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イベントレポート

LINK-J×京都大学共催セミナー vol. 4  京都大学の研究と成果の活用~「in vitro HUMANOID」を基盤にした先端医療研究とその応用~を開催(4/14)

2025年4月14日(月)、LINK-Jは京都大学との共催セミナーの第4弾を日本橋ライフサイエンスビルディング201大会議室およびオンラインにて開催しました。
京都大学成長戦略本部統轄事業部イノベーション領域/京都大学大学院医学研究科「医学領域」産学連携推進機構の鈴木忍氏が、同大ではiPS細胞研究とともに幹細胞研究、オルガノイドを基盤にした研究にも取り組んでいることを紹介した後、3名の研究者が講演しました。当日は会場とオンラインを合わせて326人が聴講しました。

オープニング
高橋 俊一(LINK-J事務局長)
鈴木 忍 氏(京都大学大学院医学研究科「医学領域」産学連携推進機構)


講演 iPS細胞戦略:人工血小板製品の出口
江藤浩之氏(京都大学iPS細胞研究所副所長 臨床応用研究部門長・教授)


「今からちょうど200年前、全血輸血の成功が初めて報告されましたが、『他人からいただいた血液を治療に使う』というコンセプトは、その時以来、全く変わっていません」。江藤氏はそう切り出し、自らが取り組む人工血小板製品の研究開発を紹介しました。

人工血小板製品であれば、輸血だけでなく、難治性潰瘍や神経損傷の治療にも応用できる可能性があります。災害時や緊急時に血小板が不足した事態に備えることもできます。

江藤氏らは、血小板の型が非常にまれなためドナーの確保が困難な患者に対して、本人のiPS細胞から血小板を作って輸血をする技術を開発しました。

背景には次のような現状があります。

「血小板はHLA(ヒト白血球抗原)クラス1の他、40種類のHPA(ヒト血小板抗原)を発現しています。通常はこれらに関係なく輸血を施行できますが、血小板減少症の患者さんに繰り返し輸血をするケースなどで、まれに同種免疫反応(血小板輸血不応症)が起こることがあります。その場合、適合する型の血小板を持つ人を日本赤十字社の登録者から見つけてドナーとしています」

江藤氏のグループは、このHLAクラス1を欠失(ノックアウト)した血小板輸血法の開発をゴールに進めています。HLAをノックアウトした血小板は汎用性が高いと期待されています。

すでに血小板減少症に対する世界初のiPS細胞由来人工血小板輸血の臨床研究を2022年に論文発表。「(輸血の)新たなコンセプトを初めて示した」(江藤氏)ことになります。

とはいえ、製剤製法、製造最終品の安全性は確認されたものの、課題も明らかになり、「我々のシーズは未熟だった」と江藤氏。具体的には、「輸血後の血小板の循環能が、献血血小板に比べて劣る」「特定の患者にしか輸血できない」「製造効率が高くない」――などです。

 そこで、次世代の血小板製造技術を開発しています。方向性は大きく2つ。マスターセルである巨核球を細胞株化すること、血小板の品質を高めることです。「このシーズの出口の企業を探すタスクを持ってここに来た」と江藤氏は述べました。

血小板の質を改善する方法として開発しているのは、物理的な刺激を与える「乱流刺激血小板製造培養装置」です。「『風呂のかきまぜ棒』を想像してほしい」と江藤氏。製造のスケールアップに向けて攪拌翼の数と形状を変更した新規培養槽を開発中です。

江藤氏は、「最終目標は、安全で高品質な人工血小板を作り、様々な医療ニーズに応えることです。まだ道半ばですが、この技術が多くの患者さんの役に立つことを願っています」とまとめました。

講演:iPS細胞による次世代の循環器病治療の実現をめざして
升本 英利 氏(京都大学医学部附属病院心臓血管外科 特定教授) 


続いて登壇した升本氏は、重症心臓病を克服する再生医療の可能性について自身の研究を示しました。升本氏によると、現在、日本だけでなく世界的に心臓移植の需要と供給のバランスは大きく崩れており、多くの患者さんが適切な治療を受けられていません。このアンメットニーズを解決すべく、iPS細胞技術を用いた心臓再生医療に取り組んでいます。

中でも、単なる心筋細胞の移植ではなく、より複雑で機能的な心臓組織の再生を目指しています。「シャーレの底に張り付いた『頼りない細胞』を、どうやって医療に結びつけるかが、根源的な疑問でした」と述べました。

そこで考えたのが、ヒトの心臓に近い構造を持つ3次元の「オルガノイド」の作製です。そこには、「健康なiPS細胞から健康な心臓を作って患者さんに移植する」再生医療としての位置づけと、「病気の患者さんからiPS細胞、病気の組織を作ることで、ドラッグスクリーニングに用いる」新薬開発における用途という2つの方向性があるそうです。升本氏はどちらにも取り組んでいますが、今回は再生医療について紹介しました。

