Menu

イベントレポート

第35回LINK-Jネットワーキング・ナイト「京都から、さらなる成長を目指して『イノベーションハブ京都』入居企業の挑戦」を開催(8/28)

  • twitter
  • Facebook
  • LINE

8月28日、日本橋ライフサイエンスハブにて、第35回目となるLINK-Jネットワーキング・ナイト「京都から、さらなる成長を目指して イノベーションハブ京都 入居企業の挑戦」を開催しました。

【イントロダクション】
山口 太郎 氏(京都大学 医学研究科「医学領域」産学連携推進機構 特定助教)

【講演者】
円城寺 隆治 氏(株式会社AFIテクノロジー 代表取締役社長)
ビールンド 智子 氏(CELLINK AB営業統括部長アジア太平洋地区)
武蔵 国弘 氏(株式会社京都創薬研究所 代表取締役)
角田 健治 氏(iHeart Japan株式会社 代表取締役)

【モデレーター】
長谷川 宏之 氏(三菱UFJキャピタル株式会社執行役員/ライフサイエンス部長)

京都大学における医学ヘルスケア・スタートアップ創出・育成

冒頭、京都大学の山口太郎氏から、イノベーションハブ京都についてご紹介いただきました。2017年、異分野のスペシャリストが集いイノベーションが育つ場をコンセプトに、京都大学内に設立されたのがイノベーションハブ京都です。主な活動として、「インキュベーター(入居施設)」「交流会」「起業家人材育成プログラムHiDEP」の3つがあります。

20190828NWNkyoto (7)★.JPG

山口 太郎 氏(京都大学 医学研究科「医学領域」産学連携推進機構 特定助教)

一つ目は、入居施設のインキュベーションハブでは、成長に合わせて多様な研究に対応できるようバイオセーフティーレベル2の実験設備や動物実験室、共通機器が完備されたラボが用意されています。開所以来、入居企業は増え続け、再生医療、医薬品、医療・診断機器など、様々な分野のベンチャーが入居しています。入居条件は京大の研究成果に基づくベンチャー、京大と共同研究を行っている企業、イノベーションハブ京都のパートナー企業から推薦を受けた企業であることですが、現時点で京大とコラボレーションしていなくても将来的に共同研究の可能性がある、あるいは入居すれば京大の研究者や入居企業にメリットがあるベンチャーであれば入居できる可能性があります。

2つ目の交流会では、新しいイノベーションを創出するためには様々なバックグラウンドを持った人たちとの交流が重要であることから、最低でも毎月1回、補助金や知的財産、起業家の講演などの講演会やセミナー等が行われています。2019年度は現時点で15回開催されました。

3つ目は、医療ヘルスケア領域に特化した起業家人材育成プログラム「HiDEP」。臨床現場のニーズに対し、大学や企業の持つシーズを掛け合わせて、そこから臨床現場の課題を解決する新しい医療機器や福祉用具、デジタルヘルス等を創出することが目的です。前半の講義では、薬機法や医学、ビジネスについて学び、後半はチームを組んで手術や高齢者福祉施設等の現場に入り、ニーズを掘り起こしてソリューションを作り込んでいきます。2017年から開始し、この3年で成果が出始めていることが報告されました。

本プログラムの特徴は、市中病院やクリニックなど多種多様な臨床見学によって、異なるニーズをカバーできること。また、参加受講生は研究者、医学部だけでなく、ビジネススクールや法学系の大学院生、企業人と多種多様なメンバーであり、受講生同士チームを組んで、イノベーションの創出を加速させます。さらにビジネスとして成立させるために、京大ビジネススクールと連携し、必要な知識や情報を提供しています。山口氏は、「今年度AMEDの次世代医療機器連携拠点整備事業に採択されたので、今後5年間支援を受けながらさらにプログラムの充実を図っていきたい」と意気込みを語りました。

革新的ろ過技術「FES」を用いた微生物/細胞分離技術の事業化および販売戦略

株式会社AFIテクノロジーは、FES (Fluid, Electric filtering and Sorting technology)を用いて細胞、微生物等の検査・解析に関わるデバイス、装置等の開発、製造および販売を行うベンチャーです。このFESとは同社独自の電気計測と流体制御を利用した分離技術で、例えば血液サンプルの中から血中に循環する腫瘍細胞を見つけたいとき、FESを使って必要な腫瘍細胞だけを回収して研究に使えます。すでに単純型の分離チップは高い分離性能と低侵襲、分離後も細胞や微生物の応用に使えることが認められ、事業化されています。

20190828NWNkyoto (27)★.JPGのサムネイル画像

円城寺 隆治 氏(株式会社AFIテクノロジー 代表取締役社長)

