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イベントレポート

「LINK-J×東北大学ネットワーキング・ナイト 健康調査情報から始まる未来の医療と健康~東北大学 東北メディカル・メガバンク機構~」を開催(11/30)

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11月30日(金)、日本橋ライフサイエンスビルディングにて「LINK-J×東北大学ネットワーキング・ナイト 健康調査情報から始まる未来の医療と健康~東北大学 東北メディカル・メガバンク機構~」を開催いたしました。 本イベントは、東北メディカル・メガバンク計画によって加速される次世代医療のビジョンを、産業界の中核を担うご参加者の方と共有する目的で開催されました。

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挨拶:仙波秀志氏(文部科学省 研究振興局 ライフサイエンス課 課長)
総合司会:長神風二氏(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 広報戦略室長)
登壇者:山本雅之氏(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 機構長)
杉山将氏(国立研究開発法人理化学研究所 革新知能統合研究センター センター長)
志賀利一氏(オムロン ヘルスケア株式会社 技術開発統轄部 R&Dフェロー)
横田 博氏(日本製薬工業協会 研究開発委員会 副委員長)

まず、仙波氏より、ゲノム医療の実現のための研究基盤の充実・強化に向けて、横断的なシステムの構築などを進めていること、また、三大バイオバンクの一つであり、世界でも貴重な東北大学 東北メディカル・メガバンク機構の取り組みについて、応援メッセージが送られました。

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仙波秀志氏(文部科学省 研究振興局 ライフサイエンス課 課長)

複合バイオバンクから次世代医療へ

次に、山本機構長より東北メディカル・メガバンク計画(TMM)の目的、及び具体的に実施されているコホート調査とバイオバンクの構築の概要についてご講演いただきました。

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山本雅之氏(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 機構長)

現在、地域住民コホートと三世代コホート合わせて15万人が参加しており、宮城県全域に地域支援センターを配置、住民の健康調査として採血やMRI検査などの様々な検査が長期的に行われています。また、アドオン調査として、腸内マイクロバイオームや、尿中のナトリウム・カリウム比の調査など民間企業との共同研究にも取り組まれています。
バイオバンクには、総計320万本以上の試料(DNAや細胞など)が保管されており、解析センターを併設、信頼性の高いデータ管理のためのQuality Controlの徹底に力を入れられています。知的財産は分譲先に帰属する方針が取られており、既に18件の分譲を承認していることが解説されました。
ゲノム解析研究では、日本人固有のジャポニカアレイ®を開発しています。平成30年度中には11万人のアレイ解析データを完了予定とし、すでに2.3万人分ものゲノム解析結果を含む試料・情報分譲をスタートしています。コホート由来のゲノムデータや診療情報などを含んだ統合データベース(dbTMM)に遠隔からアクセスするための拠点は、現時点で全国で17拠点(日本橋では製薬協内)設けられており、山本機構長は、このデータベースについて、「是非多くの人に活用してもらい、日本のサイエンスの向上に繋げられたらと願っている」と訴えられました。

人工知能研究の現状と今後

機械学習の専門家である杉山先生から、理化学研究所 革新知能統合研究(AIP)センターの取り組みと機械学習の最新情報について解説頂きました。

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杉山将氏(国立研究開発法人理化学研究所 革新知能統合研究センター センター長)

AIPセンターでは、独自に開発した人工知能のアルゴリズムをTMMのゲノムコホートデータに適用し、健康変化に関わるリスク予測を実現させることを目指しています。杉山先生は、高精度でラベル付きコストの低い分類手法が重要であると述べ、機械学習の新たな手法として、「正例とラベルなしデータからの分類」「正信頼度データからの分類」「類似データからの分類」をご紹介いただきました。これにより、あらゆるデータから情報を抽出して、完全な教師付きのビッグデータを用いない新しい機械学習技術による次世代人工知能が実現できるとしました。

血圧計研究開発の過去・現在・未来

オムロンヘルスケア社の志賀氏からは、同社の取り組みとToMMoとの共同研究についてご紹介頂きました。

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志賀利一氏(オムロン ヘルスケア株式会社 技術開発統轄部 R&Dフェロー)

オムロンヘルスケア社は、新たなビジョンとして「脳・心血管イベントゼロ」を掲げ、ウェアラブルデバイスを用いた生活習慣における客観データをモニタリングし、血圧変動との因果関係を調査しています。約5千のリクルートが実現し、実施者は10日間の測定器を用いて、睡眠時間や尿ナトカリ値、活動量などを測定、取得されたデータの解析を始めています。

TMMバイオバンク利用から始まる次世代医療の可能性

日本製薬工業協会の横田氏からは、製薬協の概要と取り組みについてご説明頂きました。

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横田 博氏(日本製薬工業協会 研究開発委員会 副委員長)

横田氏は、「予防・先生医療ソリューションの早期実用化」について強調され、「健康医療ビッグデータの活用」「前向きコホート研究や疾患コホート研究」を産学官が連携して推進する必要性について述べられました。その上で、TMMとの連携は重要であると述べられ、産業界でも利用できるインフォームドコンセントが取れていることや、追跡調査ができること、信頼性の高いデータであるなどのメリットを挙げられました。日本橋ライフサイエンスビルディング7階の製薬協には遠隔セキュリティルームが設けられており、これまでに26社約100名の方が統合データベース(dbTMM)を利用されています。

