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イベントレポート

シンポジウム「がん医療のイノベーション」を開催(6/10)

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がん医療の現在と展望を語るシンポジウム「がん医療のイノベーション」が日本橋三井ホールで開催されました。会場には国立がん研究センター理事・研究所長の間野博行氏をはじめ、産学における日本のがん医療のエキスパートが集結し、それぞれの専門領域について講演を行いました。さらにイベント後半では宮田満氏の司会のもとでパネルディスカッションが行われ、「平成時代におけるがん医療の変革」「令和時代におけるがん医療の発展」などをテーマに活発な議論が行われました。

ステージ全員揃い客入り.jpg IMG_8485.JPG藤原先生挨拶.jpg

開会挨拶・主賓挨拶:岡野栄之
開会にあたり、LINK-Jの岡野理事長が開会挨拶に立ちました。本シンポジウムのテーマである「がん医療」は、免疫チェックポイント阻害剤、キメラ抗原受容体T細胞療法、がん遺伝子パネル検査など様々な革新的技術が立て続けに登場しています。岡野理事長は「日本人の2人に1人ががんに罹患する時代にあって、がん医療の進展に対する期待は高まっている」と指摘。満席となった会場を見渡し「会場いっぱいの皆様においでいただき心より御礼申し上げたい。がん医療の最前線の動向と展望に関する議論をお届けしたい」と述べました。

来賓挨拶:藤原康弘氏
続いて、今年4月に医薬品医療機器総合機構理事長に就任した藤原氏が来賓挨拶に立ち、同機構が今後の方向性として重視する「4つのF(Patient First/Access First/Safety First/Asia First)」について解説。また海外の状況について「各国の規制当局は科学の進歩をリアルタイムで取り込んでいる」と紹介すると共に「私たちも最先端の科学を審査及び安全性評価に採用してきたい」との決意を述べました。その上で「今日の参加者は科学の最先端に位置する関係者ばかり。ぜひ今後もご協力を頂きたい」と呼びかけました。

基調講演「プレシジョン・メディシン:世界と日本」間野博行氏
現在、国内では毎年約100万人が新たにがんと診断され、約38万人ががんで命を落としています。がん患者の増加は海外でも社会問題になっており、がんの克服は全地球的な喫緊の課題となっています。そこで間野氏が期待するのが、がんゲノム情報にもとづいて適切な治療を提供する「プレシジョン・メディシン(精密医療)」です。海外に目を向けると、バラク・オバマ前大統領の「プレシジョン・メディシン・イニシアチブ」宣言以来、米国は官民挙げてがんゲノム医療に邁進しており、欧州各国も大型予算を組んでゲノム研究を推進しています。

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間野博行氏(国立がん研究センター理事・研究所所長、がんゲノム情報管理センター長)

国内でも2年前より厚生労働省を中心として「来るべきがんゲノム医療」に向けた議論を開始。その結果「C-CAT(がんゲノム情報管理センター)」及び「がんゲノム医療中核拠点病院」が設立されました。「C-CAT」センター長を務める間野氏は、「日本は、国民皆保険制度の下で何十万人という単位でゲノム情報と臨床情報を集積できる点で非常に有利である」と指摘。センターに集積された情報は「国の宝」であり「適切な治療方針の提案」をはじめ、将来的には新たな標的遺伝子や生物学的指標、新薬開発にも利活用されるとの展望を示しました。

今年6月には「がん遺伝子パネル検査」2製品が保険診療で利用可能になるなど、いよいよ「がんゲノム医療」が本格的に始動しようとしています。「現在の状況は、日本のがん医療の歴史において最も大きな変革といっても差し支えない。今後、最初は様々なトラブルも予想されるが、何とかソフトランディングさせたい」と述べ、関係者の協力を求めました。

落谷先生.jpgのサムネイル画像講演「microRNA診断とエクソソーム治療の最前線」落谷孝広氏

血液や唾液などを用いる検査技術「リキッドバイオプシー」は、侵襲度の低さと検出精度の高さから今後のさらなる進展が期待される技術のひとつです。落合氏は、がん細胞が分泌する微粒子「エクソソーム」に着目し、中に含まれるmicroRNA(リボ核酸)を見ることで、がんの早期発見と層別化が可能であることを発見。様々ながん種で精度の検証を重ねてきました。その後、国立がん研究センター及び民間企業との共同研究を通じて検査キット開発に挑戦。同キットは今年4月に先駆け審査指定制度に認定され、実用化に向け着々と進行しています。「今後は大型集団での臨床研究を通じて有用性を見極めたい」と述べ、さらにエクソソームを標的とした治療応用にも期待を示しました。

