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インタビュー・コラム

医療×バイオ×ITで 革新的な創薬・診断薬開発を支援する株式会社Revorf

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医療技術が進化する中で、未だ有効な治療法や早期診断が見つかっていない疾患があります。こうしたアンメット・メディカル・ニーズに対し、医師や研究者、IT技術者による専門家集団が、AIやバイオインフォマティクスを用い、診断薬の開発や創薬の支援、バイオ関連データ解析を手がけています。今回は、最先端のバイオインフォマティクス技術とメディカルの知識を活かし、製薬企業やアカデミアと連携した柔軟なソリューションを提供する株式会社Revorf代表の末田伸一氏にお話をお伺いしました。

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末田伸一氏(株式会社Revorf代表取締役)

――ご自身の経歴を含め、Revorfに参画された経緯について教えてください。

末田 私は長崎県・対馬で生まれ、壱岐や五島といった島を巡った後、中学、高校は長崎と福岡で過ごしました。その後、京都大学医学部を卒業して同大学病院で研修医を終え、腎臓内科医として6年間臨床に従事。その頃は研究の道に進むつもりで、臨床を経て京都大学iPS細胞研究所(CiRA)で腎臓の発生と再生医療の研究に取り組みました。そして、研究者2年目にバイオベンチャー創業に関わり、取締役に就任し心筋細胞の再生医療と創薬応用に携わっていたのです。

就任から2年後、私事でベンチャーを辞めたのを機に、臨床医に戻ろうと思っていました。ちょうどその頃、大学の同級生でRevorf創業メンバーの科学顧問・村川泰裕から、起業したいという相談がくるようになったのです。私も遺伝子について彼に聞きたいことがあり、互いに連絡を取り合うようになりました。それが2019年2月頃のことで、アドバイスしあう中で村川の人柄と発想の面白さに惹かれ、一緒にやりたいと決意しました。

――そして、2019年11月にRevorfを設立されました。社名の由来を教えてください。

末田 Revorfとは、レボリューション・オブ・オープンリーディングフレーム(Revolution of open reading frame)の略です。このオープンリーディングフレームとは、遺伝子の中でも特にタンパク質をコーディングしている領域のことです。

タンパク質は全部で約2万〜2万5000種あるといわれていますが、実は全ての機能が解明しているわけではなく、名前はついているものの作用がわからないものが半数あるとされています。その中で、疾患ごとに遺伝子の機能を細かく解析すれば、今まで薬がなかった疾患に対しても創薬の標的を見つけることができます。つまり、機能がわかっていない遺伝子として、これまで触れられてこなかったものを、きちんと見るシステムを作ることによって革命を起こそうという想いがこめられています。

――機能未知の遺伝子をどのように解析されますか?

末田 遺伝子発現データなどから疾患の特異性やパスウェイなどを見て遺伝子の機能を予測します。そのため、アルゴリズムを含むシステムを作るに至った技術にはタンパク質の解析は入っていません。ただ、弊社にはバイオや創薬に関わっていた人材がいるため、予測後のファンクショナル・アッセイまで行います。やみくもに2万以上の遺伝子をアッセイしても答えは出ないので、その中で効率よく絞り込むようにしています。

―村川先生の業績があって、その成果について理化学研究所から特許を提供されているのですか。

末田 厳密に言うと特許ではなく著作権です。オープンにしなくてもいい著作権で、それらを包括した形で理化学研究所から独占使用権を得ています。

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医療×バイオ×ITで多様な要望に応える

――御社は遺伝子診断、創薬支援、医療情報解析と事業内容が多岐にわたっています。基盤にある技術とこの3本柱の関係について教えてください。

末田 スタートはコア技術をベースにした事業展開でしたが、近年のテクノロジーの進化、特にIT分野での進化は目覚ましく、一つの技術で進むには限界があると感じていました。バイオとメディカルの世界で最も重要なのは、アウトカムを設定して問題を解くときに適用するアルゴリズムが、本当にその問題を解く手段なのか、一般化できる式になっているかです。AIは確かに優秀ですが、データにフィッティングするものしか作れません。その解釈にはバックグラウンドの知識が必要で、その厚みが企業価値の陳腐化を防ぐと考えております。

弊社最大の特徴は人材です。医学・バイオに精通し、高レベルでアルゴリズムを理解して自らモノが作れるほか、遺伝子の検出から診断薬や創薬標的を作ることもできるメンバーが揃っています。ディスカッションしながらこの我々の持つコア技術に当てはめましょうというプレゼンができること、そしてそれが事業としてできることが、私たちの大きな強みです。

多くの製薬企業はデータを持っていながら活用方法がわからない、そうした企業が抱える課題を解決したいと考えました。私たちはメディカルとバイオの視点からデータを採り、コンピュータサイエンスを使ってフィッティングするビジネスも展開できると思い、3つの柱を定めました。

――医療情報解析については、これまで多くの企業が取り組んできたものの結果につながっていません。そうした中でどのような戦略をお持ちですか。

末田 遺伝子を網羅的に解析し、ある疾患と結びつける方法は様々な企業で取り組んでいますが、なかなか臨床では使えない。それは当然です。大まかに見ても、ここに差がありそうだという数値でなければ、臨床上患者に適用するのは難しいと思います。優れたAIで精密に計算して出る小さな差、例えば患者に「あなたはこういった遺伝子差があるので胃がんになる確率が1.3倍高いですよ」と言っても、1000人に数人しか発症しない場合、それが1.3倍になったところでピンとこないし予防投与は絶対にできません。

