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インタビュー・コラム

【News Letter】ライフサイエンス系ベンチャー企業の エコシステムの変遷と"今"

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この投稿記事は、LINK-J特別会員様向けに発行しているニュースレターvol.9のインタビュー記事を掲載しております。
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革新的なアイデア・技術を持つベンチャー企業。そのベンチャーを資金面や事業戦略面でサポートするVC、アドバイザー、大手企業。ライフサイエンス系ベンチャーと周辺プレイヤーの間には、どのようなエコシステムが存在し、時代の変遷とともに発展してきたのでしょうか。医療機器分野と創薬・バイオ分野に精通する2人に伺いました。

―― まず、現在の仕事についてお教えください。

大下 VCのMedVenture Partners株式会社で、医療機器を専門にシード、アーリーステージを中心に、開発プロジェクトやベンチャー企業を対象とした投資をしています。

渡辺 私はローカスト・ウォーク・ジャパンでライフサイエンスに特化したアドバイザーの仕事をしています。日本や中国、韓国等アジア市場への進出を検討している欧米のバイオベンチャーや自社のパイプラインを欧米に導出したい日本のバイオベンチャー等が主な顧客です。投資といった形ではなく、ライセンス契約や資金調達といったアドバイザリー業務を行っています。現在、製薬企業同士のパイプラインを導出・導入するといったオープンイノベーション活動がグローバルに盛んなため、国内外問わず、お問い合わせは非常に多く、おかげ様で忙しくさせて頂いています。

― どのようなご経歴をたどり、ベンチャーと関わるようになったのでしょうか?

大下 1997年から、医療機器商社で海外ベンチャーの輸入代理権を獲得する仕事に携わっていたのですが、代理権取得にあたって出資を求められることが多く、そこで投資にも関わるようになりました。交渉先の多くがエグジットに成功しているのを見て、投資そのものに興味を持つようになり、VCに転職しました。医療機器企業での新規事業の経緯とVCでの投資経験が合計20年ほどあり、その間、医療機器の2大拠点シリコンバレーとミネソタのベンチャーと仕事をしてきました。

渡辺 私は20年前に証券会社でキャリアをスタートしました。その頃、ちょうど製薬大手の再編が始まって、3年間アドバイザリーとしてM&Aに携わることとなりました。その後、銀行に転職して投資の世界に入り、マネジメントバイアウト(MBO)や企業再生等の案件に数多く関わりました。バイオや創薬ベンチャーに本格的に関わり出したのはその後で、産業革新機構や米系VCで、アーリーステージのバイオベンチャーへの投資や、大学発ベンチャーの立ち上げに数社関わりました。

0100.jpg渡辺 勇人 氏(ローカスト・ウォーク・ジャパン合同会社)

「シリアルアントレプレナー」がエコシステムを循環させる

― 医療機器、バイオ・創薬、それぞれの分野でベンチャーとエコシステムの変遷について振り返っていただけますか?

大下 私はアメリカの医療機器ベンチャーとの業務経験が長いのですが、アメリカではシリコンバレーやミネソタが医療機器ベンチャーの誕生の地として有名です。シリコンバレーではバルーンカテーテルが開発され、一方、ミネソタ大学ではペースメーカーが開発されました。その後、ミネソタでメドトロニックが誕生するなど、多くのベンチャー企業は錚々たる大企業に発展するわけですが、こうした画期的な製品が大成功すると、それにインスパイアされる起業家が次々現れ、ベンチャー市場は活気づいていきました。アメリカにおける医療機器ベンチャーのエコシステムは、80年代にスタートしたと言えます。

― 当時のベンチャーは主にIPOによって成長していったのでしょうか?