西原先生.jpg講演「がんゲノム医療の今後の展開:遺伝子パネル検査から全エクソン解析へ」西原広史氏

西原氏が勤務する慶應義塾大学病院は、今年3月よりヒトのほぼ全ての遺伝子(約2万遺伝子)を1回で測定する「プレシジョン・エクソーム検査」を国内の医療機関として初めて導入しました。全額自己負担で約100万円。従来の遺伝子パネル検査とエクソーム検査の相違点について、「がん発現に重要な役割を担うドライバー遺伝子の変異検出能はほぼ変わらない」とした上で、遺伝子コピー数と遺伝子変異数の検出でエクソーム検査は圧倒的に有利だといいます。西原氏は「1万人がんゲノムデータベースプロジェクト」など、同大の挑戦を紹介し「ゲノム医療が普及すればがん医療が変わる」と指摘。データベース事業を通じた「がんゲノム医療の実現」に意欲を見せました。

藤井様.jpg講演「最先端の「見える化」が拓くプレシジョン・メディシン」藤井清孝氏

光学機器・フィルムメーカーの老舗として知られるコニカミノルタもまた「プレシジョン・メディシン」開発に積極的に挑戦する企業のひとつです。「最先端の見える化技術を融合して個別化医療を実現する」という同社のビジョンのもと、同社のフィルム技術を基盤に開発した「タンパク質の分子標識・定量解析技術」をはじめ、米国で遺伝子診断ビジネスのトップクラスの実績を持つAmbry Genetics社と創薬支援サービスで豊富な実績を持つInvicro社の2社の買収を通じて導入した遺伝子診断技術や画像診断技術を融合することで、分子レベルの解析を可能にし「見える化」の実現に向けて注力しています。藤井氏は、その「見える化」技術の一例として「バイオマーカー」の重要性を例示。バイオマーカーの活用は個別化医療の実現と臨床試験の効率化だけでなく、結果として数十兆円に上る国民医療費の改善も期待できると指摘しました。

坪井先生.jpg講演「肺がんに対する周術期免疫療法」坪井正博氏

肺がん周術期における薬物療法には「術前補助療法」と「術後補助療法」があります。坪井氏によると両者ともに利点・欠点はあるものの、免疫療法では「術前療法」が主流になっています。実際の術前免疫療法の成績を見ると、病理学的奏功率は免疫チェックポイント阻害剤単剤投与では2~4割、化学療法剤併用投与では5~8割にも達しています。坪井氏は「周術期における免疫療法は『治癒(キュア)』も期待できる」と高く評価。その一方で、がん周術期における補助免疫療法は「本来は治療が不要かもしれない患者に実施する治療」であるため、実施にあたっては「有害事象(特に免疫関連有害事象)に注意する」、「リスクとベネフィットを患者にきちんと示す」ことが大切だと指摘しました。

_DSC8332.jpg講演「iPS細胞でがん免疫を再生する」金子 新氏

がん免疫療法と人工多能性幹細胞(iPS細胞)――まるで重なる要素がないように思える2つの技術ですが、金子氏は「うまく組み合わせれば新たな治療につながる」と期待します。金子氏が研究する手法は「患者から採取したキラーT細胞を初期化してiPS細胞を作り、大量培養した後で再びキラーT細胞に分化誘導して患者の体内に注入する」ものです。新たに分化誘導されたキラーT細胞は、元のT細胞の抗原特異性を継承しており、さらにがん細胞に対する攻撃力も強化されるという利点を持ちます。金子氏によると、目下の課題は「製造コストと作成期間」。現在は、「他家細胞を用いたがん免疫治療の実用化」を進めており、コストと治療効果のバランス改善を実現させたいと意欲を見せました。

_DSC8361.jpg講演「遺伝子治療を用いたがん免疫療法への取り組み」木村正伸氏

日本のバイオ企業の草分け的存在であるタカラバイオは、現在主流の体外遺伝子治療と並び「腫瘍溶解ウイルス」に代表される「体内遺伝子治療」開発にも挑戦しています。腫瘍溶解ウイルスは「腫瘍細胞の内部では増殖するが、正常細胞の内部では増殖しない」という特徴を有すること、免疫チェックポイント阻害剤など他の治療との併用も期待できることから、今後の進展が期待される領域です。一方で体外遺伝子治療については、米国臨床腫瘍学会では「キメラ抗原受容体T細胞療法」に代表される体外遺伝子治療の報告が多くを占めており、木村氏は、2~3年後には様々な製品が登場するとの見方を示しました。

