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インタビュー・コラム

臨床の最前線で働く医師を助けるアンター株式会社

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新型コロナウイルス感染症がもたらした医療の変革や、DXを活用した業務効率化など、医療現場での働き方の変化や多様なサービスの普及が進みつつあります。急な診療や一人の当直などの際に医師同士で相談ができるプラットフォームを提供する、アンター株式会社の中山俊代表取締役社長にお話しを伺いしました。

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中山 俊 氏(アンター株式会社代表取締役社長)

離島でも時代に合った適切な医療を提供したい

――医師として病院勤務しながら起業したきっかけについて教えてください

中山 僕は鹿児島県の奄美大島出身で、大学卒業まで鹿児島県で過ごし、医師になってから東京に出てきました。現在も千葉県内の病院で整形外科医として勤務を続けています。医師として11年目になりましたが、45年目くらいの時に、専門外の患者さんを診る機会が増えてくる中で、自分の専門領域で診るには困難な患者さんに対してどうしたらいいか悩むことがありました。そして、この悩みは自分だけでなく他の医師も同じように思うのではないかと考えました。そこで、様々な専門知識を持つ医師同士がつながり、現場に合った知見の共有を互いにすることで医療がより良くなるのではないかと考えたのが、この事業のきっかけです。

――Antaaのサービスは医師限定のサービスとお聞きしました

中山 現在多くの医師が登録しており、症例について実名で医師同士で相談し合うAntaa QA、動画で学べるAntaa Channel、スライドシェアのAntaa Slideの3つを提供しています。

Antaa QAでは投稿形式の相談によって、様々な所属、年次、診療科の医師の意見を聞くことができます。投稿に対して、早いと数分程度でアドバイスや参考になる論文情報等が共有され、その後ディスカッションが続いていきます。やり取りを繰り返す中で、医師の専門性だけでなく人柄も伝わることで、感謝の気持ちでつながって温かい場となっています。

――新型コロナウイルス感染症の影響はありましたか

中山 新型コロナウイルス感染症の影響で、特に医療従事者は移動が制限されたことにより、新たな医学的脅威に対して、情報を集めなくてはいけないという状況の中で、これまでのようにオフラインの勉強会で情報が得る手段がなくなってしまいました。オンラインで情報を得る、相談するニーズが高くなったことにより、Antaaに参加する医師が増えました。

実際に、コロナに関する情報を集めたSlideは多くの医師より役に立ったと声をいだだきました。

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不確定要素が多い相談ほど人に聞くことで解決できる

――この一年でオンライン診療をはじめ、多様なオンラインのサービスが出てきたと思うのですが、アンター社ならではの強みはどんなところにありますか

中山 各社それぞれのプレーヤーごとに強みがあり、医療機関と他の医療機関をつなぐものや、専門に特化した領域でのアドバイスができるものなどがありますが、Antaaは、実名で登録し医療現場での困りごとや情報共有し「医師が個人で使う」ところが特徴です。参加している医師はGiveの精神を持ってコメントをして、コメントをもらった医師もその結果について共有しています。

医師が個人で使えて、医師一人一人がつながるところが大切で、そこに強みがあると思っています。将来、ある医師が別の病院や地域に移動することになったとしても、所属に関係なく、どこにいても心地よく使えるサービスであり続けたいと思っています。

――新型コロナウイルス感染症に関する情報提供についても行われていますか

中山 新型コロナウイルス感染症に関する一般的な情報は、Antaa ChannelAntaa Slideでも取り上げています。Antaa QAでは、そのような情報のやりとり以外にも例えば、クリニックで一人院長をしているが、患者さんの中にコロナの疑いがある方がいて、どこまで診療を続けたらよいか、皆さんはどうされているか、などです。医療における意思決定の際に、誰かの意見を聞きたいという場合に、Antaa QAでアドバイスを求めるという使い方です。他の医師にも波及効果があり、1つのやり取りが他に医師にとっても役に立つ情報として展開されています。

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医師の能力をPeer to Peerでつなぐ

――コミュニティ構築の中で勉強会やセミナーなどはどのように運営されていますか

中山 創業時にはオフラインでの勉強会や交流会を行っていましたが、活動をしていく中で、全国の先生に参加してもらいやすいようにオンライン環境の整備を進めていました。昨年は、オンラインでの勉強会を300回ほど実施し、すべて自社内で運営しました。ほぼ毎日、動画の配信を行い、様々な診療科やエリアの医師が発信をサポートすることによって、Antaaで発信することの波及効果や情報を受けとる医師にも幅が広がることを実感しました。また、必要に応じてオンライン上で懇親会を開催するという形を取っています。動画で得た情報をインプットした後に、「自分はどう感じたのか?」などを互いに共有する場を持つことで、悩みも自分だけではないということが支えになるコミュニティを作っています。

――サービスはすべて無料で提供されているということですが、事業としてはどのように収益をあげているのでしょうか

中山 Antaa QAは全国均一に誰でも相談し答えることができるような仕組みになっているのですが、一部の地域だけで使いたいというケースがあります。地域内のネットワークに対してスムーズに情報交換を行うための地域版Antaaの提供に関しては、自治体から費用を頂いています。また、全国版のAntaaのネットワークがある中で、そこに対して自分たちの病院のことを知ってもらいたいなどのPRに関しては別途、有料で行っています。

これは三重県との取り組みなのですが、三重県出身の東京で働いている医師が、三重県内で困っている先生に対してサポートを行うようなこともしています。地域のメリットとしては、医師に対して地元への接点を持っていてもらえるというところにあります。

――今後の事業展開を含め、医療の未来としてどのようにあるべきだと思いますか

中山 会社のミッションは「医療をつなぎ、いのちをつなぐ」です。そこには「医療の境界をなくす」というビジョンが根本にあります。所属している地域や組織、診療科を超えて、互いに知識の共有ができることで、最終的に患者さんにとってよりよい医療が提供できたらと考えています。個人によってできることを増やすことで、つながる命を増やしていきたいと思っています。

日本は医療の環境が整っていて医療のレベルが高いと感じています。そして、医学が細分化して進歩し続けた結果、大量の知識や情報を必要とするようになりました。そこを医師の各々の知識や経験をPeer to Peerにつなぐことによって、最終的に、患者さんにとって最善の診療ができることにつながれば、と考えています。

――LINK-Jへの期待やメッセージがありましたらお願いします

中山 Antaaのサービスは人とのつながりをとても大切にしていて、LINK-Jも同じだと感じています。こうやってインタビューを見てくれた人などがアンター「いいね」と言ってくださると嬉しいです。

スティーブ・ジョブズの言葉に、「Connecting the Dots」というのがあります。誰かが「いいね」と言ってくれた時にはまだ将来の事業や医療に対して進めるものが見えないのですが、誰かが何かを発信することや手を挙げることによってつながっていい未来がつくれる、前に進めるものがあると思うので、多くの皆さんに共感して頂ければありがたいです。

nakayama.jpg中山 俊 アンター株式会社 代表取締役社長

鹿児島県出身。鹿児島大学医学部を卒業後、東京医療センターで初期研修。翠明会山王病院整形外科勤務。2016年にアンター株式会社を創業し、医療現場の医師が相互に助け合う、実名制の医師同士の相談サービス「Antaa QA」を運営。 IBM BlueHub最優秀賞、経産省ジャパンヘルスケアビジネスコンテスト2019優秀賞
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