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イベントレポート

第3回再生医療産学官連携シンポジウムを開催(10/23)

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10月23日、日本橋三井ホール(東京・日本橋)で、「第3回再生医療産学官連携シンポジウム」が開催されました。昨年にひきつづき、今回もアカデミア、産業界、行政機関を代表する多数の関係者が一堂に会し、講演とパネルディスカッションを行いました。一般席は民間企業等の参加者で埋まり、みなさん、再生医療と産学官連携についての最新情報や熱い議論に耳を傾けていました。

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左:会場の様子、右:菱山 豊氏(AMED理事)

【開会挨拶】

開会にあたり、日本再生医療学会理事長とLINK-Jの副理事長を務める澤芳樹氏が挨拶しました。澤氏はまず、主催者を代表して感謝の意を表明し、再生医療学会のミッションについて「再生医療の実用化に対する皆さんの期待は十分認識している。再生医療が日常に普及し、多くの命を助けられるようにとの思いを込め、『普遍性の獲得』というスローガンを掲げ、産官の皆さんとともに歩んでいるところだ」と続けました。そのうえで、細胞のバンク化と細胞製造の拠点整備が産業化の壁になっている点を指摘し、「このあたりを今回のシンポジウムで議論いただきたい」とまとめました。

【来賓挨拶】

つづいて、衆議院議員の甘利 明氏より来賓の挨拶がありました。甘利氏はまず、澤氏との出会いについて「10年以上前の経済産業大臣をやっていた時代に、大阪大学に面白い先生がいらっしゃるので会いませんかといわれ澤先生にお目にかかったのがはじまり。ありきたりのライフサイエンスの話ではなく、触発されるような話を伺い、そのような考え方をどう政策に反映しようかと思った」と振り返りました。さらに、「日本は医療の産業化に抵抗感がある。自民党の中にも『医は仁術、算術してはいかん』との考え方が残っている。意識改革するのは大変だが、私は医療のイノベーションやエコシステム化を進めるのが重要だと提唱しつづけてきた」と話し、最後は、「日本が誇る基礎研究力や大学等の研究機関にあるシーズが宝の持ち腐れにならないよう、規制改革や資金調達制度の整備が進むよう努力したい」と結びました。

【基調講演】再生医療の社会実装に向けてのインフラ整備について

基調講演には、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)において資金配分の部門を統括する菱山 豊氏(AMED理事)が登壇しました。同氏はまず、再生医療の現状について概略を説明。「2008年にオールジャパン体制でネットワークを作って再生医療を推進することになったが、当時、日本の産業界の関心は低かった。最近になって本シンポジウムのような産官学で議論する場ができ、連携が進んできた」と述べました。再生医療製剤の上市状況については、日本発のものは4品目にとどまっているものの、治験等が進んでおり、今後増えていくとの見通しを紹介。そのうえで、細胞バンクの充実や拠点整備が課題になっていると指摘し、「細胞そのものに未知のことも多く、基礎研究と密接に関連づけて産業化する必要がある」と話しました。さらに、再生医療推進法、再生医療安全確保法、医薬品医療機器法の3法が一体となって機能していることや、AMEDが進める再生医療実現プロジェクトの成果や現状に触れ、最後は「アカデミアのシーズとともに、最先端のレギュラトリーサイエンスについても議論し、産業政策として製造から販売までのバリューチェーンを構築する必要がある」と結びました。

【講演1】産業界より 再生医療の産業化に向けて

講演1では、まず膝関節外科において関節の再生医療に取り組む中村憲正氏(大阪保健医療大学 教授/大阪大学 国際医工情報センター招聘教授)が登壇し、自身の「骨膜由来の間葉系細胞(MSC)を用いたスキャフォードフリー三次元人工組織」による軟骨再生研究について紹介しました。「私たちはアルコルビン酸を添加することでマトリッックス産生を制御できることを突き止め、これが開発の鍵となった。軟骨組織は損傷すると治癒が難しいが、損傷部位に本細胞製剤を移植すると周囲の組織と速やかに接着し、軟骨様組織を作って修復することを豚モデルで確認。他家移植でも免疫反応がおきないことも見出し、治療用の細胞バンクを整備する方向で調整中だ」と中村氏。現在は、実用化の最終段階として株式会社ツーセルが、ヒトの他家MSCを用いて膝関節軟骨損傷70例(35例はコントロール)を対象に第三相試験中であることにも言及しました。

