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インタビュー・コラム

iPS細胞から血小板作成、輸血医療の新たな時代を切り拓く 株式会社メガカリオン

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医療のインフラである輸血は、先進国では少子高齢化による献血不足、後進国では輸血システムの未整備などから、医療現場では輸血に依存しない新たな手法が求められていました。2011年に創業、世界で初めてiPS細胞から血小板を量産する技術を確立された株式会社メガカリオン代表取締役社長の赤松健一氏にお話をお伺いしました。

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赤松 健一 氏(株式会社メガカリオン代表取締役社長)

難易度の高い挑戦で輸血医療の下支えを

――まず、メガカリオンに参加された経緯について教えてください。

赤松 メガカリオンの創業は2011年9月で、私は創業メンバーではありません。創業メンバー4人のうち3人が研究者で、もう一人が多様な起業を手掛けてきたビジネスマンだった前社長の三輪玄二郎です。2013年までは資金調達に苦労していましたが、同年8月に産業革新機構の出資が決まり、メインの資金を出していただけることが決まりました。ただ、そのときの条件の一つが、医薬品開発ができる経験者を入れることで、色々なご縁があって私にオファーがきたのです。

私は以前、中外製薬に勤めており、様々な役職を経て最後はバイオ薬品の製造プロセスの開発に携わる研究所長を務め、引退して1年ほど経っていました。製薬会社一筋でやってきて、残りの人生を懸けるには非常にチャレンジングであると同時に、やりがいがあると感じて2013年7月から参加しました。

実際にメガカリオンの研究活動が始まったのは2013年からです。当時はまだ誰もいない状態で、研究員を2人、3人とリクルートしながら増やし現在に至っています。私は、入社当初からCOOとして業務執行オペレーションの責任役員として関わり、今も兼任で続けています。

――赤松さんのように大企業に勤めた後、ネクストステップとしてベンチャーへ進む方も増えていますが、モチベーションの原点は何でしょうか。

赤松 私が入った当初は何も揃っていない反面、何でも自由にできるところがありました。大企業は会議を通すなどステップが多く決定が遅いことがありますが、ベンチャーは即決しないと間に合いません。キャリアを超えて新たに取り組めるのは充実感があり、こうしたことに挑戦してみたい人にとっては、わくわく感があると思います。

――なぜ血小板に着目されたのですか。

赤松 創業メンバーである京都大学iPS 細胞研究所(CiRA)の江藤浩之先生が血小板に狙いを定めた一つは、他の血液製剤と比較しても、血小板の保存期間が短いということにあります。血小板には止血や出血予防の役割があり、例えば脳の血管が傷ついて出血すれば、あっという間に命にかかわります。あるいは様々な機能が麻痺する、後遺症が残るといったように、脳梗塞と同じような状態になります。ところが血小板の保存期間は、採血を含めわずか4日でストックができず、献血してもらって血小板製剤を作ったらすぐに出荷するという回転の速さが求められます。

加えて、献血する人の多くは60歳以下ですが、輸血を必要とするのはそれ以上の高齢者が大部分であり、日本は少子高齢化で献血率が落ちています。献血でまかなう輸血医療、特に血小板こそ献血以外に補う手段を持っていなければ、短期的には災害やパンデミック、中長期的には少子高齢化と、献血以外に打つ手がない状態になります。

血小板の産生は難易度が高く、しかしそれを理由にこの試みを止めてしまったら、緊急時に輸血を受けられず亡くなる方も出てくるでしょう。私たちが血小板に着目する根源的な理由は、献血や医療の下支えとなるためです。

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増殖、成熟の2段階で量産と長期保存を可能に

――iPS細胞から血小板を産生する技術についてお伺いします。

赤松 私たちは、江藤先生が中心となって発明された技術を元に、実用レベルの血小板の製造を目指しています。iPS細胞は様々な細胞に分化するという性質があります。通常、iPS細胞から血小板をつくる過程では、血球の元になる細胞に分化させた後、赤血球あるいは血小板に共通の前駆細胞にし、最後に血小板を作ります。つまりiPS細胞から徐々に分化させる必要があるのですが、多段階で時間がかかり、効率もよくありません。効率を上げるには、膨大な数のiPS細胞を培養しなければなりませんので、それでは大量生産や安定供給、治験を行うに足る血小板を作るのが困難です。

一方、江藤先生が発明された技術の優れた点は、造血前駆細胞にいくつかの遺伝子を入れることで、血小板の元になる巨核球の性質を持ったまま不死化できることです。この巨核球とは英語でmegakaryocyteといい、当社の社名の由来でもあります。私たちは、この巨核球前駆細胞株を樹立し、2段階で短期間に、しかも大量に血小板を作ることに成功しました。巨核球前駆細胞は、冷凍することで長期間保存が可能なためストックすることもできます。

