第25095号
医療・ヘルスケア・製薬DX関連の国内市場は30年に1兆円を突破
2035年の市場予測は1兆3,511億円(2024年比89.6%増)
― 2035年市場予測(2024年比) ―
●クラウド型病院向け電子カルテ 1,054億円 (2.2倍)
セキュリティ対策やコストメリットなどからクラウドシフト進む。オンプレミス型は縮小に
●創薬支援システム(AI創薬) 2,000億円( 57.1倍)
製薬企業では企業規模を問わず活用。付加価値の高いサービスの登場により、大幅に拡大
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋 代表取締役 菊地 弘幸 03-3241-3470)は、医療データの電子化に伴いRPAや生成AIなどの最新技術が活用され始めているほか、製薬企業では創薬や臨床研究分野でのAI活用や、営業活動での医療ビッグデータの活用などがみられる、医療・ヘルスケア・製薬のDX化に貢献するプラットフォームやシステム、サービスの国内市場を調査した。その結果を「2025年版 医療・ヘルスケア・製薬DX関連市場の現状と将来展望」にまとめた。
この調査では、医療情報プラットフォーム11品目、遠隔医療支援システム6品目、院内DX支援システム3品目、医療ビッグデータ分析サービス6品目、デジタル治療・診断支援システム2品目、創薬・臨床試験・マーケティング関連9品目、計37品目の医療・ヘルスケア・製薬DX関連の市場動向をまとめ将来を展望した。
◆調査結果の概要
■医療・ヘルスケア・製薬DX関連の国内市場
市場は、電子カルテの普及や勤怠管理・RPAなど医療従事者の生産性向上を目的とした投資などにより着実に拡大している。電子カルテや介護保険・業務システムなど医療機関の基幹システムを含む医療情報プラットフォームが市場を下支えしており、2025年の市場は7,818億円が見込まれる。
2027年を目途にサイバーセキュリティ対策の強化が求められており、短期的には院内DX支援システムが伸び、医療機関のITインフラ強化が進むとみられる。2030年は医療DX令和ビジョンの最終年であり、電子カルテなどは駆け込み需要が予想される。また、創薬や臨床開発分野におけるAIやRWE(リアルワールドエビデンス)活用の本格化が期待される。
2035年に向けて大きな伸びが期待されるのは、医療ビッグデータ分析サービスや創薬・臨床試験・マーケティング関連であり、製薬企業による創薬分野、臨床研究分野での需要増加により、全体の市場は2024年比89.6%増の1兆3,511億円が予測される。電子カルテはクラウドシフトが進むとみられるほか、2035年度末を目標とした医師の働き方改革の地域医療確保暫定特例水準の解消に向け、院内の生産性向上が加速し、市場拡大の追い風になるとみられる。
■カテゴリー別市場動向■
医療情報プラットフォームは、病院・診療所の基幹システムである電子カルテ、調剤薬局の基幹システムであるレセプトコンピュータ、介護施設の基幹システムである介護保険・業務システムが市場の約9割を占める。電子カルテの標準化、全国医療情報プラットフォームの構築に向けた政府や自治体の補助金などの導入支援を受けて伸びており、今後も堅調な拡大が予想される。
遠隔医療支援システムは、新型コロナウイルス感染症の流行により普及が急速に進んだが、収束と同時に市場の伸びが鈍化している。一方で、電子お薬手帳はPHR(Personal Health Record)としての機能やマイナポータルとの連携により役割が増えているほか、地域医療連携の取り組みとして調剤薬局と医療機関の情報連携が進められていることから、医療機関向けの機能が拡充され、導入対象の広がりにより伸びている。
また、Web問診システム/AI問診システムは、新設の診療所を中心に導入が進んでいる。問診システムや診療予約システムで電子カルテとの連携が進んでおり、どちらも電子カルテの普及に伴って市場が拡大していくとみられる。