続いて、眼科医として研鑽を積んだ後に起業した鍵本忠尚氏(株式会社ヘリオスCEO)が、3年後の承認をめざして開発中の細胞治療製剤などについて講演しました。「目下、米国アサーシス社が特許権等を所有する体性幹細胞由来の細胞製剤(MultiStem®)を用いて、脳梗塞の急性期に投与するする臨床試験と、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対する治験開始の準備を進めているところ。脳梗塞については、厚生労働省による先駆け審査制度の指定を受けており、臨床試験の半分を終えるところまで来ている」と鍵本氏。さらに、国内において、京都大学、理化学研究所、横浜市立大学、大阪大学、大日本住友製薬などと事業パートナーを組み、長期的な取り組みとして、プラットフォームの整備、他家iPS細胞由来の再生医療製品の研究開発、臓器原器を用いた3次元臓器の研究開発なども進めていることを紹介しました。

3番目は、日立化成株式会社において2012年から再生医療支援事業に携わる古石和親氏(ライフサイエンス事業本部 再生医療事業部 副事業部長)が、同社が進める細胞製造拠点拡充と産業化についての取り組みを紹介しました。「日立化成が再生医療事業?と不思議に思われる方が多いと思うが、弊社は10年戦略でライフサイエンスを新たな柱に据え、再生医療製品の開発を始めている」と古石氏。世界を見渡すと、「再生医療産業に関与する企業が875社あり、年に100社増えていること」、「進行している治験が977件に上ること」なども紹介しました。そのうえで、「課題は、基礎研究をいかにエンジニアリングに持ち込んで産業化するかという部分。細胞製品クオリティー、コスト、継続性、安定供給性などの標準化が必要だが、細胞製剤ごとに知見や製造法、制御法が異なり、こうした複雑性が標準化を阻んでいる。いかに単純化して自動化や標準化を促進させるかが鍵といえそうだ」と結びました。

講演1の最後は、2017年に再生医療等製品事業を立ち上げたばかりの原田雅充氏(ヒューマンライフコード株式会社 代表取締役)が、同社の柱である臍帯由来間葉系細胞由来の製品開発などについて紹介しました。「本来、捨てられる臍帯をソースにすれば、無侵襲で安定供給が可能。凍結保存もでき、国内で供給できるので輸送コストも安価に済む」としたうえで、「現在、急性GVHD(移植片対宿主病)をターゲットに東大医科学研究所において医師主導の第1相臨床試験を進めている最中だ」と話す原田氏。最後は、臍帯利用について「ドナーが出産した病院以外でも処理を許さないとする条例」をもつ自治体が多いことにも触れ、「規制緩和と製造拠点を東西それぞれに設置することが必要だ」と結びました。

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左:講演1の座長である鈴木 邦彦氏(FIRM副会長)と畠 賢一郎氏(FIRM理事/JSRM理事)、右:鍵本 忠尚氏(株式会社 ヘリオス CEO)

【講演2】アカデミアより 再生医療の最新研究

休憩をはさんで行われた講演2では、アカデミアを代表する関係者3名が登壇。再生医療の社会実装に向けた研究や課題について講演しました。一人目は慶應大学医学部において脊髄損傷治療のトランスレーショナル・リサーチを続ける岡野栄之氏(JSRM理事/LINK-J理事長)。20年にわたり、霊長類モデルなどで神経幹細胞の動態や分化能研究を行い、脊髄損傷の亜急性期(受傷後2〜4週間後)に神経幹細胞を移植することで、四肢麻痺などが劇的に改善することを突き止めています。「ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞でも効果が十分なことを確認している。目下、京都大学iPS細胞研究所と協働し、臨床用のiPS細胞バンク整備に向けた準備を進めている。臨床試験も早期に実現したい」と岡野氏。最後は、慢性脊髄損傷、ALSといった神経変性疾患などへの適用も視野に入れていることにも触れました。

