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インタビュー・コラム

第3回 酵素の活性を見て早期のがんを発見する 国立国際医療研究センター推薦「コウソミル株式会社」

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医療機器、デジタルヘルス、ヘルスケアサービスなどの領域でビジネス化に挑戦する研究者とその事業化チームを応援する「LINK-Jアカデミア発メドテックピッチコンテスト」。アカデミア会員の推薦を受けて出場した各チームは、スキルアップセミナーとメンタリングを経て、2回(1次ピッチ審査およびDemo Day)のピッチに挑戦します。優勝チームには賞金百万円が授与されるほか、ベンチャーキャピタルまたはアクセラレーターと面会できる権利など、様々な特典も提供されます。本シリーズ(全6回)では、Demo Dayに出場した6チームの代表に、参加の動機、開発中のプロダクト、今後の展望などを聞きました。 ※ピッチコンテスト全体についてお知りになりたい方はこちら

シリーズ:アカデミア発メドテックピッチコンテスト Demo Day出場チームに話を聞く

   ・名古屋大学推薦「株式会社UBeing」
   ・聖マリアンナ医科大学推薦「聖マリアンナ医科大学」
   ・国立がん研究センター推薦「DELISPECT」
   ・神奈川県立保健福祉大学推薦「株式会社Redge」★審査員賞
   ・国立国際医療研究センター推薦「コウソミル株式会社」★準優勝
   ・東京大学推薦「株式会社HICKY」★優勝

第3回は、酵素解析技術を用いてがんの早期診断に挑む、「コウソミル株式会社」を紹介します。同社は現在、血液中の酵素活性を1分子のレベルで解析可能な技術を用いて、膵臓がんの早期発見を可能にするがん診断法の開発と、コンパニオン診断薬に利用可能なバイオマーカーの探索に挑戦しています。メドテックピッチコンテストでは、同社の挑戦は審査員にも高く評価され、見事準優勝に輝きました。今回は、代表取締役の鏡味優さんをはじめ、設立初期から活躍してきた3名のメンバーに話を聞きました。

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新留穏香 氏(左)、鏡味優 氏(中央)、坂本眞伍 氏(右)

たった1滴の血液から1分子レベルで酵素活性を検出

――まずは自己紹介からお願い致します。

鏡味 コウソミル株式会社で代表取締役を務める鏡味優です。坂本と一緒にコウソミルを起業しました。起業する前は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)や製薬企業の臨床開発部門などで働いていました。当初、坂本と役割分担をする中でビジネスの経験がある私が社外のヒアリングなど主に事業開発を担当することとなり、会社設立後は代表取締役になりました。

坂本 最高技術責任者を務める坂本眞伍です。コウソミルの中核技術である「1分子計測リキッドバイオプシー」の発明者である小松徹先生の下、大学学部生の頃からこの研究に従事する中でこの研究の社会実装を志しました。その後共同創業者として研究室の先輩である鏡味に声をかけ、この研究の実用化のためポスドクとして1年間の研究開発を実施した後、2022年の4月に鏡味と共同創業しました。技術開発を担当しています。

新留 最高科学責任者を務める新留穏香です。前職では、次世代バイオ医薬品の開発に挑戦する国内バイオベンチャーで研究員をしていました。入社当初は研究管理体制のマネジメントなどを担当していましたが、社内での仕事が多すぎて、今は多種多様な業務に携わらせていただいています。

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――「1分子計測リキッドバイオプシー」とは、どのような技術ですか?

鏡味 たった1滴の血液で、血液中の様々な酵素の活性を1分子のレベルで評価するという技術です。酵素は身体の中の化学反応を促進することで細胞の機能を維持する役割があります。セントラルドグマにおける最後の過程で生成されるタンパク質の機能の部分なので、疾患に一番近い情報源であり、他の指標、タンパク質の量やDNAとは別の角度から疾患をよく診断できるモダリティです。この「酵素の活性」を「1分子ずつ」見る世界初の技術を用いて、「血液1滴から疾患を診断する」技術の事業化に挑戦しています。
私たちの技術は、東京大学大学院薬学系研究科の小松徹先生による「酵素と反応すると光る物質」と、理化学研究所の渡邉力也先生による「血液中の酵素を1分子ずつ分けられるデバイス」という2つの技術のコラボレーションで誕生しました。両先生は、現在もアドバイザーとして参画して頂いています。

膵臓がん診断薬開発とバイオマーカー探索に挑戦

――現在は、主にどのような事業展開に挑戦されていますか。

鏡味 1分子計測リキッドバイオプシー技術を用いた、2つの事業開発に挑戦しています。1つは、血液中からがん特異的に活性が変化する酵素を見つけて、がんを早期に診断する診断法の開発です。現在は、膵臓がんを標的とした診断法の開発を進めています。もう1つは、製薬企業との共同研究で、治療薬で高い治療効果が得られた患者さんで特異的に活性化している酵素を探索する等のバイオマーカー探索研究です。将来的には、あらかじめ治療効果が期待できる患者さんの層別化に用いる、コンパニオン診断薬を目指しています。

