女性研究者の割合は、年々緩やかな増加傾向にはあるものの、研究者に占める女性割合を他の国際比較でみると日本は低いことが指摘されています。女性研究者の活躍を紹介するためのイベント第二段として、今回は慶應義塾大学の3名の先生方にこれまでのキャリアや研究、ライフスタイルについてお話し頂きました。
当日は会場・オンライン合わせて88名の方にご参加頂きました。
LINK-JのYouTubeチャンネルでアーカイブ動画を公開しています。
オープニングとして慶應義塾大学の岡野教授(LINK-J理事長)に、ご挨拶いただき登壇される3名の先生方のこれまでのご経歴やプロフィールをご紹介いただきました。
「モノ・コトの定量化とバイオマーカ- 一心不乱な20年と諦めない心が縁を導く-ここまで進化した最新技術~簡単!たった10秒!脳波を測れば気持ちを計測できる」
慶應義塾大学 理工学部教授 満倉靖恵 先生
世界初リアルタイムに感情がわかる研究に20年
満倉:カメラを構えると赤、あるいは黄色いレクタングラが出てきて顔を認識できるようになっていますが、あの特許の一部をとりまして、顔認証の研究をしてきました。学位を取るのと両立しながら、彼氏の気持ちがわからず知りたい!と思ったことがきっかけで感情の研究を始め、人の感情をリアルタイムに計測する「感性アナライザ」を作りました。
ホルモンと脳波を組み合わせて、人の感情を読み取る
満倉:ストレスがかかると「コルチゾール」というホルモンが増えるのですが、どのくらい増えるのか、血液をモニタリングしながら、脳波と相関をとり数千人データを取るだけで18年かかりました。今から6年前に「感性アナライザ」ができたのですが、それにプラスして「不機嫌」がどのように伝わっているのか、という研究を続けています。
ネガティブな感情、怒っている人の近くにいると嫌な気持ちになります。「不機嫌はハラスメントなのか?」「そもそも感情は伝わるのか?」その伝播を可視化しようという試みです。コルチゾールの値を調べながら実験しています。今日16時54分の私のストレスは54%という数値がでていますが、定量化したものを表示させることができます。
女性の場合、黄体期に集中度合が38%落ち、黄体ホルモンが多い時期には8%のストレスが増えていることがわかりました。これを調べ予測することが、「働き方改革」につながるのではと考えています。
「女性研究者のワークライフエンゲージメント」
慶應義塾大学 医学部 眼科学教室 特任講師 稲垣絵海 先生
育児は利用できるシステムやサービスを使い倒す!
稲垣:ワーク(仕事)も大事ですが、ライフ(生活)も大事で、1択ではなく協調しながらキャリアを形成できるのではと思っています。
幼少期から理系の母の影響で女性科学者の生き方に関する本を読んできました。「ワーキングマザーのすすめ」を書かれた木戸道子先生は3人の子育てをしながら産婦人科医をされている方です。
博士課程を終えて、もっと研究したいということを坪田先生に伝えたところ「岡野先生を紹介するので、いまから電話するよ!」とご助言をいただき、日本学術振興会で研究費を取りながら、30過ぎてから研究をすることになりました。子育てした人がリスタートできるRPD 制度というシステムRPD 制度というシステムがあるので、育児をしながら研究したい方は是非活用してください。
育児は助けてくれるシステムやサービスなどはすべて使い倒しましょう。託児所やベビーシッター、学会の随行、帰りが間に合わないときは送迎タクシー(個人タクシー)を使うなど、本当に色々な方の助けを借りてきました。
自分が何をやりたいかを理解し優先度をつける
稲垣:研究は多能性幹細胞による細胞移植医療の眼科領域への応用研究に携わってきました。研究者人生の中で面白い経験だったのは、国際共同研究でAMED Interstellar Initiativeという事業です。このプロジェクトはアルゴリズムで選ばれた3名で研究を推敲するというもので、3か月でテーマを決めて3か月で実施します。女性のゲノム研究者との出会いがあり、非常にアクティビティの高い人で影響を受け、有意義な経験となりました。
