日本橋ライフサイエンスビルディングにてLINK-J×鶴岡サイエンスパークシリーズ第二回として「LINK-J ネットワーキング・ナイト WITH Dr.TOMITA」を開催しました。テーマは「鶴岡発ベンチャーが創る 健康長寿社会」。前半は鶴岡発ベンチャー4社の代表にご登壇いただきました。研究開発の経緯、ビジネスへの転換、ベンチャーの醍醐味、新たな課題まで、鶴岡市での取り組みについてご講演いただき、後半は冨田氏司会のもとディスカッションを行いました。
座長:冨田 勝氏(慶應義塾大学先端生命科学研究所 所長)
登壇者:
菅野 隆二氏(ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社(HMT)代表取締役社長)
岩宮 貴紘氏(株式会社メトセラ Co-founder, Co-CEO)
野上 健一氏(株式会社メトセラ Co-founder, Co-CEO)
小川 隆氏(株式会社MOLCURE 代表取締役社長)
福田 真嗣氏(株式会社メタジェン 代表取締役社長CEO)
鶴岡発ベンチャー長男としての着実な実績
はじめにご登壇いただいたヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社(以下HMT社)の菅野氏から自社の2軸の取り組みについてご説明いただきました。
HMT社はCE-MS法を用いたメタボローム分析の受託解析サービスで着実な売り上げを伸ばし、2013年に東証マザーズ上場を果たしました。「新製品の投入や、中国への参入など検討しており、収益は伸び続けている」といいます。
「バイオマーカー事業として血中PEA(エタノールアミンリン酸)濃度の測定値からうつ病の判定を行うための測定試薬キットの開発事業を進めています。この試薬キットは内科医がうつ病の可能性のある患者に対して血液採取を行い、早期発見や病状のモニタリングに利用することを想定しています。うつ病患者は世界に3億5千万人いるといわれ、治療効果だけでなく、予防的な観点から企業の健康管理にも活用できると考えています」
現在は、世界四か所で特許を取得し、新たなバイオマーカーの発見についても事業化を進めていると、菅野氏は解説されました。
「鶴岡はバイオ産業の集積地になります。鶴岡発ベンチャーの長男として、上場の次の夢はノーベル賞。そして鶴岡からボストンへの直行便を飛ばしたい」と意気込みを語られました。
心不全向け再生医療製品の開発
株式会社メトセラからは、事業内容について野上氏より、技術的な面を岩宮氏からお話いただきました。
「世界で最も志望者数の多い疾患は「心不全(虚血性心疾患)」です。高齢化が進むほど、患者数は増加するといわれています。薬のみでの回復は困難で、生涯に渡り投薬が必要となる上、心臓移植などもドナー数や免疫不適合の問題などがあります。
そこで、メトセラでは心不全再生のための細胞医療を提供します。我々の技術では、線維芽細胞VCF(VCAM-1-positive Cardiac Fibroblast, "VCF")を用いて、共同開発している細胞移植用のカテーテルで心臓組織に直接注入します。VCFを投与することで、心筋組織が再生され、高水準で心機能を維持できることが動物実験で確認できました」
メトセラは代表の岩宮氏と野上氏で立ち上げたベンチャーであり、お二人の出会いや事業を始めたきっかけについてもお話いただきました。
「メトセラを創業するまでの先端生命科学研究所にいた2年間は、答えのない問題にどう取り組むかという力を養ってくれたので、ベンチャーを経営する上で最も大切な時間となりました。慶應義塾の精神を通じた「自由」と「責任」の教育こそがユニークな制度であり、鶴岡の強みだと思っています。」と岩宮氏は締めくくりました。
ハイスループットなバイオ医薬品開発サービス
小川氏が代表を務める株式会社MOLCUREは、製薬企業向けにAIを利用した新しい生命分子のデザインや、抗体医薬品の設計するプラットフォームのサービスを展開しています。
従来の抗がん剤はがん細胞だけではなく正常な細胞まで攻撃するため、大きな副作用が生じます。抗体は細胞を敵味方に識別するので作用する対象が正確に選べるため、抗体医薬品はがんやリウマチだけではなく様々な病気への応用が進められています。
「MOLCUREでは製薬会社からの実験サンプルを次世代シーケンサーで解析し、従来のスクリーニングでは見つからなかった最良の候補を見つけ出すことができます。更に、ロボット技術とも連携し、再現性のある実験データの収集や機能やスループットの拡張を行い、AI学習により次つながる実験の抽出ができるよう、プロトタイプを開発しているところです」と小川氏は解説されました。
