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インタビュー・コラム

新たな治療法「デジタルセラピューティクス」に取り組む株式会社Save Medical

デジタル技術やIoTを用いて、疾病の治療や医療に介入する「デジタルセラピューティクス(DTx)」が注目されています。今回は、従来の医薬品や医療機器では難しい治療の適用が期待されるDTxの開発を軸として起業され、糖尿病管理指導用アプリの治験を進めている、株式会社Save Medicalの淺野正太郎氏にお話しをお伺いしました。

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淺野正太郎氏(Save Medical株式会社 代表取締役社長)

異業種からヘルスケアの世界へ

――ここ数年、デジタルセラピューティクス(DTx)はとても注目されていますね。

淺野 本当にここ12年ぐらいだと思います。それは何よりパイオニアであるCureApp社の功績だと思いますね。国内では初めてCureApp社によるニコチン依存症治療用アプリが、20208月に厚生労働省より製造販売承認(薬事承認)を受けましたので、デジタルヘルス製品が治療機器になるという前例ができ、可能性が広がりました。11月には保険償還の対象となり、DTxはこの1年で一気に注目度が高まりました。一方、製薬企業なども新規事業開発部署の新設が相次ぎ、国内外のスタートアップの買収や提携など、この12年で増加しているので、DTxが一つの方法論として認知されてきたと思います。

―――糖尿病アプリの開発についてお聞かせください。

淺野 現在、我々は大日本住友製薬と2型糖尿病管理指導用モバイルアプリの共同開発、および治験に取り組んでいます。糖尿病アプリは、海外ではかなり一般的に使われているもので、国内でも臨床研究で取り組まれている先生方がおります。大日本住友製薬さんは、糖尿病の治療にアプリ開発が重要な意味を持つと考えられており、我々の事業にご賛同いただきました。臨床開発では、アプリの治験に関して国内の前例がない中で、様々なケースに対して、対応方法を相談しながら進めており、ノウハウをためているところです。

――起業へのきっかけ、ヘルスケアに関わることになった経緯について教えてください。

淺野 グローバルな仕事を希望して、新卒として(株)リクルートに入社したのですが、当初はずっと飛び込み営業ばかりしていました。量をこなして結果を出すような仕事の仕方をたたき込まれました。

転機になったのは、2014年頃からシリコンバレーに駐在し、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の仕事に携わったことです。2014年は、デジタルヘルスがアメリカで花開くタイミングでもあり、投資額が跳ね上がった年でもありました。現地の投資担当の分野の一つに、デジタルヘルス領域があったことで、ITやソフトウエアがヘルスケアや人生の深いところにまで影響を及ぼすのを目の当たりにしまして、非常に面白い分野だと感じました。

毎日、何人もの起業家の方にお会いして、話をしていると向こう側に行きたくなってきました。自分の信じるものに対してチャレンジし、時間すべてをつぎ込んでいる方々を見ると、リスクはあるかもしれないけれど、仕事としてはそういうことをやってみたいと思うようになってきました。自分が起業家をやるとしたら、どういう事業分野や事業なのかと長らく考える時間がありました。

――それから、起業を意識されるようになった?

淺野 起業した方々の大変なところも見ていたので、あまり中途半端な気持ちでやれるものでもないだろうとも感じていました。帰国してからは、アメリカから何か日本に持ち込めるものはないか探しながら、事業開発の仕事を続けていたのですが、アメリカの医療のシステムと日本の医療のシステムがまったく異なるということに直面しまして。日本には日本の課題があるというのを実感したんですね。

そこから、ヘルスケアとかライフサイエンスをもう少し専門的に学びながら、今までのバックグラウンドが活かせるところはないかと考え、日本医療機器開発機構(JOMDD)にご縁あって入りました。医療機器は学べば学ぶほどすごく面白くて、今後の可能性もあり、国内の開発が得意な領域だと感じました。医療機器の開発に邁進し始めたのが、20178月頃のことです。その頃から、日本橋ライフサイエンスビルにも出入りさせて頂くようになりました。

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デジタルヘルスのシーズを形あるものに

―――JOMDDに入られてそこから起業されるに至ったきっかけについて教えてください。

淺野 当時は、デジタルセラピューティクス(DTx)と呼ばれていませんでしたが、最初の治療用アプリとして、2010年にWelldoc社が開発した糖尿病患者向けの治療補助アプリを参考にした日本版のアルゴリズムをJOMDD社が2014年頃に作っていたことがはじまりです。

今はコロナの影響で遠隔診療についてもテーマに挙げられるようになりましたが、日本では患者側の予防意識が海外に比べると低く、医療へのアクセスも良いので、医療ITや遠隔診療のようなものが浸透しにくい傾向にありました。また、医療機関側にITへ投資をするバジェットが元々あまりないという現状があり、デジタルヘルスと呼ばれるものが日本では生み出されにくいと考えられていました。また、2014年に作った糖尿病アプリのアルゴリズムに対しては事業化に資金面での課題があり、しばらくペンディング状態になっていました。

