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インタビュー・コラム

【News Letter vol.26】創薬ベンチャーを取り巻く環境を考える 大切なのはプラットフォームとネットワーク

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LINKJNewsLetter26.png この投稿記事は、LINK-J特別会員様向けに発行しているニュースレターvol.26のインタビュー記事を掲載しております。
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今回は、池浦義典さん(アクセリード株式会社)と長谷川宏之さん(三菱UFJキャピタル株式会社)との対談をお送りします。池浦さんと長谷川さんは、業種こそ異なるものの、共に製薬会社で蓄積した知識と経験を活かして、池浦さんは創薬技術の支援を、長谷川さんは投資活動を通じて、日本の創薬ベンチャーの成長を支える重要な存在でもあります。今回の対談では、ベンチャーを取り巻く環境と課題について語って頂きました。

研究員の経験を活かして 創薬ベンチャーの課題解決に貢献

――まずは自己紹介からお願いいたします。

池浦 もともと武田薬品工業の研究所で研究者としてキャリアをスタートし、研究マネージメントに携わっていました。同社の構造改革の際、Axcelead Drug Discovery Partners(株)(以下ADDP)の設立に携わったことから武田を離れ、同社の最高経営責任者を務めた後、昨年から親会社であるアクセリード株式会社の最高経営責任者を務めています。当社は持株会社で、傘下には受託研究機関(創薬CRO)や医薬品製造受託機関(CDMO)など計5社を抱えています。

創薬支援事業を牽引する傘下のADDPは、武田薬品からのスピンアウトとしてその強みを生かした事業を展開しています。すなわち創薬研究に取り組む製薬会社、ベンチャー、アカデミアなどを対象に、創薬研究受託サービスを提供していますが、ただ試験を代行して結果を返すのではなく、お客様の抱える課題を伺った上で試験計画を立案し、お客様に提案します。協議し、計画の合意を得たうえで試験を行い、試験結果とともにその解釈も含めてお返しします。当社は、技術のみを提供する従来のテクノロジープロバイダーの枠を越え、お客様のパートナーとして問題解決を提供する「ソリューションプロバイダー」を目指しています。

――日進月歩の世界だけに、最新技術にキャッチアップするのも大変ですね。

池浦 そこは重要なポイントで、武田薬品工業の技術と経験を継承した当社の技術でさえ、明日には陳腐化しているかもしれません。ありがたいことに、当社は240社以上のお客様を抱えており、日々お客様との対話を通じて、将来主流になるかもしれない技術や最新の創薬ニーズといった貴重な情報にふれることができます。もちろん、弊社の研究者自身が、常に最新の論文、雑誌などでトレンドを確認してはいますが、やはりお客様から直に聞かせて頂く話題こそが、最も新鮮な情報だと考えています。

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池浦 義典 氏(アクセリード代表取締役社長)

製薬会社から投資会社に移籍 今はライフサイエンス領域で活動

長谷川 わたしが所属するライフサイエンス部は、医薬品から再生医療等製品、医療機器、診断薬まで含めた、幅広い領域に対して投資をしています。前職は、第一製薬で市販後臨床試験の企画推進などの業務を担当していました。現在の会社に入社した頃は、ライフサイエンス部はまだなく、わたしはキャピタリストの側面支援として、主にライフ領域のアナリストの仕事を担当していました。後にリーマンショックなど紆余曲折を経て、「ライフサイエンス投資は今後重要な柱になる」との認識のもと、弊社にもライフ系に特化した投資ファンドが誕生しました。現在は4号ファンドまであり、運用可能な資金は1号から4号まで合わせて総額500億円に上ります。

――長谷川さんと池浦さんの関係について教えて下さい。

長谷川 池浦さんとは、ADDPが誕生した頃からの付き合いです。池浦さんが武田を離れてADDPという創薬支援会社を設立するという話を聞き、イベント会場で池浦さんをつかまえて「ぜひ当社の投資事業のご支援をお願いしたい」と依頼したのが始まりです。後に正式に契約を締結し、現在は当社のライフサイエンス投資のうち、主にプレクリニカルステージの創薬ベンチャーにおける実現可能性調査をお願いできるような体制となっています。

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長谷川 宏之 氏(三菱UFJキャピタル上席執行役員・ライフサイエンス部長)

創薬モダリティの多様化に伴い 開発に要するコストも高額化

――日本の創薬ベンチャーを取り巻く環境の問題点は何でしょうか?

