Menu

インタビュー・コラム

舌下免疫療法によるアレルギー治療薬を目指すHISHOH Biopharma

  • X
  • LINE
  • Facebook
  • Linked-In

花粉症を代表とするアレルギー性鼻炎の治療薬としては抗ヒスタミン薬などが一般的ですが、アレルゲン免疫療法という治療法があります。舌下免疫療法という舌の粘膜に投与する治療薬にアドオンする薬剤の臨床開発を進めるHISHOH Biopharma株式会社の櫻井直樹氏、取締役の大西道人氏、共同創業者でありアドバイザーも務める瀬尾亨氏の三名に、事業内容や今後の展望についてお伺いしました。

hsb_063.jpg

ネットワーキングを通じて出会った創業メンバー

――ご経歴と創業に至った経緯についてお伺いします。

櫻井 以前は田辺三菱製薬に所属しており、微生物、薬理や分子生物学のバックグラウンドがあります。疾患領域も免疫、代謝、癌から希少疾患に至るまで、またモダリティについても低分子からバイオロジクスまで幅広く経験しました。30年以上勤め上げる典型的な日本のサラリーマンではあったのですが、田辺三菱製薬の研究子会社で米国サンディエゴに立地するタナベリサーチラボラトリーズUSA(TRL)の社長兼CEOを務め、通算13年ほど米国にいました。

サンディエゴはご存知のようにバイオベンチャーが集積している場所ですので、優秀なサイエンティストやベンチャーの経営者が数人規模で事業をしているのを横目で見てきました。専門のコンサルタントやCRO、CMOを効率的に使いながら仕事をすれば、小さな組織でも研究開発ができるという感覚があったんですね。TRLは30人ほどの会社ではありましたが、米国ベンチャーのビジネスモデルを参考にして、癌の抗体治療医薬候補を米国で臨床試験にまで進展させることができました。

hsb_035.jpg

櫻井 直樹 氏(HISHOH Biopharma株式会社 代表取締役社長/Founder and CEO)

大西 私も櫻井と似ているのですが、製薬企業に長年勤めており、その後、ローカスト・ウォークでライセンシングのサポートに携わっていました。その時の顧客は主に欧米のバイオテック企業だったことから、彼らのやり方を間近で見る機会が豊富にありました。そういった環境から刺激を受けていたこともあり、自分でも日本で「何かできるのではないか」と思い立ったのが始まりです。

hsb_043.jpg

大西 道人 氏(取締役/ Chief Business Officer)

――瀬尾さんとお二人の出会いについて教えてください。

櫻井 米国から日本に帰任する際に、たまたま瀬尾さんから今回の話を持ち掛けられて。米国の小規模組織で現地社員と一緒にスピーディーに仕事を遂行できた経験もありましたし、第一三共さんがずっと研究開発されてきたシードということで、知財に関しても十分に確保されており、化合物の作り込みも完了していることから、非常に確度が高い化合物であると直感し、創業を決意しました。私がFounderで、瀬尾さんがCo-Founder兼アドバイザーという形をとっています。

瀬尾 最初に会ったのはどこだったか...、酒を飲んだことは覚えています(笑)。HISHOH Biopharmaでは、海外戦略や事業拡大のところを担っています。

大西 事業開発をメインに、ライセンシングや資金調達活動をしています。櫻井さんとはBio Japanの後の有志の会合を通じて出会いました。

hsb_059.jpg

瀬尾 亨 氏(Co-founder and Advisor)

スギ花粉の舌下免疫療法を増強する化合物の開発

――開発中の薬剤について教えてください。

櫻井 特にスギ花粉の舌下免疫療法を増強させる薬剤の開発を目指しています。舌下免疫療法というのは、アレルギー疾患を治療するための免疫療法の一種で、舌下粘膜を通して抗原を投与し、免疫寛容を促す治療法です。スギの花粉から抽出された抗原を毎日1錠ずつ舌下に投与します。皮下注射でも実施される場合もありますが、侵襲性があり、アナフィラキシーショックなどの副作用が出やすいという課題があります。舌下免疫療法の場合は、非常に副作用が少ないことと、侵襲性が低く利便性が高いことから徐々に主流になってきています。ただ、治療ガイドライン(WHO見解書)では3年から5年という長期投与を推奨しているため、治療を受ける側は困難を伴います。