2017年頃でもまだ世間的な注目はなかったのですが、日本でもこれは必ず必要になるものだと感じ、このシーズを形にすることを決意しました。Save Medicalは、20185月にJOMDD100%子会社として設立しました。ゼロから立ち上げてきたのとは違うアプローチでスタートしていますが、その分最初からいろいろな協力者やパートナー企業など、高い発射台からスタートできたのです。

―――子会社としたのは、JOMDD社で事業を行うよりもインセンティブがあったということなのでしょうか。

淺野 治療用アプリは、治験をしなければ医療機器として認められないだろうということは当時から分かっていました。治験をするためは数億円規模の資金が必要なため、外部の株主を得ながら進めていく事業計画を立てたというのが大きな理由です。

―――シーズの段階から今はどのように変わってきていますか。

淺野 シーズとしてあったのはアルゴリズムとしてのロジックと、アプリ画面の基本的な機能について書かれた仕様書です。それを実際に動くものにするため、AndroidiOS上で動作するアプリケーションを作ることから始めました。また、医療機器として展開していくための文書管理や情報セキュリティーの管理(ISMS)に準拠する体制を組織として整えました。現在は、治験で使っていただいている段階なので、公開しているものはないのですが、先々上市に向けた準備は整えているところです。

―――現場のニーズはどのように取り入れられているのでしょうか。

淺野 糖尿病専門医の先生方や、かかりつけ医(糖尿病の非専門)の先生方に直接ヒアリングさせていただき、アプリの機能や操作性などが業務フローに合っているかなど1つずつ確認しています。オンラインでやりとりさせて頂く機会が多いのですが、コロナの影響もあり、違和感なく受け入れていただける感じになっています。

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未来を予測する最善の方法は、それを創りだすこと

―――起業された後の課題や苦労されている点などありますか。

淺野 研究開発のフェーズなので、資金調達のために事業計画をご説明させて頂き、投資家の方々を訪ねることが多く、今年に入ってからDTxという言葉が浸透してきたので、話しやすくなりましたが、「モバイルアプリなのに販売開始するまでにかなり時間がかかりますね」といった反応をされることがあります。そういった一つ一つの説明であったり、患者様、医療者にとって役に立つものであること、治験が成功した後の販売開始するまで準備が必要なことなど、ご理解いただくのに時間がかかるので、投資家の方と頻繁にお会いしたり、営業時代の時のように、数をこなすみたいな感じで日々、面談をたくさんしています。

「うまくいくわけない」といわれることもよくあるのですが、DTxに国内で取り組んでいる会社はまだ少なく、スタートアップでは3-4社くらいです。つまり、誰も正解を出していないものなので、これが正しいということは、自ら証明するしかないと思っています。「未来を予測する最善の方法は、それを創りだすことだ」というアラン・ケイの有名な言葉がありますが、今はそんなメンタリティーになってきています。

―――ステップアップしていくのはハードルがあると思うのですが。

淺野 日本は起業にチャレンジする人がアメリカとか中国に比べると少ないと思います。一方で、ベンチャー・キャピタル(VC)やコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)はかなり増えてきてはいるので、資金調達が決してしやすいわけではないですが、ある意味チャンスがあるともいえると思うのです。DTxのスタートアップはアメリカでは3040社ぐらいあり競争環境の違いがあるので、そういう意味で日本では注目を得やすいということもあります。

もう少しスタートアップに来る方が増え、人の流れができると大きなチャレンジもできますよね。LINK-Jさんに期待している部分でもあります。大企業とか士業の方とかコンサルティングの方とかいろいろな方がネットワークの中にいらっしゃるので、アクセスしやすさというか、「LINK-Jの会員です」という感じで声を掛けやすかったりするので、助かっている部分です。入会している者としては、そういうメリットがあります。

―――ありがとうございます。今後の展望やメッセージを頂けませんでしょうか。

淺野 DTxに関しては、海外と比べると国内では取り組まれてない疾病領域がたくさんありますので、糖尿病からスタートしてはいますが、他の疾病の開発もぜひ検討したいと思っています。

「一緒にチャレンジしたい」と言っていただける方がもっと増えてほしいと思っているので、ライフサイエンス関連企業の方をはじめ、エンジニアの方、事業開発の方、あるいは医療者とか臨床開発の方など、多様な方にもっと来ていただかないと、今のスピード感だと実現できることがすごく限られています。DTx領域のスタートアップは今、邁進しているところではありますが、今以上に注目をいただき、もしご興味いただけるのであればSave Medicalにジョインしていただけたらと思っています。ジョインいただかなくても何か一緒に事業開発ができたらと思いますので、是非お願いします。

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asano.jpg淺野 正太郎 Save Medical株式会社 代表取締役社長

(株)リクルートに新卒で入社後、海外事業開発に従事。シリコンバレー駐在ではVC拠点の立ち上げと国内外のデジタルヘルス投資/事業開発を担当。その後、(株)日本医療機器開発機構の事業開発ディレクターを経てSave Medicalを創業。一橋大学法学部卒。聖路加国際大学公衆衛生大学院在学中。

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