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イベントレポート

第4回メドテック・イノベーションシンポジウム「イノベーションで激変するがん診断の世界」(11/29)

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LINK-J主催「第4回メドテック・イノベーションシンポジウム」が、2021年11月29日(月)に開催されました。今回のテーマは「イノベーションで激変するがん診断の世界」。前回に引き続き、新型コロナウイルス感染症対策として、リアル会場とオンライン配信とのハイブリッド開催を行い、会場・オンラインの約500名の方にご参加を頂きました。当日は、がんのリスク判定や画像診断支援プログラムなど、新技術の開発に日々挑戦する企業の代表者が登壇し、事業の方向性・利用者像・社会実装に向けた課題をテーマに、意見交換を行いました。

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【大阪会場】主催者挨拶
澤 芳樹氏(LINK-J副理事長/大阪大学大学院医学系研究科 特任教授/大阪警察病院 院長)


開会に先立ち、LINK-J副理事長の澤氏が挨拶に立ちました。大阪会場からの参加となった澤氏は、コロナ禍を受けて、前回に引き続き2回続いてのオンライン併用開催について「これもイノベーションであり、多くの方に共有して頂くには優れた方法だと思う」と述べた上で、今回の「がん診断のテクノロジー開発」というテーマについて、来場者およびオンラインの視聴者に向けて「本日のディスカッションが、皆様の今後の研究開発、そして日本から世界に向けて新たなイノベーションが生まれる一助になることを願う」と呼びかけました。

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【東京会場】基調講演「がん集学的治療時代における外科医の役割」
北川雄光氏(慶應義塾大学医学部 外科学 教授)


二十世紀のがん治療では、腫瘍部の切除だけでなく、転移リスクのある周囲のリンパ節も郭清するのが標準術式でした。北川氏もこの方針を遵守し、がん治療に邁進してきました。しかし、その後に行われた数々のランダム化比較試験によって、積極的なリンパ節郭清は、合併症などの患者負担が増すだけで、生存率向上に寄与しないことが判明します。北川氏は当時について「とてもショックな報告だった」と振り返ります。その後、がんの外科治療は、なるべく機能を温存する、より身体的負担が小さい手術の時代に移行します。それを可能にしたのが、内視鏡の進歩、新規抗がん剤の登場、ロボット支援技術に代表される技術の進歩と、複数の診療科のスタッフが関与するチーム医療体制です。北川氏は、現在のがん治療は「ステージごとにきめ細やかな個別化医療を提供できる」と指摘。だからこそ、早期の発見が重要になると訴えます。

さらに北川氏は、がんを高精度で発見・診断する技術は、治療後の効果判定にも有用性が高いと期待します。たとえば、海外報告によると、術前化学放射線療法を受けた食道がん患者のうち、扁平上皮がん患者の半数は、術前治療によってがんが消失しました。北川氏は「術前治療で奏功すれば、負担の大きい外科治療を回避できる」と指摘。その一方で、現在の生検技術では治療後の残留腫瘍を見落とす確率が高く、内視鏡検査でも正確な病期判定は難しいことから、結局は術前治療の結果にかかわらず、患者の大半が外科治療を受けている実態があるといいます。北川氏は、血液や体液を用いるリキッドバイオプシーのように、非侵襲性で繰り返し検査可能な技術が洗練され、治療後の再発を高精度で予測可能になれば、患者に応じた多彩な治療が可能となり、そのとき外科医はがん治療における最後の砦になるだろうとの展望を示しました。

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【東京会場】講演1「がん診断におけるテクノロジーの重要性、深化、最新状況」
加藤容崇氏(慶應義塾大学医学部 腫瘍センターゲノム医療ユニット 特任助教/北斗病院腫瘍医学研究所)


血液や体液に含まれる、腫瘍細胞または腫瘍由来の物質を検出するリキッドバイオプシーは、生検と異なり侵襲性がほぼないことから、がんのリスク判定検査として、すでに自由診療領域でサービスが展開されています。この現状に対して、加藤氏は「がん検査の本来の目的は、高悪性度がんの予後の改善であり、早期発見だけを達成しても予後は改善しない」と疑問を呈します。事実、海外の研究報告によると、血液検査による大規模スクリーニングで卵巣がんの早期診断を達成しても、死亡率は減少せず、逆に便潜血検査による大規模スクリーニングでは、大腸がんの早期診断と死亡率低下の両方を達成していました。加藤氏は、大腸がんは腫瘍が小さければ、内視鏡検査時に同時切除可能であること、すなわち早期発見の時点で早期病変の確定診断技術と早期病変に対する治療技術の有無が治療技術の有無が結果を分けたと考察します。さらに、大腸がんスクリーニングの成功要因として、便検体を郵送できる検査体制、がん検診の重要性を啓発するナビゲーターの配置など、社会実装を同時進行させた点も大きいと指摘。「キラキラの新技術も大切だが、その技術を社会実装するためのイノベーションの登場も重要になる」と述べ、両者を同時に見据えた技術開発の重要性を訴えました。

