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2019年度SCOOPプロジェクト3チームの最終報告をいたします。

ストップ風疹ワゴンの挑戦最終報告書
旭川フレイルプロジェクト
人と医療の研究室 Student Group

ストップ風疹ワゴンの挑戦最終報告書

項目 内容
アブストラクト    

風疹が40歳以上の男性を中心に職場で流行しています。私自身、妻の妊娠をきっかけに風疹の怖さをより感じました。

抗体が低いとされる40-60代の働き盛りの男性が、風疹について知識や興味が全くない状態では、休日に医療機関で風疹の抗体検査やワクチン接種を受けていただくことは難しいと感じました。

2020年1月以降の取組・方法    

医療従事者が医療機関の外に出向いて、4つのヘルスアプローチを行いました。

  • 屋台を利用したヘルスコミュニケーション
  • 絵本を利用したヘルスコミュニケーション
  • 企業を利用したヘルスコミュニケーション
  • Jリーグの試合を利用したヘルスコミュニケーション
結果 プロセス  
  • 屋台を利用したヘルスコミュニケーション

オフィス街や企業で風疹啓発のクラフトタグをつけたペットボトルを無料で配布し啓発活動を行いました。

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  • 絵本を利用したヘルスコミュニケーション

先天性風疹症候群の患者さんやご両親にインタビューを行いました。そこで聞いたこと、感じたことを参考に絵本を制作し、配布しました。

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  • 企業を利用したヘルスコミュニケーション

巡回診療として一般企業の従業員合計33名に麻疹風疹ワクチン集団接種を行いました。

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  • Jリーグの試合を利用したヘルスコミュニケーション

日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)とコラボして、2020年2月8日FUJI XEROX SUPERCUP 2020で5万人の観客を対象に風疹啓発を行い、89名に風疹の抗体検査を無料で行いました。hushin04.jpg

全体考察・提言   

企業を利用したヘルスコミュニケーションでは、理解のある経営者がいる企業では、従業員に抗体検査やワクチン接種をしやすい傾向がわかりました。

医療従事者による地域志向型のヘルスアプローチは重要だと考えられます。

旭川フレイルプロジェクト

項目 内容
アブストラクト     "カフェ形式で⾃由に⽣活のことを話し合う場=フレイルカフェ"を開催し、地域の⽅々へのフレイル概念普及を⽬指した。イベント周知の⾯で困難はあったが、開催場所であるコーヒ ーショップでのポップ掲⽰や、イベント告知の新聞掲載によりターゲットである地域⾼齢者だけでなく、そのご家族にも参加いただけた。運営する⼤学⽣が参加者に向けてフレイルの説明をし、その概念を地域の⽅々に知っていただくことができた。それだけでなく、カフ ェでの対話が⾃分の⽣活を振り返ることになり、カフェへの参加⾃体が"外に出るきっかけになった"など社会的フレイルの予防に資することが⽰唆された。これらフレイル予防活動に取り組む学⽣⾃⾝の学びを研究としてまとめ、⽇本サルコペニアフレイル学会において「医学⽣が主体となり取り組むフレイル予防プロジェクトの運営」として報告をし、また新型コロナウイルス感染拡⼤影響によりイベント開催が困難となって以降は、"コミュニティFM を通じたフレイル予防"として形を変えてフレイル予防に取り組んだ。
2020年1月以降の取組・方法     ・ 1/25 第4回フレイルカフェをスターバックスコーヒー旭川東光店で開催。16 名が参加
・ 3/14 第5回フレイルカフェを緑が丘地域活動センターグリンパルで開催予定であったが、コロナウイルス感染拡⼤の影響を受け、開催延期とした(現在に⾄るまで開催不可)
・ 4/23 「感染拡⼤の影響による⾃粛⽣活により⽣活不活発が進み、⾼齢者のフレイルが進むリスクがあるという⽇本⽼年医学会」からの提⾔を受け、旭川市のローカルラジオ局「FM りべーる」にて、『みんなの歌声喫茶』を放送開始。毎週⽊曜⽇ 14:30 から 30分間の番組中で、歌唱や健康情報の提供により、フレイル対策を呼び掛けた。
結果 プロセス  

