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インタビュー・コラム

第2回 CT画像の解析で「肉体年齢」の指標化に挑戦 聖マリアンナ医科大学推薦「肉体年齢測定サービス」

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医療機器、デジタルヘルス、ヘルスケアサービスなどの領域でビジネス化に挑戦する研究者とその事業化チームを応援する「LINK-Jアカデミア発メドテックピッチコンテスト」。アカデミア会員の推薦を受けて出場した各チームは、スキルアップセミナーとメンタリングを経て、2回(1次ピッチ審査およびDemo Day)のピッチに挑戦します。優勝チームには賞金百万円が授与されるほか、ベンチャーキャピタルまたはアクセラレーターと面会できる権利など、様々な特典も提供されます。本シリーズ(全6回)では、Demo Dayに出場した6チームの代表に、参加の動機、開発中のプロダクト、今後の展望などを聞きました。 ※ピッチコンテスト全体についてお知りになりたい方はこちら

シリーズ:アカデミア発メドテックピッチコンテスト Demo Day出場チームに話を聞く

   ・名古屋大学推薦「株式会社UBeing」
   ・聖マリアンナ医科大学推薦「聖マリアンナ医科大学」
   ・国立がん研究センター推薦「DELISPECT」
   ・神奈川県立保健福祉大学推薦「株式会社Redge」★審査員賞
   ・国立国際医療研究センター推薦「コウソミル株式会社」★準優勝
   ・東京大学推薦「株式会社HICKY」★優勝

第2回は、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院で、副院長兼診療部長(消化器内科)を務める松本伸行先生を紹介します。松本先生は、CT(コンピュータ断層撮影)画像から利用者の「肉体年齢」を自動解析するアルゴリズムの開発と、人間ドックを中心とした「肉体年齢」測定サービスのビジネス化に挑戦しています。まだ起業はしていませんが、リーダーを務める松本先生のほかに、ビジネスとデジタルデータの専門家それぞれ1名が事業化チームに参画しており、それぞれの専門分野で才能を発揮しています。

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松本伸行先生(聖マリアンナ医科大学 准教授)

医療・ビジネス・デジタルの専門家で事業化に挑戦

――まずは自己紹介からお願い致します。

松本 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院で副院長兼診療部長を務める松本伸行です。医師としての経験は30年以上に上りますが、起業家としての活動はまだ1年にもなりません。現在は、AIを用いた肉体年齢アルゴリズムの開発と、人間ドックでの肉体年齢測定サービスの事業化に挑戦しています。

久保 聖マリアンナ医科大学デジタルヘルス共創センターで、外部共創事業を担当している久保健一郎です。「医療2030」の運営も支援しております。三井物産株式会社ウェルネス事業本部に勤務する商社パーソンであり、聖マリアンナ医科大学には出向という形で参画しています。いまは松本先生の事業化チームの一員でもあります。

木村 聖マリアンナ医科大学医学科6年生の木村朱門です。現在は医療ブロックチェーン技術の会社に勤務しています。医学生ですが、ブロックチェーン技術やAI技術にも関心があって、二つをつなぐ専門家を目指して勉強しています。松本先生が挑戦する肉体年齢アルゴリズムの開発に、ブロックチェーン技術で貢献したいと考え、事業化チームに参加しました。

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木村朱門 氏(左)、久保健一郎 氏(右)

医師のインプレッションである肉体年齢を客観的指標に変える

――「肉体年齢」という言葉は聞き慣れないのですが、どのような概念なのでしょうか。

松本 肉体年齢とは、CT画像などを見たときに、医師が受けるインプレッション(印象値)としての身体の状態です。わたしも医師として、多くの検査画像を見てきた経験から、実年齢と肉体年齢は、人によって相当の乖離があると感じています。たとえば、同じ60歳でも若い頃の健康体を維持している人もいれば、60歳とは思えない状態の人もいます。ところが現代の医療制度は、実年齢のみによって設計されており、結果として高齢者医療の様々な場面において非効率が生じているのではないかと考えました。