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【東京会場】講演2「わずかな血液からのがん検出-血中マイクロRNA検出技術-」
橋本幸二氏(株式会社東芝 研究開発センター ナノ材料・フロンティア研究所 フロンティアリサーチラボラトリー)


画像診断・病理診断・腫瘍マーカーといった従来のがん検出技術は、感度/特異度の低さ、高額な検査費用、放射線被曝のリスク、検体採取時の身体的負担などの課題があり、ひとつの検査だけで簡便性・網羅性・高精度の要素全てを満たすことは難しいのが現状です。そこで橋本氏らが研究しているのが、血液中に含まれるがん細胞由来のマイクロRNA(リボ核酸)を検出することでがんの早期発見につなげる、リキッドバイオプシー技術です。マイクロRNAの検出技術は、競合他社も挑戦していますが、橋本氏らは、電気化学的信号の挙動変化を用いてマイクロRNAを定量化する、同社独自の技術を開発。さらに、臨床現場でも簡単に利用できるよう、使い捨ての検査用チップと小型の検査装置で検査可能なシステムの開発に挑戦しています。保存血清を用いた検討では、消化器がんなど13種類のがん全てにおいて、健常者の血清と比較してマイクロRNAの血中濃度の上昇が確認されました。橋本氏は「早期にがんを発見することで、さらに確定診断から低侵襲治療、がん治癒率の向上という流れを実現したい」とした上で、できる限り早期の実用化につなげていきたいとの将来展望を述べました。

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【大阪会場】講演3「尿中バイオマーカーを利用したがんの早期発見~名古屋大学発ベンチャー~」
水沼未雅氏(Craif株式会社COO(最高執行責任者))


水沼氏が最高執行責任者を務めるCraif株式会社は、尿中のバイオマーカーを利用してがんの早期発見に取り組む、名古屋大学発のベンチャー企業です。マイクロ流体ナノワイヤデバイスという工学部発の技術を用いて、尿中のマイクロRNAに着目した検査技術の開発に挑戦しています。事業化の目途も立っており、来年以降は、ステージ1でも卵巣がんのリスクがスクリーニング可能な尿検査サービスを、自由診療領域で展開する予定です。水沼氏は、がん早期診断の検体として尿に着目した理由として「気軽に外に出せる体液であり、手軽さという点では血液に対して圧倒的な強みがある」と指摘。事業展開にあたっては、そもそも検診受診率が低いという根本的な課題に対して「技術だけでなく、受検対象者が、適切な時期に適切ながん検診につながる制度作りが、技術開発と同様に――あるいはそれ以上に重要になる」との考察を示しました。さらに「ネクストステップを明確にして、確実に診断につなげることも重要だ」と述べ、ハイリスク判定を受けた受検者が、不安な気持ちを抱えて検査機関を渡り歩くといった事態を防ぐためにも、がんスクリーニング検査は、確実な診断に結びつける設計が不可欠だと訴えました。

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【東京会場】講演4「7000種類のタンパク質測定技術によるがんや循環器疾患リスクなどの血液サービスについて」
和賀 巌氏(フォーネスライフ株式会社CTO(チーフテクノロジーオフィサー))


フォーネスライフ株式会社は、血中タンパク質の測定技術とデータ解析技術の組み合わせによって、現在の健康状態および将来の疾患リスクの可視化と、そのリスク判定に基づく行動変容の促進を事業の柱として、2020年4月に設立されました。この事業の根幹を担うのが、膨大な量の血液ビッグデータです。和賀氏は「現代人の疾患の約8割は、ライフスタイルに起因する」と指摘。周囲に溢れるブルーライト、精製糖質や加工食品の摂取、孤立した生活などが、循環器疾患・認知症・発がんに強く影響することを証明するビッグデータの解析結果を例示しました。フォーネスライフは、受検者の血液を解析し、血液ビッグデータの解析結果と照合することで、現在の状態(耐糖能/肝脂肪/アルコールの影響/心肺持久力/内臓脂肪など)と将来の疾患予測(4年以内の心筋梗塞・脳卒中発症リスク/5年以内の肺がん発症リスク)を提供するサービスを展開しています。和賀氏は、日本人は世界有数の長寿を達成したにもかかわらず、短い睡眠時間と睡眠負債の蓄積、低い幸福度、孤独死の増加など、数々の課題が残されていると指摘。今後もデータ解析に基づく疾患リスクの解明を通じて、人々の健康を追究する仕事をしていきたいと述べました。

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【東京会場】講演5「医療画像診断AIの第一線」
島原佑基氏(エルピクセル株式会社 代表取締役)