大下 そうです。ベンチャーの出口は上場かM&Aですが、その頃は上場して製品を自ら販売するのが主流でした。ところが2000年初頭にITバブル崩壊の影響で市場が混乱し、容易に上場できない状況になると、一気にM&Aに移ったのです。これは、ある意味自然な流れでした。なぜならベンチャーの創業者は技術者で、販売は不得意。大手に販売を任せられるM&Aは、効率的だったのです。

大手企業もスピードが必要な革新的な製品は、自社開発するよりも買収の方が効率的だと気付きます。投資家にとっても、市場の状況に左右されるIPOと違って瞬時にリターンが入るM&Aは魅力的です。こうして三者が揃ってM&Aを志向するようになりました。ただ、ベンチャーの自由なカルチャーに染まった人は、大企業で管理されることを好みません。M&Aが終了したら、辞めて新しい研究開発に着手し、目途がついたらまた会社を売る。そうやってエコシステムを循環させてきたのです。

渡辺 創薬も同様ですね。私の顧客の多くは欧米のバイオベンチャーですが、その半分以上が、CEOはNYに居て研究所はサンディエゴにあるというような状況にあります。企業というよりも一つのプロジェクトを回しているといった感じですから、起業家は事業が売却できればまた次のことに取り組む風潮があります。

― 開発者は何度も起業する。「シリアルアントレプレナー」ですね。

大下 はい。私の投資先だったシリコンバレーの医師は、脳動脈瘤治療のステントから始まって6つのベンチャーに関わり、それぞれを成功に導きました。最初の起業で大成功したことから、彼のところにはシリコンバレー中から優れたアイデアが集まるようになり、その中から最も卓越したアイデアを選んで起業を繰り返すことができたのです。私を含めた周りの投資家も、「あの彼がまたやるなら」と信じて再投資しますから、良い技術者も資金も居ながらにして集まる。シリアルアントレプレナーが成功するのには理由があるのです。

渡辺 それはまさに「エコシステム」ですね。一人の成功者の周りに優秀な人材が集まることで形成される一種のエコシステムは、日本のIT業界でも10年程前から見られるようになりました。日本のライフサイエンス業界でもあと数年で同じ動きが必ず出てくるはずです。成功した起業家が後進を指導して、エコシステムが好循環するようになることを期待しています。

0016.jpg大下 創 氏(MedVenture Partners株式会社)

創薬・バイオベンチャーは人材の流動性を高めるべき

― 渡辺さんは日本の創薬・バイオベンチャーの変遷をどうご覧になっていますか?

渡辺 2000年ごろから、大学の研究成果を民間事業者に技術移転するTLOブームや経済産業省主導の『大学発ベンチャー1000社構想』があり、ベンチャーの起業が増えました。バイオ関連に限ると500~600社が設立されています。しかし、「600社止まり」とも言えます。さらにその中で創薬に関わっているのは100社。その内上場したのが40社弱で、現在、時価総額は合わせて3兆円弱です。

中には時価総額が5000~6000億円に達したペプチドリームや、一時期3000億円につけたサンバイオなど成功した企業もありますが、バイオベンチャー黎明期から20年経って、実際の治療薬を作るまでに至ったのが3、4社に留まることは、残念です。また問題なのは、業績が悪い会社も起業以来そのまま存続していること。日本ではベンチャー企業を潰さない傾向があるのです。むしろスクラップ&ビルドで会社や人の流動性を高め新陳代謝を促した方が、エコシステムの側面からみてもメリットが大きいと感じています。

― 日本のバイオベンチャー業界ではIPOが成功の証と捉えられているようですが、これはなぜだとお考えになりますか?

渡辺 シーズや会社の志向もあり一概には言えませんが、IPOの主たる目的は資金調達でしょう。ただし日本では、本当の意味で上場のメリットを享受できるのは、機関投資家も多い東証一部に上場してから。個人投資家が中心のマザーズでは、時価総額の振れ幅が大き過ぎます。IPO、M&A以外の資金調達方法としては、ライセンス契約等でマイルストーンやロイヤリティ収入を得て、その資金を開発や次の製品開発に振り向ける方法もあります。複数のパイプラインを持つベンチャーにとっては、この方法が理想的かもしれません。

見えてきた成功の兆しを次なる成功へ

― ここ最近、日本のベンチャー市場で特徴的な動きはありますか?