――たしかに、現代の医療体制や福祉制度は、実年齢のみが判断の基準ですね。

松本 さらに肉体年齢などの、医師が検査画像から受け取る印象値の大半は、活用される機会がなく、所見欄にも記載されません。そこで、検査画像から肉体年齢を自動判定するアルゴリズムを用いて、肉体年齢の客観的評価が可能になれば、従来は切り捨てられてきた医師の印象値も、肉体年齢という医療データとして活用できると考えたのです。さらに、肉体年齢が客観的指標になれば、実年齢に対して肉体年齢が大きく進んだ患者さんに対する過剰医療など、医療の非効率という課題の解決も期待できます。

――アルゴリズム開発と同時に進める「肉体年齢測定サービス」についてもお聞かせください。

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松本 診断アルゴリズムの開発に成功したら、次に人間ドックの利用者を対象に「現在のあなたの肉体年齢はXX歳です」といった結果を提供できる、肉体年齢測定サービスを開始します。想定している利用者像は、人間ドックを定期的に利用している、経済的に余裕のある中高年層です。最初は体幹筋と肝臓の評価から始めて、将来的には全身の臓器および器官の肉体年齢を同時評価できるサービスを目指します。

もともとAI技術やデジタル技術の応用には関心があった

――なぜ臨床医である松本先生が、自身で事業化に挑戦する決心をされたのですか?

松本 聖マリアンナ医科大学の「医療人2030育成プロジェクト」(医療現場の各種課題からビジネス化を目指すプログラム)がきっかけとなっています。もともとAIやデジタル技術を用いた医療応用に関心がありましたので、「肉体年齢の画像評価」というアイデアをもって参加したところ、優勝をいただきました。そのことよって、わたしがそれまで医療画像を見て感じていたインプレッションを客観的に評価できる有用なデータとして活用できるのでは、と決心しました。

――久保さんから見て、先生の発表はどうでしたか?

久保 非常に面白いと感じました。「医療人2030」では30人から40人がアイデアを持ち寄って議論したり、審査したり、壁打ちをしたりしたのですが、中でも松本先生のアイデアはビジネスにできると直感しました。技術要素も含むので大学としても面白い。それで是非ご一緒させて頂きたいとお願いをしました。

木村 日頃から医療現場における課題を日々感じている中で、その課題をビジネスレベルに落とし込めるかどうかはまた別の話です。そこのブラッシュアップの精度は松本先生がピカイチで。アルゴリズムの先にあるサービスや、テック系プラスビジネスの広がりとしてとても惹かれました。

松本 優勝を機に運営事務局から新たに紹介されたのがLINK-Jの「アカデミア発メドテックピッチコンテスト」です。この時点では、まだ技術的な検証も完了しておらず、事業化チームも未結成でしたが、久保さんと木村さんが、仲間として立候補してくれたので、まさに自分の不足する箇所をサポートしてくれる人が来てくれて大変感謝しています。

厳しい場面に緊張もしたが「先に勉強できたと思えば」

――実際にコンテストに参加されてみた、ご感想をお聞かせください。

松本 スタートアップの世界に飛び込んでまだ半年程度のわたし達には、ビジネスとのつながりという視点では非常に学ぶところが多く、情報としても得るものが大きかったです。他のチームの方々とも仲良くなって、情報交換もさせて頂きました。研究者としてこれまで多くの学術大会に参加しましたが、学会とは会場の雰囲気が全く異なることにも驚きました。1次ピッチ審査でも、他のチームから「目指す方向性は同じですね」と声をかけて頂いたり、とてもフレンドリーなのが印象的でした。

――1次ピッチ審査では、他のチームに審査員から厳しい質問が飛ぶ場面もありましたね

松本 正直いって驚きました。出番を控えていたわたしは、完全に「俎板の鯉」状態です(笑)。しかし考えてみると、わたし達も資金調達の段階まで進めば、同じ質問を受ける可能性が高いと思うと、前もって勉強できたのは貴重な経験でした。審査員からも「骨格筋の評価だけでは印象に残りにくい」とか「検査後に利用者を行動変容に誘導する視点も大切だ」といったご指摘を頂き、とても参考になりました。

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最終審査まで残れたこと自体が「望外の喜び」

――残念ながらDemo Dayでは受賞はなりませんでした。結果についてはどうお考えですか?

