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インタビュー・コラム

インドのスタートアップ、患者の誤診を減らすAI技術で日本のヘルスケア市場への参入を目指す

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Endimension Technology Private Limited (Endimension:エンディメンション)は、ヘルスケア分野において、患者の誤診を減らすためのAI技術を開発することをミッションとして、2018年にインド工科大学(IIT Bombay)で設立されたスタートアップ企業です。同社は、診断遅延を改善し、病気の早期発見を促進するためのSaaSを活用したAIクラウドプラットフォームを開発している。2020年10月には、日本で開催されたアジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA2020)に参加し、LINK-Jが提供するライフサイエンス賞を受賞しました。

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EndimensionのCEO兼創業者であるBharadwai Kss(バラディワジ・クス)氏

画像診断の誤診をAIで減らし、放射線科医のサポートを

今回は、EndimensionのCEO兼創業者であるバラディワジ・クス氏に、会社設立の経緯やAEAでの経験、そして日本と海外での事業成長への期待をお伺いしました。

――この会社を立ち上げようと思ったきっかけは何ですか?

学士号を取得した後に、ゼネラル・エレクトリックのような大手グローバル企業や、Eコマースと教育に特化した地元のスタートアップ企業2社で働きました。スタートアップでの経験が起業への情熱を与えてくれましたが、具体的に何をすべきかまではわかりませんでした。なので、機械学習を学ぶためにインドの最高峰技術研究所であるインド工科大学の修士課程に入りました。そこでAIに大きな可能性を感じ、それを使って何かをしたいと思ったのですが、やはり明確なアイデアがありませんでした。卒業後1年間は、一連のAIコンテストや機械学習ハッカソンに参加し、Société Générale Machine Learning HackathonやLung Nodu le Analysis (LUNA16) Grand Challengeなどのコンテストで数々の賞を獲得しました。

このような経験を通して、ヘルスケア分野特有のニーズに気がつき、そこにAI 技術を応用することに大きな可能性を感じました。そこで、インド工科大学 のSociety for Innovation and Entrepreneurship (インド工科大学付属のテック分野の起業家の育成プログラム))に応募し、私のビジネスに可能性を見出したメンターのサポートを受けつつ、起業へと至りました。

――ヘルスケア分野の中でも、特に誤診の削減に関心を持ったのはなぜですか?

放射線科医が行っている正確な診断の平均率がたった70%程度であるという研究を知った時、私は大きな衝撃を受けました。画像診断でこんなに高い誤診率が起きているとは知りませんでした。
また、個人的にもこんなエピソードがありました。ある友人の母親が地元の病院で検査を受けて、5cmの腫瘍があるという報告書を持って帰ってきました。その友人は不安になって、私に電話をしてきたため、私はもう一度画像診断を受けるように勧めました。二日後の検査では、実際には腫瘍は2cmしかなく、癌である可能性は低いとの報告を受けました。このような誤診が起こることで、患者は大きなトラウマを抱えてしまうのです。

なぜ放射線科医は誤診してしまうのか?私は、画像診断の回数が増えているのに比べて、 放射線科医の数が少ないことに気づきました。例えばアメリカでは、放射線科医は1枚の画像を3~4秒のスピードで解析し、それを一日8時間もやりつづけなければなりません。放射線技師も人間なので、疲れてしまうと人的ミスを犯す可能性が高くなります。

一方、AI技術は疲れない上、画像をピクセルベースで解析して疾患の小さな兆候を把握することが可能です。なので、放射線科医がより正確な診断を行うためのサポートをする上で、AIは大きな可能性を秘めていると感じました。

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Endimension's cloud-based AI diagnostic services utilized at hospitals in India

膨大な画像データを武器に様々な疾患を網羅する

Endimensionは、病院、遠隔診療所、診断センター、OEM、フリーランスの診療放射線技師向けに、AIを用いたクラウド型の画像診断サービスを、サブスクリプション型または従量課金型のビジネスモデルで提供している。Endimensionが提供する技術は汎用的で、レントゲン、CTスキャン、MRI、マンモグラフィなど様々な形態の画像診断に応用できます。

――貴社のサービスと主要な顧客層について教えてください。

私は、「AIと人間が協働する力」を信じています。当社は、クラウド型のAI診断サービスを、サブスクリプション型と従量課金型の2つのビジネスモデルで提供しています。

患者の診断画像がデータベースに保存されると、当社のAIがそれらの画像を解析し、疾患が疑われる部分を自動的にハイライトします。そして、診断画像とAIが生成した分析報告が放射線科医に送られます。AIによる分析報告があることで、医師はより迅速かつ正確な判断を下すことができます。

また、当社のサービスはクラウド上で提供されるため、ネット環境があれば誰でもどこからでも利用することができます。私たちは主に、がん病院や診断センターや、地方の小規模な診断センターや診療所と連携しています。

放射線分野のAI市場は未開拓であり、大きな可能性を秘めています。毎年、世界中で約40億枚の診断画像が生成されており、AIはレントゲン、CT、マンモグラフィなどあらゆる種類の診断画像に対応できる能力があるのです。

――この分野で活躍している他社と比較して、Endimensionの主な競争優位性は何ですか??

