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インタビュー・コラム

歯髄幹細胞の特徴を生かした再生医療事業を推進する キッズウェル・バイオ株式会社

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キッズウェル・バイオ株式会社は、乳歯由来の歯髄幹細胞(SHED Stem cells from Human Exfoliated Deciduous teeth)を用いて、難病治療に挑戦する、創薬バイオベンチャーです。北海道大学から誕生したバイオ企業を前身としており、現在は、バイオシミラー事業と再生医療事業を二本柱に、事業展開しています。同社が挑戦する再生医療とは、どのようなものなのか。代表取締役社長の紅林伸也氏と研究本部長の三谷泰之氏にお話をお伺いしました。(インタビュー日:2023年8月25日時点の内容です)

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バイオ医薬品/バイオシミラー事業から再生医療の世界にチャレンジ

――まずは貴社の事業内容を教えてください。

紅林 弊社は、バイオ医薬品の開発を目指して北海道札幌市に誕生した、北海道大学発バイオベンチャーです。当初の社名は「株式会社ジーンテクノサイエンス」で、2年前に現在の社名に変更しました。後に事業方針を一部見直し、新たにバイオシミラー領域にも参入。こちらの事業は順調に成長しており、現時点で3製品を上市。4番目の製品も年内上市予定です。その後、新たに再生医療領域にも参入。現在は、バイオシミラー事業と再生医療事業を事業の二本柱に、事業を展開しています。

三谷 弊社は製薬会社ではなく、自社の工場を持たないファブレス事業です。具体的には、弊社がCDMO(製造開発受託会社)に委託開発した医薬品候補を、パートナーの製薬会社に渡して臨床開発を進めて頂き、製造販売申請も製薬会社に担当して頂きます。弊社は主に製薬会社に原薬を提供する――というビジネスモデルで、事業展開しています。

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紅林 伸也 氏(キッズウェル・バイオ株式会社 代表取締役社長)

――貴社の再生医療事業について、もう少し詳しくお聞かせ下さい。

紅林 弊社の中核事業のうち、バイオシミラー事業は、参入以来好調に推移してきました。しかし、弊社のようなバイオベンチャーに本来期待されるのは、安定した業績よりも、むしろ爆発的な成長であるはず。そこで、乳歯から歯髄幹細胞(SHED)を取り出す独自技術を持っていた株式会社セルテクノロジーを買収・完全子会社化して、再生医療領域にも本格的に参入しました。実はわたしは、元々はそちらの会社に在籍しており、会社の売却と共にキッズウェルに移籍しました。

三谷 弊社は現在、元々セルテクノロジー社が保有していた歯髄幹細胞の単離・培養技術を活用して、重篤な疾患に対する再生医療の研究開発を進めています。SHEDは若く、細胞増殖力が高いのが特徴です。自然に抜ける歯なので、身体的負担もありません。弊社では、NPO法人様と提携して、ご賛同頂いたご家庭に連絡を取っていただき、生え変わりの近い小児ドナー様の乳歯を指定の医療機関にて採取させていただき、これを原料として提携する製造開発受託会社にて、GMP下でSHEDのマスターセルバンクを製造するという一連の流れをワンストップサービスで確立。「S-Quatre®(エスカトル)」と命名して、弊社のコア事業に据えています。

現在は自由診療と保険診療の双方から実用化を目指す

――開発にあたって苦労したことはありますか?

紅林 SHEDマスターセルバンク事業の立ち上げが大変で、当初の想定よりも、かなり時間がかかりました。わたしがセルテクノロジーに在籍していた頃は、商業用途で組織を寄付してもらう際のガイダンスすら存在しませんでした。後に経済産業省がガイダンスを発表したので、そこから事業が大きく進捗。抜歯協力施設の大学の倫理審査委員会の承認を経てインフラを立ち上げ、SHEDマスターセルバンクを確立するまでに、約3年もかかりました。

三谷 弊社が把握する限り、特に日・米・欧の三極に限れば、SHEDを用いた再生医療研究で、すでに治験段階まで進行している会社はありません。したがって、現時点では、弊社がこの領域におけるファースト・ランナーであると考えています。

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三谷 泰之 氏(キッズウェル・バイオ株式会社 執行役員 研究本部長)

――乳歯を利用するというのは面白い技術ですね。今後の方針もお聞かせ下さい。

三谷 現在は「再生医療等安全確保法」に基づく臨床研究としての実施を先行させていますが、最終的には、保険償還可能な治療薬(再生医療等製品)としての承認取得を目指します。もっとも、疾患の中には、自由診療による治療の方が向いている場合もあるので、今後も、自由診療・保険診療の両面で研究開発を推進します。治験に向けた準備も進んでおり、準備が整い次第、治験申請を行う予定です。

――セルバンクを用いるということは、同種細胞による再生医療製品ですか?