――様々ながんの中から、なぜ膵臓がんを選択されたのでしょうか。

鏡味 膵臓がんは、全ての固形がんの中で早期発見が困難で最も予後の悪いがんだからです。また消化酵素を分泌する臓器のため酵素との関連性が深いことも一因です。他のがんは比較的診断技術が増えていることに比べ、膵臓がんはいまだ早期診断方法がありません。現在は造影CT/MRIや超音波内視鏡という胃や十二指腸などに挿入して膵臓の状態を超音波で確認する装置などで検査をしますが、いずれも侵襲性が高いのが難点です。そこで、まずは血液検査技術を用いて多くの方でスクリーニング検査を行い、精密検査が必要な人を層別化するのが、理想的だと考えています。

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従来の検査技術と異なりステージ1でも検出可能

――がんの早期発見を目指す技術は複数ありますが、コウソミルの技術の特徴は何ですか?

鏡味 便潜血検査や腫瘍マーカーなど従来の癌スクリーニング法は、癌以外の要因でも反応するので陽性と判定されても精密診断を受診しない人が多いことや、進行癌でないと反応しないなどの課題があります。近年では、より腫瘍特異的な検査として血液中を循環する腫瘍細胞由来の遊離DNAを検出する技術が盛んに開発されていますが、腫瘍のサイズが小さい早期のステージでは存在量が少なく、やはり検出は困難です。コウソミルの技術は、がん発生の初期段階から癌やその周辺で働く「酵素の活性」を高感度に検出するので、早期のステージでも検出が可能と考えています。

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直径数μmの穴が数十万個並んだマイクロデバイスへ希釈した血液を入れて酵素反応をみる

――技術開発だけでなく、事業化まで自分たちで挑戦しようと思われた理由は何でしょうか?

坂本 同じ研究室の出身でVC業界にいる先輩と、就職活動中のイベントで会ったのがきっかけでした。当時のわたしは、小松先生の下この研究を担当しており、事業化の可能性について相談したところ、起業の方法や技術の実用化に至るプロセスなど、様々なアドバイスをもらいました。その時から起業を意識し始め、まずはJST(科学技術振興機構)の「大学発新産業創出プログラム(START)」の支援下で、起業に向けた本格的な準備を開始しました。

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診断薬開発を通じて「辛い思いをする人をなくしたい」

――コウソミルの起源は坂本さんの挑戦なのですね。鏡味さん、新留さんはどのような経緯で参画したのでしょうか?

鏡味 STARTの採択と同時に、出身研究室の坂本・小松から「がんの診断薬を開発するので、一緒に挑戦しないか?」と連絡をもらいました。技術に高い成長可能性を感じたこと、当局や製薬企業での経験が活かせることから参画を決め、STARTでの研究開発・事業開発を経て、坂本と会社を立ち上げました。酵素の活性を見ることから、会社の名前は「コウソミル」としました。実はわたしは、以前に祖父をステージ4のがんで亡くすという経験をしました。当時はまだ何の知識もありませんでしたが、「どうしてこれほど悪化する前に発見出来ないのか?」と不思議でした。こうした経験もあり、がんの早期診断薬を開発する坂本さんの挑戦に、強い魅力を感じたことも一つのきっかけです。

新留 前職では、創薬系スタートアップで研究開発部門のリーダーをしていました。チームの皆が生産的に、且つやりがいを感じながら働いて成果を上げていくことの難しさを痛感し、色々と試行錯誤した経験を、立ち上がったばかりのコウソミルで活かしたいと思い、ジョインしました。また、わたしも、夫をがんで亡くすという経験をしました。レントゲン検査でがんが発見され、発見時にはステージ4まで進行していました。これだけ科学技術が発達した現代で、ステージ4になるまで発見できないという現実に、愕然としました。最先端のサイエンスによるがんの早期診断薬の実用化を通じて、1人でも多くの人が辛い思いを経験しないですむ社会を実現したいと思っています。

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手先が器用なパティシエを採用

――チーム作りで苦労した点などはありましたか。

鏡味 幸いにして最初のメンバーは確保できたのですが、そこから研究員を探すのに苦労しました。当初、デバイスの組み立て作業や酵素の基質の作成、測定作業などの実験は坂本が一人で行っていたため研究がなかなか進まず、研究員が必要と考え「理系出身者で実験に興味がある人」を中心に60人くらいに声をかけて探したのですが見つかりませんでした。

そこで「手先が器用な人」であることが重要と思い、妻の知り合い経由でパティシエの方がコロナ禍で職を探しているというので、会ってチームに入っていただきました。とても明るいムードメーカーかつ真面目で正確な実験ができる方だったので、とても助かりました。その後に徐々に研究員が増え、妻の人脈から新留も紹介してもらってチームに入ってくれたので、測定体制も改善され、組織も強固になりました。

