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イベントレポート

「京大インキュベーター「IHK」で医療ヘルスケア・イノベーションを起こす! ~スタートアップの本音2021~」を開催(9/28)

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2021年9月28日、LINK-Jはオンラインにて、第18回目となるLINK-Jネットワーキング・トークシリーズとして、「京大インキュベーター「IHK」で医療ヘルスケア・イノベーションを起こす!~スタートアップの本音2021~」を開催しました。
2017年に開所したイノベーションハブ京都(IHK)とLINK-Jは三井不動産を交えた共同研究を行っており、開所当時から連携の一貫で毎年イベントを開催しています。4回目となる今回は、サイアス、AFIテクノロジー、マイオリッジ、リジェネフロの4社にご登壇頂き、各事業の進捗についてご紹介頂き、インキュベーション施設の課題についてディスカッションを行いました。

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【登壇者】
京都大学大学院医学研究科「医学領域」産学連携推進機構 特任教授 山本 博一氏
サイアス株式会社 代表取締役(CEO/CTO) 等 泰道氏
株式会社AFIテクノロジー 代表取締役社長 円城寺 隆治氏
株式会社マイオリッジ 代表取締役社長 牧田 直大氏
リジェネフロ株式会社 代表取締役社長 石切山 俊博氏
LINK-J事務局長 兼 三井不動産株式会社 ライフサイエンス・イノベーション推進部長 三枝 寛
【モデレーター】
京都大学大学院医学研究科「医学領域」産学連携推進機構 特定講師 山口 太郎氏
【パネリスト】
京都大学大学院医学研究科「医学領域」産学連携推進機構 副機構長(特任教授)寺西 豊氏

イノベーションハブ京都のご紹介「京都大学における医療ヘルスケア・スタートアップの創出・育成」
(京都大学大学院医学研究科「医学領域」産学連携推進機構 特任教授 山本 博一氏)

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イノベーションハブ京都(以下、IHKと記載)は、京大医学研究科が運営する、スタートアップを創出・育成するためのインキュベーション施設です。
IHKは医学・病院・薬学地区にある医薬総合研究棟の3F、4Fにあり、P2、BSL2レベルの実験室とオフィスを備えています。入居企業は、医学研究科が用意した最先端の分析機器、および棟内にある動物飼育実験施設を利用することが出来ます。医療ヘルスケアに特化した起業家人材育成プログラム(HiDEP)も開催しており、現在オンラインで実施されています。
IHKには入居企業の成長ステージに合わせ、安価に利用出来るシェアオフィスや、実験機器付きのシェアラボといった「共用タイプ」、また入居企業が単独で利用できるアントレプレナー・ラボ、アライアンス・ラボなどの「専用タイプ」のラボとオフィスが用意されています。
入居企業は26社(2021年5月時点)で、再生医療、細胞治療、創薬などが多く、大学の研究成果による創業、あるいは京都大学との共同研究実施などが入居条件で、入居期間は原則5年となっています。設立以来4年間、ほぼ満室の状態で推移しており、ご紹介いただいた山本氏は「IHK卒業生の受け入れ先として、他の民間施設との連携も今後行っていきたい」と述べられました。

iPS細胞由来T細胞を用いたがん免疫細胞療法の実用化に向けて
サイアス株式会社 代表取締役(CEO/CTO) 等 泰道氏

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サイアス社は、ヒトiPS細胞からT細胞を再生し、がんや感染症に対する再生免疫細胞療法の製剤の事業化を目指すスタートアップです。
今、同種のiPS細胞、またはNK細胞由来の免疫細胞治療が注目されており、若返り(ナイーブT細胞)、品質の均一性、ユニバーサル性を持った技術として、低コストで1000人~10000人分以上をカバーすると期待されています。近年は、CAR-T、CAR-NK、TCR-T細胞などの免疫細胞を扱ったバイオベンチャーと大手製薬会社とのアライアンスが増加しており、R&Dのニュースが報告されています。 同社はCiRAの金子先生の技術であるT細胞分化技術を用いて創業。昨年、ファイナンスを強化するため代表取締役を2名体制に変更し、CiRAの研究員や大手製薬企業からの人材なども入れ、ライセンス導出または共同開発に向けて進められています。
等氏は、患者へ移入したCAR-T治療細胞のうち、ナイーブ・メモリータイプのT細胞の比率が高い場合、治療成績が良好であることから、サイアスで作製する細胞(iPS-T®)の品質の良さや若返り、強力な腫瘍細胞へ障害性を示されました。
細胞製品として、腫瘍抗原特異的TCRを導入した同種のiPS細胞由来のT細胞を用いたもの、個別化したユニバーサルiPS細胞由来の細胞を用いた治療製剤へのパイプラインを進められています。

微粒子分離技術「AMATAR®️」によるライフサイエンスへの挑戦
(株式会社AFIテクノロジー 代表取締役社長 円城寺 隆治氏)