大下 5、6年前まで日本には医療機器のベンチャーも医療機器を対象としたVCもない状況でした。そこで国が医療機器分野の発展の絵を描き、それを受けて産業革新機構がファンドを拠出するVCの設立を模索。その結果2013年11月に誕生したのがMedVenture Partnersです。VCを先に作ることで起業を促進する目論見が奏功し、ここ数年シーズが順調に育っています。60億円の1号ファンドで12件に投資し、内4件がエグジットしています。特に、国内で大きな成果を挙げたのは、脳梗塞治療用ステント型血栓回収カテーテルを開発したバイオメディカルソリューションズです。ベンチャーが最もリスクの高い「クラスⅣ」で承認を受け、エグジットも成功した初めての事例だと思います。同領域で世界トップ3に入るテルモがその技術力を評価し、日本における独占販売契約を結びました。

渡辺 最近ようやく日本のベンチャーが、国内外の大手に評価され始めましたね。核酸創薬のステリック再生医科学研究所が田辺三菱製薬に買収されたのも、東京農工大学発ベンチャーのティムスが急性期脳卒中治療薬を米大手バイオ企業バイオジェンに導出したのも、うれしいニュースでした。創薬、新薬市場でみると、本来日本はアメリカに次いでNo.2のマーケット。これまで日本のバイオベンチャーは欧米からすると投資先として不十分と見られていましたが、エグジットのn数が増えてくれば注目度も上がるのではないでしょうか。

大下 起業家育成の動きも活発化していますね。スタンフォード大学発のプログラム『バイオデザイン』が日本でも展開され、主に、30代の若手医師や技術者が集まっています。医療機器はユーザーである医師のニーズからイノベーションが起こることが多いのですが、事業化を理解した医師や技術者を育成することは重要であり、多くの若手が起業をめざしてくれる現状は頼もしいことです。

渡辺 スタンフォード大学には製薬バイオ系としてアカデミア創薬を支援する『SPARK』というプログラムがあり、日本の国公立・私立大学が参加しています。これにより、政府の補助金でも製薬企業との共同研究でもない第3の道として、ベンチャーの起業への意識が研究者の間で高まっています。

― 最後に、今後日本のベンチャー企業やLINK-Jへのアドバイスがあればお話しください。

渡辺 エコシステムを見るとき、今後は国内のみならずグローバルに目を向けることが必要です。近年、米国で教育を受けてそのまま就職した中国人研究者が米中間にネットワークを作り、米中のヘルスケア分野のコアを押さえています。米中で一つのエコシステムが構築されつつあり、日本もその中に入らなければ遅れをとることになりかねません。中国も医薬品開発のプロセスの水準の向上に伴い、国際共同治験に参画出来る体制が整いつつあります。民族差等を勘案すると日本と中国の国際共同開発にはメリットはあります。創薬ベンチャーは、中国の製薬メーカーとの協力も模索するべきでしょう。我々も中国市場への橋渡しを支援します。

大下 "成功事例が次の成功を呼ぶ好循環"を起こすには、優秀な人材の集積地が必要です。先に成功事例として挙げたバイオメディカルソリューションズは、LINK-Jのお膝元、日本橋ライフサイエンスビルディングに本社があり、日本橋は集積地としてのポテンシャルを高めています。これを機に、LINK-Jにはさらにオープンイノベーションの機運を盛り上げていただきたいですね。

oshita.png大下 創 氏
法政大学大院経営学専攻修士課程修了MBA大阪外国語大学外国語学部卒業97年、医療機器商社時代にベンチャーとの接点をもつ。その後、VCで米国医療機器ベンチャーへの投資を担当。その多くでリードインベスターとして関与。中でも、脳動脈瘤治療で世界最先端の製品となるPipeline Stentを開発した Chestnut Medical では、開発初期から投資を実行。リードインベスターを務めるとともに、経営にも深く関与。2013年11月、MedVenture Partners 設立後、国内外の医療機器ベンチャー12社に投資を実行。4件はエグジットを達成。

watanabe.png渡辺 勇人 氏
一橋大学大学院法学研究科修了。CFA協会認定証券アナリスト99年から3年間、証券会社で製薬企業等のM&Aに関わる。その後、銀行や証券会社の投資部隊で資金調達、MBO等の投資業務に携わる。産業革新機構時代よりバイオ・創薬ベンチャーとの関わりを持ち、アーリーステージや再生医療分野での投資を担当。その後、フィデリティの自己勘定投資部門であるEight Roads Ventureでも日本のバイオベンチャー2社の設立・投資に関わる。現在は、米国ボストンに拠点を持つローカスト・ウォークのアジア代表として主にバイオベンチャーを対象にグローバルな事業開発等アドバイザリーを行う。

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