――巨核球から血小板を作るには、どれくらいの時間がかかりますか。

赤松 1回輸血をするためには2,000~3,000億個の血小板が必要ですが、このような大量の血小板を作るには、巨核球を増やす必要があります。まずはiPS細胞から事前につくっておいた巨核球のセルラインを培養して大量に増やします。細胞培養を止めると、巨核球は一気に成熟して巨大化しますので、多核を持った細胞が断片化して血小板ができます。大きいほどたくさん血小板を作ることができますが、これが1週間以内に起こります。増やすステージと成熟させて血小板を放出するステージの2段階で供給することが可能です。

――御社独自の技術で作成された血小板にはどのような特徴がありますか。

赤松 私たちが作った血小板も、体内の血小板とほとんど同じものです。血小板をモディファイしているのではなく、その前の前駆細胞を作るところが固有の技術です。この血小板については、今後、ヒトに投与して安全性と有効性を確認しますが、現時点で調べた限りほぼ見分けがつかないヒトの血小板ができています。

あとは本来、血小板がもっている寿命をどのくらい延ばせるか。保存液というバッファの組成を改善していくことで、4日から1週間、あるいは10日に延ばせるのではないかと推測しています。今回の治験ではまだその処方を使うには至っていませんが、研究レベルでは成果が出ており、伸ばせると考えています。

――治験届の手続終了を今年4月26日に公表されました。いよいよ治験が始まりますね。

赤松 医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験届を提出後の30日レビューをクリアしましたので、治験開始に当たって国の薬事的な承認は得られました。現在、治験審査査委員会(IRB)の審査を受ける準備中で、今年中に京都大学医学部附属病院で治験をスタートさせる予定です。

今回の治験では、血小板減少症の患者さんを対象に行います。血小板輸血の際には通常HLA型の適合は必要ありません。しかし、繰り返し輸血を行った患者さんの一部には、「不応症」といってHLA型が違うと拒絶反応を起こす場合があります。私たちの製品は、日本人に最も多いHLA型の血小板なので、不応症の患者さんにも使えるのではないかと期待をもっています。ただ、より特徴を活かすのであればHLAがマッチした患者さんへの使用です。第2弾としてHLA分子をなくした血小板も開発していますので、将来的には不応症患者を含めすべての患者さんに使えることを目指します

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企業やパートナーと連携し、世界のニーズに応えたい

――事業を進められる中で苦労されたことを教えてください。

赤松 技術開発の先行者がいないため、私たち自身が技術を開拓しないといけない中で、最も難しかったのは治験を実施できる高品質な血小板を数多く作る、その製造技術です。加えて、できた血小板の品質や機能の評価も必要で、作りながらこれを回すのはとても大変で、苦労の大半はそこだったと思います。

また、ラボスケールで始まった研究当初、巨核球細胞単独で培養しても血小板は出ませんでした。別の細胞シートを敷いた上に巨核球細胞を載せると成熟した血小板が出ますが、それなしではできず大量製造という意味では大きなネックでした。2年ほど試行錯誤して、あるときブレークスルーが生まれて細胞シートなしでも血小板を出せるようになりました。

――今後の展開についてお聞かせください。

赤松 血小板の分化の過程でも述べましたが、赤血球と血小板とその大本は、巨核球の1段階前に両方に分かれる分化段階があります。私たちの技術は赤血球にも分化させられるので、技術の応用としては考えられます。

それから、血小板の中には様々な成長因子や組織の修復に働く因子が入っているので、それを濃縮して体に戻すと治療効果が高まる、多血小板血漿(PRP:Platelet Rich Plasma)療法が、日本でも自由診療で行われています。私たちの技術であれば一定の品質を持った血小板が作れますし、血小板の元となる巨核球も同様の能力を持つので、こうした需要に対して一つの製品として供給できるでしょう。確立した技術を活用して様々な用途が考えられますし、もしかしたらそちらの方がビジネスとしてはより早く展開できる可能性もあります。

――利用範囲が広がると共に、国内だけでなく、世界規模での課題解決が期待できますね。

赤松 世界の先進国は少子高齢化を迎えると日本と同じ状況になることが予想され、医療体制があまり整ってない国では献血システムも貧弱であるという現状があるので、両方のニーズに沿った展開が期待できます。当然、単独ではできないので、欧米や興味があるところとパートナーを組むなど、様々な連携が必要です。そのためにも、まずは日本で安心安全な血小板であることを示し、その先の展開へつなげていきたいと考えています。

ma_0001.jpg 赤松 健一 株式会社メガカリオン代表取締役社長 最高経営責任者兼最高執行責任者

1978年 岡山大学理学部生物学科卒業、1980年 同大学大学院院修士課程修了後、1980年〜2013年 中外製薬株式会社に勤務。同社ではCMC企画推進部副部長、CMC薬事部長、生物技術研究部長を歴任。1981年〜1984年 東海大学医学部病理学講座へ派遣(玉置憲一教授)細胞性免疫。2013年 株式会社メガカリオン取締役に就任。2019年より現職。
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