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イベントレポート

第34回 LINK-J ネットワーキング・ナイト 国立がん研究センター東病院と始める医療機器開発 MEDICAL for ONE, ONE for MEDICALを開催(8/27)

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2019年8月27日(火)、日本橋ライフサイエンスビルディングにて国立がん研究センター東病院とのネットワーキング・ナイトを開催いたしました。 国立がん研究センター東病院は2017年5月に「次世代外科・内視鏡治療開発センター(通称NEXT)」を開設し、医療機器開発を推進する基盤整備を進めています。今回は、大手医療機器メーカーからスタートアップ、アカデミアに至るまで多様な共同開発案件について、その非臨床試験から臨床導入に向けた取り組みをご講演頂きました。

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大津 敦 氏 (国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 院長)

【講演者】
冨岡穣 氏(国立がん研究センター東病院 臨床研究支援部門 機器開発推進部 機器開発推進室 主任研究員)
池松弘朗 氏(国立がん研究センター東病院 消化管内視鏡科 医長 / 国立がん研究センター 先端医療開発センター 内視鏡機器開発分野 分野長)
伊藤雅昭 氏(国立がん研究センター東病院 大腸外科 科長/ NEXT医療機器開発センター 手術機器開発室 室長 / 国立がん研究センター 先端医療開発センター 手術機器開発分野 分野長)

冒頭に、国立がん研究センター東病院(以下、東病院と記載)の大津敦院長より、柏の葉地区での取り組みと概要に関してご説明頂きました。特に、東病院ではトップレベルの人材が揃っているとし、企業や大学などと協力しながら、尚一層、医療機器開発や新薬開発を推し進めていきたいと述べられました。

PMDAからNCCへ吹き込む新しい風~冨岡、機構やめたってよ~

冨岡氏は、以前PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)で医療機器開発の審査を担当されていた経緯から、PMDAの実際や医療機器開発に対するご意見、国立がん研究センター東病院における医療機器開発に対する熱意などを語って下さいました。

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冨岡穣 氏
(国立がん研究センター東病院 臨床研究支援部門 機器開発推進部 機器開発推進室 主任研究員)

PMDA在職当時の仕事の面白さや苦労について、担当した医療機器の審査事例を交えてご紹介頂きました。冨岡氏が、医療機器の製造販売承認に向けて頑張ってほしいと思い、懇切丁寧に相談に応じていた医療機器の開発者が、承認申請までに実施すべき工数の多さに開発者として対応の難しさを感じ、開発の初期の段階で断念されてしまうケースもあり、無力感を感じたことなど、ご自身がPMDAの仕事を通じてたくさん見てきた医療機器開発に対して感じていたことについて、多様な角度からお話頂きました。 冨岡氏はPMDAから東病院に移ったことで、今後の意気込みとして、「医療機器開発に興味のあるのは東病院の中でも変わり者ばかり。そういう変わり者が集まってくるのが、東病院だと思いますので、変わり者の一人として私にも役に立てることがあると思っています。多様性は組織の強みです。東病院の価値を高める多様性の一員になれたらと考えています。」と意欲を述べました。

東病院における内視鏡機器開発の挑戦~内視鏡医イケマツが診る未来~

消化管内視鏡医の池松氏からは、消化管内視鏡の「挿入」、がんの「発見」「診断」「治療」に関する最先端の取り組み、先端医療開発センターで行われている内視鏡機器開発について解説いただきました。

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池松弘朗 氏
(国立がん研究センター東病院 消化管内視鏡科 医長 / 国立がん研究センター 先端医療開発センター 内視鏡機器開発分野 分野長)

