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インタビュー・コラム

元ベテラン看護師の目線から「いまの看護現場の課題を深掘り」 株式会社Medi-LXが挑戦する「看護師の価値を高める教育」

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株式会社Medi-LXは、真に有効な看護・医学教育の学習機会の提供を目指して、2019年に創業したベンチャー企業です。教育用電子カルテの開発、看護師および看護学生向けオンラインセミナーの配信業務などを行っており、中でも学内演習用に開発された看護学生・基礎教育機関向け教育用電子カルテ「Medi-EYE」は、全国約250の大学および看護学校などに採用されるなど、教育関係者からも高い評価を受けています。今回は、同社の創業者であり、現在も代表取締役を務める池辺諒 氏に、看護師を経て起業を決意した理由、同社のプロダクトの特徴、今後の展望などについて話を聞きました。

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池辺 諒 氏(株式会社Medi-LX 代表取締役)

看護師の経験を活かして「看護現場の課題解決に挑戦」

――まずは自己紹介からお願いします。

株式会社Medi-LXの代表取締役を務める池辺諒です。もともとは看護師で、大阪母子医療センター(大阪府和泉市)で10年以上看護師を勤めてきました。看護師教育にも関心があり、病院勤めのかたわら大学院に通い、教育学を専攻しました。最近では、大阪府内の看護専門学校でも講師を務めています。株式会社Medi-LXは2019年に起業し、現在は6名の専業スタッフで製品開発や顧客対応などを行っています。主に本社のある大阪を中心に活動していますが、仕事で毎月東京にも通っています。

――もともとは看護師をされていたのですね。看護師を目指したきっかけは何だったのですか?

看護師を目指したのは、わたしが学生の頃に幼馴染を急病で失うという出来事が発端でした。彼は自宅で突然倒れて、3週間も昏睡状態が続いたのちに、帰らぬ人となりました。それまでのわたしは、自分の進路を真剣に考えていませんでしたが、彼とご家族の様子をみているうちに、こんな辛い経験をする人を少しでも減らしたい!と思うようになり、看護師の道を選びました。起業したのも、同様に熱い思いをもって看護師になった人たちが社会的に評価され、活き活きと働ける環境を作りたいとの想いからです。

――その看護師を辞めてまで、事業の道を選択されたのはなぜでしょうか?

10年以上にわたり看護師として働いてきた経験から、卒業したばかりの新人看護師が現場に定着できずに、2~3年で離職する現実を目の当たりにしていました。理由の1つは、現場が常に多忙であり、新人を指導する立場にある先輩看護師でさえ、日々の業務と自己研鑽に手一杯で、後輩教育にまで十分な時間が割けないという事情がありました。「だったら、わたしが先輩看護師として率先して現場を変えれば良い!」とも思いましたが、1人の力で変えられる範囲には限界があります。そこで、職場とも学校とも異なる第三者的立場から、新人看護師の現場定着という課題の解決に挑戦しようと考えました。実は最初に始めた事業も、先輩看護師を対象に「現場の看護師教育のあり方を学ぶ」セミナーの主催でした。

――最初はセミナー主催だったのですね。現在はさらに多くのプロダクトを展開されていますね?

現在は、看護教育およびリハビリテーション教育用の電子カルテ、看護師・看護学生向けオンラインセミナー、勉強会の資料共有プラットフォームなどを展開しています。そのうち、看護教育用の電子カルテが、現時点で当社最大のプロダクトになります。起業して最初に手掛けた看護師向けセミナーは、当初は好調でしたが、後に新型コロナウイルス感染症の世界的大流行が発生したことで、全く開催できない状態になってしまいました。そこで当社もまた、事業の大幅な路線転換を迫られることになりました。

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新型コロナパンデミックによって事業方針を大転換!

――いきなりのピンチですね!この逆境をどのようにして乗り越えたのですか?

新型コロナパンデミックの影響は、様々な方面に波及していました。看護教育も例外ではなく、看護学校や大学は「医療機関が学生の受け入れを停止してしまい、臨地実習ができない!」という、思わぬ事態に直面していました。当時の厚生労働省と文部科学省が、代替として学内での実習授業でも単位を認定すると柔軟に対応したことで、無事解決しましたが、問題は、学内実習に使える電子カルテがないことでした。医療現場では広く普及していた電子カルテですが、教育用の電子カルテはまだありませんでした。

――「教育用の電子カルテ」がそれまで存在しなかったというのは意外ですね。

臨地実習で学生たちが医療機関に行くと、実際の患者さんの電子カルテがありましたからね。しかし、医療機関が学生の受け入れを停止し、学内で実習授業を行うことになると、新たに模擬データによる教育用カルテを求める声が高まりました。そこでわたしは、エンジニアをしていた友人に、看護学校や大学の実習授業に利用できる教育用の電子カルテの開発を依頼。約3カ月間という短期間での突貫作業でしたが、何とか新型コロナパンデミックの第3波(2020年10月~2021年2月)に間に合う形で、最初の製品を発表できました。これまでに看護学校や大学など、全国約250施設に採用されています。

――全国約250施設で採用とはすごい実績ですね!貴社の強みは何でしょうか?

