2024年10月31日(木)、LINK-Jは「東京大学発 社会実装をめざす先端研究シリーズ第2弾 東京大学医学部附属病院の臨床研究と社会実装ーリアルワールドデータが拓く医療の未来ー」をハイブリッド形式にて開催しました。
当日は会場・オンライン合わせて264名の方にご参加頂きました。
LINK-JのYouTubeチャンネルでアーカイブ動画を公開しています。
LINK-Jは、東京大学の社会実装を目指す先端研究を紹介するイベントシリーズを開始しました。
第2回は「東京大学医学部附属病院の先端研究」をテーマに、東京大学医学部附属病院 病院長の田中 栄 氏をはじめとする3名の先生方にご登壇いただき、以下の最新研究内容をご紹介頂きました。
1.東大病院における最近の取り組みと課題
2.がんゲノム医療のReal World Dataの利活用と新規薬剤開発への展開
3.病理組織像の定量化とデータサイエンスとしてのアプローチ
パネルディスカッションでは、登壇者でもある東京大学 石川 俊平 氏にモデレーターをお願いし質疑応答を含むディスカッションを行いました。
開会挨拶
高橋 俊一(LINK-J 事務局長)
基調講演:「東大病院における最近の取り組みと課題」
田中 栄 氏(東京大学医学部附属病院 病院長)
■田中氏 講演要旨■
東京大学医学部附属病院(以下東大病院)は、わが国のみならず世界の医療をけん引する存在として、「臨床医学の発展と医療人の育成に努め、個々の患者に最適な医療を提供する」ことを理念とし、その実現のために「患者の意思を尊重する医療の実践」、「安全な医療の提供」、「先端的医療の開発」、「優れた医療人の育成」という目標を掲げてきました。臓器移植やがんゲノム医療などの高度な医療を担うとともに、地域に密着した診療にも力を入れております。患者の幸せを考えるとともに、職員の幸福にも配慮した病院運営を行っていきたいと考えております。
講演「がんゲノム医療のReal World Dataの利活用と新規薬剤開発への展開」
織田 克利 氏(東京大学大学院医学系研究科 医用生体工学講座 統合ゲノム学分野 教授、 東京大学医学部附属病院 ゲノム診療部 部長)
■織田氏 講演要旨■
2019年6月以降、がん遺伝子パネル検査が保険適用となり、治癒困難ながん患者さんにとって、がんの種類によらず、国民皆保険制度のもとでがんゲノム医療を受ける機会が得られるようになった。保険診療下のがん遺伝子パネル検査の臨床情報、ゲノム解析情報はがんゲノム情報管理センター(Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics: C-CAT)で一元的に管理されており、5年間で約8万例の登録が行われている。C-CATのデータ利活用がアカデミア・企業で広く行われており、論文も多数Publishされているが、現段階でこうしたがんゲノム医療の普及が本邦の薬剤開発を促進する起爆剤になった、とまでは言い難い。がん遺伝子パネル検査の保険適用の対象が標準治療終了後(終了見込みを含む)に限定されている点が、一つの大きな制約となっている。その一方で、本邦独自のがんゲノ医療制度で収集可能なReal World Dataを薬剤開発に向けて最大限に活用するスキームが求められる。本講演では、がんゲノム医療の現状、C-CATの枠組みを生かしたReal World Dataの解析プラットフォームの構築、Medical AIへの期待等について紹介する。
講演「病理組織像の定量化とデータサイエンスとしてのアプローチ」
石川 俊平 氏(東京大学 大学院医学系研究科 教授)
■石川氏 講演要旨■
がん病理診断に用いる病理組織像はがん細胞や間質細胞によって構成される複雑な情報である。近年深層学習の技術の進展でがん病理組織像を定量化し、病理診断においてもゲノムのようなデータサイエンスとしてのアプローチが可能となってきている。海外ではGenomics Englandや、日本においては全ゲノム解析等実行計画のなかでWSI(Whole Slide Image)として病理組織画像が収集されている。それにともなって病理画像の特徴を高い精度で捉えて数値化し、ゲノム情報や他の臨床情報を統合するための基盤モデル(Foundation Model)と呼ばれる大規模モデルの開発が世界中で行われるようになった。また病理組織像の特徴をより生物医学的に解釈可能とし判断基準を明確化するために、細胞などの生物学的エレメントを直接認識するようなモデルの開発も行われている。
パネルディカッション
モデレーター:石川 俊平 氏
パネリスト:田中 栄 氏、織田 克利 氏
パネルディスカッションでは、ご登壇の皆様が熱い議論を交わしました。会場からも多くの質問が寄せられ非常に盛り上がりました。
参加頂いた皆様からは「それぞれのお立場からのお話を伺えて貴重な時間となりました。」「東大病院のゲノム医療や移植医療に対する取り組みがよく分かった。」「東大病院によるRWDの社会実装が進展している状況がよく理解できました。」と多くの感想が寄せられました。
ご視聴・ご参加、誠にありがとうございました。