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インタビュー・コラム

アジア人に最適化された解析で、がんゲノム医療を提供する アクトメッド株式会社

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がん遺伝子パネル検査が保険適用されたのが20196月。個人のゲノムデータから遺伝子の変異を読み取り最適な薬を探索する、プレシジョン・メディシンの実現が注目されています。今回は、がんゲノム医療の実現に向けて、遺伝子パネル検査のサービスの提供を推進する、アクトメッド株式会社の新宮肇(シングウハジメ)代表取締役社長にお話しをお伺いしました。

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新宮肇 氏(アクトメッド株式会社 代表取締役社長)

キヤノンメディカルと台湾アクトゲノミクスとのジョイントベンチャー

――まずは自己紹介からお願いいたします。

新宮 私はキヤノンメディカルシステムズ(以前の東芝メディカルシステムズ)で10年近く企業買収や戦略的提携の業務に携わっていました。その中で今後の成長戦略として、医療技術の進化やニーズの変化に伴い、キヤノンメディカルとして新しい領域、新規事業を展開しようということで、がんゲノム事業、がんゲノム解析の事業をスタートしています。私自身はがんやゲノム解析に特化した専門家ではありませんが、これまでいろいろな事業提携や会社の運営等に携わってきました。

―――アクトメッド社について教えてください。

新宮 アクトメッドは国内でがんゲノムパネル解析サービスを行う会社として、キヤノングループの医療機器メーカーであるキヤノンメディカルシステムズと、台湾のアクトゲノミクス(ACT Genomics Co., LTD)との合弁会社として2018年に開始しました。

台湾のアクトゲノミクスは2014年に設立されたがんゲノム解析サービスの会社ですが、台湾だけでなく、香港、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア等、アジアを中心として、サービスを展開しています。台湾は日本と違って国民皆保険ではないため、保険会社との連携、自由診療の中で幅広くがんゲノムパネル解析サービスが臨床で運用されています。検体でいうと1万症例以上の解析実績があり、欧米企業に比べて競争力もある、アジアでも希少な、非常に高く評価しているパートナーです。

――ジョイントベンチャーとして始めることになったきかっけはありましたか。

新宮 彼らが日本でビジネスを展開するためのパートナーを探している中で、研究というよりもむしろ技術を臨床に適用したいという想いが強かった。キヤノンメディカルは多くの国内病院にCTやX線装置を納入しており、日本でのプレゼンスが高く、がんゲノム医療として、将来的にゲノム解析と画像診断のコラボレーションなど様々な可能性があるだろうということもあって、ぜひ一緒にやりたいということになりました。

――キヤノンメディカル本体で、台湾の企業と事業を進めるという選択肢もあったかと思いますが、起業にいたった経緯を教えてください。

新宮 やはり大企業ですとスピードや意思決定など、多方面で検討が増えることになります。画像診断に特化した事業インフラはありましたが、新しくゲノム解析サービスを開始するためには、小回りを利かせる必要があると考え、アクトメッドという会社として運営しています。

集めるメンバーも全然違います。キヤノンメディカルには、機械・電気工学とかソフトウエアのエンジニアが多いのですが、我々はどちらかというと分子生物学の深い知識のあるエキスパートが必要だったりするので、人材もほぼ全員外部から採用してスタートをしています。良い面、悪い面はありますが、どちらかというとベンチャーの良さは活かせているかなと感じています。

―――スタートされたときの人材集めはどうでしたか。

新宮 最初は3人ぐらいからスタートし、あとは採用で20名近くまでメンバーを増やしていきました。同席している陳(タン)もその一人です。彼は、修士課程で台湾から日本に来て博士課程を取得し、次世代シーケンサーの企業を経て入ってきました。他にも数名、台湾から日本に来てアクトメッドに入った方もいますが、全員日本語を話せます。結果として製薬企業や研究所、医療機関、検査センターなど様々なところからメンバーが集まりました。

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がんゲノムのプロファイリングで治療薬のエビデンスを提供

―――現在、ビジネスとしてはどのようなステージにありますか。

新宮 がんゲノム医療は、去年の6月から保険収載が始まり、我々もそれを視野に入れながら、事業展開の準備を進めている段階です。国内のラボが神奈川県藤沢市の湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)にあり、将来的には日本の医療機関から受領した検体をそこで解析します。今はその準備段階として検査プロセスの確認や品質体制確保の準備などをしております。現時点では、受領した検体を台湾のアクトゲノミクスへ送って解析を行い、結果(レポート)を提供するサービスを国内で実施しています。