松本 登壇前は優勝も狙っていましたが、いざ優勝チームのピッチを拝見すると、その素晴らしさと同時に「わたし達が勝てる筈がない」と痛感しました。考えてみると、参加チームの大半が既に事業化しているのに対して、わたし達はまだ事業化以前の段階です。それでも1次ピッチ審査を勝ち残れたことが、まさに「望外の喜び」であり、わたし達の想いと技術の必要性が評価された結果だと解釈しています。

――お二人は、今回のピッチコンテストにどのような印象を持たれましたか?

久保 これまでは投資側視点で検討することが多かったので、挑戦者として早期ステージのコンテストに参加できたのは、非常に良い経験でした。特に「短い時間に内容を凝縮して、かつ審査員にも刺さるピッチ」を行うためのスキルなどは、大変勉強になりました。松本先生も、当初は医師目線による発表という印象を拭えなかったのですが、次第に審査員の心をつかむピッチに変化していったと思います。

木村 1次ピッチとDemo Dayでは質問の方向性も変化しており、審査員の背景によって質問の方向性も内容も全く異なる印象を受けました。わたし達も、今後は資金調達をしながらプロトタイプの開発に挑戦しなくてはならず、VCがどういう視点でスタートアップを評価するのか学べたのは、貴重な経験でした。(「俎板の鯉」との話があったが)私から見ると、松本先生は常に堂々とされていた印象ですね。

肉体年齢で医療の様々な課題の解決にも貢献したい

――素晴らしいプロジェクトだと思いますが、現時点における課題があればお聞かせください。

久保 短期的な課題としては、肉体年齢測定サービスの利用者の確保があります。当初は人間ドックのオプション検査として、利用者に追加の検査料金(1項目につき3千円程度を想定)を負担してもらう予定です。1人でも多くの利用者を確保するには、たとえば既にオプション検査を提供している企業の関係者などにヒアリングをしながら、うまく需要にマッチさせていく過程が必要になると考えています。

――多くの人が自主的に利用するようになれば、それだけ多くの画像データが収集できますね。

松本 将来的には、肉体年齢測定が人間ドックの標準サービスとなって、飲み会の席などで「人間ドックで肉体年齢を測定してもらったら、あなたはもう67歳だといわれたよ!」とか「オレはまだ40代だぞ」と言い合えるような、誰もが知る指標になれば嬉しいですね。さらにそこから、限られた医療資源の有効活用とか、医療制度および福祉制度のあり方など、様々な課題の解決に肉体年齢が貢献できれば、素晴らしいと夢見ています。もしわたし達の挑戦にご賛同頂ける人がいたら、ぜひお声かけ下さい。

matsumoto_prof.png松本伸行 氏(聖マリアンナ医科大学 内科学(消化器内科)准教授)

1991年千葉大学医学部卒業。同大附属病院、水戸済生会総合病院などで臨床経験をつみ、国立がんセンター研究所、米国Mt. Sinai医科大学などで基礎研究に従事した後、2005年より聖マリアンナ医科大学消化器・肝臓内科勤務。2019年4月より聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院消化器内科部長、2022年4月より同副院長となる。臨床業務の傍ら、2021年より「未来の医療を作る"医療人2030"育成プロジェクト」に参加し、「肉体年齢測定サービス」を発案した。

kubo_02.png久保健一郎 氏(聖マリアンナ医科大学デジタルヘルス共創センターChief Healthcare Innovator、三井物産株式会社ウェルネス事業部)

1993年慶応大学経済学部卒、三井物産入社。総合商社にて様々な事業開発を担当、日本国内医療においては、三井記念病院・神戸国際フロンティアメディカルセンターに出向し病院経営・運営に従事。海外では、米国、ロシア、マレーシアに駐在し各国でヘルスケア事業開発を担当。2022年より聖マリアンナ医科大学に出向しDX領域を中心に産学の共創事開発を目指している。米Wharton School AMP修了。

kimura_02.png木村朱門 氏(聖マリアンナ医科大学医学部医学科6年)

同大学の研究室である医療情報応用技術分野にて医療AIについて学ぶ中で、株式会社hashPeakに入職し医療ブロックチェーンを探求。自らも分散型医療を目指す組織MedicalDAOを創設し参加者800人を擁する。その他、医療ブロックチェーン協会の代表理事も務める。2021年より「未来の医療を作る"医療人2030"育成プロジェクト」に参加し、優秀生として修了。同プログラムで出会った「肉体年齢測定サービス」を展開するHeliexにjoinし、医療ブロックチェーン領域を担う。

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