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イベントレポート

宇宙×ライフサイエンス 宇宙空間で広がる創薬の可能性 ~高品質タンパク質結晶生成~(10/4)

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2021104日(月)、LINK-Jは「宇宙×ライフサイエンス 宇宙空間で広がる創薬の可能性 ~高品質タンパク質結晶生成~」をオンラインにて開催しました。本イベントでは宇宙でタンパク質結晶を生成する価値や、宇宙実験の具体的な流れについて紹介いただいた後、質疑応答&パネルディスカッションでは現状の課題やこれからの展望について議論しました。

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ウェビナーアーカイブ視聴申込はこちらから (申込期限2022年48日(金)まで)

【登壇者】
山田 貢 氏(宇宙航空研究開発機構 有人宇宙技術部門 技術領域主幹、JAXA PCGプログラムリード)
阪本 泰光 氏(岩手医科大学 薬学部 准教授)
山口 隼 氏(Space BD株式会社 事業開発部 ライフサイエンスR&Dプロジェクトマネージャー、岩手医科大学研究員)

高品質タンパク質結晶生成

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はじめに宇宙航空研究開発機構 有人宇宙技術部門 技術領域主幹、JAXA PCGプログラムリードの山田貢様に「高品質タンパク質結晶生成」についてご講演いただきました。
ISSの微小重力下の状況では、地上のように結晶を作る際の密度差対流が起こらないため、タンパク質一つひとつが規則正しく結晶化します。そのためX線構造解析を行うと、X線がより綺麗に反射してタンパク質の構造の情報をより詳細に得ることができます。構造を詳細に知ることによりファーマコフォアに関する詳しい情報が得られるため、新規医薬品の開発が容易になります。JAXAはタンパク質構造研究の専門家で構成されたチームを作っており、タンパク質結晶生成をより安定的に行えるよう、試料準備技術や結晶化技術について研究を行っています。結晶ができるまでのフローの中で特に大切なのは、宇宙実験前の準備(どういう風に持っていくか、どういう結晶を作り出すか)をいかに精密に行うかであり、プレゼンでは最新の結晶化技術の説明もありました。

高品質タンパク質結晶生成の価値

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岩手医科大学 薬学部 准教授の阪本 泰光様からは、JAXAの高品質結晶生成技術を用いた抗菌薬開発に向けた取り組みについてご講演頂きました。
厚生労働省では2050年には耐性菌感染による死者数は1000万人に上り、がんによる死亡者数を超えると予測しており、現実に薬剤耐性菌出現までの期間短縮化と抗菌薬開発の鈍化という悪循環が生まれています。そのため薬学の立場からは新しい抗菌薬を開発することが求められています。
そこで阪本先生は、タンパク質・ペプチドの代謝に関わる酵素でヒトに存在しない糖非発酵グラム陰性菌のペプチド分解酵素(S46 DPP)に着目し、新規作用機序の抗菌薬を作れないかと考えました。このS46 DPPを持つ糖非発酵グラム陰性桿菌による感染症として有名なのは慢性歯周病菌と感染症の多剤耐性菌がありますが、両方に感受性のあるニューキノロンを使うと緑膿菌・アシネトバクターに対する対抗策がほぼなくなる状態に陥ります。抗菌薬の候補を絞るためには、たんぱく質の結晶化が必要ですが、いざ研究を始めると結晶化まではできるが、X線を当てても分解能が上がらず抗菌薬の候補が絞れないという課題にぶつかったといいます。そのような時、JAXAに相談することで結晶化の条件の最適化や分解能の高い宇宙結晶を実現することができ、強い抗菌効果のある化合物を見つけることに成功しました。阪本先生はJAXAの事業の精度の高さに加え、JAXAの協力で大学院に残る薬学の学生が増えたという教育の観点からの利点を述べました。また共同研究者と共にJAXAで得られたデータをもとに、医薬分子の設計と合成の自動化を行い、さらに効果のある抗菌薬を生み出していきたいという展望を述べられて講演を終えました。

宇宙実験×"超"精密構造解析
革新的なライフサイエンスR&D支援プラットフォームのご紹介

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SpaceBD社の山口様は、事業の具体的内容や強みについてお話して下さりました。
SpaceBD社は、宇宙空間を利用するハードルを下げることで、宇宙を産業化していくことを目指す2017年設立の宇宙商社のスタートアップです。
これまで、ISS「きぼう」からの衛星放出サービスから月周回軌道輸送サービス概念検討業務まで幅広い分野でJAXAの入札案件を獲得し、国内外のユーザーにサービスを提供して事業領域拡大の足掛かりを蓄積してきました。そして今年2021年3月、ISS「きぼう」でのタンパク質結晶生成事業の唯一の民間パートナ―に選定され、アカデミア以外の国内外ユーザーへの窓口業務に加え、JAXAとのパートナーシップを核としながらも、タンパク質結晶化及びタンパク質工学、X線結晶構造解析の専門家である(株)丸和栄養食品様等とも連携することで、独自のサービスとして地上実験から宇宙実験まで一気通貫で幅広い事業を展開しています。宇宙実験では、地上実験では難しい相互作用までわかる原子レベルでの構造解析で、薬効の高さや選択性の高さを計ることができ、この技術の産業への応用として、探索研究における新薬候補の絞り込みを効率化するだけでなく、創薬プロセス全体を効率化・高度化する革新的な「超精密SBDD("超"精密構造ベース創薬)支援」、「AI創薬のシミュレーション精度向上支援」、教育分野といった「創薬領域以外への支援」が可能となると言います。SpaceBD社は、JAXAの事業をただ引き継ぐのではなく、独自開発のITシステムの活用によるリアルタイムコミュニケーションや、価格や支払いスケジュールを相談に応じて対応できる柔軟な契約体系を用意するなど、よりユーザーにとっての宇宙実験へのハードルを低く、かつオリジナリティを出すための工夫をしています。

質疑応答+パネルディスカッション

続いて登壇者の3人に加え、モデレーターとしてLINK-Jの境が加わり、パネルディスカッションを行ないました。質疑応答を中心に議論は進められ、「結晶化の成功率は?」 「クライオ顕微鏡との決定的な差、宇宙実験のメリットは?」「サービスの価格は?」など視聴者から途切れることなく質問が寄せられました。
終始穏やかな雰囲気で進行し、イベント後のアンケートからは「新しいトピックでしたのでアンテナを張るきっかけになりました。」といったライフサイエンス分野に「宇宙」が関与することへの気づきや「宇宙/創薬というテーマであったので抽象的/実験イメージといった内容かと思いましたが、具体的な実験プロセス/機器の説明であり、勉強になりました。」といった、身近に宇宙での創薬を感じられたというコメントが多く寄せられました。

イベントにご参加の皆様、ご登壇者の皆様、誠にありがとうございました。

なお、今回のWebinar詳細については、URL にてご登録いただければ録画をご視聴いただけますので、是非ご覧ください。(202248日金まで)。

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