紅林 その通りです。現在の弊社の事業方針は、SHEDマスターセルバンクを活用した同種細胞による再生医療等製品の開発です。ただし、患者数が非常に少ない疾患に対する再生治療では、薬機法下での開発の難しさから、安確法下での自家細胞を用いた治療の方が向いている場面もあると考えています。

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再生医療事業を次のステップに進めたい

――三井リンクラボ新木場2に入居されました。

紅林 弊社の再生医療事業を今後さらに発展させる上で、より多くの研究スタッフの確保が急務だと考え、北海道大学キャンパス内の研究拠点とは別に、東京にも研究拠点を開設するべきだと考えました。そこで複数の候補地を検討し、人財確保の観点及び本社とのコミュニケーションが取りやすい位置関係であること、共通機器室があることを勘案し、最終的に三井リンクラボ新木場2を選択しました。

三谷 研究所の位置づけについては、再生医療研究のうち、主に第1世代に相当するナイーブ型幹細胞技術の実用化に向けた研究開発は、引き続き札幌の研究所が担当。一方で、新木場ラボでは、さらに新たなアイデアを投入しながら、次世代幹細胞技術の開発を担当します。同時に、新しい医薬品開発におけるプラットフォーム技術としての用途、例えば遺伝子やウィルスを運ばせるなど、弊社の細胞技術の価値最大化にも挑戦します。

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――実際にリンクラボで働いてみて、どのような感想を持たれましたか?

三谷 おかげさまで、入居時点までの目的はすべて達成できました。優秀なスタッフも確保できたし、立地もイメージ通り。施設も洗練されており、廊下も研究室も明るくて、良い意味でラボっぽさがない。とても好感が持てる設計だと思います。交通アクセスも良好で、茅場町(中央区)にある弊社の本社から新木場ラボの移動も容易なので、しばしば本社スタッフが新木場ラボを訪問し、研究スタッフと打ち合わせなどをしています。

紅林 北海道大学キャンパス内の研究拠点と東京の本社との間ではスムーズにコミュニケーションが取れていますが、せっかく都内に新しい研究所を立ち上げるのであれば、本社との間に、なるべく物理的な距離を作りたくなかったのです。新木場であれば、本社のある茅場町から日比谷線と京葉線を乗り継いで、すぐに行けます。なるべく物理的距離を作らないことで、本社スタッフと新しく採用する研究スタッフがスムーズに連携できるように配慮しました。

――LINK-Jに期待する役割についても、お聞かせ下さい。

紅林 弊社の事業は、日本国内のみに留まるものではなく、いずれは米国など海外にも進出したいと考えています。そのためには、海外のバイオテックや製薬会社やVCとのネットワーキングも不可欠です。そのような場面でも、是非今後もご支援頂きたいと期待しています。もちろん弊社としても、様々なイベントにも参加して、さらにネットワークを拡大していきたいと考えています。

kurebayashi.png紅林 伸也 氏(キッズウェル・バイオ株式会社 代表取締役社長)

マサチューセッツ工科大理学部物理学科の修士課程修了。20040年ゴールドマン・サックス証券入社。2015年に再生医療事業を推進するセルテクノロジーに執行役員管理本部長として入社し、2018年、同社の取締役副社長 再生医療事業本部長兼事業部長。2019年にキッズウェル・バイオの執行役員事業開発本部長を経て、現職。

mitani.png三谷 泰之 氏(キッズウェル・バイオ株式会社 執行役員 研究本部長)

京都大学大学院薬学研究科の修士課程修了後、1998年に藤沢薬品工業(現アステラス製薬)に入社。2013年に東京大学大学院薬学系研究科にて博士号を取得。2019年にキッズウェル・バイオに入社後、事業開発部長兼再生医療事業ユニット長を経て、現職。

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