―――がんゲノムのプロファイリング事業について実際にはどのようなデータになるのでしょうか。

新宮 例えば、がん患者さんへの薬の適応を考えるとします。我々は、外科手術やバイオプシーで採った組織の病理切片をガラス・スライドの状態で医療機関から提供を受けます。がん細胞の部分からDNAを抽出し、次世代シーケンサーでゲノムを読み解くことで、患者さんのがん細胞の変異を探します。解析データからどのような薬が患者さんに有効かを調べ、ある薬は承認済みであるとか、治験中であるといった情報など、信頼のできる論文やエビデンス情報に基づいてレポートの形で病院に返します。病院はそのレポートを受け取り、医師が検討し、治療方針を決めていきます。このように我々のサービスは、がんゲノム医療に重要な部分を担っているのだと感じております。

―――がん患者さんに処方される薬にはどのようなものがありますか。

新宮 保険適応されている薬もあれば、治験中のもの、あるいは分子標的薬で、その変異は肺がんで保険を取っているが、乳がんには保険が効かない、など適応外といわれているような場合もありますが、保険での薬が適用されるというのはまた少ないと聞いています。

―――事業を進めていくうえで、例えばアカデミアとの共同研究やあるいは医療機関とのコラボレーションについてはいかがでしょうか。

新宮 現在、東京医科歯科大との共同研究を通じてコラボレーションに取り組んでいます。同大学のバイオリソースセンターに保管されている2,000人のがん患者由来の検体を用いてアクトゲノミクスとともにアクトメッドで変異を解析しています。

2,000例の検体の中には、肺がん、乳がん、頭頸部がんなど様々ながん種があり、解析で得られたデータは、製薬企業などと治療法の選択や予後予測に役立つバイオマーカ―を探索するために活用していくことが期待されています。

―――医療情報の取り扱いについて、日本と台湾とでは使いやすさが違うといったことがあるのでしょうか。

新宮 基本的には匿名化していますし、一人一人の情報というよりも、まとまった解析データとしての特徴、変異といった情報になりますので、個人情報の保護には問題がないように配慮された形で研究に使われています。

 日本と台湾では国の法律が違うため、各々の国の法律に準拠しながらアクトゲノミクスとの連携で解析を行います。

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医療ニーズに合わせた品質管理と臨床への新たなサービスを目指して

―――事業所はドライとウェットとで分担が分かれているのでしょうか。

新宮 東京日本橋のオフィスでは事務や営業、湘南アイパークのラボでは実験や解析作業、詳細なデータ解析は台湾で行っています。台湾で行う理由は、データベースへのデータの蓄積が必要になってくることと、インフォマティシャンと呼ばれる情報を処理する人が日本ではまだ少なく、一方で医療に特化したインフォマティシャンが台湾は非常に多いためです。アクトゲノミクスは180名近くの従業員がいますが、その内の50名近くがいわゆるバイオ・インフォマティクスを担当しています。台湾では解析作業の質も高く、良い品質につながる結果が出ています。

 湘南アイパークのラボでの作業は安定的に検体の解析品質を担保するような作業になりますので、現在は品質面で第三者認定を取る準備を進めています。

―――第三者認定というのはどこが認証機関になりますか。

新宮 CAP認定(米国病理医協会の検査室認定プログラム)になります。日本には認証機関がないため、アメリカから直接査察を受け入れます。ISO 15189というのが臨床検査室の認定規格としてありますが、今の時点ではCAPと呼ばれるアメリカの認証プログラムによって品質を確保します。病院から検体を受領したところから、レポートを病院に届けるまでのプロセスに対して品質管理が求められます。目標としては、年内に取得できればと思っています。

―――現状でサービスとしてはどれぐらい実施されているのでしょうか。

新宮 がんゲノム拠点に関わる大学病院などをはじめ、契約が徐々に増えています。がん遺伝子パネル検査の"ACTOnco+"という解析サービスを扱う契約は増えていますが、現時点では自由診療に限られています。

