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インタビュー・コラム

アカデミア発ライフサイエンスイノベーター発掘プログラム2023 名古屋大学推薦 株式会社BeLiebe

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メドテック領域で事業化を検討中の研究者/または事業化したばかりの研究者を支援するプログラム「アカデミア発ライフサイエンスイノベーター発掘プログラム」。その締め括りを飾る成果発表会が、2024年3月26日、日本橋ライフサイエンスビルディング大会議室で開催されました。発表会場には、産学を代表する関係者が多数来場し、独創性あふれる成果報告(ピッチ)に耳を傾けました。そこで今回は、本プログラムに挑戦した研究者チームの皆様に、いま事業化に挑戦している研究内容、本プログラムに参加してみた感想、将来の展望などについてお聞きしました。 ※ピッチコンテスト全体についてお知りになりたい方はこちら

シリーズ: アカデミア発ライフサイエンスイノベーター発掘プログラム2023 Demo Day出場チームに話を聞く

   ・東北大学推薦 アイラト株式会社 
   ・大阪大学推薦 大阪大学 Cool Flash
   ・名古屋大学MIU推薦 名古屋大学 人間拡張・手の外科学
   ・名古屋大学MIU推薦 株式会社BeLiebe
   ・慶應義塾大学推薦 株式会社Gifts
   ・国立がん研究センター東病院推薦 PALATOROID
(登壇順)

第6回は、名古屋大学が推薦する「株式会社BeLiebe」を紹介します。

志賀遥菜さん(代表取締役CEO)

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――現在の事業内容について教えてください。

いま我々は、女性の健康問題に関する2つのサービスを提供しています。1つは、女性の妊孕力を可視化する「EggU(エッグ)」です。AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査による卵巣予備能検査と質問票の組み合わせで、現在の妊孕力を可視化します。検査自体は簡単で、当社からお送りする検査キットを使って、指先の血を自己採血して返送するだけ。当社サービスの特徴は、ただ検査結果をお返しするだけではなく、オンラインによるカウンセリングも提供することです。カウンセリングの内容も、検査結果の見方に加えて、医学的な情報提供から、今後の仕事・キャリアに関する内容まで多岐にわたります。

もう1つのサービスは、月経・不妊治療・更年期など、女性特有の健康問題に対策を講じたい、企業向けのカスタマイズサービス「Fmaj(エフメジャー)」です。こちらは女性の健康経営という文脈による、トータルサービスになります。企業から依頼を受けて、社内における女性特有の健康課題の調査と課題の抽出を行い、さらに我々自身で解決策の提案を行います。企業側の要望があれば、解決策の実行も我々で実施します。「EggU」は、二十代から三十代の女性が中心になるのに対して、「Fmaj」は、より幅広い年齢層の女性社員が対象になるので、後者の方が導入しやすいと考えていらっしゃる企業も多いように思います。

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――ご自身で事業を始めることになったきっかけは何でしょうか?

大学では生命科学領域の研究をしており、乳がんや白血病など、アンメットニーズの高い疾患のメカニズムを研究していました。研究自体は大好きでしたが、次第に「論文を書くための研究」に没頭していることに疑問を持ち始めました。そこで一旦大学を離れて、研究の社会実装について学ぶため、就職を決意。就職後は、事業会社でキャリアを重ねて、3年目には海外赴任も考えるようになりました。そこでふと「今から海外赴任を始めて、帰国してから結婚・出産をするのは妊娠リミットの観点から難しいのでは」と思い始めました。ライフステージのことを考えながらキャリアを考えなければならないところに疑問を感じ、それまでずっと考えてきた「研究の社会実装」と、晩婚化・晩産化という社会問題を軸に、起業を選択しました。

――最初に事業化を思い立ってから起業までどれくらいかかりましたか?

2年かかりました。1年目は本当にアイデアだけ。卵子検査キット を作っても本当に需要があるのかわからず、市場性をネットで調べたり、潜在顧客にインタビューをする日々でした。2年目からは、実際に製造などの検討も始めました。といっても、自社で工場を持てるはずもなく、製造委託をできるアテも人脈もなし。そんな頃、経済産業省と日本貿易振興機構(JETRO)のイノベーター支援プログラムを通じて知り合った、スタートアップの知人から「キットを作ってくれそうな会社があったよ!」と連絡をもらい、急に道が開けました。もっとも、当時はAMH検査 自体が社会にあまり浸透しておらず、どれだけ数が売れるのか見当もつかない状況でした。