――実際にコンテストに参加してみた、感想をお聞かせください。

鏡味 ピッチイベントの参加経験が少なかったため、懇意にしている国立国際医療研究センターの先生にご紹介いただいて参加し、とても勉強になりました。自分たちのピッチ資料を、投資家や起業経験者の目線で評価してもらえる機会は、まず滅多にありません。たとえば、これまでのピッチ資料では、挑戦中の2つの事業とも併記していたのですが、メンタリングでは「最もインパクトがあるのは膵臓がんの早期検出技術だから、そこに焦点を絞った方が良い」と助言を頂きました。そこで、Demo Dayでは「製薬企業との共同研究によるコンパニオン診断薬の開発」は思い切って割愛して、膵臓がんの診断薬の開発のみに絞り込みました。

最終ピッチ前は社員全員でスライドの内容を確認

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――最終ピッチの挑戦にあたって、他にも工夫されたことはありますか?

鏡味 1次ピッチ審査の時は、VC向けのプレゼン用に準備した資料を使用していましたが、メンタリングで講師から様々な指摘と気づきを受けて、内容を大きく修正しました。さらに最終ピッチ前は、坂本さんや新留さんはじめ、社員全員にスライドを見てもらい、意見を反映しました。プレゼン資料作りに詳しいメンバーに「%表記は、数字のみを拡大すると見栄えが良い」など、様々な助言をもらいました。

――そして最終ピッチでは見事に準優勝を獲得されました。ご感想をお聞かせください。

鏡味 最終ピッチ前の打ち合わせでは「賞金百万円を獲得して、皆でウマいものを喰いに行くぞ!」という雰囲気で、当然優勝を狙っていました。しかし、優勝チームのピッチを拝聴すると、やはり彼らのピッチは素晴らしい。ちなみに、賞金は「チーム全員で頑張った成果だから」ということで、忘年会の費用に充当しました(笑)。ピッチ終了後の懇親会ではVC関係者と話ができたり、最終選考の6チームの人たちとも仲良くなれたので参加して良かったと思っています。

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「研究者のキャリアの新たな選択肢を示したい」

――コウソミルとしての今後の展望について、お聞かせください。

新留 なるべく早く診断薬を世の中に出して、まずは1人でも助けられたらと思っています。また、スタートアップが成功した例が日本でそれほど多くないので、わたし達が事業に成功することで、今後たくさん生まれてくるスタートアップ企業にとって良いモデルになれたらと考えています。成功のためのノウハウなども惜しみなく社外にシェアし、日本のスタートアップエコシステムの活性化に貢献していきたいです。

坂本 膵臓がんの早期診断技術の実用化によって実際に多くの命が救われること。その成功によって、もともとは大学の研究室で開発していた技術が実用化され、社会実装されるという将来も実現できるということを、コウソミルの成功をもって証明したいですね。さらに、これから研究室に進む大学院生たちに対して、就職以外のキャリアとして、起業という新たな選択肢を示したいと考えています。

鏡味 膵臓がんの早期診断薬の事業開発については、最初は消費者向け市場を目指しますが、その後は薬事承認を取得した正式な検査キットとしての開発にも着手します。将来的には、米国市場にも進出したいです。米国では、ネットでがん診断キットを購入する消費者が多く、たとえばがん由来の遊離DNAを検出する便検査キットは、薬事承認を受け年1千億円以上の売上に成長しています。コウソミルは、膵臓がんを他のがんと同じように、早期発見できる治癒が可能なものに変えていきたいと思います。

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kagami.png鏡味 優 Ph.D.(コウソミル株式会社 代表取締役)

東京大学大学院薬学系研究科にて蛍光色素の開発研究に従事し、2016年に博士号取得。医薬品医療機器総合機構(PMDA)にて医薬品審査業務、ヤンセンファーマにて医薬品臨床開発薬事業務に従事。2021年より東京大学大学院薬学系研究科にて会社の設立に向けた事業開発に従事し、2022年4月にコウソミル株式会社創業。

sakamoto.png坂本 眞伍 Ph.D.(コウソミル株式会社 最高技術責任者)

東京大学薬学部に在学時から現在まで一貫して1分子計測リキッドバイオプシー技術の開発研究に従事。大学院在学時に、自身の研究テーマであった本技術の社会実装を決意する。2021年に博士課程卒業後、会社の設立に向けて技術開発を続け、2022年4月に代表の鏡味と共にコウソミル株式会社を創業。令和2年度 EDGE-NEXT発展編「アントレプレナーシップディベロップメント」最優秀賞、HAX Tokyo賞、メンター賞受賞。

Niidome.png新留 穏香 Ph.D.(コウソミル株式会社 最高科学責任者)

東京大学大学院薬学系研究科にてアルツハイマー病発症機構解明を目指した生化学的研究を行い、2012年に博士号取得。大阪大学蛋白質研究所にて学術振興会特別研究員、京都薬科大学にて非常勤講師を経た後、創薬ベンチャー企業(ミラバイオロジクス)の研究開発部門リーダーとして医薬品研究開発や組織改革等に従事。2022年6月にコウソミル株式会社に参画。

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