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AFIテクノロジー社は、2013年に大阪で設立し、神戸や京都なども含めた拠点で事業を展開されている、微生物迅速検査装置の製造・販売している企業です。
コンセプトは、「数多(あまた)の細胞の中から、欲しい細胞だけを無傷で取り出す」。
独自の微粒子分離技術(AMATAR®)を用いて、検出装置やロボット、試薬等を開発されています。この技術を搭載した装置、PixeeMo®は主に細菌検査市場で活用されており、今年の夏に販売開始したCROSSORTER®は、再生医療や細胞治療などをされている方をターゲットに、例えば血中のがん細胞の検出などが抗体や標識物を使わないラベルフリーでできるのが特徴です。食品・飲料をはじめ、製薬・臨床、化粧品・ヘルスケア、環境・資源など幅広い分野への応用が可能です。
また、無人化・自動化の流れを汲んで、LAXIM™という全自動前処理装置システム(ロボット)の開発や、AIを使った画像解析を行った微生物菌種推定サービスも行っている。
円城寺氏は、米国で標準化の認証を得るなど、事業課題の解決に努めていきたいと述べられました。

iPS細胞由来心筋細胞と培地開発技術
株式会社マイオリッジ 代表取締役社長 牧田 直大氏

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マイオリッジ社はiPS細胞由来の心筋細胞を用いた細胞製品を作製しています。
牧田氏は、「細胞培養をする際には、必ずスケールアップの問題があり、装置や培地、操作方法、基材など広い視野で課題を解決する必要がある」と述べられ、この課題を解決するための事業の柱として下記の3つについてご紹介頂きました。
① 培地開発、②iPS細胞由来の心筋細胞(再生医療)、③iPS細胞由来心筋細胞(創薬支援) 培地コストは、サイトカインが全体の90%以上を占めているが、同社の細胞培養ではサイトカインを使わず、低分子化合物とアミノ酸のみで心筋誘導しているため、コストは1/100にすることを成功。培地開発には、AIを利用しており、目的ごとや患者ごとに対して、最適な培地組成を3か月程度で見つけることができるシステムを開発されました。
再生医療への応用として、心筋分化誘導法を米国のAvery Therapeutics社へ導出し、現地にて細胞を生産し、細胞保護作用を保持する線維芽細胞を生体吸収性バイオマテリアルに包埋した細胞製品開発を実施しています。
創薬支援分野では、拍動と同時に光る心筋細胞を販売しており、ハイスループットな薬剤応答試験が可能で、ミトコンドリアセンサーと心筋細胞での糖尿病合併症モデルについて、大学との共同研究も進めていることを紹介されました。

腎疾患に対する様々なソリューションを開発し社会に貢献する
(リジェネフロ株式会社 代表取締役社長 石切山 俊博氏)

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リジェネフロ社は、2019年に京都大学の長船健二教授によって創設された、腎疾患に対する様々なソリューションで研究開発を進めているスタートアップです。創薬研究に関わる人材で事業を展開しており、石切山氏も医薬品企業と経営を経験されています。
国内の慢性腎臓病(CKD)患者は約1300万人、透析療法を必要とするのは34万人以上とされる社会的な問題で、本質的な治療薬の開発には成功していない状況です。
同社は、ヒトiPS細胞由来のネフロン前駆細胞(iNPC)を分化誘導する基盤技術を持っており、壊れた腎臓の修復を担う、世界初の細胞医療の開発を目指しています。
ネフロン前駆細胞は、腎臓の前駆細胞のひとつで、糸球体と尿細管に分化する細胞。100倍以上への拡大培養が可能で、急性腎臓障害のモデルマウスに移植をし、腎障害を改善することが示されています。CKDモデルマウスを開発し、腎疾患に対する再生医療に対する糸口が見えてきました。石切山氏は、「まず、移植腎におこるCKD進行抑制(First in human試験)で実施して条件付き早期承認を目指し、固有腎におこるCKDの進行抑制に適応拡大していきたい」と述べられました。
製造プロセスは、キリンホールディングス、日機装(株)、(株)アビー社、島津製作所と各プロセスの専門性を活かした連携と共同体制を構築しています。
また、ポートフォリオの拡大として、ADPKD治療薬や移植用腎臓再構築の研究も進められています。

LINK-Jと三井リンクラボの取り組みについて
(LINK-J事務局長 兼 三井不動産株式会社 ライフサイエンス・イノベーション推進部長 三枝 寛)

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三枝氏は、LINK-Jおよび三井不動産の取り組みとして、事業の骨子や目的について説明しました。特に、ラボ施設の紹介として、三井リンクラボとして、葛西、新木場1に続き、第二弾として新木場エリアでの新しい建設を予定していることや、柏の葉でのシーズ近接型賃貸ラボ&オフィスについても述べられました。また、本イベントのテーマでもある、「成長を続けるスタートアップに対応したインキュベーション施設の在り方」に関連する事例として、三井不動産が運営受託をしている東京大学のアントレプレナー・ラボから三井リンクラボ新木場へ入居されたスタートアップ企業「オリシロジェノミクス株式会社」の事業内容や入居理由についても紹介しました。