長谷川 一般的にはよく「ヒト・モノ・カネの不足」が指摘されますね。それ自体は事実です。地味ですが、前臨床試験を行うための治験薬を製造するのに多額の費用が必要で、資金調達でここを越えられないケースをよく目にします。特に最近は抗体医薬、核酸医薬や細胞治療など新規モダリティを用いた起業が増えており、前臨床試験に使う分だけの治験薬でさえも外部に委託製造することで、億単位の費用がかかることになるからです。

池浦 医薬品としての開発を目指す場合は、最適化や物性など様々な評価の工程も必要ですが、これをアカデミア自身で実施するのは難しく、基本的には当社のような受託機関に委託します。しかし中には、業務を依頼するのも厳しいほど資金に難渋している場合も少なくありません。当社としても、研究助成金の申請書を書く段階から協力して、今後の開発計画なども一緒に検討し助成金の取得後に正式受託する、というケースにも対応しています。

長谷川 最近では科学技術振興機構の「スタートアップ・エコシステム共創プログラム」によるGAPファンドなどの制度が誕生し、創薬ベンチャー起業前の支援体制も充実してきました。これらの制度を利用すれば、数千万円の調達も可能です。また、「ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム」を利用すれば、原則3億円まで調達でき、前臨床試験も対象となります。

――それは十分に足りる金額なのでしょうか?

池浦 まだ足りないと思います。米国の友人によれば、現在の米国は、シードラウンド(創業前後における資金調達)の時点で8百万ドル、シリーズAの時点なら60百万ドル、日本円で約90億円を確保できるそうです。これだけの資金が調達できれば、複数のプロジェクトを実施し、前臨床試験から初期の臨床試験まで賄うことも可能でしょう。

――ヒト・モノ・カネの不足に対してどのような解決策が考えられますか?

池浦 ひとつはベンチャーキャピタルが起業を主導する「ベンチャークリエイション」ですね。キャピタル側が経営人材(ヒト)と事業に必要な資金(カネ)の両方を最初から用意して起業を主導するので、最初から十分な資金をもって将来の事業計画を描けますし、また最初から複数のパイプライン(モノ)を用意して、進捗状況と成功確度に応じてパイプラインの取捨選択をすることも可能です。事業の安定性という意味でも、複数のパイプラインを持つことは重要です。パイプラインが1つしかないと、失敗した時に事業が行き詰まることになります。

長谷川 最初から複数のパイプラインがあれば、たとえメイン事業の開発に失敗しても、事業を継続できますね。もっとも、本来のあり方としては、最初に用意したプロジェクトが失敗したら、無理に事業を継続するよりも、一旦市場から退場し、新たな技術をもって生まれ変わる「新陳代謝」も必要だと思います。ただ、日本の株式市場は「投資家保護の観点から会社を未来永劫継続させること」を重視する傾向が強く、失敗したら即撤退という考えは馴染まないようですね。もっとも、「日本では1度事業に失敗すると、2度目の挑戦はない」なんて話もありますが...。

――実際のところはどうなのでしょうか?

長谷川 それは失敗の仕方によると思います。全力を尽くした挑戦であり、その経験をもとに次回はさらに成功の確度を高められる人であれば、次も投資家の支援を受けられると思います。我々も、失敗経験のある起業家さんと話す機会がありますが、そこで過去の失敗を包み隠さず明かした上で、次回の挑戦についてきちんと説明できることが大切ですね。

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世界で資金調達するという手も 今後はグローバル展開も重要に

長谷川 わたしはかつて、日本の創薬ベンチャーの資金の流れを調べたことがあるのですが、結果として基礎研究と比べて、臨床試験以降のステージに対する資金が圧倒的に足りないことがわかりました。だからベンチャー側としては、まだ赤字の段階でも株式上場のタイミングを繰り上げて、市場から資金調達せざるを得ない。さらに日本では、上場後の資金調達も少なく、製薬会社による買収事例も少ないので、上場後の資金繰りも大変です。総じて上場のタイミングが早すぎることが、後々さらに資金不足に苦しむ原因になっています。

さらに資金不足の背景には、起業のタイミング自体が早すぎるという側面もあります。最近わたしは、起業を志す先生たちに「いきなり起業はしないで下さいね」とお話ししています。一旦起業すると会社を維持するのも大変だし、資金調達に失敗する可能性もあります。現在では、起業しなくても特許を取得したりと起業前できることは多いのです。まずは起業前に利用できる制度を活用して、資金調達の目処が立った時点で起業すれば良いと助言しています。

