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イベントレポート

鹿児島大学発 最新の感染症研究とコホート研究プラットフォーム~社会実装に向けた企業との共同研究もご紹介~を開催(11/14)

2025年11月14日(金)、LINK-Jは鹿児島大学の医療イノベーションを目指した最新研究を紹介するシリーズの3回目を日本橋ライフサイエンスビルディングとオンラインにて開催しました。感染症研究からワクチン・治療薬開発、高齢者の健康維持・介護予防まで幅広い研究が紹介されました。当日は会場とオンラインを合わせて83名が聴講し、終了後には恒例のネットワーキングも行われました。

LINK-JのYouTubeでアーカイブ動画を公開しています。(一部編集をおこなっております。)
 

「南九州・南西諸島域イノベーションセンターの紹介及びメディカルイノベーションチーム(K-med)の取り組み」
村上 加奈子 氏
鹿児島大学 学長補佐(社会連携担当)、 南九州・南西諸島域イノベーションセンター/副センター長
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鹿児島大学は9学部、9大学院からなる総合大学で、約4000人の教職員、約1万人の学生(学部生・院生)がいます。村上氏が所属する南九州・南西諸島域イノベーションセンターは研究支援、産学連携支援、知的財産支援に当たっています。また、センター内の「メディカルイノベーションチーム」(通称:K-med)では、医療分野で実用化を目指すプロジェクトを推進しています。

 医療系研究シーズで社会実装を目指しているものとしては、今回紹介させていただく感染症やコホート研究のほか、がんなど様々な研究シーズがあり、それらも含めて全学の研究シーズを「鹿児島大学研究シーズ集」としてまとめているとのことです。

また、スピルオーバー感染制御研究施設がこのほど完成したことにも触れ、「新興・再興ウイルス感染症治療薬等に関する共同研究を行う企業を募集中」と述べました。
 

「現行生ワクチンによる病態増悪化を回避できる新型デングウイルスワクチン開発」
小原 恭子 氏
鹿児島大学共同獣医学部附属越境性動物疾病制御研究センター/センター長・教授
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デング熱は世界的に流行が続いており、年間1億~4億人が感染すると推定されています。特異的抗ウイルス薬は未だ開発されていません。ウイルス粒子に対する抗体を誘導するワクチンはすでに海外で実用化されていますが、小原氏は「安全で効果的な4価ワクチンの開発が望まれている」として、新たなワクチン開発の取り組みを説明しました。

デングウイルスは4種類の血清型があり、異なる血清型に相次いで感染した場合、以前の血清型に対する抗体がむしろ症状を重症化させる「抗体依存性感染増強(ADE)」が問題となっています。そのため、「既存のワクチンには、ADEのリスクから、抗体陽性者にしか接種できないものがある。抗体確認が不要な製品もあるが、有効性に改良の余地がある」(小原氏)。
 

そこで小原氏らはデングウイルス2型に着目し、ワクシニアウイルスDIs株を使用したワクチンを開発しています。2型を標的とする理由として、他の血清型と比べて重症化しやすいこと、他の血清型と同程度の相同性を示すため、4つの血清型すべてに有効な可能性があることを挙げました。

開発品は、デングウイルスゲノムの非構造タンパク質(NS2-5)に対する細胞性免疫を誘導するユニークなワクチンになるとともに、構造タンパク質を含まないため、ADEのリスク回避が期待できます。マウスの実験で、既存ワクチンと同等以上の感染防御効果とADEの回避を確認したそうです。

小原氏は「現在、多施設が参画して非臨床POC取得の研究を進めており、企業などとのパートナーシップを求めている」と締めくくりました。
 

抗ウイルス薬の研究開発と新型コロナウイルス感染症への応用
岡本 実佳 氏
鹿児島大学 先端科学研究推進センター 感染制御研究部門 特任教授

鹿児島大学にはBSL3(バイオセーフティーレベル3)施設があり、鳥インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスなど、リスクの高い微生物を用いた実験が可能です。

岡本氏らは、東京理科大学の青木伸教授の研究室で合成した新規化合物について抗ウイルスアッセイを実施。その結果をMTT法(色素法)による細胞死判定、またはReal-time PCR法によるウイルスRNA定量で評価し、構造活性相関を検討しました。そこから薬剤の最適化を進めました。

その結果、抗マラリア薬アモジアキン(国内未承認)を構造修飾した新規キナゾリン誘導体から、強力かつ選択的な抗ウイルス効果を持つ薬剤をいくつか同定しました。これらはSARS-CoV-2の酵素の活性中心に結合するRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤である可能性が示唆され、マウス感染モデルでも効果が確認されました。

