2026年2月27日(金)、日本再生医療学会(チームU-45)とLINK-Jは「次世代研究者が挑む再生医療の最前線 【第4回 臨床応用】」をGLOBAL LIFESCIENCE HUBとオンラインのハイブリッド形式にて開催しました。
当日は会場・オンライン合わせて309名の方にご参加頂きました。
共催:一般社団法人LINK-J、日本再生医療学会(チームU-45)
LINK-JのYouTubeチャンネルでアーカイブ動画を公開しています。
「未来志向で再生医療の最新研究を紹介」
LINK-Jでは日本再生医療学会(チームU-45)と共同で、再生医療の将来を担う研究者にスポットを当てる新しいイベントシリーズを実施しています。 病気や事故などで失われた細胞や器官の再生を促進することで、永続的な機能回復を目指す「再生医療」。今年2月には、ついにiPS細胞由来製品も厚労省の専門部会で条件付き承認が了承され、各種メディアでも大きく報道されました。再生医療の臨床応用は、既存治療では根本的解決が期待できない疾患に対する切り札として期待を集める一方、科学的根拠が十分でないものも存在するのが現状です。そうした状況の中で、多くの再生医療の研究者が「科学的根拠に基づく再生医療の臨床応用」に向けて、日々努力を重ねています。本シンポジウムでは、再生医療の臨床応用に挑戦する研究者3名が登壇し、再生医療の現在地と将来展望について語りました。
開会挨拶
林 幾雄(LINK-J 事業部長)
最初にLINK-J林幾雄が登壇し、開会挨拶を行いました。再生医療の進歩は目覚ましく、今年2月には新たに2製品の「条件及び期限付承認」での承認が了承されました。林氏はこのニュースにふれ、「日本発の技術が研究段階から本格的な臨床応用、社会実装のフェイズに確実に進んでいることを示す象徴的な出来事だ」との見解を述べました。その上で「本日のシンポジウムでの出会いが、新たな共同研究や産学連携、そしてスタートアップの創出や事業家との連携にもつながることに期待したい」と述べました。
開会挨拶
林 洋平氏(日本再生医療学会U45座長、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団)
続いて林洋平氏が開会挨拶を行いました。林氏も再生医療の技術開発に挑戦する基礎研究者であり、また臨床用途のiPS細胞の提供を通じて、再生医療の臨床応用にも貢献しています。林氏は「本日のシンポジウムには、再生医療の臨床応用に挑戦するアカデミアや企業の方々も多く参加されている。今日は再生医療の専門家の先生が、どのような意志をもって再生医療に臨んでいるか、その知見を頂ける良い機会になる」と述べ、本会を今後のさらなる連携につながる場として活用してほしいと呼びかけました。
講演「脊髄損傷に対する再生医療の現状と課題」
菅井桂子氏(慶應義塾大学 整形外科学教室 助教)※オンライン登壇

脊髄損傷は、事故や転倒などで脊椎が骨折脱臼することで、脊椎内を通る中枢神経(脊髄)が圧迫損傷される疾患です。日本では毎年約六千人が新たに受傷し、患者数はのべ十万人以上とも推定されます。重症度は部位により異なるものの、多くの患者が運動麻痺や感覚麻痺、排尿・排便障害に苦しみ、最重症の場合は人工呼吸管理も必要になります。これに対して菅井氏らは、iPS細胞由来の神経前駆細胞を用いた再生医療に挑戦しています。脊髄を展開し、顕微鏡下で細胞を損傷中心部に直接注入するという治療法です。実際に重症患者を対象とした探索的試験では、細胞移植と因果関係のある重篤な有害事象は認められず、一定の安全性が確認されています。今後の開発は企業に引き継がれ、さらなる検証的試験が実施されます。話を聞く限り順調に進行しているようですが、菅井氏は「開発は様々な課題に直面している」といいます。たとえば、細胞治療単独では治療効果が不十分なことから、菅井氏らの探索的試験も「細胞移植とリハビリの併用療法」として実施されました。しかしその結果、どこまでが細胞治療の効果といえるのか、線引きが難しいのです。また細胞治療特有の高コスト構造や、細胞生着を目視で確認できないなどの課題もあります。菅井氏は「課題は多いが、我々も前に進むための取り組みを続けたい」と述べ、実用化に向けた強い意志を示しました。
