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イベントレポート

第33回LINK-Jネットワーキング・ナイト「慶應義塾大学発 医療系ベンチャー創出の最前線」を開催(8/21)

8月21日、日本橋ライフサイエンスハブにて、第33回目となるLINK-Jネットワーキング・ナイト「慶應義塾大学発 医療系ベンチャー創出の最前線」を開催しました。
前半は、坪田一男氏と中村雅也氏により、ベンチャー創出の取り組みや医療系ベンチャーを取り巻く現状、最新情報をご紹介いただき、後半は日本初の医学部主催ビジネスコンテスト「健康医療ベンチャー大賞」の出場者から、起業の実際についてプレゼンテーションが行われました。

【講演】
坪田 一男 氏(慶應義塾大学医学部眼科学教室 教授/日本抗加齢医学会理事/慶應義塾大学医学部発ベンチャー協議会議長)
中村 雅也 氏(慶應義塾大学医学部整形外科学教室 教授/日本整形外科学会代議員/日本再生医療学会理事/慶應義塾大学医学部長補佐:産学連携・広報担当)

【プレゼンテーション】
清水 映輔 氏(慶應義塾大学医学部眼科教室・東京歯科大学市川総合病院勤務/株式会社OUI 代表取締役)
矢津 啓之 氏(慶應義塾大学医学部眼科教室・東京歯科大学市川総合病院勤務/株式会社OUI 取締役)
逆瀬川 光人 氏(株式会社OUI 経営室長)
小野瀨 隆一 氏(Icaria株式会社 代表取締役)
Ryotaro Ako 氏(アトピヨ 代表)

ごきげんな起業のススメ

坪田一男先生は、慶應義塾大学医学部眼科学教室 教授であると同時に、慶應義塾大学医学部発ベンチャーとして株式会社坪田ラボを設立し、今年2月にCEOに就任されました。坪田先生は、「イノベーションは大学の責務」とし、「アントレプレナーに欠かせないのは、新しい事業の創造意欲に燃え、高いリスクに果敢に挑む姿勢です。」と言います。

2011年に起こった東日本大震災の際に、坪田先生は眼科医として何ができるのかを問いかけ、眼科の診療機器を搭載した移動式眼科診療バス『ビジョンバン』を米国から個人契約で輸入し、3カ月間にわたって東北大学と岩手大学と共に医療サポートを行いました。さらに日本版ビジョンバンを作るために、多くの人の力を結集してこれを実現。2年後、フィリピンに壊滅的な被害を与えたハリケーンの際にはビジョンバンを現地に派遣して診療を実施しました。

「このとき自分の支えになったのは、"ごきげん"だから絶対にうまくいくという思いだった。何かを始めるときにはエネルギーがいるが、自分はごきげんでいることでアントレプレナーになれる。」と先生は強調されています。

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起業に必要なのは、サイエンスとやる気に加えて、ごきげんでいることであり、その方法は3つあります。一つは、ごきげんな仲間やパートナーを見つけることで、これは精神的な安定やソーシャルキャピタルにおいて非常に重要です。先生自身も国内外の優れた研究者に共同研究を持ちかけるなど、自分のネットワークを広げてこられました。2つ目は経済的に少し豊かになることです。節約すると脳が安定して次のチャレンジができなくなるため、坪田先生は42歳から年収の10%を投資に回すことを実践されています。そして、3つ目は、自分の強みを活かして好きなことをすることです。視覚障がいがあってもオリンピックに出たり、後輩のための可能性を開く活動をしたりしている人たちの事例を挙げて、視覚障がい者でも強みを使っている人は強いと紹介されました。

先生がCEOを務める株式会社坪田ラボでは、ハーバードのマイケル・E・ポーター教授が提唱されたCSV(Creating Shared Value)に基づき、近視、ドライアイ、老眼の治療を通して世界の課題を解決することをビジョンに掲げています。このCSVとは、利益をあげながら社会の課題を解決するという概念で、先生は最初からCSVを狙って起業しました。また、ごきげんには快楽主義的幸せと社会貢献を通じた幸せがあり、利益を上げて社会に貢献する。起業にはこの2つの軸が重要です。

こうした人材を育成するために、坪田先生は2020年医学部修士過程においてアントレプレナー育成コースを開設されました。医療者は健康や医療に関連する課題・シーズを持っている一方で、それをビジネスに変える人材が少ないのが実情です。日本はそうしたエコシステムが弱いため、医学部修士を取りながら、健康ビジネスをやってみようと思う人に応募してもらいたいと締め括りました。

近未来の慶應医学が目指すイノベーション

中村雅也先生は慶應医学部で行われているプロジェクトについて講演されました。同プロジェクトには、1. オープンイノベーション整備事業、2. 革新的医療技術創出拠点プロジェクト、3. JSR-Keioイノベーションセンター、4. AIホスピタル事業、5. リサーチコンプレックス事業の5つがあります。

