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インタビュー・コラム

アカデミア発ライフサイエンスイノベーター発掘プログラム2023 国立がん研究センター東病院推薦 PALATOROID

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メドテック領域で事業化を検討中の研究者/または事業化したばかりの研究者を支援するプログラム「アカデミア発ライフサイエンスイノベーター発掘プログラム」。その締め括りを飾る成果発表会が、2024年3月26日、日本橋ライフサイエンスビルディング大会議室で開催されました。発表会場には、産学を代表する関係者が多数来場し、独創性あふれる成果報告(ピッチ)に耳を傾けました。そこで今回は、本プログラムに挑戦した研究者チームの皆様に、いま事業化に挑戦している研究内容、本プログラムに参加してみた感想、将来の展望などについてお聞きしました。 ※ピッチコンテスト全体についてお知りになりたい方はこちら

シリーズ: アカデミア発ライフサイエンスイノベーター発掘プログラム2023 Demo Day出場チームに話を聞く

   ・東北大学推薦 アイラト株式会社 
   ・大阪大学推薦 大阪大学 Cool Flash
   ・名古屋大学MIU推薦 名古屋大学 人間拡張・手の外科学
   ・名古屋大学MIU推薦 株式会社BeLiebe
   ・慶應義塾大学推薦 株式会社Gifts
   ・国立がん研究センター東病院推薦 PALATOROID
(登壇順)

第5回は、国立がん研究センター東病院が推薦する「PALATOROID」を紹介します。

毛利 美貴先生(代表者)

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――挑戦中の事業内容について教えてください。

がん治療で喉頭を摘出したり、人工呼吸器につながれることで、発話できない状態の患者さんのための、代用音声の開発に挑戦しています。従来の代用音声は、習得に訓練が必要であったり、全身麻酔科下での手術を要したり、装置自体が発する音がうるさく、かつ機械のような抑揚のない音声になるといった課題がありました。私たちが目指しているのは非侵襲的で、自然で抑揚のある発語が可能となるデバイスの開発です。

現在の代用音声

代用音声 概要
食道発声 食道から空気を逆流させて発声します。機械も手術も不要ですが、習得にはある程度訓練が必要なこと、体力のない患者さんは習得が難しいとされます。
シャント発声 気管と食道の間に穴を開けて、器具(シャント)を装着します。比較的自然で抑揚のある発声が可能になりますが、全身麻酔下による特殊な手術が必要です。
電気式人工喉頭 ブザーのような振動音を出す機械を喉に当てて人工的に喉頭原音を再現します。非侵襲的ですが音がうるさく、抑揚のない機械のような音声になります。

国内の喉頭摘出患者さんの数は、年間約2万人に上ります。喉頭摘出患者さんの約9割は、術後の生活に不自由さを感じており、社会的・経済的に苦しい立場にあるといわれています。また、喉頭摘出患者さん以外では、長期入院および在宅管理で人工呼吸管理を必要とする患者さんも、月1万6千人に上ります。 人工呼吸器を装着すると、症状や痛みを訴えることができないため、患者さんと医師の双方にストレスになるとの報告もあります。

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わたしは子供の頃から、形成外科の世界に興味を持っていました。医学部卒業後は、杏林大学医学部形成外科に入局すると、顔面をはじめとする身体の形態の改善を目的とした手術や、機能の改善を目的とした手術が多く存在していることを学びました。一方で、頭頚部の腫瘍を切除するような手術では、形態を改善することはできても、声を再建することは難しいという現実を知りました。私は音楽が趣味で、歌ったり音を編集したりするのが好きなのですが、その活動を通して知った音声合成技術を応用すれば、この現状を変えられるのではないかと思いました。 これが、プロジェクトの発想の原点になっています。

――開発中の音声技術について詳しく教えてください。

人間の声は、声帯(喉頭)の時点では、ただの振動音(喉頭原音)です。この振動音が、声道(咽頭、口腔、鼻腔)を通過して声 になり、舌や口唇で調音されて「言葉」になります。一般的な電気式人工喉頭は、ブザーのような振動音を生み出す機械を喉に直接当てることで喉頭原音を作り出し、音声を生み出します。手術不要で非侵襲的ですが、振動音そのものが異質で耳障りな音なのと、抑揚のない声になるのが課題でした。

私たちのアイデアは、「ヒトの耳に聞こえない程度の振動音」で発話したものを、音声合成に変換して出力するというものです。従来の電気式人工喉頭のような耳障りな振動音なく、自然で抑揚のある音声だけが周囲に聞こえる状態を目指しています。

――これまでの進捗状況について教えてください。

2年前にエンジニアの石川大洋さんと組んでチームを結成しました。国立がん研究センターが推進する「NCC VIP(National Cancer Center Venture Incubation Program)」にも応募し、昨年採択されました。同プログラムを通じて、暦本純一先生(東京大学)をご紹介頂き、現在は暦本先生と共に試作機の開発に向けた研究が進行中です。実は、イノベーター発掘プログラムをご紹介頂いた頃は、まだ試作機を作る目処も立っていませんでしたが、プログラムの参加を通じて多くの方にご支援を頂き、計画も大きく進捗しました。

――イノベーター発掘プログラムについて、参加された感想を教えてください。

国立がん研究センター東病院の先生のご紹介が、参加のきっかけでした。これまでは、内輪でのプレゼンしか経験がなく、こうしたプログラムを通じてプレゼンの経験を重ねることは、自分たちの考え方をまとめる良い機会にもなると考えて、参加を決意しました。最初の選考時点で、既に他のチームの皆様は、試作機まで用意して素晴らしいプレゼンを披露されていたのに対して、私たちはまだ試作機も何も用意できない段階。半ば諦めていたので、最終選考で名前を呼ばれた時は、本当に驚きました。

メンタリングは、内田毅彦さん(サナメディ(株))にご担当頂きましたが、特許に関する勉強をしたり、弁理士をご紹介頂いたりと、非常に親身にご支援頂きました。プレゼンについても、わたし自身あまり得意な方ではなく、内輪でプレゼンをしていた頃は、何度も説明をしてようやく理解してもらえるレベルでしたが、内田さんに様々なご助言を頂いたおかげで、徐々にプレゼンのレベルも向上しました。

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――今後の展望について教えてください。

今回のプログラムへの参加が、口腔内に設置する電気式人工喉頭であるVoiceRetrieverを開発している歯科医の山田大志先生(東京医科歯科大学)と知り合うきっかけになりました。東京大学の暦本先生に加えて、今後は山田先生とも共同で開発を進めていくことになり、先日、試作機を用いた原理実証にも成功しました。口から配線が出ているところを改善したり、出力する音声の質を向上させたりしていく必要がありますが、ご協力いただける患者さんがいれば、今後にはかなり期待できると思っています。また、将来的には、海外への進出も検討しています。

出場チーム紹介 PALATOROID

PALATOROIDは、形成外科医の毛利美貴さんが代表者を務める、合成音声技術による「声の再建」を目指す事業化チームです。喉頭摘出術や人工呼吸器の装着などで、発声ができない人のための代替音声装置の開発に挑戦しています。人の耳には聞こえない小さな発語を拾い上げ、単語および文章に自動変換します。従来の電気式人工喉頭と比べると、振動音がなくなり、自然な抑揚を作れます。

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