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インタビュー・コラム

医療業務の効率化で「医療従事者をハッピーにしたい」 患者紹介業務の電子化で医療現場を支える株式会社M-INT

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株式会社M-INT(ミント)は、医療インフラのリデザインを通じて、より良い医療体験の創出を目指しています。今年5月には、日々の診療業務の中でも、特に医療現場の負担となっている紹介状業務を完全デジタル化し、紹介状の作成にかかる負担を減らすと同時に、患者さんを最短距離で最適な医療につなぐ、地域医療連携システム「M-INT」の正式版をリリースしました。今回の取材では、藤尾夏樹氏(代表取締役)に事業の内容やビジョンについて話を聞きました。

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藤尾 夏樹 氏(株式会社M-INT 代表取締役 医師、医学博士、MBA)

使命感だけで支えられている医療現場の実態を見て「変えなきゃいけない」

――まずは自己紹介からお願い致します。

代表取締役の藤尾夏樹です。もともとは内科医で、大学卒業後は、千葉県の南房総エリアで研修医時代を過ごしました。主な専門はリウマチ膠原病内科ですが、外来・病棟業務については、幅広く経験しており、その経験が現在のわたしの強みでもあると思っています。臨床の仕事はいまも続けています。

――起業のきっかけについてお聞かせ下さい。

当社の起業は、マクロとミクロの2つの視点から出発しています。マクロ的視点としては、高齢化に伴う医療需要の爆発的増加と、医療資源の不足に対する課題感。もう既に逼迫している医療資源が、今後さらに不足するのは明白ですよね。一方で、ミクロ的視点としては、南房総エリアでの研修時代に目撃した、医療現場における課題感です。わたしを含む多くの医療従事者は、全ての時間を費やして日々業務に対応していましたが、それでも足りない。医療従事者達の自己犠牲が当然の世界で、彼らの使命感だけでは、いずれ燃え尽きてしまう状況を目の当たりにして「この状況を変えなきゃいけない」と痛感しました。

ただ、願望だけでは現状は変えられません。そこで自分に何ができるかを考えました。研究者や行政の立場でも素晴らしい仕事はなされていると思いましたが、最終的には「医療の現場を構造から変えたい」と考え、早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)に入学、経営学修士号(MBA)を取得しました。ビジネススクールでは、スタートアップの創業が、社会の仕組みを変革する有効な手段であることを教えて頂きました。また入学してすぐに樋原伸彦先生(同研究科准教授、LINK-Jサポーター)と出会い、その際LINK-Jのことも教えて頂きました。

――現在の創業テーマ(医療業務の効率化)を選んだ理由についても、お聞かせ下さい。

創業のテーマについても、色々と考えました。日本の医療環境は、医療機器や高度人材という点では、恵まれているように思えました。一方で、多くの医療機関の内側を見てきた経験から、医療従事者に対する負担が重すぎるとも感じていました。とはいえ、人命にかかわる仕事だけに、彼らに係る責任は重く、仕事量を減らすことはできません。だったら、医療資源の最大効率化という視点で医療従事者に寄与できる方法はないかと考え、「医療業務の効率化」をテーマに創業しました。

そもそも、なぜ医療業界で業務の効率化が遅れているかといえば、決して医療従事者の無関心が原因ではありません。医療の効率化に挑もうと考えた人たちは、沢山います。しかし、たとえ業務の効率化することができるスキルを持つ方であっても、医療資格がなければ、現場で主体者としての一次情報を経験することができず、本当の課題感を知るのは困難なのです。一方で、多くの医療従事者は、日々の業務に必死で、効率化という課題まで手が回らないのが実情。そこで、医師であり、医療現場の課題をよく理解しているわたしが、現場から少し距離を置いて、医療の外側で生まれた解決手段を、医療現場に届けるという役割に徹しようと考えました。

――起業するにあたっては、どんな準備をされてきましたか。

ビジネススクール時代に、ビジネス側・医療側問わず、とにかく沢山の方々に話を聞きました。名刺交換も沢山して、その中から最も適切な壁打ち相手を見つけては、話を聞きました。起業時にも、これまでに頂いた名刺を全部並べて、誰と一緒に仕事をしたいかを考えながら、徐々に起業メンバーに引き入れました。他にも有難いご縁もあり、今では素晴らしい方々に参加して頂いており、自慢のチームメンバーだと信じています。

日々の診療業務において医療従事者の大きな負担となっている「紹介状業務」

――現在展開されているサービスの内容について、教えて下さい。

診療所など小規模な医療機関を対象に、クラウド上で紹介状(診療情報提供書)を発行する患者紹介業務DXサービスを提供しています。具体的には、専門性が高く、かつ緊急性のない(入院の必要がない)疾患の患者さんが来院された場合に、近隣の適切な診療所に、迅速かつ効率的に患者さんを紹介することが可能です。紹介先については、現在は主に「診療所から診療所へ」の紹介が中心になっています。