・ フレイルカフェについては、"フレイルクイズ"といった新たな試みを取り⼊れることにより、参加者の関⼼を⾼め、また活発な交流を⽣み出すことができた。
・ 第4回まではスターバックスコーヒー旭川東光店での開催であったが、事業の⼀般化可能性を考慮し、それまでの事業で培ってきた経験を以て地域の住⺠センターでの開催を検討した(開催には⾄らなかったため未検証となった)。
・ ラジオ事業については、イベント開催など⼈を集める事業が困難な中での⽅策として実施した。不慣れなことであったが、メンバーでの役割分担と情報共有を徹底し、またラジオ局側からの協⼒も得て、毎週の放送を⾏うことができた。感染拡⼤防⽌策を徹底した上で事業を⾏ったが、その際は⼤学側からの協⼒も得た。
・ ラジオ事業は成果を測る直接的な指標(聴取率など)が無いため、事業評価が困難であ ったが、テレビ局(NHK)に加えて新聞社3社と各⼾配布のフリーペーパーで記事掲載されたことが周知につながり、番組宛に8通のおたよりをいただいているなど、⼀定の聴取が得られていると考える。
・ かつてない状況下、医学⽣が地域のために動くことで、"⾃粛⽣活におけるフレイル予防の重要性"というメッセージを発信できたことに活動の意義はあると考える。

全体考察・提言    スターバックスコーヒー旭川東光店の助けを得て、フレイルカフェという⼀つの事業形
態を作り上げることができ、その中での交流が⽣活の⼀助になれるという可能性が⾒えた。⾃由で意義ある交流を作るには情報提供やファシリテーションだけでなく、場所や飲⾷など含めた雰囲気づくりが重要であると実感した。
広報⽅法として、店舗⼊り⼝のコミュニティコネクションボードと Facebook を⽤いた⽅法だけでなく、地域の活動拠点となる施設へのポスターの掲⽰、スターバックスコーヒー店頭でのフライヤーの配布を⾏い、地域の⾼齢者の⽅などに参加してもらうことができ、⽬的とする対象層へのアプローチ⽅法という広報⼿段についての成果が得られた。
カフェについては⼀定の成果が得られたが、スターバックスコーヒー旭川東光店という限定的な条件での実施に留まっているため、より広く事業⽅法の有効性を⽰していくには、他施設での開催など更なる検討が必要であるという課題が残った。
年度が明けてからは、新型コロナウイルス感染拡⼤という状況を受けて、その中で実施できることとしてラジオ放送という未知の分野に挑戦した。メディア等の協⼒を得て、地域における⼀定の知名度を獲得し、継続して事業を⾏うことができたが、そのような事業を実施するためにメンバーがそれぞれの強みを⽣かして事業に取り組めたこと⾃体が各⼈にとっての学びの機会となった。
遡って、2019 年 11 ⽉には⽇本サルコペニアフレイル学会において「医学⽣が主体となり取り組むフレイル予防プロジェクトの運営」というテーマでの⼝頭発表を⾏った。その場において、これまでプロジェクトが取り組んできた成果を基に、設⽴の効果として"概念の普及など直接的な効果とともに、フレイル予防に携わる医療者の育成という間接的な効果により、地域におけるフレイルの普及啓発や予防推進に寄与したことが⽰唆された"と述べたが、これは現在に⾄るまで⼀貫しており、地域と向き合い、状況に応じて事業を考案し取り組むことが、座学では得られない"課題発⾒・解決⼒"の獲得につながったと考える。