FESの応用分野は幅広く、品質検査市場では食品飲料等の分野での販売を開始し、臨床検査市場では血液中の微生物検査等の用途で装置化が進められています。また、ライフサイエンス市場ではバイオ製品の製造中心に事業化を促進しています。

同社は異業種のベンチャーや事業会社、アカデミアと協業、連携することで、同じ顧客に対して一気通貫のサービスを展開するコンソーシアムを構築しつつあります。また、世界標準を掲げ、欧米に支社を持つ商社に海外でのマーケティングを依頼し、機能性やデザイン、イメージを重要視した装置の開発を行なっています。代表取締役社長の円城寺 隆治氏は、今後の抱負として、「海外でもどんな技術かが説明しやすいよう、米国の第三者機関AOACの認証を今秋に取得予定で、フランスでもISO認証機関への申請を目指している」と述べました。

Printing Life

世界で初めて3Dバイオプリンティングの為のバイオインクを商品化し、2016年にスウェーデンで創業したのがCELLINKです。ゼラチンやコラーゲンなど生体材料を元にバイオインクを使い、この中に細胞を入れて3Dプリンターのノズルから噴射し、積層させて3次元の構造物をプリントし、組織モデルや臓器モデルを作るのが3Dバイオプリンティングです。多目的なアプリケーションに活用できることが特徴で、2次元で行われていた生物学研究を3次元で行えるほか、新薬の開発では3Dバイオプリンティングで作製した肝臓モデルで毒性スクリーニングができ、個別化医療の開発、細胞治療などの再生医療関連や培養肉の開発、細胞センサーの開発にも使えます。さらに近年注目がされているのは、ロボティクスの中にバイオインクを用いて細胞を埋め込むバイオロボティクスの開発です。

20190828NWNkyoto (53)★.JPG

ビールンド 智子 氏(CELLINK AB営業統括部長アジア太平洋地区)

創業当初はバイオ3Dプリンティング用のバイオインクのみを販売していましたが、当時は3000万円以上の高価なバイオ3Dプリンターしか市場になく、限られた研究者しか導入できない技術であることに気づき、より多くの研究者にバイオプリンティングの技術を使ってもらえるよう必要最低限の機能を持たせたシステムを研究者に販売を開始しました。研究者からのフィードバックを聞いたり、バイオプリンティングのアプリケーションを一緒に開発するコミュニティをつくりながら、次のレベルへと成長させる顧客参加型のR&Dを行っています。

アジア太平洋地区営業統括部長のビールンド智子氏は、「創業10カ月目にナスダック上場を果たして資本力を高めたことで、スウェーデンのバイオスタートアップ、しかも経営陣が若いという不安感を取り除くことができた」と振り返ります。開発はスウェーデン本社で行われ、営業拠点はスウェーデン、ドイツ、ボストンに置き、オフィスをイノベーションハブ京都に設けて50カ国に顧客を持ち、700のラボで3Dバイオプリンティングが使われています。バイオインク、システム、どんな構造物でも技術的にサポートできるワンストップショップを目指しています。

難病患者に光を届けたい京都創薬研究所の挑戦

京大の垣塚教授が発見した化合物KUS(Kyoto University Substances)の開発を引き継ぎ、創業されたのが株式会社京都創薬研究所です。KUSは、細胞内のエネルギー源であるATPを消費するタンパク質(ATPase)の一つであるVCPのATPの消費を抑えて、小胞体やミトコンドリアといった重要な器官の機能を保護し、細胞の死滅を予防・抑制するという全く新しい機序を有しています。

20190828NWNkyoto (73)★.JPG

武蔵 国弘 氏(株式会社京都創薬研究所 代表取締役)

このKUSを用いて、網膜動脈閉塞症などの難病の治療薬の開発が進められています。網膜動脈閉塞症は動脈が詰まって視力を失う目の心筋梗塞といわれ、ガイドラインも治療法も存在していません。現在、京大での医師主導治験を終えて、次のフェーズに向けた準備が進行中であること、急性心筋梗塞などの特定疾患においても動物実験での薬効が確認されたことが報告されました。

2015年の設立後、2016年に京大イノベーションキャピタルはじめ、VC5社および事業会社から資金を調達。イノベーションハブ京都の中にラボを構え、人員を揃えてグローバル対応ができる体制を整え、眼科領域に強みを持っています。 網膜色素変性、緑内障、萎縮型加齢黄斑変性を点眼薬で治したいという代表取締役の武蔵国弘氏は、「いま困っている患者だけでなく将来の患者にも届けたい。」と決意を語りました。