社会基盤としてのバイオバンクとデータの利活用

長神氏を司会進行とし、登壇者全員による会場からの質疑応答が行われました。参加者として会場にお越しいただいていた、荻島創一教授(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 統合データベース室)および田宮元教授(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 リスク統計解析室)からもご意見いただきました。

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Q:データベースを維持するためのコストがかかると思いますが、長期間維持するための費用対策として考えられていることはありますか。

山本機構長:台湾、フィンランド、エストニアなどはバイオバンク法という法律があります。患者や地域に根付いたものです。国がバイオバンクを通して産業振興を実施することを文化として持つことが大切だと考えています。研究者の中には、当機構の中でも当初はデータを公開することに反対する人もいましたが、私たちは社会のインフラとしてデータを公共のものとして維持していきたいと考えています。

長神氏:コホートの仕組みをアドオン調査のような形で企業に使っていただくことも、維持するための一つの方法だと考えていますが、企業側からのご意見はありますか。


志賀氏:TMMにはゲノムバンクがあって、バイオサンプルを取っている中で、モニタリングができることが非常に重要な価値だと思っています。また、インフォームドコンセントが法的にも整備されていることから、経営者を説得しやすい。アドオンのコホートは、通常は介入になるからできないことが多いが、山本機構長の前向きな理解が非常に大きいです。

Q:ゲノムデータはアレイデータ以外に、シーケンスデータも蓄積されているのでしょうか?


山本機構長:はい、蓄積されています。平成25年から全ゲノムシーケンスを始めました。今年の末で5千人のWhole Genome Sequenceが完了し、SNPも調べています。クレイグ・ベンダー氏が一昨年書かれた論文で、世界のWhole Genomeの遺伝子解析状況をオーバービューをされていましたが、我々のデータが最もクオリティが高いとほめられました。全ゲノムを調べるコストは以前に比べれば下がりましたが、健診において全ゲノムを見ることは困難です。100ドル程度で行えるジャポニカアレイでリスクスコアを伝えることが医療の論点になっています。

Q:個人情報も公開されているのでしょうか。


長神氏:個人情報を何の制限もなく公開するのは難しいですので、分譲の仕組みを使って、民間企業の方も使うことができます。専用回線でアクセスする仕組みを用意しています。

Q:機能性表示食品など、軽い治験のようなものを行いたい企業など多くいるかと思いますが、その辺りをどうお考えでしょうか。


山本機構長:アドオン調査で「測定」に関してはお受けしようと思っていますが、薬や機能性食品などを食べたり飲んだりといった行為は行わない方向性で考えています。
長神氏:実例を挙げますと、ある健康飲料を飲んでもらうことはできませんが、飲んでいるかどうかのアンケートを取ることはできます。市販後の薬品や機能性食品をモニタリングすることができれば、その方々の測定データがどうなっているかはインターベンションなしに観測していくことができます。

Q:情報銀行と東北メディカル・メガバンクは近しいものがあると思いますが、データ提供者にフィードバックすることや、利用者には有償とするなどの仕組みはお考えでしょうか。

横田氏:情報銀行についてはCOCN(産業競争力懇談会)などで検討されていたかと思いますが、医療情報が個人のものであるということについて、まずは、議論、周知が必要かと考えています。
荻島氏:情報銀行は預ける人が自分のデータを預けることの対価として利益を得るビジネスモデルですが、TMMは社会の基盤として作っていこうという取り組みです。北欧の例と同じく、バイオバンクと国民との間で信頼関係のもと、わが国のゲノム医療の研究開発のために資するものと考えており、情報銀行とはスタンスが違うと考えています。

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Q:ジャポニカアレイは、東北だけでなく日本人全体に使用可能なものでしょうか。

山本機構長:代表性はあると考えています。
田宮氏:対象としたいバリアントのアリル頻度に依存した問題です。アリル頻度が高ければ世界集団で共有され、もっとも低ければ個人にしか存在しない。ジャポニカアレイはアレイ技術であるので、搭載バリアントの検出できるアリル頻度は主に1%以上のものとなり、その程度であれば、日本人の祖先集団に共有されており、その後に地域集団でそれほどの頻度差は生じていないと期待できます。低いアリル頻度のものを対象としたいのであれば、TMMの規模のNGS解析をいろいろな地域で行う必要があります。

長神氏:これらのデータのどこに使い道があるかなど、専門家から見てどう思われますか。

杉山氏:データと解析機能とアルゴリズムは三点セットだと思っています。アルゴリズムをつくるのは私たちで、データを持っている人とは距離があります。こういうタイプのデータには何ができるのか、こういう解析が有効などの知見を持っていますので、皆さんと共有することで、新しい方法が見えてくると考えています。

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講演後は10階コミュニケーションラウンジにてネットワーキングが行われました。
当日は約100名以上の方に、ご参加いただきました。参加者からは、「日本の強みになる先進的な取り組みだと思う」「利活用を目指した共同研究を、それぞれのモチベーションと共に伺えたのが良かった」など多数ご意見を頂きました。
次回は2月13日(水)にて、東北大学×LINK-Jネットワーキング・ナイトの第2回を開催予定です。詳細は2019年1月頃、LINK-Jホームページにてご案内いたします。

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