紹介状の発行は意外と面倒で、医療機関の検索から、紹介状の作成・印刷・封緘と、手作業で行うと、外来診療以上に時間を取られます。発行中は、他の業務が全て停止するので、他の患者さんにも、余計な待ち時間を強いてしまいます。事実、良きにつけ悪しきにつけ、診療所に関する口コミの大半は、待ち時間に関する話題ですよね。裏返せば、多くの診療所が、患者さんの待ち時間を減らすために、業務の効率化を考えています。でも、そこに紹介状業務が入ると、途端にその日の業務が立ち行かなくなるのです。

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――紹介状の発行業務がそんなに大変だったとは、知りませんでした。

電子紹介状システムのもう1点の利点は「医療資源の可視化」です。診療所の場合、例えば大病院で専門外来を担当する専門技術をお持ちでも、幅広い医療の提供者として開業する例が多く、外からでは、先生たちの得意領域がわかりません。これでは、患者さんを適切な診療所につなぐことは難しく、先生たちの折角のスキルも活用されません。当社の電子紹介状システムは、従来の不透明な部分を可視化し、適切な診療所に患者さんを紹介することで、紹介先の医師は技能を存分に発揮し、患者さんは最短距離で適切な医療につながる世界を目指します。

日本医師会が発行する「医師資格証」を利用した電子紹介状システムを開発

――貴社の「電子紹介状システム」ですが、具体的にはどんなシステムなのでしょうか。

当社では、日本医師会が発行するICチップ内蔵カード「医師資格証」を利用した、電子紹介状発行システムを新たに開発することで、紹介業務の電子化を実現しました。紹介状の作成過程も効率化しており、ワンクリック・ツークリックで紹介状の共有が可能です。東京都中央区、目黒区、神奈川県横浜市の3カ所で展開しており、今後は、さらに東京都区内、横浜市エリアを中心にサービス展開し、段階的に全国にエリアを拡大する予定です。

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たとえば、円形脱毛症で受診するという状況を想定してみましょう。最初に対応した先生は円形脱毛症に詳しくないが、実は近隣に詳しい医師が開業している。ところが、その診療所は円形脱毛症にとりわけ造詣が深いことを標榜していないから、最初に相談された医師も紹介先がわからなくて、多少遠くても大学病院辺りに紹介状を書くことになる。そんなとき、当社のプロダクト(特許取得済)なら、近隣の専門医を検索できて、かつ簡単に紹介状を共有できます。患者さんも、わざわざ遠くの大学病院まで行く必要はないわけです。

――紹介状を発行して他院を紹介するということは、患者さんとしては、紹介先の診療所の医療の質についても、責任をもってくれていると解釈するでしょうから、紹介元の先生の責任も重大ですね。

その通りです。それは当社だけでなく、日本の医療制度の課題だといえます。現時点では、情報が可視化されていないために、紹介先の医療の品質担保を含めて、できていないことが沢山あります。登録にあたっては、もちろん一定の条件も設定していますが、さらに医師だからこそ見える部分もあって、現在はわたしたちが「この先生は信頼できる」と思える医療者の皆様に、当社のシステムをご利用頂いています。

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人類史上類を見ない超高齢社会に向けて「一緒に医療の課題を解決したい」

――今後の事業展開において、どのような展開を考えておられますか。

正式版を今年5月にリリースしましたが、今後さらに多くの医療従事者に活用してもらうためには、定期的なアップデートも重要だと考えています。現在のわたしたちの顧客は、小規模の診療所なので、顧客の特性に合わせて改修しながら、より使い勝手の良いものにしていきたいですね。2023年5月のサービスリリース時には、LINK-Jの「人と情報の交流掲示板」へのプレスリリース掲載とメール配信によって、かなりの反響がありました。問い合わせの内容も、協業提案から就職希望、取材依頼まで、色々な声を頂きました。

――活用いただきありがとうございます。先日、LINK-JのCEOのコミュニティイベントにも参加頂きましたが、どのような感想を持ちましたか?

CEOとしての共通の話題だけでなく、医療やヘルスケアの分野でも様々な業態の相違点なども客観的に捉えることができ、ビジネスに関する示唆をもらえました。また、研修医時代の後輩と偶然の再会もありました。今後は医師でスタートアップを起業する人は明確に増えていると思いますので、全く異なるアプローチでも、課題を見つけて解決しようという気持ちが相互にあると感じました。

――ありがとうございます。最後に、これを読む読者にメッセージをお願いします。

当社は、医療現場における業務の効率化と、限られた医療資源の有効活用という、2つの世界観をもって、事業を展開しています。これらは決して楽なハードルではありませんが、わたしたちと意思を同じくする多くの仲間と共に、より快適な医療を届けていきたいと考えています。わたしたちはいま、過去に類を見ない、超高齢社会という時代を迎えようとしています。その中で、さらにわたしたちは、同じ時代の中で、医療という共通の課題に挑戦する仲間だと、大真面目に考えています。一緒に、この世界を良くしていきましょう。

Fujio.png藤尾夏樹 氏(株式会社M-INT 代表取締役)

医師、医学博士、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本リウマチ学会専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医。高度急性期ならびに膠原病専門医療を軸に、全身臓器を対象とする専門特性、ならびに超急性期病院2つを軸に、20診療科以上、20医療機関での幅広い診療経験を有する。早稲田大学ビジネススクールで経営学修士(MBA)を取得。2021年2月に株式会社M-INTを設立。

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