院内DX支援システムは、ランサムウェア攻撃対策に向けたサイバーセキュリティ強化がガイドラインや立ち入り検査のチェック項目に加えられたことで、一定の強制力を持って医療機関向けサイバーセキュリティソフトウェア/サービスの導入が進められ、市場が大きく拡大するとみられる。また、規模は限定的なものの、医療事務向けRPAシステムと病院向け勤怠管理システムは、医師の働き方改革や院内の生産性向上を目的に導入が進むとみられる。
医療ビッグデータ分析サービスは、医療ビッグデータの二次利用である民間企業向けリアルワールドデータ分析サービスが市場をけん引するとみられる。また、各種プラットフォームや経営分析システム、健診・レセプトデータ分析、データウェアハウス/DPC分析ツールなどは、医療ビッグデータの二次利用や付加価値向上を目指し、データ量や質の向上、データ種類拡充などが積極的に進められている。
デジタル治療・診断支援システムの市場は黎明期にある。治療用アプリでは不眠症や糖尿病、がんなど、デジタルバイオマーカーでは認知症、うつ、心不全など患者数の多い疾患領域で開発が進んでおり、保険収載を控える製品も多くあることから今後の市場拡大が期待される。しかし、治療用アプリは新しい治療法であることから、認知度の低さや効果に懐疑的な医師も一定数存在するため、本格的な市場拡大には時間を要すると推測される。
創薬・臨床試験・マーケティング関連は、マーケティング関連ではMRによるプロモーションなどのシステム化やオンライン化など、製薬企業単独で切り替えが可能なケースが多いため、現状の市場をけん引している。
創薬関連はAI活用が本格的に始まった段階であり実証実験のニュアンスも強いが、研究費や研究施設などの規模に依存しない形での創薬アプローチへの期待が高いことに加え、システム化やDX化による効率化やスピードアップなどの潜在需要が非常に高いことから、大幅な市場拡大が予想される。
◆注目市場
●病院向け電子カルテ(オンプレミス型/クラウド型)
一般病院で汎用的に使用される電子カルテを対象とする。レセプトコンピュータやオーダリングシステムなど他の院内システムとの一体型は含むが、診療所向けや診療科専門の電子カルテ、オプション機能の利用料金などは含まない。
大規模病院では導入がほぼ一巡しているが、200床以下の中小規模病院での導入率はいまだに低く、これら未導入病院や新設病院での導入により市場が拡大している。電子カルテ標準化の政府方針を受けて、長年紙カルテを使用し続けてきた病院でも電子化が進んでおり、導入率の低い中小規模病院向けにクラウド型のエントリーモデルを提供する企業も増えている。
市場としてはオンプレミス型の規模が大きいが、セキュリティ対策やコストメリットの観点からクラウド化が進んでいる。また、政府によるクラウドシフトの推進もあり、既にオンプレミス型を導入している病院においても今後クラウドシフトが進むとみられ、オンプレミス型は2026年頃をピークに縮小が予想される。
●医療機関向けサイバーセキュリティソフトウェア/サービス
医療機関向けのサイバーセキュリティサービス、ソフトウェア、構築コンサルティングなどを対象とする。
医療のDX化、特にオンライン資格確認が義務化されたことで、電子カルテが未実装の医療機関でもセキュリティ対策の重要性が増している。しかし、これまでオンプレミス型の閉鎖環境によってセキュリティを担保してきた医療機関も多く、セキュリティ構築の抜本的な見直しが必要とされている。
既に医療機関へのランサムウェア攻撃などもみられ、政府は立ち入り検査のチェックリストにサイバーセキュリティへの対策を盛り込むなど、強制力を持って医療機関のセキュリティ水準を引き上げる取り組みを進めている。
セキュリティ投資を進める大規模病院による需要に加え、医療のDX化に伴うセキュリティ水準の底上げなどによる特需が2027年ごろまで予想され、2027年の市場は800億円を超えると予測される。現状ではセキュリティ診断サービスや、セキュリティシステム構築など導入に伴うサービスの利用が多いが、2030年以降は新規導入が落ち着くことで、保守サービスが市場の中心となるため、2035年の市場は現状と同程度の規模へ戻るとみられる。
●民間企業向けリアルワールドデータ分析サービス(薬局レセプト含む)
