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インタビュー・コラム

アカデミア発ライフサイエンスイノベーター発掘プログラム2023 東北大学推薦 アイラト株式会社

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メドテック領域で事業化を検討中の研究者/または事業化したばかりの研究者を支援するプログラム「アカデミア発ライフサイエンスイノベーター発掘プログラム」。その締め括りを飾る成果発表会が、2024年3月26日、日本橋ライフサイエンスビルディング大会議室で開催されました。発表会場には、産学を代表する関係者が多数来場し、独創性あふれる成果報告(ピッチ)に耳を傾けました。そこで今回は、本プログラムに挑戦した研究者チームの皆様に、いま事業化に挑戦している研究内容、本プログラムに参加してみた感想、将来の展望などについてお聞きしました。 ※ピッチコンテスト全体についてお知りになりたい方はこちら

シリーズ: アカデミア発ライフサイエンスイノベーター発掘プログラム2023 Demo Day出場チームに話を聞く

   ・東北大学推薦 アイラト株式会社 
   ・大阪大学推薦 大阪大学 Cool Flash
   ・名古屋大学MIU推薦 名古屋大学 人間拡張・手の外科学
   ・名古屋大学MIU推薦 株式会社BeLiebe
   ・慶應義塾大学推薦 株式会社Gifts
   ・国立がん研究センター東病院推薦 PALATOROID
(登壇順)

第4回は、東北大学が推薦する「アイラト株式会社」を紹介します。

角谷倫之さん(代表取締役 創業者)

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――まずは自己紹介と起業への想いを教えてください。

わたしは、医学物理(物理工学を医学に応用する学問)分野で、主に放射線によるがん治療技術の研究開発と臨床業務を、約15年間にわたって続けてきました。最初は名古屋大学で医学物理を学び、同大学院で博士号を取得すると、南東北がん陽子線治療センター勤務を経て、途中で海外留学なども挟みながら、現在の東北大学医学部放射線腫瘍学分野に進みました。これらの経験から、特に放射線画像に関する放射線治療研究領域ではトップランナーであるという自負がありました。そこで、これまでの研究成果を社会実装することで社会貢献をしたいと考え、事業化を選択しました。

――挑戦中の事業内容について教えてください。

角谷:最先端の放射線治療技術である強度変調放射線治療(IMRT:Intensity Modulated Radiation Therapy)の治療計画作成をAIで支援するソフトウェアを開発しています。強度変調放射線治療とは、照射野内の放射線に強弱をつけることで、通常より高い治療効果が期待できるがん放射線治療です。しかし、術者の技量や経験に左右されること、治療計画の作成に時間がかかることが課題でした。そこで我々としては、短時間で最善の計画を作成できる深層学習型ソフトウェアを医師に提供することで、患者さんのQOL向上に貢献する、治療効果の高い放射線治療の普及を目指しています。

我々のソフトウェアによって、高いクオリティの治療計画(※治療計画=腫瘍の位置と大きさ、放射線照射を避けるべき重要な臓器を抽出する「輪郭抽出」、照射量や照射角度を確定する「照射領域決定」、計画の安全性を確認する「安全性検証」の3点からなる)が、誰でも簡単に作成可能になることを目指しています。トライ&エラーを繰り返して作成する従来の方法だと、計画の作成に約6時間もかかってしまいますが、我々のAI技術を用いたソフトウェアでの検討(プロトタイプを用いた検証)では、20分から30分で治療計画を作成できます。

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――これまでの進捗状況について教えてください。

角谷:東北大学の事業支援プログラムを利用して、1年かけて起業準備を進めた上で、2年前に起業しました。わたしが責任者を務める研究室の出身であり、本ソフトウェアのコア技術を担当する木村祐利さんと創業しました。その後も研究室やビジネスの世界の人たちに参画してもらいながら、現在は7名で事業に挑戦しています。昨年12月から山梨大学附属病院で肺がん治療の実証実験を開始しており、今年3月には高精度放射線治療に特化した国内最大の学会で、同病院の発表が優秀賞を受賞しました。我々が開発中のソフトウェアによる治療計画が高精度で行われていることを示したもので、学会からも高い評価を得ています。今年1月にはシードラウンドでの第三者割当増資による資金調達も実施しました。

ここまで来るまでには、色々と苦労しました。おそらく研究者畑の人は皆同じ課題を抱えていると思いますが、最初の壁は「研究者が開発したものをビジネスにすること」でした。研究開発だけなら大学の研究室でも可能ですが、それでは本当に必要とされる製品にはなりません。ヒアリングを繰り返して需要を深掘りしたり、ビジネス関係者に助言を頂きながら、プロダクトマーケットフィット(顧客が満足できる製品を提供すること)の手順を踏みつつ、開発を進めてきました。本当に市場シェアを獲得できるものか、当初は半信半疑でしたが、この過程を経験したことで、少しずつ確信が持てるようになりました。

――イノベーター発掘プログラムについて、参加された感想を教えてください。

角谷:東北大学産業連携機構事業イノベーションセンターの宇佐美晃先生からの紹介を通じて参加しました。イベントにはこれまでにも何度か参加しましたが、メドテック領域に特化したイベントは初の参加であり、とても勉強になりました。メンタリングは、メドテックパートナーズの大下創さんにご担当して頂きましたが、医療系スタートアップのあるべき姿について、手厚くご指導頂きました。そこまで深く勉強する機会はこれまでなかったので、大変参考になりました。

――成果発表会はいかがでしたか。

角谷:会場でも非常に大きな反響を頂きました。ピッチ終了後のネットワーキングタイムでも、来場者はメドテック関係者が中心なので、臨床試験はどう進めるべきか?といった今後の開発方針や、海外の展示会情報や投資事情などについて、詳しくご教示頂きました。これまでメドテック領域に特化したコンテストに参加する機会はなかったので、会場の皆様とも大いに議論し、わたしの知識量も増えました。

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――今後の展望について教えてください。

今後は、テストを行っている現場の声を開発中のソフトウェアに反映させ、医療機関でよりストレスなく使用できるように改良を重ねていきます。部位拡大にも取り組んでおり、現在対応する肺がん、頭頚部がん、前立腺がん、子宮頸がんの4部位に加えて、難治がんとされるすい臓がんなどにも対応部位を拡大する予定です。また、従来のX線治療に加えて、陽子線や重粒子線を用いた放射線治療AIの開発も構想しています。いまは「市場に投入したときに、期待値以上の結果を出せるかどうか」を詰めている最中であり、目指すべきは「放射線治療ですべてのがん患者さんを救うこと」です。適応部位を増やしたり、陽子線や重粒子線治療にも対応することで、命を救える患者さんの数をもっと増やしていきたいですね。

出場チーム紹介 アイラト株式会社

アイラト株式会社は、放射線治療領域の放射線画像研究における第一人者である角谷倫之さんが起業したスタートアップです。がん放射線医療の中でも、特に高度な技術が要求される「強度変調放射線治療(IMRT)」の治療計画の作成を支援する、深層学習型ソフトウェアの開発に挑戦しています。角谷さんが責任者を務める、東北大学放射線腫瘍学分野医学物理グループの出身者を中心に、7名で事業に挑戦中です。

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