「パネルディスカッション」宮田 満氏(モデレーター)
続いて宮田満氏の司会のもと、間野氏、落谷氏、石井氏、藤井氏、坪井氏、弦巻氏、金子氏、木村氏の8名が登壇し、パネルディスカッションが開催されました。宮田氏が次々と提示する様々なテーマについて、登壇者による活発な意見交換が行われました。

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――「平成」時代のがん医療の最大の変革について

間野氏:最大の変革は「薬剤によるがん治療」だと思います。がんの本質的な原因分子の解明が進んだことで、標的分子に対応する「分子標的薬」が開発されました。その最初の薬剤が「イマチニブ」であり、これを契機に一気に開発が加速しました。もっとも「がんの治癒率が向上した」といっても、全体で見れば3割前後。研究者と製薬企業には残りの7割の患者さんにも有効な治療法を届ける責務があります。

坪井氏:「薬物療法の進歩」に尽きると思います。薬物療法の進歩によってがん患者さんの長期生存が可能になったことで、抗がん剤治療に対する考え方は「ライフスタイルによって治療方法を選ぶ時代」に変化しました。一方で、長期生存の達成によって既にがん治療を受けた患者さんが新しいがんを発症する「多発がん」も増加しています。これからの時代は「がん患者さんをどう支えるのか」が重要になるでしょう。

金子氏:「細胞療法/免疫療法」を巡る環境の変化に驚いています。免疫療法は、がん薬物治療の世界では長らく日陰の存在でした。分子標的薬の登場によって、その風潮はさらに強くなりました。しかしその後の二十数年間で免疫療法は大きく進展し、さらに様々な新技術の登場で素晴らしい治療成績を出せるようになりました。現在では、がん関連学会でも免疫療法に関する演題がたくさん並ぶ時代となっています。

――「令和」時代の新たながん医療のあり方について

落谷氏:今後のがん医療は「がんと共存する社会」を目指すことになるでしょう。そこで明らかにしたい機能が「自律神経」です。免疫機能は自律神経とリンクしており、そこから新しいアプローチを発見したいと考えています。さらに「予防」の観点でいえば「食事」も重要です。戦後日本でこれだけがん患者が増加した背景には「食生活の変化」も影響している筈です。今後は「食の科学」も重要になるでしょう。

石井氏:今後も「医療費」の問題は重要になります。「最適な治療が存在しているのに医療費の問題で受療できない」という事態を避けるためにも、医療費の抑制を真剣に考えていく必要があるでしょう。たとえばリアルワールドデータを活用して臨床試験の一部を代替するなどの方法も考えられます。個人情報保護の問題もあるが、データ利活用を通じて国民が利益を享受できるのであれば、その方向に動いてほしいと思います。

弦巻氏:現在のCAR-T細胞療法は固形がんには応用できません。最適な標的分子が見つからないのです。もし標的分子が正常細胞に少しでも発現していると、正常細胞までもが強力な攻撃を受けてしまいます。「キムリア」の場合はB細胞のみに発現する標的分子だったので(正常B細胞も攻撃を受けるが)開発に成功しました。しかし、いずれ固形がんを標的としたCAR-T細胞療法も登場するだろうと考えています。

藤井氏:「リキッドバイオプシー」に期待しています。血液検査で全がん種の診断ができると、がんの早期発見も転移再発の確認も可能になります。臓器によっては複数回の生検が難しいこともあり、血液検査で生検を代替できるようになれば、革命的だといえるでしょう。事実、海外ではリキッドバイオプシーに対する開発資金の流入が非常に活発です。「予防」を考える上では外せない技術となると思います。

木村氏:人工知能は無視できない存在になるでしょう。米国臨床腫瘍学会でも、不足する臨床医を人工知能で補充する挑戦が進んでいます。先月には「肺がんの画像診断で、人工知能が放射線科医よりも高い検出結果と低い誤検出率を達成した」というニュースが報じられました。今後は遺伝子診断を中心とした治療法も台頭してきますし、その診断結果を治療に反映させるには人工知能の活用が避けられません。

懇親会
イベント終了後は会場後方にて懇親会が行われ、引き続き多くの参加者を集めました。懇親会には登壇者も参加し、飲み物などを片手に一般参加者との間で活発なディスカッションが行われました。

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