リアルワールドデータ(レセプトデータおよびDPCデータ、電子カルテデータなどの医療データから個人情報を除き、匿名化した統計データ)を製薬企業や保険会社など民間企業向けに提供、分析する二次利用サービスを対象とする。
マーケティング目的で製薬企業を中心に利用されており、大手だけでなく中小規模企業にも利用が広がりつつある。また、保険会社による健保データの利用も増えており、市場拡大の要因となっている。
このほか、利用頻度はまだ高くないものの、治験計画立案に対する患者数推計や治験施設選定などで利用されている。既に米国ではリアルワールドデータを適応拡大などの有効性を示すエビデンスデータとして利用するなど活用の高度化が進んでいる。国内でも活用の高度化に対する潜在需要は大きく、厚生労働省によってガイドラインや規制などの整備が進むことで、進展が期待されている。
また、PHRや病院経営データ、ゲノムデータ、そのほかアウトカムデータなどまだ利活用が進んでいないデータも多く、それらデータの利活用が進むことで、更なる市場拡大が予想される。
●創薬支援システム(AI創薬)
化合物設計や化合物プロファイル予測、標的分子の選定・同定、バイオマーカー探索など、従来は人がウェット実験系により研究していたものをAIなどによりシステム化し、創薬活動を支援するサービスを対象とする。参入企業は、大手ではスーパーコンピュータや自社オリジナルのAIを持つIT企業が中心であるが、AIベンチャーの参入も活発なことから、参入企業は増加している。
市場は本格形成されてからまだ日が浅く、参入企業各社が独自サービスとして展開し、各ユーザーが効果検証も含めて複数のサービスを小規模に並行して利用している状況である。製薬企業では企業規模を問わず、研究費や研究施設などの規模に依存せずに創薬が可能になるため、採用・活用が進んでいる。
創薬活動のシステム化やDX化による効率化やスピードアップなどの潜在需要の高さに加え、今後は、ほかの実験の検証も含めたワンストップサービスの提供や、量子コンピューティングなどさまざまな技術を組み合わせた付加価値の高いサービスの登場により、大幅な市場拡大が予想され、2035年の市場は2,000億円が予測される。
◆調査対象
医療情報プラットフォーム
・病院向け電子カルテ(オンプレミス型/クラウド型)
・診療所向け電子カルテ(オンプレミス型/クラウド型)
・精神科専門電子カルテ(オンプレミス型/クラウド型)
・眼科専門電子カルテ(オンプレミス型/クラウド型)
・地域医療連携システム(EHR)
・診療情報統合システム
・調剤薬局向けレセプトコンピュータ
・電子薬歴システム
・レセプト点検/審査支援システム
・PHRサービス
・介護保険・業務システム
遠隔医療支援システム
・オンライン診療システム
・薬局窓口業務支援システム(オンライン服薬指導、お薬手帳)
・オンライン診療(保険診療、自費診療)
・Web問診システム/AI問診システム
・診療予約システム
・服薬支援システム
院内DX支援システム
・医療機関向けサイバーセキュリティソフトウェア/サービス
・医療事務向けRPAシステム
・病院向け勤怠管理システム
医療ビッグデータ分析サービス
・民間企業向けリアルワールドデータ分析サービス(薬局レセプト含む)
・医用画像プラットフォーム
・保険者向け健診・レセプトデータ分析サービス
・病院経営分析システム
・診療所経営分析システム
・病院向けデータウェアハウス/DPC分析ツール
デジタル治療・診断支援システム
・治療用アプリ
・デジタルバイオマーカー
創薬・臨床試験・マーケティング関連
・創薬支援システム(AI創薬)
・臨床試験文書管理・作成支援システム(生成AI含む)
・臨床試験システム(EDC/eConsent/eSource/ePRO)
・被験者リクルートサービス
・医療向けe-プロモーション/医師SNSサービス/ポータルサイト
・Web講演会サービス
・製薬企業向け営業支援システム(SFA、CRM)
・医薬品基礎情報データベース
・医療介護関連施設情報データベース
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