マウスの肝臓にツールを導入することで、外部から光を照射するだけで反応を観察し、肝臓の遺伝子を操作することが可能になっていることをご紹介頂きました。佐藤氏は、このように、光を用いた基盤技術を用いて、生体内での活用、遺伝子治療やがん治療にも応用していきたいと述べられました。

細胞をデザインするオルガノイド作成とその解析技術
武部貴則先生からは、細胞から臓器を構築する「オルガノイド」について、その定義から研究の現状や臨床への応用に関してご解説頂きました。
オルガノイド(Organoid)とは、臓器(Organ)と~のような(oid)を組み合わせた造語で、多細胞で構成された構造的・解剖学的な特徴を持った、機能を有した細胞組織を指し、複数の細胞が集まっているだけではなく、細胞同士が接着し機能の一部を担うものです。
先生は2010年頃から研究に着手され、肝臓を再現した例をお示し頂きました。マウスの門脈にオルガノイドを移植することで、肝不全のモデルマウスの機能が改善されることが明らかになっており、その後の臨床応用が進められています。日本の研究者の多くがオルガノイドの基盤を確立した一方で、臨床応用については後れを取っていることも指摘されました
。 オルガノイドデザインのポイントとしては、身体が本来持っている生命現象を引き出すこととし、単なるエンジニアリングで組み立てるのではなく、構造的な初期条件を時間に応じて、様々な刺激や因子などを適時、適量組み合わせることで研究を進められています。
先生の研究では、肝臓の単体ではなく、周辺の十二指腸や膵臓なども合わせて成熟、成長させることで、多臓器の連携を立証されました。

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今後は医療の現場で用いられる時代となり、「診断」「薬の開発」「治療」での活用が考えられるとし、バイオマーカーの抽出や副作用情報などオルガノイドを用いて見出すこと、体外人工臓器や移植への活用例を挙げられました。さらに、他の技術と組み合わせることで、融合のスピードを早め、発展させていく必要があると強調されました。先生は、オルガノイドセンターの立ち上げにも携わり、オルガノイド研究のためのインフラ整備も担われており、視聴者へ共同研究を呼びかけられました。

細胞をデザインすることの重要性:T細胞免疫療法を例にして

吉村昭彦先生からは、細胞療法の実用例として進行しているCAR-T療法の現状と課題、T細胞を若返らせることで治療効果を高める手法などについてご説明頂きました。
CAR-T療法は、がんを標的遺伝子であるCARを導入したT細胞を体外で培養し、患者に戻す治療法であり、キムリアを代表とする薬剤として用いられています。しかし、CAR-T療法は、大人のがんには奏効率が低く、再発例もあることや、血液がんにのみ適用されているという現状があります。そこで、固形癌への改良として、山口大学の玉田教授が開発されたPrime CAR-Tや、Wendell Lim 先生が開発されたDual CAR-T(SynNotch)など、CAR-Tへの新応用として、制御性T細胞を用いた自己免疫疾患を押さえるような方法なども多く研究されています。
本質的な課題としては、体内に入れたT細胞が長く生存できず、「疲弊化」するという問題があり、これを解決するためには、腫瘍を攻撃するエフェクターT細胞から、ステムセルメモリーT細胞(記憶幹細胞:Tscm)を増やすことが重要であることを示されました。

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疲弊したT細胞を若返る方法として、OP9-DL1(ゆりかご細胞)を用いて、CAR-iTscmという若返り細胞を誘導させる手法によって、マウスで強い抗腫瘍効果があることをご紹介いただきました。iPS技術でT細胞を若返らせる方法なども発展してきており、今後の実用化が期待されています。

パネルディスカッション

パネルディスカッションは、東京工業大学の加納ふみ氏を加え、登壇者全員にて、村田先生をモデレーターとして実施されました。視聴者からの質問に各自答える形で、議論を展開いただきました。

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村田先生:MSA法は視聴者に創薬に役立ちそうだと捉えられているようです。多階層オミックス情報と共変動ネットワークを組み合わせることで、どんな展開が考えられるか?ということですが、例えば、遺伝子発現変動解析から、細胞の初期に起こるタンパク質やシグナル伝達のパスウェイを推定し、タンパク質や抗体を選ぶというように、ネットワークを広げていって創薬のターゲットを見つけることができると考えています。

佐藤先生:マグネットシステムは青色の光で使える技術ですが、青色光よりも生体組織透過性が高い、長波長の光(650nm~800nm)で利用できる技術も新たに完成させつつあります。

武部先生:オルガノイドのスケールアップについてですが、評価の点ではハイスループットに動いており、他の疾患モデルでも1000~2000化合物を評価できるレベルにきています。自動化もできるステップに入っています。立体状態で大量生産というのはこれからですが、食料供給が目的の場合は、レベルが変わってきますので議論が進んでいるというフェーズです。

吉村先生:若い人から採取したメモリーT細胞の方が良いのではないか、という質問はその通りです。iPS細胞の場合は、理屈上は年齢が高くても若返らせる方法が理論的には問題ありません。 欧米の方が日本より治験が進むのは、国内で患者検体を集めるというところから根本的な問題があるように感じます。

ご視聴いただいた皆様誠にありがとうございました。今後もLINK-Jネットワーキング・トークへのご参加お待ちしております。

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