医師が画像内の病変を見落とさないようにする為、照射光をヘモグロビンの吸収領域に絞ることで画像を強調する技術や、Linked Color Imaging(LCI)と呼ばれる粘膜上の赤と白の部分の画像を強調する観察法などについて、解説していただきました。さらに、アイトラッキングにより医師の視線の癖を発見することで客観的評価を行い、どのような見方をしていると見落としが発生するのか可視化し、人工知能(AI)技術を応用した自動検出技術の必要性について説明し、現在臨床応用されている又は臨床応用が間近な自動検出装置について、解説していただきました。
さらに、表層は正常だが深部が腫瘍というケースを見分けるため、深部の観察が行える近赤外波長域を使った観察技術や、自身が研究開発に携わっている光音響イメージングの臨床応用など、様々な角度から診断のための新たな医療機器開発について解説していただきました。
かつては開腹して手術されていた大きな病変の切除でも、東病院で開発されたナイフを使用した内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection)では、短時間での内視鏡切除ができるようになったと説明されました。
大腸内視鏡に関しては、バルーン型やスパイラル型など様々なものが開発されている中、いずれも成功例は出ていない現状から、将来の大腸内視鏡検査について池松氏は、「超高齢化社会を迎えることから内視鏡の検査数は増加が予想され、技師でも痛みなしで簡単に挿入できるような自動挿入内視鏡が必要になる」と述べられ、東京理科大学と共同で進めている自動内視鏡の研究開発について紹介されました。
国内の医療機器開発は、オリンパス社と富士フィルム社がシェアおよび特許を占有しており、新しいものを開発する際には協力することが必要とし、今後も連携した開発を行っていくと説明されました。

東病院における手術機器開発の挑戦~外科医イトマサが切り拓く未来~

腹腔鏡手術支援ロボットの開発を行うA-Traction社の取締役も務める伊藤氏からは、外科医の立場から手術現場の実際や、将来の外科手術の変革について、ご講演いただきました。

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伊藤雅昭 氏
(国立がん研究センター東病院 大腸外科 科長/ NEXT医療機器開発センター 手術機器開発室 室長 /
国立がん研究センター 先端医療開発センター 手術機器開発分野 分野長)

東病院では、一昔前は開腹手術が当たり前であった外科領域でも低侵襲な腹腔鏡手術を基本として手術が行われています。日本において、大腸外科領域の腹腔鏡手術と開腹手術の治療成績を比較する目的で、ランダム化比較試験が2003年から2016年まで行われ、1000例を超える患者を対象に分析したところ、5年生存率は変わらず、治療成績が同等という結果となっていることを説明されました。
腹腔鏡手術は、開腹手術に比べて傷が小さく、合併症も少ないという利点があり、ステージが高いほど予後がいいというデータもあるといいます。「現場では、術者や助手など皆が患者を見ずにモニターを見ながら手術を行うようになった。皆が同じものを見ながら手術ができるため、情報共有ができる。手術の内容をフィードバックできるようになった。」と外科手術の変化による利点について述べられました。
伊藤氏は手術を局面で分解し、絵コンテを作るように言葉で定義することを行うことで、だれでも同じように手術が安全に施行できるような取り組みを紹介し、手術の均てん化の必要性を訴えました。また、腹腔鏡手術の中で登場する様々な解剖構造や手術器具をアノテーションし教師データとしてAIに学習させたところ、病変や組織、血管がより鮮明に認識できるようになり、この研究を外科手術の評価、インストラクションするための技術として、医療現場に還元していきたいと説明しました。
加えて、直腸がんに対するロボット手術と腹腔鏡手術によるランダム化試験の結果によると、治療成績に差はなく、肉体労働部分のロボットによる代行を目指し、特徴のあるロボットの開発を進めていることを紹介されました。
伊藤氏は、経肛門的内視鏡下直腸間膜切除術(transanal total mesorectal excision:TaTME)についても紹介し、2チーム同時手術という新しい術式によって、腹腔鏡手術では平均手術時間5時間のところ2時間半で行えることについて解説され、将来の外科手術の変革について語られました。

***

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落合 淳志 氏(国立がん研究センター 先端医療開発センター センター長)

最後に、先端医療開発センター 落合淳志センター長より、「がん治療の歴史」を振り返りながら、講演を総括して頂きました。「がん」という疾患が認識され、治療が開始されてから、約100年。劇的な変化を起こしながら2000年代に入り、現在ではがんゲノム医療もはじまり、がん治療がより一層加速化されていることを踏まえ、関係者の皆さんと協力しながら世界に通用する開発を進めていきたいと締めくくられました。

講演後は10階コミュニケーションラウンジにてネットワーキングが行われました。

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当日は民間企業、大学関係者、医療関係者、PMDAなど約100名の方にご参加いただきました。誠にありがとうございました。参加者からは「臨床側のニーズ・直感が分かり易く伝わった。企業が注力した方がよい方向性について示唆があった」「東病院には興味深いシーズを持つ、エネルギッシュなメンバーがいる事が分かった」「幅広く東病院での機器利用・開発についてお話を聞く機会がとても良かった」といったご意見を頂きました。

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