池浦 エコシステムという観点でいえば、国内での資金調達にこだわる理由はないですよね。今後は「グローバルのエコシステムを利用する」という視点も重要になると思います。

長谷川 その通りです。日本のアカデミア発の会社だからといって、国内市場で資金調達をして、国内で臨床開発をして、国内の証券取引所に上場しなければならないという理由はありません。海外で治験を実施したり、海外の会社と提携したり、海外市場から資金調達をしても良いわけです。だから「ヒト・モノ・カネ」のうち、モノは日本のアカデミア発のシーズでも、カネとヒトは海外で調達するという動きは、今後ますます活性化するでしょう。

池浦 わたしも講演などの場では、よく「unlock Japanese science by leveraging global resources(海外の資源を利用して日本のサイエンスを解き放つ)」と話しています。投資を含めた海外の資源を上手に利用して、日本発のサイエンスを実用化に結びつける。そのためにはどんな取り組みが必要になるのか、という視点は今後ますます重要になると思います。

――「ヒト・モノ・カネ」以外にも課題はありますか?

池浦 わたしはプラットフォームとネットワークの存在も重要だと考えています。「ヒト・モノ・カネ」の不足は事実ですが、仮に全てが最初からあったとしても、なお創薬ベンチャー単独の力では「新薬の創出」という結果は出せません。真のゴールを達成するには、適切なタイミングで適切なパートナーにアクセスできる環境と、両者を結ぶネットワークの存在が不可欠です。LINK-Jには、ヒトとヒト、会社と会社をつなぐネットワークの役割も期待しています。

長谷川 たしかに「ヒト・モノ・カネ」さえあれば、ガラガラポンで新薬が誕生するわけではありませんよね。たとえば、過去に何人もの起業家が失敗したポイントがあるのに、その経験が共有されず、新しく参入した起業家がまた同じポイントで失敗を繰り返すのは、悲劇的とさえいえます。過去の経験を共有する場所の存在は、成功に不可欠の要素でしょう。

池浦 プラットフォームとネットワークさえあれば、ヒト・モノ・カネは外部から調達が可能です。極論をいえば、事業のアイデアを持った最高経営責任者さえいれば事業は可能なのです。それにより人件費、設備投資などを最小限に抑えることができ、資金の大半を真水の研究費に充てることができます。事実、米国にいる武田時代の旧友は、社員は自分だけ、自宅をオフィスにして「バーチャル起業」に挑戦しています。日本でも、今後はバーチャル起業の可能性を検討するべきかもしれませんね。

長谷川 さらに創薬ベンチャーから生まれた技術が製薬会社によって実用化され、その利益が還元されるという成功事例も、まだまだ足りないと感じています。今回の新型コロナ感染症のワクチンや治療薬も、もともとはバイオテックから誕生した技術が、製薬会社によって実用化されたものです。日本でも同様の成功例を生み出していく必要がありますね。

池浦 わたしの研究員時代は、わからないことがあるとすぐ誰かに相談できるという、恵まれた環境にいました。振り返ると、当時から「いつかは誰かを支える存在になりたい」と考えていました。その意味では、次はわたしが(あるいはアクセリード社が)誰かを支える存在になり、過去にわたしを支えてくれた人たちへの「恩返し」にしたいと考えています。

ikeura.png池浦 義典 氏 アクセリード代表取締役社長

京都大学修士課程修了後、武田薬品工業に入社。医薬研究本部長室長、湘南サイトヘッドなどを歴任する。日本製薬工業協会(製薬協)では研究開発委員長を務めた経験も。後に武田薬品工業の大規模構造改革に伴い、Axcelead Drug Discovery Partners(株)の設立に尽力。設立と同時に自身も武田薬品工業を離れ、現在に至る。

hasegawa.png 長谷川 宏之 氏 三菱UFJキャピタル上席執行役員・ライフサイエンス部長

北海道大学薬学研究科修士課程修了後、第一製薬に入社。同社では、市販後臨床試験の企画推進などを担当する。UFJキャピタル(現在の三菱UFJキャピタル)に転職した後は、製薬会社での経験を活かして、ライフサイエンス領域に対するベンチャー投資を担当。現在に至る。

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