――通常の舌下免疫療法ではかなり長い期間の投与が必要とされているわけですね。

櫻井 おそらく現在、舌下免疫療法を試みているアレルギー性鼻炎の患者さんは全体の1~2割くらいだと思いますが、3~5年治療を受けた後でも反応しない場合もあります。ただし、完治が可能という非常に大きな利点もあり、これは抗ヒスタミン薬などの対症療法とは違います。
そこで、我々は、コンビネーションセラピーのひとつとして舌下免疫療法の効果を飛躍的に増強する化合物(HSO-001)の開発に取り組んでおり、これによって短期間でかつ強く治療効果が表れるようにすることを目指しています。

――アレルギー症状には様々なものがありますが、スギ花粉以外についてはどうでしょうか。

櫻井 アレルギー性鼻炎というのは地域ごとに異なるアレルゲンがあります。米国でいえば、牧草、セイダカアワダチソウ、ヨーロッパに行くとシラカバなど。家ダニに関してはほぼ全世界どこでもあるため、市場は大きいです。喘息やアトピー性皮膚炎なども、ダニ抗原に対してアレルギー反応を起こす患者さんが多く、舌下免疫療法の効果を調べる臨床試験がいくつか行われています。一定の効果を認めてられていますが、決定的に効くという結論までは出ていません。このようなケースでも、HSO-001の併用によって劇的に薬効を高めることができると考えています。舌下免疫療法は原因抗原が明確でないと使えないのですが、逆に言えば、抗原が判明している場合は、アレルギーだけなく自己免疫疾患にも応用できる可能性があります。

――現状ではどのフェーズに進まれていますか。

櫻井 これから前臨床試験(GLP)に入る段階で、安全性試験に必要な原薬製造を開始しています。2024年の早い時期に第Ⅰ相臨床試験を開始したいと考えています。第Ⅰ相試験で我々が着目しているのは、安全性の確認とともに血中の特定のバイオマーカーを測定し、舌下免疫療法がきちんと働いているかどうかを確認することです。効果については最終的なアウトカムとしてのスコアがあるのですが、バイオマーカーの上昇が確認できれば、有望な化合物として認知されると考えています。

hsb_033.jpg

事業化への困難は人脈のアドバイスで乗り切る

――創業から現在までに苦労された点などはありましたか。

櫻井 今のところ順調にきていると思います。まだ創業から2年も経っていないような状況ですが、GLPを終えて臨床試験に入るという道筋がはっきりと見えています。

大西 舌下免疫療法では血中に化合物が移行する必要がなく、作用部位は口腔粘膜の免疫細胞であり、安全性試験をしようとしても血中濃度が上がらず、毒性が検出されないという指摘などもありましたが、外部のアドバイザーから的確なアドバイスを頂くことで、対処することができています。

――アドバイザーというのはどのような方になりますか。

櫻井 舌下免疫療法の日本での第一人者である先生をはじめ、臨床薬理や安全性のエキスパートの方々、あるいはレギュラトリーや規制当局との対応、製造部門ではCMCでの経験が非常に豊富な方々にアドバイス頂いています。

大西 優秀なアドバイザーに恵まれたというのは、櫻井の人望、人徳のたまものだと思います。今は5名程度にご支援頂いております。

瀬尾 創薬事業を進める際に起こる課題はケース・バイ・ケースで、その部分は独自のノウハウを持っていて、櫻井さんは人材の見極めや判断ができるので、思った以上に事業が順調に進んでいるのだと思います。

