2024年8月29日(木)、LINK-Jは「東京大学発 社会実装をめざす先端研究シリーズ第1弾 医薬系先端研究の社会実装について ―構造生物学が拓く未来―」をハイブリッド形式にて開催しました。
当日は会場・オンライン合わせて243名の方にご参加頂きました。
LINK-JのYouTubeチャンネルでアーカイブ動画を公開しています。
LINK-Jは、東京大学の社会実装を目指す先端研究を紹介するイベントシリーズを開始いたします。 記念すべき第1回は「医薬系の先端研究」をテーマに、東京大学大学院医学系研究科長・医学部長の南學正臣先生をはじめとする3名の先生方にご登壇いただき、以下の最新研究内容をご紹介しました。
1.東京大学大学院医学系研究科・医学部の研究概要
2.クライオ電子顕微鏡による生体分子・細胞構造解析の現状
3.自然免疫に関わるセンサータンパク質の構造生物学的研究
パネルディスカッションでは、東京大学名誉教授の田之倉優氏をモデレーターに迎え、登壇者を交えた質疑応答を含むディスカッションを行いました。
開会挨拶
高橋 俊一(LINK-J 事務局長)
基調講演:「東京大学医学系研究科の研究」
南學 正臣 氏(東京大学大学院医学系研究科長・医学部長)
■南學氏 講演要旨■
東京大学医学系研究科はゲノム研究、神経系の研究、生活習慣病の研究、医工連携研究などを幅広く精力的に推進している。また、そのために優れた研究人材を育成するために卓越大学院プログラムを設置し、長期的な視点から分野横断的にヒトの健康に寄与できる人材を育成している。東大の強みの1つは構造生物学であり、構造生命科学連携研究機構を設置し、吉川雅英先生を機構長に迎え、様々な生命現象の理解に基づいたデータ駆動型の生命科学を推進している。
講演「クライオ電子顕微鏡による生体分子・細胞構造解析の現状」
吉川 雅英 氏(東京大学大学院 医学系研究科・生体構造学分野 教授)
■吉川氏 講演要旨■
2013年を境として、クライオ電子顕微鏡は、膜タンパク質とリボソームなどの大きな複合体を解析する手法として標準的な方法となりつつある。生体分子構造のデータベースであるPDBに登録されるクライオ電顕によって解かれた構造は毎年1.5倍のペースで増え、生体分子の構造解析法としてX線結晶解析に肩を並べつつある。
東京大学では、2017年度からはAMED創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム事業の構造解析部門として、日本全国の研究者・企業にクライオ電子顕微鏡による構造解析を提供している。また、2020年4月からは、東京大学内に構造生命科学研究機構が設立され、Titan Krios G4iが導入された。2022年からは東京大学・柏Ⅱキャンパス・産学官連携棟で日本電子製CRYOARMも稼働して、クライオ電子顕微鏡による解析を誰もができる時代になりつつある。これらを活用することで、我が国の優れたライフサイエンス研究の成果を医薬品等の実用化につなげることを目標としている。現在、70近くの課題を支援中であり企業も6社が利用し、東京大学との共同研究としての成果も出始めている。
本講演では最新の成果を紹介しながら、クライオ電子顕微鏡による生体分子の観察(単粒子解析)や、細胞観察(電子線トモグラフィー)、の日本の現状、そして未来に必要な事を議論させていただく予定である。
講演「自然免疫に関わるセンサータンパク質の構造生物学的研究」
清水 敏之 氏(東京大学大学院薬学系研究科 教授)
■清水氏 講演要旨■
自然免疫システムは病原微生物感染に対する重要な生体防御システムである。病原微生物に対しいち早くその侵入を察知し、炎症反応を引き起こす。宿主のセンサーが病原体に備わる病原体関連分子パターンを認識すると自然免疫反応が誘導されるが、この中でも中心的な役割を果たすのがToll様受容体(Toll-like receptor: TLR)である。
核酸は主要なTLRのリガンドの一つであり、TLR3は二本鎖RNA, TLR7/8は一本鎖RNA、TLR9はCG配列を含む一本鎖DNAをリガンドとし、いずれもエンドリソソームに局在する。このような核酸認識TLRは強力に免疫応答を誘導することから抗ウイルス薬やがん免疫賦活剤としての利用が期待される。その一方で、過剰な核酸認識TLRの応答は自己免疫疾患を発症させる。以上のことはTLR7,8のアゴニスト、アンタゴニスト共に新規の治療に直結することが強く示唆される。本講演では核酸認識TLRに焦点をあてその活性化機構およびアンタゴニストによる阻害機構の知見を紹介する。
パネルディカッション
モデレーター:田之倉 優 氏(東京大学 名誉教授)
パネリスト:上記登壇者
パネルディスカッションでは、田之倉氏がモデレーターとして加わりご登壇の皆様と熱い議論を交わしました。会場からも多くの質問が寄せられ非常に盛り上がりました。
参加頂いた皆様からは「東大医学研究科の方向性と先端医療技術の紹介がわかりやすかった。」「東京大学の最前線での格闘ぶりがよくわかり、近未来の成果が期待できると感じました。」「構造生物学また技術が未来を拓いていく可能性を非常に感じました。」と多くの感想が寄せられました。
ご視聴・ご参加、誠にありがとうございました。
シリーズ第2弾は10月31日(木)に開催いたします。
東京大学発 社会実装をめざす先端研究シリーズ第2弾 東京大学医学部附属病院の臨床研究と社会実装ーリアルワールドデータが拓く医療の未来ー
ぜひご参加ください!