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インタビュー・コラム

免疫多様性解析でがん免疫療法やプレシジョン・メディシンに貢献するRepertoire Genesis株式会社

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鈴木隆二 Repertoire Genesis株式会社 代表取締役社長

オプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T療法などの細胞治療をはじめとする、免疫システムを考慮した治療法が注目されています。複雑な免疫システムの主役ともいえるT細胞やB細胞の多様性を調べることは、新たな治療法や画期的な治療薬を開発する上で、重要な役割を果たすと考えられます。
今回は、免疫多様性解析技術を基盤としたサービスを提供している、「Repertoire Genesis株式会社」の代表取締役社長である鈴木隆二氏に、長年、免疫学の研究に携われてきた経緯や、創業のきっかけ、今後の事業展開などをお聞きしました。

免疫の仕事に携わって40年「特異性こそ免疫の要」

――どのような経緯をたどり、現在の創業に至ったのでしょうか。

私は40年ほど前から免疫の仕事に携わってきました。「免疫学」というのは純粋な学問というよりは、総合した学問です。その複雑さ、疾患などもそうですが、理解しづらい現象を総合的な観点で見ていく必要があります。

人の体には、ありとあらゆる病原体(抗原)に対する抗体がなぜできるのか、長い間わかりませんでした。1987年にノーベル賞生理学・医学賞を受賞された利根川進先生によって、免疫グロブリンの遺伝子再構成によって抗体の多様性が生み出されていたことが明らかになりました。

しかし、日本国内では、どちらかというと自然免疫の研究が盛んで、NK細胞やマクロファージ、サイトカインなどの研究が主流でした。がんにだけ特異的な抗原があれば、バクテリアと同じように、リンパ球は反応するだろうという考えで、世界的にがん抗原を探す人が増えていた時代です。当時、私は塩野義製薬でがん免疫療法の研究をしており、がんを薬で治すことを目指して、IL-2の研究に熱心に取り組んでいましたが、芳しい結果は得られませんでした。

ただ、私にとって、恩師である東北大学医学部の熊谷勝男名誉教授が「特異性をやってこそ、免疫」と仰っていたことが自分自身の信条としてあり、T細胞やB細胞の特異性を研究することが要であると信じていました。

米国のMDアンダーソンがん研究所に留学した際に、なんとか網羅的にT細胞レセプター(T細胞上の抗原を認識する受容体のこと、以下「TCR」)やB細胞レセプター(B細胞受容体、以下「BCR」)のレパートリー(レパトア)がわからないだろうかと、一つずつシーケンシングすることで調べていましたが、網羅的な手法がなく、先に進めないと感じていました。そこで、日本に戻ってきてから、3-4年ほどかけてTCRとBCRの遺伝子配列を網羅的かつバイアスのかからない状態で増幅できる技術を確立しました。

次世代シーケンサーの登場と創業のきっかけ

――技術が未熟な段階から、網羅的な解析に取り組まれていたのですね。

転機となったのは、次世代シーケンサー(以下、「NGS」)の登場です。T細胞やB細胞のあらゆる多様性を調べるためには、非バイアスな増幅方法だけでなく、大量処理についても考えなくてはいけません。NGSの発展とともに、非バイアスで網羅的に定量性のあるレパトアを一度に大量に解析する方法を実現しました。また、NGSから出される膨大なデータを解析するためのソフトウェアの開発にも成功しました。これは、免疫の本体に迫れるようなツールになったと自負しています。

この3点が揃ったことで、事業化への道を考え始めました。その後、一年半ほどかけてベンチャーキャピタルを周りましたが、我々の研究内容を理解してもらうのは容易ではありませんでした。そんな中、東京大学エッジキャピタルの担当者が我々の研究に興味を示してくれたため、事業資金の出資のみならず、一緒にビジネスプランや知財の課題などにも取り組んで頂き、創業することができたのです。

――2014年に創業されていますが、立ち上がりはどうでしたか?

創業後しばらくは、いわゆる受託サービスを細々と提供するだけでした。レパトア解析という手法自体の認知度が低く、研究者の先生たちもこの解析で何が出来るのかをお分かりになっていない方が多くいたように感じます。この間、ただ解析をしてそのレポートをお渡しするだけではなく、先生方の研究に寄り添い論文化のサポートもするなど、研究相談のようなことにも力を入れました。その甲斐あってか、徐々に当社の知名度も上がり、最近ではレパトア解析が国家戦略のなかで次世代の医薬基盤技術として早急に支援すべき技術群などといわれており、当社やレパトア解析に対する注目度が高まっていることを実感しています。

