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イベントレポート

「従来の概念が覆る?!臨床プロテオミクスの最新事情~Beyond Mass Spectrometry~」を開催(2/1)

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2021年2月1日(月)、LINK-Jは「従来の概念が覆る?!臨床プロテオミクスの最新事情~Beyond Mass Spectrometry~」をオンラインにて開催しました。本イベントは、LINK-Jネットワーキング・トークの第8回目として、今回は臨床プロテオミクスをテーマに、タンパク質分析法に関する最新事情について3社からご紹介頂き、プロテオミクス分野の技術や今後展望について議論頂きました。

【登壇者】
東京大学大学院医学系研究科・特任教授 小田 吉哉 氏
オーリンク株式会社 Field Application Specialist 加藤 悠 氏
ルミネックス・ジャパン株式会社 フィールドマーケティングサイエンティスト 高橋 葉子 氏
フォーネスライフ株式会社 チーフテクノロジーオフィサー 和賀 巌 氏

「臨床プロテオミクスにおける現状の課題と展望~質量分析からの視点から」
東京大学の小田先生より、イントロダクションとしてプロテオミクス研究の俯瞰的観点から、質量分析の状況や、血漿タンパク質の同定に関して、パフォーマンスの現状や今後の課題についてご説明頂きました。

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小田先生は、これまでのプロテオミクスは、網羅性を追求することで発展してきたが、実用化・臨床対応を目指した血漿プロテオミクスのためには、「定量」が重要であり、「網羅性」、「多検体解析(少なくとも数百、数千のレベルでの解析)」、「信頼性(再現性)」が大きな課題であり、現在の質量分析では、多検体解析や信頼性保証について不十分な部分がある、と指摘しました。
ヒトタンパク質は翻訳後修飾を受けたものも数えると、約100万程度あると見込まれており、抗体アプタマー等を用いた方法では全てに対応することは現実的ではありません。標的を決めておく必要のない質量分析を使うことで、構造解析やたんぱく質の同定を行い、微量なタンパク質の測定や、定量データのばらつきなどの問題点を改善していく必要があると述べられました。

「PEA法によるプロテインバイオマーカー探索」
スウェーデンに本社を置く、オーリンク社は、血漿プロテオーム解析を主としたタンパク質定量解析やバイオマーカー探索を行う受託サービスを展開しています。世界各所に分析ラボを持ち、国内では東京大学の小田先生の研究室が唯一の拠点となっています。

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加藤氏からは、同社の技術であるProximity Extension Assay(以下、PEA)について、主要原理やバリデーションデータ、質量分析装置との比較などについてご紹介頂きました。
PEAでは、ターゲットに対して抗体が2つの異なるエピトープで認識します。抗体には相補的なDNAタグが付いており、抗体が抗原を捕捉すると2本鎖が形成され、NGSやqPCRによってDNAが増幅されます。このような方法により、従来検出が困難な、微量なケモカインやサイトカインも高感度に検出でき、最大1161のタンパク質を定量解析します。
また、本技術を用いたケーススタディとして、20社以上の製薬企業が参加するSCALLOPコンソーシアム研究についてご紹介頂きました。3万人以上の心血管に関連するタンパク質発現データと遺伝子変異情報を統合解析するというプロジェクトで、新規の薬剤標的因子の同定やドラッグリポジショニングへの応用が期待されています。
お問合せ先:Japan@olink.com

「xMAP®テクノロジー多項目ハイスループット解析と応用事例」
Luminex社(Luminex Corporation)は、臨床診断、医薬品開発、プロテオミクス、バイオメディカル研究などの多様な市場に対応するソリューションを提供しており、世界81か国で1万6千台以上の検出装置の販売、国内でも500台以上の販売実績があるバイオサイエンス企業です。日本国内では、検出装置や研究用試薬の販売とサポートを行なっています。高橋氏より、マルチプレックスで解析するxMAP®テクノロジーの特徴について解説頂きました。

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この技術の中核となるマイクロビーズは、3種類の蛍光色素を固有の割合で染色混合して作成され、カラーコード化された500種類によって、ビーズ表面のカルボキシル基を介して生体分子を結合します。検出用のシステムとしてスループットの異なる製品を提供しており、フローサイトメトリー法や蛍光イメージング法などを用いて測定を行います。少量のサンプルで前処理も簡便で再現性が高いという特長を持つことをご説明頂きました。
本テクノロジーの応用例として、研究用途以外にも創薬やワクチン開発、臨床用途では治療モニタリングなどがあることをご説明いただき、例えば、バイオマーカーの探索と検出、オートメーションによる臨床診断、最大800種類のタンパク質の同時定量を行うサービスなど多岐に渡るアプリケーション例をご紹介頂きました。
お問合せ先:infojp@luminexcorp.com

