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イベントレポート

「第36回 LINK-J ネットワーキング・ナイト WITH SUPPORTERS 細胞分析/選別技術 再生・細胞医療の産業化に向けた次の一手」を開催(9/10)

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9月10日、日本橋ライフサイエンスビル2階において、「第36回 LINK-J ネットワーキング・ナイト WITH SUPPORTERS 細胞分析/選別技術 再生・細胞医療の産業化に向けた次の一手」を開催しました。
ベンチャー・企業の立場で細胞分析・選別技術の提供を行っている三社にそれぞれ技術紹介をしていただき、技術を使う立場から製薬企業の方からもお話を伺いました。後半のパネルディスカッションでは、再生・細胞医療の産業化における課題や展望、オープンイノベーションに関して議論を行いました。

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同日の前半には、日本橋ラボ見学ツアーと題し、日立GLS「再生医療イノベーションセンター」、「Beyond BioLAB TOKYO」「三井のラボ&オフィスプレゼンテーションルーム」の3か所を巡る、見学会を希望者向けに開催し、約35名が参加いたしました。

【講演者】
勝田和一郎氏(シンクサイト株式会社 代表取締役)
進 照夫氏(株式会社 aceRNA Technologies 代表取締役)
山口秀人氏(Astellas Institute for Regenerative Medicine (AIRM)(アステラス製薬株式会社)テクニカルオペレーション バイスプレジデント)
早川智広氏(ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社 メディカルビジネスグループ 第2ビジネスユニット主任研究員)
【モデレーター】
大友純氏(株式会社日立製作所 ヘルスケアビジネスユニット主管技師 LINK-Jサポーター)

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大友純氏(株式会社日立製作所/LINK-Jサポーター)

冒頭、LINK-Jサポーターの大友純氏から、再生・細胞医療の「製造工程での主なプロセス」および「産業化の課題」の概要についてご説明頂きました。検体から目的の細胞を分離することから医療機関での保存や調整に至るまで、すべての工程で細胞分析や選別が重要な技術であること、より速く多くの情報量での分析や、高純度での選別が重要であることを述べられました。

細胞医薬のための機械学習駆動型ラベルフリーセルソーティング

勝田氏は、細胞医薬が抱える課題として、既存のマーカーによる分離方法には限界があることを取り上げ、今後さらに治療効果の高い細胞の選別が求められると述べました。この課題を解決するため、シンクサイト社ではGhost Cytometry(GC)を開発されています。

IMG_0198.JPG勝田和一郎氏(シンクサイト株式会社 代表取締役)

GCは、既存のフローサイトメーターやFACSと比べ、細胞の多次元情報を高速に取得し、機械学習を適用しながら細胞をソーティングします。細胞を蛍光色素で染色していない「ラベルフリー」の画像を、抗体等の表面マーカーを教師とするトレーニングセットとして学習させることで、ラベルフリー画像を判断します。これによって、細胞の生死判定をはじめ不溶性微粒子の混入判定、分化・未分化細胞、遺伝子導入の有無など、多様な細胞の判定が高精度で実現できることをご紹介頂きました。
「私たちは光や流体といったハードウェア技術、機械学習、さらにバイオテクノロジーの分野の知見を有機的に融合してトータルのソリューションを提供することに取り組んでいます。研究者が持つ課題を解決するため、テクノロジー寄りの知見を提供し、より高品質な細胞を特定して分離していく。あるいは細胞製造プロセスをより効率化するところに貢献していきたい」と意欲を述べられました。

RNA スイッチによる再生医療用細胞の革新的な選別技術の提供

進氏からは、aceRNA Technologies社の主要技術である「RNAスイッチ」という、人工的に合成したmRNAを利用し、細胞選別を行う技術内容についてご説明いただきました。

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進 照夫氏(株式会社 aceRNA Technologies 代表取締役)

RNAスイッチには、miRNA(マイクロRNA)の相補配列に加えてレポーター遺伝子や蛍光タンパク質のコード領域を組み込まれており、細胞内で活性のあるmiRNAを検出することができます。例えば、iPS細胞から心筋細胞を分化誘導した場合、心筋細胞に特異的に発現しているmiRNAと蛍光タンパク質遺伝子や自殺遺伝子を組み込んだRNAスイッチを分化誘導細胞に導入すれば、そのmiRNAが存在しない細胞は、蛍光タンパク質によって光らせることや、自殺誘導で死滅させることが出来るので、心筋細胞との選別が可能となります。さらに、抗生物質耐性遺伝子を一緒に導入することで、多様な細胞が混在している状態でも、ほぼ100%の効率で選別することができることを説明頂きました。
進氏は「RNAスイッチは、様々な種類のmiRNA配列を使うことで、抗体を使わずに多くの細胞選別に応用できます。この度、iPS細胞や心筋細胞の選別を行う「RNA SwitchTM」の試薬販売も始めました。この技術をより多くの人に広め、共同研究なども行っていきたい」と述べられました。