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免疫多様性解析とネオエピトープ解析の2大サービスで展開

――創業後、市場はどのような状況でしたか。

当時、メディアでは「がんワクチン」が話題となっていました。従来のように共通したがん抗原を探し、正常細胞とがん細胞との間の量的な発現差異を見ることで治療をしようという方法です。しかし、私は患者ごとに発生する抗原は異なると考え、特異性を調べなければ質的な向上はないと思っていました。
そこで、2015年に一人ひとりの患者さんに特異的ながんの抗原となる「ネオアンチゲン」を解析するサービスを立ち上げました。

がん細胞では、がん化の過程で多くの遺伝子変異が起きており、正常細胞には存在しないタンパク質、ネオアンチゲンが存在しています。このサービスは、多数のネオアンチゲンの中から、特異的に免疫を誘導するような変異ペプチド(ネオエピトープ)を明らかにします。

特異的な抗原を明らかにする「ネオエピトープ解析」と、網羅的にTCR、BCRの配列を読む「免疫多様性解析」の2つが現在のビジネスの柱となっています。

――抗体と抗原の両サイドから解析出来る技術を揃えられたわけですね。

そうです。ネオエピトープ解析の技法を持たれている研究者は少なく、問い合わせが多く届きます。レパトア解析の顧客はアカデミアが中心で、共同研究にも積極的に取り組み、知財の充実を図っています。製薬企業からの受注も増えてきており、治験に我々の解析手法を組み込むといった事例や、バイオマーカーの開発などの大きな提携の話も出始めているところです。

「治らないをなくす」の実現へ

――オプジーボをはじめとする免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T療法などが注目されていますが、事業への追い風があったのでしょうか。

2015年頃はまだ我々の研究は商売にならないといわれていましたが、今はだいぶ変わってきました。オプジーボは画期的な治療薬ですが、すべてのがん患者に効果があるわけではないため、改良しようという流れになっています。

遺伝子改変T細胞療法として、CAR-T(キメラ抗原受容体発現T細胞)とTCR-T(T細胞受容体発現T細胞)がありますが、TCR-Tの方に注目が集まっています。内在性のT細胞受容体(TCR)を除去した上で、目的としたTCRを発現したT細胞を体内に戻す必要があり、どのような方法でこれを体内に入れるかなど、ウイルスベクターの安全性を含め、課題は多くあると感じています。

現在、我々はこのような免疫療法の課題に対しても、積極的に技術開発を進めています。細胞治療を行う際には、目的のTCR遺伝子を正確に導入することが必要であり、どのくらい他の遺伝子に影響が出ているのかを調べることも重要になってきますので、この分野でも我々の存在意義を示していきたいと考えています。

――LINK-Jはベンチャー企業の皆様がビジネスを伸ばしていくお手伝いをさせて頂いています。日本橋へ来られた印象、期待をお聞かせください。

日本橋にオフィスを構えたのは、丸山(Repertoire Genesis株式会社 執行役員 管理部長)が適しているだろうと推薦してくれたからです。我々のスタッフは、職場環境を含め、資金面やリスク面など多くのことを考慮してくれています。私のような研究者が社長をやっていられるのも、優秀なスタッフのお陰です。ここには様々なネットワークがありますし、我々の技術と親和性のある企業さんが集まっていると思いますので、コミュニティを大切にしていきたいです。

――今後の抱負についてお聞かせください。

海外の研究機関と取り組んでいる研究テーマとして、数千万クローンのTCR及びBCR配列データと疾患情報とを合わせて、機械学習をさせるといったことにもチャレンジしています。病気というのは多様ですが、免疫システムが必ず動いているので、病因がわからないといった場合にも、リンパ球側から抗原の方を予測するといったことができるのではないかと。疾患の標的を予測するところまで、実現したいです。

当社は、「治らないをなくす」というミッションを掲げています。これは免疫システムを解き明かしそのポテンシャルを解放することで、多くの疾患に苦しむ患者さんにより良い治療を届けたいという思いを込めています。がん治療については、手術や放射線治療、抗がん剤をはじめ、免疫療法、そして細胞治療へと時代が移り変わってきました。当社としても最先端の治療に貢献できる知財や技術を揃えて、プレシジョン・メディシンの時代にしっかりと貢献していきたいと考えています。
患者さんを治すのは、臨床の現場で働いている医師たちですが、我々としても医師と一緒に「患者さんを治す」というところに役立てればと思います。

suzuki.png鈴木隆二 Repertoire Genesis株式会社 代表取締役社長

日本大学農獣医学部獣医学科卒業、東北大学医学博士取得。塩野義製薬でがん免疫療法の研究に携わり、1988年に米国 テキサス大学MDアンダーソンがん研究所に留学。客員助教授としてT細胞受容体の解析プロジェクトに参画。その後、武田薬品工業で主席研究員、国立がんセンター研究所の主任研究官を務めたのち、独立行政法人国立病院機構相模原病院の臨床研究センター 臨床免疫研究室室長に。レパトア解析ソフトを完成させ、Repertoire Genesis株式会社を創業。

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