一方、生活習慣病の中で明らかに遺伝子が関与していそうな疾患は、細分化していくと見つけられます。そのためには、メディカルの知識や生物学の深い知識が必須となります。

――データとデータの相関ではなく、サイエンティフィックな因果関係ということですか。

末田 それがスタートで、しっかりとした仮説の元で遺伝子解析を実施します。いまいくつかの疾患において、大手医療機器メーカーと協業の準備を進めているところです(2021年6月25日プレスリリース)。

企業ごとに創薬、診断薬、データの解析など様々な要望があり、そこに必要な能力も異なります。例えば創薬の共同研究でも解析だけでは受託になってしまうため、後々のロイヤリティなど、ビジネスとしての展開は難しいところがあります。そこで、解析した中から候補を出し、そこから創薬までを提案できるアセットを準備しています。

技術一つではなかなか形になりにくいものも、解析して検証する流れに活用されると途端に価値を生む技術は結構埋もれています。例えば、弊社はこの解析のプラットフォームを持っている、サンプルを入手する道もある。こんなテクノロジーがあったら発展できると考えたら、その技術を導入してモノまで作って提案するのが、私たちのビジネスモデルです。これはIT企業や解析企業とも一線を画すスタイルだと思います。

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ウエットとドライの両輪で、世界と戦う

――複数の大学と共同研究をされていらっしゃいますね。

末田 埼玉医科大学と東京大学、九州大学で、共同研究を進めています。それぞれ研究内容や使う手法も違いますが、九州大学ではエンハンサーRNAの情報を読み取る研究に特化して取り組んでいます。ドライだけでなく、ウエット寄りの共同研究も行いますので、ドライとウエットの両方に対応しています。

――海外を含めた競合状況やアライアンスについてはどう思われますか。

末田 アライアンスについては、弊社の注力領域である対象疾患を注力的に開発している企業と組む方法を考えています。そこで契約が取れれば一緒に組める入り口ができるので、その後は対話ベースで進められます。そのためにも海外展開については、できるだけ早くモデルとなるPoC(Proof of Concept) を取得したいと思っています。

海外の競合他社については、遺伝子解析を技術とする企業は多数ありますが、しっかりとしたバックグラウンドを持ち、遺伝子と解析とウエットの実験ができる企業は思ったよりも少ない印象です。同様に日本でもコンピュータサイエンスに加えて遺伝子の知識、ウエットでのサンプル整理など、全ての知識を持っている企業は少ないですね。

――メンバーの人数と構成を教えてください。

末田 常勤、非常勤を合わせて約10名で全員Ph.D.クラス。メディカルドクターは私を含めて3名で、メディカルドクターもエンジニアを兼ねています。加えて、埼玉医科大学リサーチパーク内にウエットラボも設置。ほとんどの遺伝子解析機器が揃っている上、大学内にあることが魅力で、都心からは遠いですが、ラボにいる4人はクラウドを活用しているため研究に支障はありません。

――現状の課題と今後の展開について、お聞かせください。

末田 どこのバイオベンチャーも苦労していると思いますが、難しいのは何をKPI(重要業績評価指標)に定めるかです。会社の責任として収益を上げ、ここ2年で複数社の契約、特にマイルストーン型の契約を取りにいく。開発も重要ですが、一番のKPIはそこに置いています。そして、来年以降に再度資金調達を行い、さらに種を広げる投資を進め、パイプラインが複数になったところで大きく投資を回収すること計画としています。

そのためにも人、モノ、金の全てにおいて世界と戦うには不足しています。資金があれば人材が集まり、そこからまたモノが生まれます。いまあるものが1カ月後には世界のどこかでより良い物が作られるリスクは常にあり、全てのリソースがまだまだ足りません。特にコンピュータに詳しく、バイオや医学を共通言語として話ができる人材はそういません。これまでは病院時代の後輩や共同研究先などに声をかけて事業を展開出来ておりましたが、この後のスケールが課題になると考えています。

――そうした中でどのようにRevorfをアピールしているのですか。

末田 一般的にベンチャーの場合、こんな技術を持っているから一緒にやりませんかという話になりがちですが、私たちは先方の課題に対して網羅的に話ができた上で、この技術が使えるのではないかという提案で差別化を図っています。本気で契約を取りにいくときは技術の話より、疾患に対する相手の視点を会話の中で汲み取って提案し、さらにディスカッションを深めていく。その結果、最初の提案と最後の契約内容が大きくずれることもあります。まだ会社としてのクレジットもない中で、いかに先方の要望にフィッティングさせられるかが、いまのステージですが"一人でも多くの病に苦しむ人を笑顔にしたい"念頭に進化していきたいと思います。

sueta.png末田 伸一 株式会社Revorf代表取締役

京都大学医学部医学科卒業後、京都大学病院で6年間腎臓内科医として実臨床・臨床研究に携わる。その後、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)にてiPS細胞由来腎細胞の研究に従事。Revorf参画前はベンチャー企業の取締役CEOも経験。2019年11月、株式会社Revorf創業。

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