続いて、新潟大学において消化器領域の再生医療研究を進める寺井崇二氏(JSRM理事)が、肝硬変を対象にした間葉系幹細胞による組織再生研究について紹介しました。利用しているのは、脂肪組織に存在する脂肪幹細胞とのこと。「私たちは、間葉系幹細胞が炎症や再生の場を制御する指揮細胞として機能しうることを突き止めた。脂肪幹細胞は供給源が豊富で制御しやすく、免疫反応を回避するしくみも備えている。つまり、他家移植で済み、この点も大きなメリットだ」と寺井氏。鍵は脂肪幹細胞をマクロファージと共培養すること。すると、マクロファージが線維溶解因子や再生ドライブ因子を分泌するようになるのだそう。「20分で細胞を準備でき、患者に1時間点滴投与するだけで済む。ただし、消化器領域には再生医療についてよくわからないという医師が多い。今後はよろず相談会のようなものも立ち上げたいと考えている」と結びました。

3人目は長崎大学病院で移植消化器外科医を務める江口 晋氏(JSRM 理事)が登壇。現在進行中の2つの研究について紹介しました。一つは、間葉系幹細胞と膵島細胞の共培養で作製したパッチを用いて、内視鏡下食道がん切除後の食道狭窄を防ぐというもの。「がん切除部位をそのままにすると線維化して硬くなってしまうが、パッチを貼ると血管が再生し、狭窄を防げることを確認した」と江口氏。もう一つは、膵臓の外科手術や早期十二指腸がんを内視鏡化で切除する際にしばしばおきる、膵液漏れによる十二指腸穿孔を筋芽細胞シートで防ぐというもの。「豚モデルによる検証では、筋芽細胞シート貼付例は穿孔がゼロだった。テルモが心臓手術用のシート(ハートシート)を販売しているので、ヒトにはこれを使うことを想定している。消化器領域のこうした疾患は患者が多いので、実現できれば恩恵を受ける人が多いといえる」とまとめました。

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左:講演2の座長である高橋 淳氏(JSRM理事)と水野 博司氏(JSRM理事)、右:寺井 崇二氏(JSRM理事)

【講演3】行政側より 再生医療のさらなる充実に向けた政策展開

講演3では、行政側の関係者3名が登壇しました。1人目は、文部科学省 ライフサイエンス課 課長の仙波秀志氏。国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)による再生医療実現拠点ネットワークプログラムについて、「本プログラムは、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省が一体となって進めているもの。たとえば、京都大学iPS細胞研究所と協働し、日本人に多いHLA型のiPS細胞をストックする供給ネットワークを構築中だ」と紹介しました。また、患者由来のiPS細胞を利用した創薬も推進すべきだと話し、「ペンドレッド症候群(常染色体異常による遺伝性疾患で、難聴やめまい、甲状腺腫などがみられる)の新薬候補はすでにできており、目下、治験中。一方で、iPS細胞には細胞特性や免疫拒絶機序などの解明すべき点も残されている。ひきつづき、基礎研究や若手研究者による挑戦的な研究を支援し、橋渡し役を果たしたい」とまとめました。

2人目は、厚生労働省 研究開発振興課課長の伯野春彦氏。まず、厚生労働省による再生医療政策について、これまでの経緯を説明。現在は、再生医療安全確保法の改正により「研究開発の迅速性と安全性」を、薬事法の一部改正(医薬品医療機器法)により「再生医療関連製品の産業化加速」を担保するしくみが整いつつあることを紹介しました。そのうえで、「AMED(日本医療研究開発機構)では、厚生労働省、文部科学省、経済産業省の3省が一体となり、新たな治療法探索、臨床研究、治験、産業化までが事業として進むようになってきている。今後は、条件付き承認や審査期間の短縮などについても前向きに検討したい」と話しました。

3人目は、経済産業省 生物化学産業化課長の上村昌博氏が、再生医療の実用化に向けた経済産業省の政策展開について講演しました。冒頭では、再生医療用の原材料の入手以外にも多様な技術やシステムが必要だと説明し、全体がサイクルとして回るしくみの重要性を訴えました。そのうえで「創薬支援基盤技術開発、産業化促進研究開発、遺伝子治療用製剤の製造技術開発などを進めるため、来年度は46億円の概算要求を行う予定だ。再生医療分野推進を力強く後押しするとともに、大規模な製造工程をフレキシブルに組み合わせて作れるようなプラットフォームづくりも行っていく」と上村氏。終盤は、課題として、規制対応の不備などが顕在化していることにも触れました。