「PROTEOMICSサービス事業ご紹介」
フォーネスライフ社は、2020年7月にNECソリューションイノベータのヘルスケア事業の加速・強化を目的に設立されました。同社の和賀氏は、NEC事業の中でアプタマーの研究に携わり、東北大学COI拠点の拠点長を通じて、30社以上の企業と産学連携にも従事されています。和賀氏からは、フォーネスライフ社の事業であるアプタマー(結合する人工核酸)を用いたSoma Logic社の技術やその活用事例について解説いただきました。例えば、3千人の血漿タンパク質とDNA変異(SNP)と解析することで、新たに疾患を引き起こす可能性のあるタンパク質を同定した例や、老化研究のサンプルで新たなタンパク質相互作用に関する相関関係が見つかった事例、間接リウマチなど疾患マーカーを特定した例などについてご紹介頂きました。

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NECはSomaLogicと2006年に共同研究を開始、データ解析や出資などを通じて関わってきました。フォーネスライフ社は同社と独占契約を締結し、国内の事業を進めています。タンパク質と結合する人工核酸で分子修飾をしたアプタマー(SOMAmar)、7千種類を用いて定量や測定を行います。1滴の血液サンプルから、体脂肪率や内臓脂肪など実際に測定しなくても、将来的な疾患リスクの予測ができる可能性を示唆され、東北大学での検証結果を経て血液検査サービスを開始したことも発表されました。

パネルディスカッション
東京大学の小田先生がモデレーターとなり、登壇者3名に対し、下記のような質問が投げかけられ、各社の対応や考え方についてご意見いただきました。(※詳細はアーカイブ動画をご視聴ください)

  • Q1 ビッグデータの解析、例えば過去のデータとの比較や複数のデータを扱う際に、「定量」に関してどのように考えているか。
  • Q2 質量分析では操作性が煩雑になり、メンテナンスや解析も大変である。測定者によってデータが変わることもあるが、各社から操作性について。
  • Q3 今回のセミナーのタイトルには「従来の概念が覆る」というキーワードがある。これまでに経験された最新の臨床プロテオミクスの現場では何が起きていて、どういう概念が覆っているのか。
  • Q4 今後のビジネスプランとして、特に技術面に関して、どのような展開を考えているか。
  • Q5 今後、病気の診断に使うといった場面では、どのようなところに力を入れようとしているか。
  • Q6 ゲノミクスに比べプロテオミクスは論文数が劣っており、様々な要因がある。各社が競合ではなく、一致団結してプロテオミクスの発展や普及に貢献してもらいたいが、この点について各社の考えや戦略について。

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和賀氏:小田先生のご意見には共感しております。プロテオミクスは論文数もポテンシャルもあると思います。研究に留まらず、ヒトの生活にとても役に立つような発見ができる可能性があり、食品や運動などの産業ともエコシステムをつくりたいと考えています。
たった一社がやることでもなく、一テクノロジーでもなく、インダストリーでやることだと思うので、今回、この機会に名刺交換もさせていただき、いろいろお話ししたいと思っています。

加藤氏:ゲノミクスの論文が多いのは、複数の要因があると思います。20年前にヒトゲノムプロジェクトが完了し、シーケンスの技術も向上し、価格面でも下がっています。一方、プロテオミクスは、質量分析装置が中心で、MSの方は、再現性に問題があるケースがあり、とくに再現性ステップにかなりの時間を要するので、論文数が伸び悩んでいる要因かもしれません。
サンプル調整の煩雑さ、難しさもMSの印象を悪くしています。 今回のセミナーを機に、プロテオミクスの分析が非常に身近になったのでは?と感じています。 3社、協力して次世代のプロテオミクスとして医療に貢献したいと考えています。

高橋:小田先生のお言葉に大変共感いたします。シーケンス解析は非常に容易になりましたが、プロテオミクスはまだ簡単ではありません。我々の技術では、未知のたんぱくは検出できず、対象がわかっているものを検出するという特徴なので、それぞれのテクノジーや得意な分野を活かして、課題を克服し、カバーしあうことで改善できると思っています。今回の機会は大変ありがたいと思っております。

講演後には、視聴者からの質問などを受け、ネットワーキングタイムを設けました。ご視聴いただいた皆様誠にありがとうございました。次回も是非、この機会を用いて新たなビジネスのきっかけにして頂ければと思います。
本セミナーの録画映像は、LINK-JのYouTubeチャンネルにてご覧いただけます。

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