細胞の評価・品質管理へのラベルフリーイメージングの貢献

早川氏からは、同社のライフサイエンス事業で提供しているライブセルイメージングSI8000を用いた「細胞内顆粒の動きの評価」「細胞の遊走評価」技術についてご説明頂きました。

IMG_0223.JPG 早川智広氏(ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社 メディカルビジネスグループ 第2ビジネスユニット主任研究員)

細胞の品質管理や細胞治療法の発展によって、細胞を一定時間生きた状態で観察することが求められるようになり、それに伴い、細胞の「動き」を捉える解析装置であるライブセルイメージングの市場は非常に伸びています。SI8000を使うことで、培養中の細胞の動きを自動的に検出・解析し、その撮影速度の間隔調整や、ヒートマップによる微小な動きの定量評価を行えます。ATP合成阻害剤の濃度を変えることで、細胞内顆粒の速度に相関を示すことや、異なる培養条件によって間葉系幹細胞の挙動が変化することについて、詳しくご紹介いただきました。
早川氏は、「ラベルフリーイメージングによって、これまでの染色によるアーティファクトを避けて、高精度な細胞評価が出来ること。毒性評価や細胞の遊走アッセイなど、単純な生死判定ではない、セルヘルスの評価も可能になり、さらに時間を追って詳細に観察することができます。微小空間の細胞評価として、Organ-on-a-chipなどでも可能で、動画での観察が益々重要となってくる」と述べられました。

人工多能性幹細胞由来細胞医薬品の後期開発、商用化に向けての課題

アステラス製薬は、再生医療に関する研究拠点として、米国Ocata社および米国Universal Cells社を買収し、多能性幹細胞(PSC)由来のパイプラインを構築しています。数あるパイプラインの中でも網膜色素上皮細胞を用いた加齢黄斑変性(AMD)での治験は最もフェーズが進んでいる状況であることを示されました。

IMG_0238.JPG山口秀人氏(Astellas Institute for Regenerative Medicine (AIRM)(アステラス製薬株式会社)テクニカルオペレーション バイスプレジデント)

山口氏は、PSC由来他家細胞製品の商業化に向けた課題として、1.安全なPSCの確保、2.免疫拒絶反応の回避、3.目的細胞への効率的な分化方法の確立、4.各地域の規制に準拠したGMP細胞製造、5.効率的な物流システムの構築を挙げられました。同社では、ドナー選択から細胞バンキングまで、臨床・商用グレードのPSC株を樹立する能力を有しており、日米欧の各規制に適合したPSC株を既に樹立していること、ES細胞における15年以上のノウハウをiPS細胞に適用することで、ゲノム安定的なシードストックを所有してことを説明いただきました。GMP細胞製造に関しては、グローバルな細胞供給を可能にする体制を確立済みで、海外で作成した原料を日本で利用する際のCMC(Chemistry Manufacturing and Control)等を検討していることを述べられました。また、物流システムに関しては、細胞寿命が数日間維持できるようになったため、集約された場所から各病院へ供給することができるようになり、特に国内では、細胞の凍結融解の技術に期待があることを述べられました。

パネルディスカッション
再生・細胞医療の産業化に向けた 次の一手

大友:製品開発をする立場から、強みとなる技術をアピールして頂き、今後の課題や問題点について話して頂ければと思います。

勝田:既存の方法では採れなかったような細胞、不純物が採れるところが強みになります。課題の方は、どれぐらいの細胞が処理できるのかといったところです。例えば眼科領域、あるいは血液がん、白血病に対するCAR-Tの場合は細胞数が少ないので、1秒間に数千~数万レベルであれば対応できますが、固形がんに対するCAR-Tやオルガノイドを作っていく際には、より多くの細胞が必要になるため、次の技術のブレイクスルーや別の考え方が必要だと感じています。