研究では、3つの重要なステップがあるそうです。①心筋だけでなく、多様な細胞を使って心臓を構成し、②実際の心臓組織に近い構造(血管網がある構造)を作り、③細胞や組織を実際の心臓に近いレベルに成熟させること、です。

升本氏は、未分化iPS細胞から作った様々な細胞をシート状にし、動的なトレーニングをすることで、血管網を持ち、機能的にも成熟した3次元の心臓組織(血管化マイクロ心臓組織)の作製に成功しています。トレーニングをすることで、組織の厚みが3~4倍になりました。

ラットの心筋梗塞モデルでの実験では、移植後に心機能が改善し、移植組織にヒトの血管が形成されていました(全血管の40%程度)。血管構造が血液灌流を受ける機能的な血管網であること、グラフトからホスト側に血管が伸びていることも確認したそうです。

心臓の機能を果たすには、ホスト側とグラフト側が電気的に一体化している必要もありますが、ブタに移植したオルガノイドがホストの心臓と電気的に結合し、適切に電気信号を伝導できることを示しました。さらに、電気生理学的に未成熟なiPS由来心筋細胞を成熟させる物理的なトレーニングとして、圧力負荷を開発しています。

将来的には「プラグイン心臓」というコンセプトで、病気の心臓に移植し、速やかに心臓の機能を拡張させるコンセプトの製品を目指しています。

講演:皮膚再生治療の現状と課題
森本 尚樹 氏(京都大学大学院医学研究科 形成外科学教授)
オンライン登壇 

 


 最後に森本氏がオンラインで登壇し、皮膚再生医療の現状と課題について講演しました。皮膚の構造のうち、表皮は表皮細胞が重層化したもの、皮下組織は主に脂肪組織が集まったもの。一方で真皮は線維芽細胞もありますがマトリクスが主体で、「再生が難しい組織」だと言います。

人体最大の器官である皮膚の欠損は生命維持に関わる問題で、全身熱傷、先天性巨大色素性母斑、慢性難治性潰瘍、乳房手術後の欠損など、皮膚再生のニーズは多岐にわたります。森本氏は「特に、糖尿病潰瘍に代表される慢性潰瘍はマーケットサイズが大きい」との見方を示しました。

現在の皮膚再生技術は、自家培養表皮、人工真皮、線維芽細胞成長因子など、様々な方法が開発されています。2023年に承認された新しい製品は、表皮細胞シートに自己の色素細胞(メラノサイト)を含有しており、白斑に使われています。

森本氏によると、皮膚再生分野では患者さんの自己組織を採取して培養する方法が確立されています。組織の採取も比較的容易です。ただし、「三次元組織としての真皮構築」は未だできていないと言います。

次に培養表皮を中心とした皮膚再生について解説しました。日本で販売されている培養表皮は10×8cmの製品で、キャリアシートに付着する薄い膜です。患者さんから採取した皮膚をもとに、3~4週間で20枚、最大で30~50枚を作ることができます。

ただし、「真皮がない肉芽、脂肪、筋膜上では、培養表皮はほぼ定着しないため、自家植皮を併用する必要があります」と森本氏。培養表皮の母床として、凍結保存同種皮膚による真皮構築が1990年代から行われてきました。しかし、現在では同種皮膚は免疫で拒絶されることが明らかになっており、真皮の再生はできていない」と小括しました。

森本氏らは、メラノーマ(悪性黒色腫)のリスクがある先天性巨大色素性母斑に対して、皮膚の表面を削って真皮を残し、培養表皮を移植する治療を行っています。ただ、真皮下層の細胞から悪性腫瘍が発生するリスクがあるため、高圧殺細胞装置で殺細胞処理を行っています。「細胞は死ぬがマトリクスは残る技術であり、真皮の構造を維持しつつ、悪性化リスクを低減できる可能性があります」(森本氏)。高圧処理を骨、軟骨、神経、血管などの自家組織の再利用にも拡大したいとしました。

また、同種および自家線維芽細胞を使って3次元培養をすることで、縫合できる程度のコラーゲンを作る技術を開発中だとしました。

イベント後のネットワーキングは非常に盛り上がりました。 皆様、登壇者をはじめとした多くの方とお話をされており、活発なネットワーキングが行われました。



参加頂いた皆様からは「京都大学の再⽣医療の現状を知られ、⾮常に勉強になりました。」「それぞれの先⽣⽅の取組の具体的な部分が聞けて参考になりました。」「アカデミアの先⽣⽅の最先端技術について、社会実装に向けた取り組みを知ることができて⼤変勉強になりました。」と多くの感想が寄せられました。


ご参加頂いた皆様、誠にありがとうございました。

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