島原氏が代表取締役を務めるエルピクセル株式会社は、医用画像解析ソフトウェアの開発販売などを展開する、東京大学発ベンチャーです。2年前には、日本初の深層学習を活用したプログラム医療機器の製造販売承認を取得しています。がん領域での技術開発にも取り組んでおり、昨年8月には、肺がん候補である肺結節影の候補域をハイライトする診断補助プログラム機器の製造販売承認を取得しました。島原氏は、同製品の開発コンセプトについて、日本放射線技術学会が定める難易度設定のうち、難易度3(一般医は見落とす可能性があるが、肺がん検診では見落としてほしくない)の読影に最適な設定としており、大量の画像を1枚当たり数十秒から1分で読影するがん検診の場面で、最大限の能力を発揮するといいます。事実、新モデルは感度90%および特異度87%を達成しており、ユーザーからも「見落としリスクの軽減につながっている」と高く評価されています。島原氏は、日本は画像診断装置の普及率で世界トップでありながら、読影の専門医が少なく、その乖離を埋める技術として、プログラム医療機器が期待されていると指摘。医療システムにおける人工知能の役割は、ますます高まるとの展望を示しました。

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【東京会場・大阪会場2元中継】パネルディスカッション
モデレーター:鈴木 寛氏東京大学公共政策大学院 教授/慶應義塾大学総合政策学部 政策・メディア研究科 教授)
パネリスト:加藤容崇氏、橋本幸二氏、水沼未雅氏、和賀 巌氏、島原佑基氏、澤 芳樹氏


最後に、鈴木寛氏の司会進行のもとで、これまでの登壇者が参加したパネルディスカッションが開催されました。

会場からの参加者および視聴者からの質問を受け付け、がんの早期検出精度が今後工場し、技術面だけでなく登壇者それぞれの立場から、現在の医療の課題、個人の健康に対して、どのような方向性や目標を求めるかなど、医療制度なども触れながら議論が展開されました。

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加藤氏は、簡便で検出精度の高い早期がん検診技術が構築されて、将来的に社会実装されれば、いまがん治療に投入されている多くの医療資源の再分配化が可能となるだろうとの予測を示します。その一方で、すでに高額な画像診断装置を導入している医療機関や、がん領域を中心に高額な新薬開発を基本戦略としている製薬業界は、こうした社会の変化に対応できるのか?また社会はこうした変化を受容するのか?といった疑問を提示しました。

これに対して澤氏は、がんの早期検出精度がさらに向上し、確実ながん早期診断が可能になれば、たとえ現在の医療制度に対して破壊的なインパクトをもたらすとしても、社会は必ず歓迎するだろうとの見解を述べました。またパネリストに対して、今後の事業展開の方向性(健康診断or医療行為)、検査コストの負担者(自由診療or保険診療)などについて、各社がどのような想定をしているのか?について質問しました。

橋本氏は、今後の事業の方向性について、いずれは体外診断薬としての実用化~さらには対策型がん検診における採用~を目指して、エビデンスを構築していきたいとの展望を述べました。その上で、現在開発中の技術(血中マイクロRNA)については、現時点ではまだ研究的な要素が大きく、体外診断薬として実用化されるだけのポテンシャルがあるかどうかは、今後の研究結果次第になるだろうとの考察も示しました。

水沼氏は、検査に伴うコスト負担の問題について、むしろ全てのがん検査を公的医療保険で行う必要はないだろうという考え方を示します。その上で、日本はがん保険など民間の医療保険の加入者が非常に多く、被保険者のがんの早期発見および早期治療による医療費削減は、保険会社にとっても大きな利益にもなることから、まずは保険会社と連携しながら、検査技術の普及に挑戦してみたいという考えを示しました。

和賀氏は、同社の血液ビッグデータ解析技術が、特に製薬業界から高く評価されたことを明かし、新薬開発などに対する応用性についても、今後の事業方針として想定していると述べました。さらに、自由診療(人間ドッグ)での疾患リスク診断についても、新技術に関心の高い層、将来の疾患リスクを知って生活習慣を変えたい層が一定数いることから、まずは彼らを対象に検診事業を展開していく考えであることも明かしました。

島原氏は、同社の人工知能の位置づけについて、医師の代わりではなく、医師が診療において必要とする人工知能であり、がん検診時における読影ミスを防ぐ、いわば医療安全性を担保する技術という考え方を示しました。その一方で、特に臨床現場に近い医師の中には、人工知能の導入に拒否感を示すケースもあることから、今後も人工知能に関する正しい情報を発信することで、意識の乖離を是正したいと述べました。

鈴木氏は、新たな医療技術の開発コストの回収および事業化を考える上で、保険収載を目指す道は、ハードルが非常に高いと指摘します。要求される技術の完成度は高く、しかも価格設定は相当に抑えられるからです。そこで、保険診療ではなく、価格設定の自由度が高い健康診断、または海外市場から攻めることも、資金調達を目指す上で必要になるとの考えを示しました。その上で、異なる領域の人々が医療の世界に参入し、そこから生まれた新技術が社会に実装されることで、また新たな市場が生まれる、エコシステムの誕生に期待を示しました。

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講演後には、東京会場と大阪会場にて、登壇者と参加者による名刺交換会が行われました。リアル会場にお越しいただいた方は、「シンポジウムのテーマも非常に関心がある内容で、対面での情報交換ができ、大変有意義な機会になったというご意見を頂きました。

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