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左:講演3の座長である梅澤 明弘氏(JSRM理事)と 佐藤 陽治氏(JSRM理事)、右:仙波 秀志氏(文部科学省ライフサイエンス課 課長)

【パネルディスカッション】 再生医療拠点の展開に向けて

「講演3」終了後には、パネルディスカッションが行われました。壇上には座長として澤芳樹氏(JSRM理事長/LINK-J副理事長)と岡野栄之氏(JSRM理事/LINK-J理事長)が、パネリストとして8名(江崎 禎英:内閣官房、仙波 秀志:文部科学省、伯野 春彦:厚生労働省、上村 昌博:経済産業省、畠 賢一郎:FIRM/JSRM、鍵本 忠尚:FIRM、曽山 明彦:LINK-J、中村 雅也:JSRM)が並んで座り、はじめにJSRM幹事の岡田 潔氏が話題提供として指定発言を行いました。

岡田氏は、「日本の再生医療分野には強みがある一方で、先端技術流失の脅威、産業化支援システムの欠如などの弱みがあり、再生医療の出口が不完全」だと言及し、プロセスを作り上げて産業化につなげ、物作りのリスクヘッジを実現するドイツのフラウンホーファーの産業化システムが参考になることを紹介しました。そのうえで、「今日のパネルディスカッションでは、社会実装におけるボトルネック、エコシステム体制、エコシステムのあり方について議論いただきたい」としました。

その後、パネリストがそれぞれの立場で順番に発言し、さらなる法改正の必要性や可能性、日本が学ぶべき海外事例、予算配分や投資について、基礎研究を含む実証拠点づくり、オープンイノベーションなどの諸問題について、忌憚のない議論を熱く展開しました。発言の合間には、岡野氏が「法改正についての情報を発信いただきたい。さらに規制を緩和する余地がまだあるのではないか」といったコメントを挟みました。最後は澤氏が「夢のようなメンバーで議論でき、しかも素晴らしい締めの言葉をいただいた」とまとめました。

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左:パネルディスカッションの座長である澤 芳樹氏(JSRM理事長/LINK-J副理事長)と岡野 栄之氏(JSRM理事/LINK-J理事長)右:パネルディスカッションの様子

【閉会挨拶】

最後は、FIRM会長、JSRM顧問、LINK-J運営諮問委員を務める戸田雄三氏が閉会の挨拶をしました。戸田氏はまず、パネルディスカッションで展開された議論が非常に楽しかったとの感想を述べ、次のように続けました。「再生医療研究に必要な要素研究という意味で、日本のアカデミアは本当に素晴らしい成果を出してきた。いわば、再生医療は『日本のお家芸』といえるもの。この宝を資金マネジメントに長けたアメリカの企業にもっていかれてしまわないよう、産業界として一層奮起していきたい。また、規制と制度をきちんと区別し、再生医療の制度設計を日本がリードするようにしないといけない」。さらに、今回のシンポジウムで人のつながりの素晴らしさを改めて認識したことにも言及し、「登壇者の熱い思いを一つでも二つでも実現して世の中に貢献したい」と締めくくりました。

【情報交換会】

シンポジウム終了後は、日本橋ライフサイエンスハブに会場を移し、LINK-J主催による情報交換会が開催されました。会場には、シンポジウムの登壇者と一般参加者が多数参集。まず、LINK-J理事長を務める岡野栄之氏が開会と、それにつづく乾杯の音頭をとりました。続いて、衆議院議員/再生医療を推進する議員の会 事務局長 冨岡勉氏、同会 古屋範子氏、日本医学会連合 会長/日本医学会 会長 門田守人氏、参議院議員/再生医療を推進する議員の会 幹事 古川俊治氏より祝辞をいただきました。さらに、LINK-J副理事長を務める澤芳樹氏が中締めの挨拶をし、活気がありつつも和やかな雰囲気での意見交換会となりました。

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右:情報交換会の様子、左:岡野 栄之氏(LINK-J理事長/JSRM理事)

構成・文/西村尚子 サイエンスライター

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