Mansfield foundation PhRMA研究者プログラムでは、ワシントンに2週間ディスカッションをする機会があったのですが、女性研究者が非常に多く、驚きました。欧米のPhDの人は、アカデミアに固執しておらず様々な職業の人がいて人材の流動性が高く、フレキシビリティがあります。
海外の研究者と話す機会は多く、子育てをしながら、パートナーと協力しながら、キャリア形成と自分の人生を一緒につらぬくには協力が必要だと感じています。
女性に限らず、パートナーを含めて大事なことは、自分が何をやりたいかを理解して、優先順位をつけることだと思います。人生100年時代で、80くらいまで仕事ができることを考えると、遠回りしてもやりたいですね。
「出会いに支えられて」
慶應義塾大学 名誉教授 望月眞弓 先生
恵まれた出会いの連鎖で過ごしてきた
望月:薬学部卒業後に外資系の製薬会社に入りまして、試薬部の秘書の仕事に移ったのですが、学術的な仕事に戻りたいと伝えたところ、米国で採用された男性の部長さんが女性の社会進出を推してくれたことで、私は研究の面白さを再確認することができました。その後、大学病院で薬剤師をしながら研究するという仕事に移った際も、論文博士を取ることができたのは、薬剤部長さんが理解を示してくれたことが、とても大きかったです。
母校の医療薬学専攻の新設に伴い、同窓生やさまざまな職域の先輩後輩との意見交換や勉強会に参加していたことがきっかけで、恩師から声をかけていただき、厚生労働省の諸委員の仕事にも携わる機会をいただきました。 大学教員としては薬品情報学というのを専門にしていまして、その専門学会を作りました。学会の設立と教科書の作成が私にとって研究仲間を集める良い機会になったのです。
薬学教育の6年制への改革に参画し、慶應義塾大学の教員の方とつながりが生まれ、学部長や薬剤部長も経験させていただくことになりました。多くの先生方、大学の中心的な人物との出会いがプラスとなって仕事に繋がっており、これらは自分の実力というよりかは、いろいろな方のご支援のおかげでここにいます。
意思決定に関わる上位層の女性比率を30%以上にする
望月:日本学術会議の副会長をしている間に、いくつかの報告書を書きました。男女共同参画分科会の「性差研究に基づく科学技術・イノベーションの推進」という報告書があります。女性が一緒に研究することで研究や特許の質が高くなるといわれていますが、研究機関がどこに力を入れなければいけないかなどについて提言が書かれています。提言書の内容は、進んでいないという実態があります。
なぜ、進まないのか?その要因として、意思決定に関わる女性比率が低いことが挙げられます。マイノリティの人たちが30%を超えると声が届くという論文がありまして、意思決定のポジションの女性を3割以上にすることが重要ではないかと考えています。
なぜ少ないのか?学部生、大学生、教員の女性比率を調べてみると、理学・工学系は特に母数が少ないので、教授になる方はさらに少数になっています。研究者になってくれる人を増やさないといけないと思います。
日本はまだまだポジティブアクションが必要な時で、グッドプラクティスやロールモデルの見える化、アンコシャス・バイアスの解消しないことには進まない。これらは意思決定組織の本気度が問われるところです。そして女性自身がより積極的な取り組みが伴わないとブレイクスルーは実現できないと思っています。
パネルディスカッションでは主に参加者からの質問を受け付け、Q&Aセッションを行いました。下記のような質問が挙げられました。回答は動画をご覧ください。
「育児期間中のキャッチアップはどのようにしていましたか?」
「女性だけでなく男性にも体調の周期はありますか?」
「博士課程に進学するかどうか、いつ進路を決めましたか?」
「女性職員への対応方法について悩んでいます。出産育児の時期の女性に対してどのように接するのがよいでしょうか」
「子育てが終わってから博士課程を目指すことについて」など
参加者からは「⼥性研究者として、活躍されている先⽣方の⽣の声が聞けて勉強になりました。」「⾃分のキャリアについて⾒直すことが出来た」「研究の道に進むか迷っていたので、先⽣⽅のお話を聞いて勇気づけられました。」といったご意見やご感想を頂きました。
QAセッションでご質問いただいた皆様、懇親会にご参加いただいた皆様ありがとうございました。