利点として岡本氏は、「既存薬より分子量が小さく、合成ルートが短いため安価で大量生産が可能」「これらの薬剤の塩酸塩は十分な水溶性を有し、他剤との併用および経口投与が可能」「非ヌクレオシド型のため副作用が少なく、交差耐性が起こりにくい」ことを挙げました。

アモジアキンはSFTSウイルスやエボラウイルスにも阻害活性を有するので、その誘導体も他のウイルスに阻害活性を示す可能性があり、「来る何らかのパンデミックにも対応できるかもしれない」と岡本氏。「現在、前臨床試験まで進んでおり、今後の臨床開発に協力していただける製薬企業を探している」と述べました。

「多職種連携コホート研究(垂水研究)から社会実装へ」
大石 充 氏
鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学 教授
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大石氏は、循環器救急から高血圧の研究に軸足を移し、現在では高齢者医療にも携わっていると自らの歩みを振り返り、「これからのターゲットは、『満足感』や『自立』になるだろう」と指摘。生活機能の維持が健康寿命の延伸につながると述べました。

そこで始めた取り組みの1つが、垂水研究です。コンセプトは、高齢化率が40%の地方都市(垂水市)から、40年後の日本に向けて提言する「Forty to Forty」。医師、歯科医師、薬剤師、理学療法士など多様な専門家がチームを組み、病院の検査と異なる「生活密着型のデータ」を約1,500項目収集、データベース化しているのが特徴です。

この研究から、例えば、元気な高齢者がフレイル(虚弱)に進行する「始まり」は、口腔機能の低下であることが判明しました。研究の参加者は、非参加者よりも介護認定率、介護給付費、医療費が低いこともわかりました。

企業との共同研究では、家庭で測定した毎日の血圧変動とイベント発生との関連を見出しており、家庭血圧計による早期警告システムの開発につながります。鹿児島県内の急性冠症候群(ACS)のレジストリー構築や、約35万人の35年分の健診データをもとに5年後の生活習慣病発症を予測するアプリの開発も手がけています。

大石氏は、「鹿児島県の人口移動の少なさと超高齢社会という特性を生かしたデータサイエンスをもとに、40年後の日本へのメッセージを発信したい」と意欲を見せました。「社会崩壊が起きている地区の再生を目指したい」とも述べました。

介護予防および認知症予防に向けた早期発見・早期対策の実証研究
牧迫 飛雄馬 氏
鹿児島大学 医学部保健学科 教授
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牧迫氏は、将来の要介護リスクを高めるフレイルの予防に取り組んでいます。その一例として、奄美市での介護予防に関するデータプラットフォーム構築と国民健康保険データベース(KDB)との連結によるフレイル予測を紹介しました。

牧迫氏によれば、自治体の介護予防事業の多くは年度ごとに完結し、体力測定などのデータが一元化されていませんでした。奄美市ではQRコードを活用して個人の測定結果を一元管理し、市が持つデータやKDBと連結し、分析可能な「介護予防データプラットフォーム」を構築。例えば、やせ傾向の人は、フレイルの進行リスクが高いことがわかりました。

また、奄美市では「認知症フレンドリープロジェクト」として脳の健康度チェックイベントで認知機能スクリーニングを実施しました。VRゴーグル装着時の視線追跡による「認知機能セルフチェッカー」を活用するものです。

2024年は65歳以上の148名が受検、14名が受診推奨基準に該当し、保健師による面談を経て2名が新規に医療機関を受診しました。保健師からは「今後、受診しなかった人から相談があった場合の迅速な対応につながる」との評価があったと言います。

牧迫氏らは、鹿児島市でも介護予防に関わる取り組みを2024年から3年かけて行っており、タブレット端末を用いた後期高齢者質問票を年2,000人程度、体力測定を年500人程度に実施する計画です。関心のある企業との協業する意向も示しました。

身体機能の問題が現れる前に社会活動が制限される「社会的フレイル」にも着目しており、外出や会話する機会の減少などに関して早期の対策が重要だとしました。

講演後は会場にて登壇者と参加者のネットワーキングを行いました。参加者からは「鹿児島大学の様々な研究を拝聴でき、非常に有意義でした。」「地域医療の偉大さがたいへん良く伝わってきました。ありがとうございました。」「コホート研究は企業にとっても新しい発見の課題を見つける場となるので大変貴重に思う」といったご意見いただき、盛況な会となりました。

ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。

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