――今後の課題についてはどうお考えでしょうか。

櫻井 臨床試験に入ると資金や人などリソースが必要になりますので、資金調達活動を活発化させる予定です。国内だけでなく、欧米のVCにもコンタクトしながら進めていきたいと考えています。チームビルディングについても、臨床試験をプロジェクトマネジメントできるような方を採用したいと考えています。事業の方は、中国の会社と組んでダニのアレルギー薬を共同開発することなども念頭に置いています。アトピー性皮膚炎や喘息なども視野に入れながら、海外で臨床試験を開始するような計画を立てています。

hsb_034.jpg

――将来への展望や抱負についてお伺いします。

櫻井 「アレルギーのない世界」を目指したいですね。これまで、免疫の治療薬として抗体医薬やキナーゼの阻害薬などがありますが、種類によっては副作用が強く出るなど、課題があります。舌下免疫療法は、アレルギー治療のハードルを低くする一つの方法で、今までとは全く異なる手軽さや安全性によって、一つのモダリティとして確立されていくでしょう。

治療だけでなく、予防にも使える可能性があります。例えば成長期のお子さんがアレルギーを発症するケースは非常に多いのですが、例えば発症前に対処することで小児性喘息やアトピーなどを防げる可能性もゼロではないと思います。

――LINK-Jへの期待についてコメントお願いします。

櫻井 LINK-Jに期待しているのは人とのネットワークの部分です。今の仕事は、ほぼネットワークの中だけでやっているようなものです。例えば、スタートアップの場合、MBAでビジネスのやり方を学んでから起業をスタートする方法もあるとは思いますが、勉学の価値というだけでなく、その学びの場所へ色々な人が集まってネットワークが広がることで、「ビジネスチャンスが増える」という方が重要だと思います。米国でも意外にベタな知り合いのネットワークの中でビジネス構築していたりしているので、今後もLINK-Jさんの懇親会には顔を出して、より人脈を広げていきたいと思います。

sakurai.png櫻井 直樹 Ph.D, HISHOH Biopharma株式会社 代表取締役社長/Founder and CEO
Tanabe Research Laboratories USAの社長兼CEO(2011-2020年)として抗体免疫疾患薬、抗がん抗体薬物複合体などバイオロジクス医薬の研究開発を推進、プロジェクトを米国での臨床試験に進めた。また、田辺三菱製薬にて分子生物、薬理、微生物、標的探索、天然物化学等の研究に従事、オープンイノベーションを軸とした国内外の産学連携や戦略的共同研究にも携わる。京都大学卒(学士・修士・博士)。2021年4月にHISHOH Biopharmaを創業。

oonishi.png大西 道人 M.S., M.B.A. HISHOH Biopharma株式会社 取締役/ Chief Business Officer
神戸大学大学院修了。大正製薬で、循環、整形外科、糖尿病薬などの創薬/開発薬理研究に従事し、その後医薬事業企画部および渉外部で医薬品導入、イスラエルバイオテク企業の探索、バイオ医薬品参入戦略やオープンイノベーション戦略の立案と推進に貢献。2016年より、Locust Walkにおいて、医薬品・再生医療等製品のライセンシングのサポートを行い、多くのディールに貢献した。HISHOH Biopharmaの設立から、Business Developmentに従事している。

seo.png瀬尾 亨 Ph.D., E.M.B.A. HISHOH Biopharma株式会社 Co-founder and Advisor
米国ウェイクフォーレスト大学医学部で博士号取得後、コロンビア大学医学部小児科准教授として教育に従事。2006 年以降は GSK 社、メルク社、大正製薬にて研究開発や事業開発に従事し、2015 年より Pfizer Inc. にてExternal Science&Innovation の日本統括部長、 Worldwide Research & Developmentアジア統括部長を歴任。またエンジェル投資家、パラレルアントレプレナーとしてベンチャー企業支援やエコシステム構築に携わる一方、国内外企業のコンサルタントやバイオベンチャーアドバイザーなどを手掛ける。

pagetop