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イベントレポート

北海道大学COI『食と健康の達人』拠点 Inclusive Life in Society 5.0」を実施(12/4)

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2020年12月4日(金)日比谷のBaseQとオンラインにて「北海道大学COI 『食と健康の達人』拠点Inclusive Life in Society 5.0」を開催いたしました。(主催:北海道大学COI『食と健康の達人』拠点、内閣府、共催:LINK-Jほか)

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特別講演 梶原 ゆみ子 氏 (総合科学技術・イノベーション会議議員 富士通 理事)

本イベントは、内閣府「次期科学技術・イノベーション基本計画の共創に向けた全国キャラバン」のフォーラムとして、with/after コロナ時代に向け、女性が生きやすい社会、少子化、働き方について課題を新しく捉え直し、解決に向けた議論を目的としたイベントで、アカデミアの方だけでなく、民間の経営者やスタートアップベンチャーの方など、329名の方にご参加いただきました。

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まず初めに総合科学技術・イノベーション会議議員、富士通理事の梶原ゆみ子氏よりタイトルに含まれた「Society 5.0」とは何かについてお話頂き、本イベントを開催する意義として、このような機会において広く議論をすることにより、Society5.0を実装した価値ある社会を実現するための素案を作成することにある旨をお話頂きました。「Society 5.0」では、今までの課題をAI,IT技術やイノベーションにより克服し、世代を超えた繋がりのもと一人一人が豊かな暮らしを実感することを目指しています。今回のセミナーでは現代の課題の一つである女性の生き方や母子の在り方に焦点を当て、研究者、臨床医、民間企業、スタートアップというそれぞれの立場から知見を披露し、課題解決に向けた深掘りのディスカッションを展開しました。

パネルディスカッション1 「母子の健康と子どもの未来」

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登壇者
モデレーター:玉腰 暁子氏(北海道大学 大学院医学研究院 教授)
 パネリスト:福岡 秀興氏(日本DOHaD学会 代表幹事)
       留目 真伸氏(SUNDRED 代表取締役)
       武田 安弘氏(森永乳業 研究本部食品開発研究所 所長)
       馬詰 武氏( 北海道大学病院 産科 助教、病棟医長)

パネルディスカッションでは玉腰暁子氏をモデレーターに迎え、活発な議論が展開されました。
福岡秀興氏が研究者の立場として、今の出産の現状を説明しました。「小さく生み、大きく育てる」という認識のために、生まれてくる子供の平均出生体重が戦後よりも軽い傾向にあり、そのため基礎疾患などのハイリスクを孕んでしまうと警鐘を鳴らしました。SUNDRED代表取締役の留目 真伸氏は「今まではサプライヤー主体、なんとなく男性中心社会であったが、これからは生活者、人間主体となる社会となるべきで、産業界の立場から言えば、取り残されたところにこそ成長の可能性がある。今はまだ100年人生を支える産業ができていないことを考慮すると、母子の存在に着目した産業づくりは成長の契機になる」と提案しました。

長年乳幼児の食品開発に携わった森永乳業 研究本部食品開発研究所 所長武田安弘氏も「高齢者に対する課題は社会保障の問題やユニバーサルデザインなどの形で解決を進められているが、殊に母子の問題になると認知度も低い。合計特殊出生率が下がる中で、女性の晩婚化や女性の社会進出が原因として挙げられるが、社会全体で解決する問題である」と強調しました。

女子の健康、母子の健康のために課題をどう解決するかという課題についてはメディアの力が大きい、とする意見もありましたが、北海道大学病院産科 助教、病棟医長の馬詰武氏は、臨床の立場から、「先述の福岡秀興氏の意見がスタンダードになるためには、現場から意識を変えなければならない。今では帝王切開で生むことに抵抗のある方も多くいるが、そうではない、と示していくことが必要」と述べました。

特別講演 荒田 尚子 氏(国立成育医療研究センター プレコンセプションケアセンター 母性内科)

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荒田氏は、長年の勤務経験から妊産婦期のみの治療だけでなく、妊婦になる前の段階からのケア、プレコンセプションケアが必要であるとご説明頂きました。その理由として子供を産む力のある女性自身の歪んだ認識(痩せ願望)や、先進国の中では極端な低さを持つ男性女性含めた性リテラシー、若い世代の妊娠へのネガティブイメージなど、生殖や命に対する軽視といえる状況が、女性のQOLの質を低めるだけでなく、生まれる子供へも影響を与え、それが引いては社会全体の問題へと繋がるからだと述べられました。ユネスコでは、5~18歳までスパイラルのように理解を深め、展開するような性教育を提示しており、先進国でも多くはこのユネスコのシステムに類似のものでプレコンセプションケアが進められています。日本でも特に進めていかなければならないケアであることを話されました。

パネルディスカッション2 「Inclusive Life 社会変革と地域連携に向けて」

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登壇者
モデレーター:宮寺 伸明 氏(ORSO
       松野 真由子 氏(日立製作所)
 パネリスト:荒田 尚子 氏( 国立成育医療研究センター)
       曽山 明彦 氏( LINK-J 理事)
       坂梨 亜里咲 氏(MEDERI 代表取締役)
       西村 宏美 氏 (日立製作所)
       青山 毅 氏  (岩見沢市)健康推進課 

パネルディスカッション2では、荒田尚子氏の講演を踏まえ、具体的な課題解決方法を議論しました。

まずは、「女性が生活しやすい社会」とはどのようなものかという問いに対し荒田氏が述べた「女性だけなく、男性、様々なレベルが共感しあう社会」という見解で概ねパネリスト皆一致しました。ではどのようにその社会を実現するか、という問いに対して、それぞれの立場から多様な意見が窺えました。LINK-J理事の曽山からは生物学的な差異があってもそれを感じさせない社会とするためには、差異を問わないキャリアパスが必要で、そのためにはリーダーとして第一線で活躍する男性陣への理解や教育が必要なのではないかと提案がありました。この提案にオンラインで参加した岩見沢市の健康推進課の青山氏も同意し、固定観念をブレイクしていく教育が大切と意見を提示しました。

「教育」はこのイベントを通して課題解決のキーワードとなりますが、興味深い視点を提供してくれたのが、女性の働き方を推進するため社内で声を上げた日立製作所の西村宏美氏と松野真由子氏でした。社内で様々な立場や年代の方とヒアリングを重ねる中で「会社における男性が女性を否定的に見ているのではなく、むしろ女性の働き方へは肯定的であるが、実際女性に関して知らないことが多く、何か問題が起きた際にどう対処していいか分からない」という無知によるものもあること、また女性に関しては「自分のライフプランよりキャリアプランの方を優先してしまいがち」なため、何かしら諦念を抱えて社会生活を送っていることを披露しました。MEDERI 代表取締役の坂梨亜里咲氏は自身の経験を経て、より社会全体が性や命に対して自覚的になるためには婦人科へのアクセスへの壁を容易にしていくことが大切だと述べ、また具体的な解決策として成人式などの節目の時期に自覚を促すセレモニーを行うといったことも一つと提案しました。

その後最後に三菱総合研究所 参与、SUNDREDパートナー、JapanInnovationNetwork フェローの吉田 直樹 氏、文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課長の斉藤 卓也氏の二氏から総評とご挨拶を頂きました。2時間という開催時間もあっという間に過ぎてしまうような有意義なイベントとなりました。ご参加頂いた皆様、誠にありがとうございました。

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