小川氏はまた、「鶴岡ではバイオ技術とインフォマティクスの融合という点で最適な環境が整っています。ゆくゆくは鶴岡サイエンスパークに我々のロボットセンターを作り、世界中の製薬サンプルを鶴岡に集めたい」と抱負も語られました。
便から生み出す健康社会
最後に登壇したのは株式会社メタジェンの福田氏です。メタジェンが目標に掲げているのは『最先端科学で実現する病気ゼロ社会』。
「腸内細菌がつくりだす物質は体内に取り込まれ、腸だけでなく全身の健康維持につながっています。大腸癌や潰瘍性大腸炎などの腸管関連疾患や、糖尿病や動脈硬化などの代謝疾患、自己免疫疾患やアレルギーなどの免疫疾患に至るまで関連していることが明らかになっており、便にはそういった腸内細菌に関する情報、すなわち個々人の健康や疾病リスクに関する情報がたくさん詰まっています。そのため、便を最先端科学で詳細に分析することで、健康長寿社会、究極的には病気ゼロ社会を実現したいと考えています」
福田氏は、目標実現のために予防と治療の二つのストラテジーが必要だといいます。「腸内細菌叢を含む腸内環境のパターンは個人ごとに異なるため、腸内環境のタイプに合わせた機能性表示食品やサプリメントの開発が必要だと考えています。「腸内デザイン応援プロジェクト」を発足し、2018年度は22社の食品企業や製薬企業、化学メーカーなどが参画して共に研究開発に取り組んでいます。一方、治療としては、今後、腸内細菌治療薬市場の規模は2025年までに世界で1,000億円にものぼると予想されており、便移植なども行われています。
メタジェンでは、健康な人の便から有効な腸内細菌を取り出し、腸溶性カプセルに包埋して経口摂取するといった、腸内細菌創薬に繋がる研究開発も行っています。福田氏は最後に、「健康をあまり意識しない人にも普段の生活の中で健康になってもらうために、スマートトイレといったアプローチによる研究開発も進めています。世界中の便(=微生物資源)を鶴岡に集め、私たちの技術でそこから健康情報や微生物資源を取り出し、それらをフィードバックすることで世界を健康にしたい」と締めくくりました。
鶴岡発ベンチャーが飛躍的に成長するための課題は何か?
~パネルディスカッション~
各ベンチャーへの新たな可能性に対する期待を込めて、参加者から積極的に質問が挙げられました。「鶴岡を起点としたビジネスの領域として世界を相手にするならば、人種間などの違いもあるため、製品のアウトプットが異なるのでは?」という質問には、各社下記のような回答をされました。
「ほかの手法と組み合わせることで、人種間の違いも解決できると思います。PEAは一つのリファレンスとして使えるものと考えています」(菅野氏)
「心臓は人種間の差がないように思われますが、食べているものが大きく異なるため、地域によっても心疾患の発症率が異なります」(野上氏)
「地域差を意識して研究を行っていますので、ここは乗り越えたい壁と考えています」(岩宮氏)
「人種だけではなく個別に細分化された医薬品の設計を行っていきます」(小川氏)
「腸内細菌の場合は、人種間というより食文化の方が大きく影響します。食習慣が違うと腸内細菌叢のパターンが異なるため、個々人の腸内細菌叢に合わせた個別化医療やヘルスケアが必要と考えています」(福田氏)
LINK-Jサポーターの鎌田氏より、スタートアップを支援する立場から、「鶴岡発ベンチャーとしてこれからより大きく成長するための課題と感じていることはなにか?」という質問に対し、冨田氏は「エキサイティングな部分がサイエンスの根源であり、鶴岡はそこに取り組んでいます。確実にもうかることだけでなく、面白いと思うことに積極的に投資家が投資するマインドを持ってほしい。日本にはそれが圧倒的に足りていないと感じており、失敗を恐れず支援してほしい」と呼びかけました。
講演の後は10階ラウンジにて懇親会が行われました。当日は約80名の方にご参加いただき、賑やかな会となりました。
次回の鶴岡シリーズ第3回は7月2日(月)、Spiber株式会社の関山氏をお呼びして「鶴岡発ベンチャーが創るタンパク質素材革命」と題し冨田氏とディスカッションをおこないます。そして9月14日(金)15日(土)には2018年夏にオープン予定の「SUIDEN TERRASSE」(ヤマガタデザイン株式会社)に宿泊する鶴岡実査ツアーを予定しています。奮ってご参加ください。