再生医療製品で、心臓移植が要らない社会を作る

iHeart Japan株式会社は、京大iPS細胞研究所の山下教授の研究成果を事業化するために創業されたベンチャーです。同社は、iPS細胞から心血管系細胞の多層体を作り出し、それを心臓に移植することで心不全を治す製品の開発を行っています。

2013年の創業後、VCからの投資をはじめ、AMEDやNEDOからも補助金が提供されています。また、高い技術が認められ、日本バイオベンチャー大賞、産官学連携功労者表彰など多数の賞を受賞。同社が目指しているのは、再生医療製品で心臓移植が要らない社会を実現すること。そして、その先にあるのは、いまは特別な治療である細胞医薬が、点滴レベルで受けられる社会の実現です。

20190828NWNkyoto (129)★.JPG

角田 健治 氏(iHeart Japan株式会社 代表取締役)

講演の中で代表取締役の角田健治氏から、バイオベンチャー業界のマーケティングが必要だという問題提起がなされました。ITベンチャーには人、モノ、資金が揃っているに対し、バイオでは大学には優れたシーズがあり、研究水準は高いものの、バイオベンチャーにはそれを実用化できる人材が少なく、投じられる資金も少ない。この状況を変えるために、バイオベンチャー業界を日本に売り込むというマーケティングが必要だと述べました。バイオベンチャーをどんどん上場させ、その瞬間だけでなく、セカンダリーで市場から資金調達できる状況になれば、最先端技術に挑戦したい人材は増えます。角田氏は、「人がたくさん集まれば、会社が成功する可能性は上がる。国もこうした流れをサポートする体制に向けて進んでいる」と指摘しました。

パネルディスカッション
さらなる成長のための課題

後半のパネルディスカッションは、三菱UFJキャピタル株式会社執行役員/ライフサイエンス部長の長谷川宏之氏をモデレーターにお迎えし、さらなる成長のために、どうステップアップしていくのか、課題や目標などについて討議が行われました。

20190828NWNkyoto (137)★.JPG

長谷川氏が、成長に向けて取り組んでいること、その課題について問いかけると、4名のパネリストは組織づくりの強化を共通して挙げました。中でも、角田氏は「これまで組織らしくなかったが、中間管理職が務まる人材が育ち、会社の経営理念も末端まで浸透してチームとして動けるようになってきた。今後、上場も視野に入れ、組織らしい体制づくりを強化することがいまの課題だ」と述べました。

次に長谷川氏は、事業会社に出資してもらう中で、どのような戦略をとったのかと質問。円城寺氏は、「当社はモノを作れないので事業会社に作っていただき、そのお付き合いを継続させていく。我々の技術によって事業会社がもっと伸びるようにと、模索しながら組んできた」と振り返りました。

長谷川氏が、海外発ベンチャーのCELLINKが京都に拠点を置いた理由について聞くと、「最も関連性の高い分野が再生医療だったこと。さらに世界的な研究レベルで見ると、一緒に研究を進めたい教授や研究者が関西に集まっていることに気づき、先生方にアクセスしやすい場所に当社の窓口を置くことに決めた」とビールンド氏は回答しました。

続いて長谷川氏は、より成長する手段として、内製化、外部リソースや支援会社の協力、事業会社との連携があるが、これらをどのように切り分けているのかと質問。武蔵氏は、「KUSは私たちが治したい疾患以外でも薬効を発現する可能性の高い化合物なので、注力する疾患は自分たちで進め、それ以外は他の会社と進める。薬から裾野を広げて再生医療の細胞保護、試薬、サプリメントまで考えたコラボレーションがあってもいい」と答えました。「FES に関連するところをベースとした標準化は我々が手がける。一方で、モノづくり、販売、検査、臨床については、それぞれの強みを持った事業会社と組んでいく」と円城寺氏。

最後に長谷川氏は、「角田さんが問題提起されたように、バイオ業界を売り込むマーケティングは不可欠で、その為には、その技術が世の中に役立っていることをきちんと示すことが求められる。これからもイノベーションハブ京都に支援をいただきながら、さらなる成長を遂げることを期待したい」と締めくくりました。

20190828NWNkyoto (161)★.JPG

講演後は、ホワイエにて、ネットワーキングが行わました。

当日、70名を超える方にご参加いただき、参加者からは「イノベーションハブ京都の取り組みが良く分かり勉強になりました」「プレゼンテーションもわかりやすく、4社とも非常に優れた内容だった」「国内バイオベンチャーの厳しいエコシステムを改善することが重要だと共感した。」などのご意見をいただきました。

ご参加いただいた皆様、ご登壇いただいた皆様、ありがとうございました。

pagetop