:動物細胞にmRNAを導入する際、一般的な試薬を使い、通常50〜60%の成功率となるが、これを技術改良し、私たちは90%程度まで上げてきました。
ところが最近ではエレクトロポーレーションでRNAスイッチの導入が99.7%という報告がでているので、私たちはその技術を応用展開していく段階を考えています。

早川:サイエンス、テクノロジーがどんどん進化しているので、私たちも新しい方向をチェックしながら戦々恐々としています。自社でできることは限りがあるので、特にフローサイト、あるいはイメージングのビジネスの周辺領域にも展開せずにはいられないと感じています。今後、協業や買収など、常にアンテナを高くしていきたいです。

大友:製薬企業の製造現場では、どのように装置を選ばれているのでしょうか。

山口:こういった装置の用途は「創薬利用」と「QC」と「製造」という3つの段階に分かれます。一番ハードルが高いのは製造です。製造の場合は薬事要件が厳しいので、最終的に製法のバリデーションの段階で、性能だけでなく汚染がないかなど、良い装置があっても、作り込むにはかなりの投資が必要になります。
製造に持っていくのはかなりのハードルがあるため、最初の設計段階からそういうことを念頭に置いた開発が必要です。また、新しい装置が出てくるたびにプロセスを変えることになった場合、商用化後であれば、一部変更申請を行い、新しい製法で作ったものと後で作ったものが同じであることを認めてもらわなければいけません。データを取るだけでも時間がかかる上、場合によっては治験をやり直すリスクもあるので、新しい装置が出てきてもどこかの段階で諦めなければなりません。その過程に付き合ってもらえるサポート体制や提案をいただける会社でないと難しいですね。

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大友:オープンイノベーションによって多くの技術を融合してソリューションとして製薬企業等に収めることがこれから主流になると思いますが、これについて意見を聞かせてください。

早川:フローサイトのビジネスの起点はアメリカのアイサイトというベンチャーを買収したところから始まっています。その後、すべて自社で開発・生産に至っていますが、最初は自社にノウハウがなく、今のライフサイエンスのスピードを考えると自分たちだけでやれる部分は限られてきます。社内的な技術、リソースがあったとしてもライフサイエンス分野では、スタートアップを常に意識した考え方をしています。

勝田:大企業のブランド力と人的リソースとお金を、ベンチャーの技術やリソースと組み合わせることで、初めて新しい技術が出せると思っています。大企業と組むことで失うものもあるとは思いますが、得るものの方が今の段階では多いと感じています。積極的に大手との連携を模索していきたいです。一方、知財などは専門家と協力して守るところは守りながらやっていきたいです。

:昨年4月にできたばかりのベンチャーなので、できるだけ大手と共同研究を行い、共同研究協力金をいただく、要はスポンサーとタイアップしていきたいです。大手とMTA(Material Transfer Agreement)や共同研究協力書を結ぶ段階に入っていくと、知財のところは大変です。MTAの段階で出てきた知財は折半ねと言われると、それは違うでしょうという話も出てくる。そこらへんは守るべきは守って進めていきたいです。

山口:製薬会社のベンチャーとの付き合い方は創薬と私のようなCMC(Chemistry, Manufacturing and Control)に分かれるが、CMCが積極的にイノベーションをユーザーから起こすというより、むしろこういう技術があるけれど使えるか?こういったソリューションがあるよと提案するのが現状です。
バイオ医薬品の場合、生産系はほぼ大手で独占していますが、企業側からプロトタイプを出してもらい、プロセスに組み入れたり、共同研究をしたりする場合もあります。ただ、再生医療分野では今のところそういうケースがないので、全方位で話を伺って、他社のプロセスより競争優位になり、win-winの関係にすることができればと思います。いきなり製造プロセスで使うことは難しいため、最初は品質評価や品質管理で使う方が、導入のハードルが低いと思います。

会場からも積極的に質問が投げかけられ、登壇者からのご意見を頂きました。パネルディスカッションの後は10階のラウンジスペースにてネットワーキングを行いました。

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当日、約80名の方にご参加いただき、参加者からは「選別技術の最先端について知ることができて勉強になった」「最新の細胞選別技術について聞くことができ、一言で細胞分析と言っても各社新しい方法で技術を生み出しているところが興味深かった」「パネルディスカッションが非常に良かった」などのご意見をいただきました。ご参加いただいた皆様、ご登壇いただいた皆様、ありがとうございました。次回のネットワーキング・ナイトにも是非ご参加ください。

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