―――アクトゲノミクスは、日本も含めた東アジアでは実績があるということですが、北米や欧州市場への展開というのはどうでしょうか。

新宮 台湾でのプレゼンスはグローバル大手の会社よりも高いと感じています。今後欧州や米国への展開を考えていますが、アジアでの独自の特徴を生かしつつ、欧米や中国に今後どう展開をしていくかを考えていくことになると思います。

例えば、欧米人主体のデータベースで薬を開発しても、日本人を含むアジア人にはそのまま適用できないことがあるため、アジア人のデータを特徴にしていることは非常に魅力的です。データベースでいうと東北メディカル・メガバンクのデータなどを組み込んでいますが、今後、日本人のデータが積み重なっていくことで日本人やアジア人に適した、新しい創薬のターゲットを見つけるなど、創薬にもつなげていくというのが将来の展望になります。

―――保険適応や、病院からの受託を受けるというのが次のステップとなるのでしょうか。

新宮 はい。我々の最優先事項としては、ラボでの解析品質をちゃんと担保することですが、日本で事業を展開する以上、保険適応を受けるということが大きな事業上のマイルストーンになります。

現状では、日本でがんゲノムパネル検査が保険適応となる条件として、標準治療が終わった患者さんが対象になっています。将来的にもう少し早い段階でゲノム検査が実施される可能性も考えると、現時点で適応対象といわれている約1万人の検査数はもっと増えるのではないかと想定しています。

さらに次のステップとして、がんゲノム医療に関わる様々なニーズに対応するため、キヤノンメディカルの画像解析の技術とゲノム解析をコラボレーションした事業に期待しています。例えば、臨床情報やゲノムなどの情報や画像データ、あるいは薬剤投与後の情報などを統合してAI技術を用いるなど、新しい診断、治療支援サービスの提供など、がんゲノムプロファイル解析サービスを中心に広がるようなサービスをキヤノングループとして提供できないかなど、様々な可能性を検討していきたいと思います。

―――事業を発展させていく上で、課題として意識されていることはありますか。

新宮 この分野は非常に動きが速いです。先生方の研究活動や学会での議論等によって、がんゲノム解析で求められるニーズも変わっていきますので、一番大事なのはスピード感を持って事業を進めていくことです。決断を速く行動も速くということを意識しています。
もう一つは、人材についてです。がんゲノム解析に関連した専門性の高い人はまだ少なく、アクトメッドは、幸い良い人材が集まってきていますけれども、スキルと経験のある人材をいかに採用し続けてスピードを上げるかということを考えています。

―――最後に、今後の抱負についてお願いします。

新宮 がんゲノムパネル解析の受託サービスとして事業をスタートしていますが、医療ニーズや医療技術は今後も変化していきますので、キヤノンメディカルのグループ全体としての戦略を含め、それに合わせて進化していきたいですね。

ここ1年半ほどで分かってきたことは、病院のニーズはたくさんあるということです。今でも検査から実際に患者さんに治療するまで1カ月近くかかったり、あるいは病院での医師や医療従事者の作業の負荷が高かったり。そこに新しいサービスを提供したいというのがアクトメッドの目指すところです。

コアの事業としての解析サービスと、周辺としてのキヤノンメディカルとの連携。それからアジアで台湾のアクトゲノミクス社と新しいソリューションを目指していき、それをどんどん日本に入れていくことを目指していきたいと思います。

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Shingu.jpg新宮肇(Shingu Hajime)アクトメッド株式会社 代表取締役社長
1992年京都大学理学部卒。(株)東芝入社。2003年1月よりコーポレート企業開発部を経て2007年1月から東芝メディカルシステムズ(現キヤノンメディカルシステムズ)でM&Aや事業提携関連に従事。2014年7月より事業開発部長。2018年7月よりアクトメッド(株)代表取締役を兼任。

tan.jpg陳 盈光(Tan Engkong)アクトメッド株式会社 湘南アイパークラボラトリー ラボディレクター
台湾出身。東京大学大学院水圏生物科学専攻、2012年農学博士号取得。同大学研究員を経て、2015年からイルミナ(株)に入社。2018年8月よりアクトメッド(株)に入社し、湘南アイパークラボラトリーでラボディレクターに就任。


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