肺がんや乳がんなどの特定の疾患の診断画像や、日本人やインド人など、特定の国籍の患者の画像を解析することに特化している企業はありますが、当社は様々な疾患を網羅するサービスを幅広く提供していきたいと考えています。特定の疾患に特化した他社と比較して、様々な疾患をカバーする多様なデータを保持していると思います。

もう一つの優位性は、インドの患者の大規模な診断画像データを保持していることです。これは、インド市場でビジネスをする上で大きなアドバンテージとなります。また、近年では米国のパートナーとも連携し米国の患者の診断画像データを入手しており、これは後に米国市場に参入する際のアドバンテージとなります。このように、診断センターや病院と連携することで、新しい市場に参入するためのデータを保持し、優位性を得ることができるのです。

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AEA2020の最終ピッチコンテストで登壇するバラディワジ・クス氏

世界の誤診撲滅を目指し、日本市場でパートナー開拓と技術検証に取り組みたい

同社がAEA2020で受賞したライフサイエンス賞には、日本への事業参入や加速化を支援する各種ビジネスサポートが含まれており、同社の日本へのビジネス参入が期待されます。

――AEAでの経験についておきかせください。一番印象に残ったことは何ですか?

まず、パンデミックにもかかわらず、AEAがオンラインで開催されたことがとても嬉しかっ たです。様々なバックグラウンドを持つ他のスタートアップと出会い、お互いに学び合うことができました。例えば、ロシアのAI分野のスタートアップと話す機会があり、この分野特有の課題や展望について話しました。また、マンガの分野でAIを活用している日本発のスタートアップ企業とも知り合うことができ、全く異なる分野でAIが活用されている様子を知るのも興味深かったです。

――日本市場の可能性と課題をどのように捉えていますか?

最近の調査によると、日本は人口100万人あたりの放射線科医と医師の数が最も少ない国の 一つであり、日本市場における大きなニーズと機会があると感じています。海外展開を検討する上での我々の課題の一つは、各国独自の医療文化や規制に適応しながら事業を展開していく事です。日本市場は私たちにとってまだ新しい市場なので、まずは日本の病院や医療従事者の方々と提携し、彼らが日本で直面している規制や課題、そしてニーズを理解したいと考えています。

特に日本の大手がん病院と提携して、当社の技術を検証していきたいと考えています。インドでは、タタ記念病院という国内最大のがん病院と提携しており、そこで当社の技術を臨床的に検証してもらっています。日本でも同じような技術検証を行いたいと考えています。

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Endimensionの協働創立者のバラディワジ・クス氏(左)と、アパロ・ムル氏(右)

Endimensionでは、現在、放射線科医や機械学習の専門家を含む15名のスタッフが、「世界から誤診を撲滅する」というビジョンに向けて一丸となって活動しています。

――貴社は、現在どのような成長段階にあると思いますか?10年後はどうなっていると思いますか?

私たちの使命は誤診を減らすことです。画像診断の誤診がある限り、私たちはこの分野に留まるつもりです。次の10年は、放射線技師が不足しているインドやアフリカの農村地域や部落にも参入し、先端技術に支えられた質の高い診断を届けたいと思っています。また、正確な診断に対するニーズが高いヨーロッパや日本のような先進国への参入も高い関心を抱いています。

同時に自社のAI技術の向上も追求していきます。放射線技師が正確な診断を行うためのAI支援は、まだ緒に就いたばかりです。長期的には、患者が今後患う可能性のある疾患を前もって予測できるようなAI技術を開発したいと考えています。AIの真の力は「予測」にあると思うので、今後もAI技術を進化させながら、医療技術へのアクセスが限られている患者さんへと手を差し伸べていきたいと考えています。

IMGebk.pngバラディワジ・クス氏 Endimension Technolgy創業者兼CEO

同社設立前は、ゼネラル・エレクト リック(GE)や、Eコマースや教育分野のスタートアップ企業で勤務。
インド工科大学マドラス校にて航空宇宙工学の科学技術学士号を取得。その後、インド工科大学で機械学習を専門とするコンピュータサイエンスの修士号を取得。Societe Generale Machine Learning Hackathon 2016にてAIハッカソンやIIT Bombay Entrepreneurship summit 2017にてI-Hackを受賞するなど、AIの国際大会における様々な受賞経験を持つ。

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