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――現在の事業規模について教えてください。

事業自体は順調に拡大しており、現在は約20名の組織で運営をしています。陣容としては、産婦人科医と看護師・助産師によるメディカルチームを中心に、様々なチームを配置しています。最近は、当社のPR活動のための広報チームも結成しました。女性の健康問題については、企業の力だけでなく、行政を通じて社会全体が認識・行動することが大切だと考え、行政との関係構築のための「行政リレーションチーム」も作りました。利用者は働く女性が多いので、今後の仕事やキャリアについて相談できるキャリアカウンセラーも常駐しています。

――たしかに、社会全体がこの問題について認識することは大切ですね。

性別問わずこの問題を認識することが重要だと思いますし、啓発活動は絶対に展開したいですね。実は1年前に、起業家仲間でコテージを借りて、挑戦中の事業について一晩中語り合うという機会があったのですが、そこで男性の起業家に「今日までずっと仕事に打ち込んでいたら、いざ自分たちが子供を望もうとしたときに中々うまくいかなかった 。もっと早くこの問題を知っていたら...」と告白されました。そして「この問題が社会全体の課題として認知され、男性も知る機会を作ってほしい」といわれた時は、胸が熱くなりましたし、頑張らないと!と決意を新たにしました。

――イノベーター発掘プログラムについて、参加された感想を教えてください。

我々はいま、名古屋市鶴舞にあるオープンイノベーション拠点「STATION Ai」を利用しており、その中のオフィスアワーのプログラムで深井昌克先生(名古屋大学メディカルイノベーション推進室特任教授)に出会い、面会の機会が持てました。深井先生から「こんなプログラムがあるけど、応募してみないか?」と紹介されたのが、参加のきっかけでした。当社は、大学発ベンチャーはないので、最初は「参加資格があるのかな?」と不安でしたが、運営事務局に相談すると「大丈夫ですよ」というので応募したら、無事選考を通過しました。

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実際に参加してみると、我々が参加したどの支援プログラムとも違うことに驚きました。メンター陣の顔ぶれもまるで異なり、「いつかお会いしたい」と思っていた方々が審査員やメンターとして参画しており、とても嬉しかったですね。メンタリングの内容も刺激的で、「特許は申請してあるか?」「貴社でクリニックを経営してはどうか?」など、これまで我々に欠けていた視点から様々な指摘を頂いています。

――今後の展望について教えてください。

現在は2つ構想があります。1つめとしては、今後はサイエンスの観点から、現在のホルモン検査に加えて、さらに新たな技術的軸足を持つこと。もうひとつは、現在の「EggU」では、カウンセリングを受けた女性が何を考え、どんな行動を選択し、どんな課題が生まれているのかまで、追跡しきれていません。今後は妊娠の問題だけでなく、生涯にわたる女性のトータルライフキャリアを支援できるプラットフォームにしたいですね。

とはいえ、女性の健康問題についてはオープンに語り合うのは、まだまだ難しいのが現状です。女性側も、自分からは言い出しにくい。実は当社の製品も、もし間違えて家族の誰かが開封しても、一見すると卵子検査キットだとはわからないように、製品デザインや梱包に十分配慮しています。でも我々の事業を通じて、たとえば会社で「いま会社の福利厚生で、女性特有の健康に関するヘルスケアサービス支援が利用できるね」、「わたしも先月利用したよ」と、気軽に話し合える時代に変えたいと考えています。

――読者の皆様にメッセージをお願いします。

自分の研究の社会実装に挑戦したいが、方法がわからなくて躊躇している人がいたら、ぜひ挑戦してほしい。イベントなどに参加すれば、社会実装の方法を知る人たちと巡り会えます。もちろん、アカデミアで研究を極めることも大切ですが、その成果をぜひ社会実装してほしい。起業となると、ついリスクのことを考えがちですが、わたしは「挑戦にリスクは存在しない」と思っています。ぜひ挑戦を!

出場チーム紹介 株式会社BeLiebe

株式会社BeLiebeは、志賀遥菜さんが代表を務める、バイオで女性のキャリアに新たな選択肢を提供することをミッションに掲げる会社です。現在は、女性の現時点の妊孕力を可視化するサービス「EggU」と、企業向けに女性従業員のヘルスケア全般を支援する健康経営支援サービス「Fmaj」の2点を提供しています。取材で志賀さんは「世界中の女性がどんな時も挑戦し続けられる社会を創りたい」との将来の夢を語りました。

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