当社の最大の強みは、わたし自身が元看護師であり、いまも看護学校の非常勤講師として学生たちの教育を担当しており、看護現場におけるリアルな課題を深掘りでき、かつその課題を製品に即座に反映できたからだと理解しています。さらに、看護師や教員同士のつながりを活かして「どのような機能が必要か?」「どのような内容の電子カルテにするべきか?」などを密に話し合いながら、開発していった点も大きいと考えます。製品リリース後も、開発にあたって監修を担当してくれた人たちが、学内実習における有効な活用方法などを自発的に広めてくれたことも、多くの教育機関に採用された理由でしょうね。

――新型コロナパンデミックは今年ようやく収束しましたが、現在も同じ用途ですか?

当社の教育用電子カルテについては、新型コロナパンデミックが収束して、医療機関で臨地実習が再開されたこともあり、現在は学内実習ではなく、看護基礎教育における教材としてご利用頂いています。当社の製品は、各種検査値や画像情報など豊富な臨床情報を備えており、学生にとっては、より実践的な内容のカルテで学ぶことができ、教員にとっても、教材作成の負担を減らせるという利点があります。

わたしが講師を務める授業でも、自社製品を用いているのですが、学生からは「まるで本物の電子カルテを操作しているみたいだ」と、高い評価を受けています。実際の看護業務でも、まず勤務時間にに電子カルテをチェックして患者の情報を収集するところから始まりますが、カルテ内の情報は多岐に渡り、見慣れていないと、どこから確認すれば良いかもわかりません。事実、医療機関での臨地実習の初日は、ほとんど電子カルテの操作と見方を学ぶだけで1日が終わるくらいです。当社の教育用電子カルテを用いれば、臨地実習前から電子カルテの操作を学ぶことができるので、臨地実習の効率化にも貢献できます。

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今後も「看護師のスキルアップに貢献する」事業に挑戦

――起業から今日まで順調に事業を展開されてこられたとお見受けしますが、実際はどうでしたか?

実はそうでもありません。最初のコロナ禍では、当時のメイン事業である現役看護師向けセミナーが開催できなくなり、事業路線を変更せざるを得なかったことは、つらい経験でした。資金面でも、これまで2回ほど低空飛行を経験しましたが、これは意外と何とでもなりますね(笑)。現在の課題としては、新たなスタッフの確保に苦労しています。最初の教育用電子カルテの開発では、友人のエンジニアの力を借りることができたので、何とか製品化にこぎつけました。やはり「持つべきものは友」ですね。

――さらに今後は、どのような展開を想定されていますか?

現在は「教育用電子カルテの他職種への応用」と「海外への展開」の2つの路線を考えています。教育用電子カルテについては、最初は看護師向けカルテから開始しましたが、次に理学療法士や作業療法士などを育成する教育機関向けに、リハビリテーションに特化した教育用電子カルテも製品化しました。さらに現在は、薬学版の教育用電子カルテの開発も始めています。また今後は、東南アジアなどへの海外展開も考えています。製品開発にあたっては、現地の医療教育における課題の深掘り、現地事情に合わせたローカライゼーションが不可欠ですが、現地にも事務所を設置するなどして、対応していく予定です。

またセミナー事業についても、現在はオンライン配信による看護師向け教育プログラムを提供していますが、今後はさらに「看護師にとって真に革新的な学習体験」と「(病院など)雇用側に高い付加価値を認めてもらえる認証制度」を目指して、新たなビジネスモデルの開発に挑戦します。「認定看護師」などの認証制度はすでにありますが、それよりも少し取得のハードルを下げて、その上で医療機関からも「こんな看護師さんに来て欲しい!」と思われるような教育システムと認証制度を目指していきます。

――最後に本記事を読まれる読者に向けて、メッセージをお聞かせ下さい。

当社は、まだスタッフの数も少なく、システム開発にしても事業展開にしても、学校法人や外部の企業との産学連携が重要になると考えています。もし「こんな課題を解決したい」とか「こんな製品を一緒に開発したい」といった要望があれば、ぜひとも当社にお声かけ下さい。一緒にお仕事させて頂きたいと思います。LINK-Jにも、協業の機会の創出・コミュニケーションの場としての役割に期待しています。

MLX_062説明.JPG池辺 諒 株式会社Medi-LX代表取締役

2009年看護師免許取得、大阪母子医療センター看護部入職。集中治療室勤務などを経て、2017年 救急看護認定看護師資格取得。看護教育・臨床現場における「看護基礎教育の格差」「看護実践能力の格差」などの課題を解決するため、2019年に同社創業。「Medi-LX」の由来は「Medical Learning transformation」。
我々のビジョンは「テクノロジーで看護師と看護学生に真正な学びを提供する」こと。学びのDXを推進し、看護師がやりがいをもって働ける社会を築いていくことを使命としている。主な事業として、教育用電子カルテサービスの展開 (SaaS) 、オンラインセミナー配信サービス等がある。

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