講演「変形性膝関節症に対する再生医療の現状と展望」
井石智也氏(兵庫医科大学 整形外科学教室 講師)
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨が加齢や事故ですり減り、炎症や疼痛、関節変形などを引き起こす慢性疾患です。多くの高齢者にとって悩みの種であり、各地の整形外科はヒアルロン酸の膝関節注射を希望する患者さんが列をなしています。そうした背景もあって、同領域では様々な再生医療が開発され、多くは自由診療のもとで提供されています。国内でも間葉系幹細胞や多血小板血漿、エクソソームの関節内注入などが利用されており、さらに今年1月からは自己培養軟骨移植製品の保険適用も了承されました。同製品については、井石氏らの検討でも、膝周囲骨切り術(膝関節温存術)との併用療法により、健康な軟骨細胞に近い状態の細胞が得られ、かつ長期的な改善効果も見込める可能性が示唆されています。一方で井石氏は、膝関節領域における再生医療全体の課題として、高額な医療になること、文献数は多いが信頼性に欠く論文も多く、国内ガイドラインもまだ治療手段としては推奨していないこと、患者由来の細胞を用いるので品質が安定しないこと、日本再生医療学会が求める検証型診療での実施が難しいことなどを指摘しました。一方で、現在進行中の治験結果によっては、現在主流の膝関節温存術になり代わる、新たな治療法も誕生するだろうと述べ、膝関節領域における再生医療の今後の発展に期待を述べました。
講演「培養上皮細胞シートを用いた角膜の再生医療」
大家義則氏(大阪大学 眼科講師)
角膜移植は、百年以上前から存在する治療方法です。現在でも献眼という形で提供される角膜が使用されていますが、角膜上皮幹細胞疲弊症(角膜輪部に存在する幹細胞が外傷や病気などで消失してしまい、角膜上皮を再生できなくなる眼疾患)に対する移植例では拒絶反応や感染症などが起きやすく、成績不良であることが知られています。そこで新たに誕生したのが「培養角膜上皮細胞シート」です。国内では2種類の自家培養製品(患者本人の角膜や口腔粘膜の細胞から角膜上皮細胞シートを作成する)が承認されており、保険診療でも利用可能です。大阪大学もこれらの製品の臨床試験を担当しており、自家移植なので拒絶反応もなく、角膜再建効果や視力改善でも高い有効性が確認されています。一方で、これらの治療は患者本人の細胞を使うため、細胞の品質にバラツキがあるのが課題でした。そこで大家氏らは、新たに「他家iPS細胞由来の角膜上皮細胞シート」の開発にも挑戦しています。他家細胞由来であれば、高品質の細胞だけを選別して細胞シートに加工できるからです。大阪大学で実施された臨床試験でも、腫瘍形成や拒絶反応などの重篤な有害事象は全例で確認されず、視力および角膜混濁も全例が改善しました。大家氏によると、治験届も提出済みであり、年内には治験が開始予定だということです。
閉会挨拶
岡野栄之氏(LINK-J 理事長)
最後にLINK理事長の岡野氏が閉会の挨拶に立ちました。岡野氏は、本シリーズを開始した当初は不安もあったこと、一方で毎回新たな若手研究者が登場しており、日本の再生医療領域における若手研究者の充実ぶりに喜んでいると述べた上で、本日登壇した3人の先生にあらためて感謝の言葉を述べました。その上で「日本の再生医療のトップランナーたちが本当に素晴らしい成果を生み出していることをうれしく思う」と述べ、登壇者の先生たちとその研究成果に賛辞を贈りました。
全てのイベントが終了した後は、登壇者および来場者をまじえてネットワーキングが行われました。会場には軽食や飲み物も用意され、和やかな雰囲気の中で歓談や名刺交換などが行われました。
参加頂いた皆様からは「3人の演者の先生がたのそれぞれの再生医療の臨床的有効性、問題点、現段階では適用困難など、大変理解しやすくお話しいただき、勉強になりました。」「講師の先生が、わかりやすく説明していただき非常に勉強になりました。また、社会実装も出来ており、素晴らしいと感じました。」「臨床研究の最前線を確認できてとても参考になった。」と多くの感想が寄せられました。 ご視聴・ご参加、誠にありがとうございました。