人と医療の研究室 Student Group

項目 内容
アブストラクト     筆者らは、「ノロウイルス対策として消毒用アルコールを購入したが、ノロウイルスに対して消毒用アルコールは効果が不十分であることを後で知った」という非医療系学部生メンバーの実体験を基に、患者-医療者間の医療知識の差に関心を持った。このギャップは「情報の非対称性asymmetry of information」として1960年代から指摘されてきたものである。1)
 この問題に学部生や若手医療者がどのように取り組むことができるかを考えた際に、患者向け情報提供パンフレットを作成する着想を得た。しかしこれはすでに医療現場で実践されている内容であり、製薬会社らが専門分野の医師の監修を受けて作成しているパンフレットに質的に勝るものを筆者らが作成することは難しいと思われた。
 そこで今回、学部生や若手医療者がパンフレットを作成しようとする試みに、新たな視点として医学教育的観点を取り入れることとした。具体的には、学部生らがパンフレットを作成しようとする試みを構造化し、そこで得られる学びを検証することとした。
 このパンフレット作成の試みには、3つの背景的意義が事前に想定された。一つは、2000年代から推し進められている見学型臨床実習から診療参加型臨床実習への転換2)であり、このことは厳密には医学生のみに該当する事項であるが、いずれの医療系学生においても、より積極的な実習が求められていると考えて差し支えないだろう。パンフレット作成は能動的な取り組みであり、間接的に診療行為に参加するものと考えられるかもしれない。二点目として、医療系大学教育においては科学的知識や技術を伝授するtrainingの側面が重視されがちであるが、大学とは本来、答えがない、あるいは複数あるようなeducationの側面も忘れてはならない要素である。3)パンフレット作成の取り組みには様々な答えがあり得るため、この観点からも有意義であると思われた。そして三点目として、この企画を多様な医療系学生で行うことで、多職種連携の観点から学びが得られる可能性に注目した。
 実際に、下記に記す手順でパンフレット作成の試みを行ったところ、参加者が様々な学びが得られる可能性が示唆された。パンフレット作成などの間接的教育手法は今後、その導入を検討されて良いものと思われた。
2020年1月以降の取組・方法     ① google formを用いて「患者-医療者の認識ギャップを実習や臨床現場で感じた事例」を継続して集めた。
② 上記「事例」の中から「点滴の効果」に焦点を絞り、その啓発パンフレット案を複数の医学部生、薬学部生、研修医らに作成してもらった。
・乳酸リンゲル液の点滴は医療現場でよく行われているが、その適応は基本的には血管内脱水を中心としており、あらゆる病態に効果的なものではない。
・一方で、不定愁訴や脱水以外の軽症患者が点滴を希望することは珍しくない。
・作成するパンフレットの内容は、乳酸リンゲル液の成分や効果について情報提供するものとした。
③ 2020年4月頃からCOVID-19についてのパンフレット作成計画を立案したものの、信頼性の高い情報の判断が困難であり、実現には至らなかった。
結果 プロセス  

① 「患者-医療者の認識ギャップ」についての参考資料集を作成完了した。

② 点滴についてのパンフレット案を作成した学部生らの感想の一部を以下に抜粋する。
・自分がいかに医療用語に依存しており、それを平たく解説することが難しいか、ということを実感した。
・言語のみの情報提供は十分でなく、イラストなどを活用した情報提供が望ましいと思った。
・患者さんの医療に対する幻想(適切でない期待)について考えるきっかけとなった。
③ COVID-19についてのパンフレット作成を計画する過程で、啓発パンフレット作成の取り組みを含むハーバード大学医学部生らの活動について知った。
https://covidstudentresponse.org

全体考察・提言   

医療系学生が主体的に学ぶためには、直接の診療行為のみならず、今回のパンフレット作成などのような間接的な取り組みも活用されることが期待されるのではないだろうか。大学教員など教育する立場からこのような取り組みを推し進めること、そして、医療系学生など学ぶ立場からも、どのようにすれば主体的に医療に参加できるか考えること、その双方の工夫が求められていると筆者らは考える。

参考文献   

1) Arrow K: Uncertainty and the Welfare Economics of Medical Care, American Economic Review 53:941-973, 1963
2) 吉田素文:1. 卒前医学教育の現状, 3. 診療参加型臨床実習(クリニカル・クラークシップ)の現状, 日本内科学会雑誌 96-12:17-22, 2007
3) ZoË-Jane Playdon: Education or training: medicine's learning agenda, BMJ 314:983, 1997

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