パネルディスカッション

上記登壇者6名に加えパネリストとして、京都大学大学院医学研究科「医学領域」産学連携推進機構 副機構長の寺西様も参加され、ご挨拶の後、同産学連携推進機構の山口氏をモデレーターとしてパネルディスカッションを行いました。

寺西様からは、スタートアップの支援として、大学のみならず民間も含めた支援体制や連携が重要であること、本セミナーを契機に多くの方に参画いただきたいと述べられました。

山口:一つのインキュベーターのみで、スタートアップの全てのステージをカバーするのは難しく、IHKでは5年間という期限やスペースの問題もあります。ラボ施設同士の連携という視点でご意見ください。

三枝:LINK-Jはその課題に応えるための組織で、エコシステムをつくり、スタートアップの成長を支援していくことを目指しています。スタートアップの成長に不可欠である資金の提供者である、VCの方ともうまく協業していくことを考えています。施設の面では、既に説明した、東大のアントレプレナー・ラボから新木場のラボへ移っていただいているケースのように、IHKのような施設を卒業するスタートアップの受け皿をつくっていこうと思っています。今後ですが、大阪の都心である中之島にも、スタートアップ向けウェットラボを備えた施設を作る予定ですし、できれば、関西でも東京のような展開ができないかを検討しているところです。

等:連携をとることは重要ですが、別施設に試料を運ぶのは難しいので、連携というよりも、複数個所の拠点をもつことになると思うが、資金的な課題が出てきます。

円城寺:施設を渡り歩いてきた立場で意見を述べると、共通機器として装置が必ずあるわけではないため、共通の装置が揃っているとありがたい。

牧田:共通機器については、IHKを出たときにも、引き続き共通機器を使いたい。

石切山:IHKは地理的な面、設備、ソフト面含め、手厚く、恩恵を受けていると思います。民間を含め、京大の周囲に同じような施設があると嬉しい。

寺西:IHKの共通機器は、外部の方でも大学に手続きをすれば使うことができます。動物飼育施設については、外部からの感染の問題があるため、現在は行っていませんが、検討していきたいです。起業直後のスタートアップをサポートし、ステップアップした企業には民間の方に行くのが良いのではと考えています。

山口氏:インキュベーション施設の利用に関して、これがあったので成長できた、こんな機能があればというところはありますか。

石切山:アーリーの段階からCiRAとの協力を密接に行うことができました。

牧田:中規模のラボを確保するのは難しく、細胞培養できるところで、一定以上の広さがほしい。5年という期限は然るべき時間で成長にとってはいい方向に働いていると思います。

円城寺:10年でも成長しきれないのがライフサイエンス分野ではあるが、次のスタートアップさんが控えているのは重要なこと。5年という期間は正当な数字だと思う。ただ、他にも施設があるとよい。

等:IHKに関しては、京大の中にあるため、CiRAの先生方に会うのが容易で、病院が目の前にあり、臨床医の先生方にも会うことができます。iPS細胞由来の治験もしやすい。動物施設をもったラボは少ないが、創薬ベンチャーにとっては必要なものです。資金的なサポートを得るのが欧米に比べて遅いので、入居期限は長い方がありがたい。米国ではラボが多く、インキュベーション施設でなくても、借りることができ、動物も入れることができる。欧米では多様なウェットラボがあることが助かっていました。

寺西:普通の住宅を改造してラボにしたようなものが欧米にはあるが、なぜ日本ではできないのでしょうか。

三枝:ラボ施設建設にあたる様々な制度から日本は欧米とは異なります。米国ではJ-Labや Lab Centralなど有名なものが幾つもあしますが、州の補助金やスポンサーの存在があって成立しているという面があります。日本において大学キャンパス以外でラボ施設が少ないのは、採算性などを検討し始めると困難だから、という現状があります。その課題に対し、工夫を凝らし突破するのが我々の使命と考えています。

山口氏:入居企業同士のコミュニケーションに関してはどうですか?

牧田:サイアスさんとは研究者間で情報交換やアドバイス頂いています。

等:おもしろい技術をお持ちの方には積極的にお話を聞かせて頂いています。コラボレーションのためにも、資金的な体力が必要で。お金があればもっとできたのではと考えることがあります。コロナでコミュニケーションの機会が減っていますが、今後に期待しています。

円城寺:技術的なやり取りをさせて頂いている。技術だけでなく、投資状況などの相談や、似たようなフェーズの方がいると、相談しやすいです。

石切山:aceRNA Technologiesの進社長には、契約の仕方や資金調達の仕方など教えていただき、IHK入居に関するアドバイスいただきましたが、これもIHKのネットワークのおかげですね。

本イベントへご視聴いただいた皆様誠にありがとうございました。次回のネットワーキング・トークへのご参加お待ちしております。

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