1のプロジェクトでは、「人生100年時代の健康長寿を支えるスマート社会の創成」をビジョンに掲げ、産学連携の大型共同研究を通じた高付加価値型の安心・安全な商品やサービスの開発と普及により、この社会を実現します。慶應が持つシーズと企業のニーズを共同研究コンソーシアムによってつなげ、出てきたシーズは慶應独自の会員組織で社会実装を加速させます。スマート社会とメディカル・ヘルスケア領域の2つの柱を設け、特にメディカル領域では、すでに動いている大型プロジェクトを社会実装につなげる試みが行われており、これを事業化してエビデンスに基づいた新商品・サービスを提供します。慶應発のVC、KII(慶應イノベーション・イニシアティブ)を立ち上げて必要な資金も確保し、支援を開始しました。

2のプロジェクトの中心は新棟が完成した慶應義塾大学病院で、私学として初の臨床研究中核病院、革新的医療技術創出拠点、がんゲノム医療中核拠点病院、再生医療臨床研究モデル病院に指定されています。特に革新的医療技術創出拠点の主体は慶應の中にある臨床研究推進センターで、シーズ育成のマネージメント支援と共に産学連携や研究資金、研究解析サービスの提供などもサポートしています。もう一つの特徴はこれらを支える体制で、シーズ評価委員会が窓口となり、関東圏16の大学を束ねて慶應義塾大学外からの様々なシーズを支援し、社会実装を進めています。さらに、iPS細胞等臨床研究モデル病院事業と連携してノウハウを蓄積し、拠点外の施設にアウトソーシングして日本全体の再生医療を支えます。基礎研究の段階から寄り添い、最後まで支援する体制を構築しています。

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3のプロジェクトでは、JSRとKeioイノベーションセンターを連携させ、慶應義塾大学病院の敷地内に組織を設立。人と資材を投入し、研究を支援しながらシーズを育てます。他にはないオープンなラボの中で、若い先生たちがシーズを実現できるようスペースを貸し、研究費を提供するボトムアップの学術開発プロジェクトが行われます。また、トップダウンで決まった戦略プロジェクトでは、がんの医療拠点を活かして診断技術や創薬に取り組むプレシジョンメディスン、iPS細胞や組織幹細胞からオルガノイドを用いた診断や創薬、疾患と腸内細菌との関連を探るマイクロバイオーム、生涯現役社会を支える個別化医療の実現という4つの領域を設け、診断から治療に向けて今年中に数個のテーマを社会実装します。

4のプロジェクトでは、医療機器やIoT機器を活用して患者情報の網羅的収集、ビッグデータ化に加え、AI分析技術を活用した「AIホスピタル」の開発・構築・実装化を図り、医療現場での診断補助・教育やコミュニケーション支援を行なっています。大量の医療情報を集約することで治療に有効活用し、先進的な医療サービスの提供体制を整備して医療の質の担保、医療費増加の抑制、国際的な競争力を向上、医療現場での負担軽減を図ることを目指しています。すでに30のプロジェクトが動いており、例えば外来・病棟部門では、AIによる口述カルテを記録することで患者とのコミュニケーションを図ります。また、検査部門ではAIによる放射線、病理の強みを活かし、ネットワークを使って関連病院に提供するサービスも始めています。さらに慶應義塾が持つネットワークを使い、患者を中心としてデータベースを構築し、未来型医療システムを実現します。

5のプロジェクトでは、AIホスピタル事業やJSR-Keioイノベーションセンター、橋渡し研究事業によってインキュベーションされたシーズを慶應義塾大学が有する殿町タウンキャンパスで国際展開を目指します。この殿町には慶應が中核となり、様々なアカデミアと68の機関が進出しています。知的創成基盤、再生医療の基盤、ヘルスケアのデータ活用基盤PeOPle、医療機器・ロボティクス基盤という4つのエコシステムを企業と連携させます。そして、再生医療、ロボティクス、AI・ビッグデータを社会実装し、殿町を近未来医療・ヘルスケアを創出するグローバル拠点として展開するビジョンを描いています。

健康医療ベンチャー大賞で受賞された3社のベンチャーによるプレゼンテーション

慶應義塾大学医学部主催の健康医療ベンチャー大賞にて受賞された3社から、受賞後の活動の進捗などについてそれぞれプレゼンテーションが行われました。

Smart Eye Cameraとこれからの眼科医療

第2回健康医療ベンチャー大賞社会人部門で優勝された株式会社OUIは、代表取締役の清水映輔氏、取締役の矢津啓之氏ら眼科医3名で起業したベンチャーです。カンパニーのミッションは「医療を成長させること」で、現役で医師を続けながらビジネスをするスタンスは曲げず、日本をはじめ世界の患者の生活の質を上げるために、最高の医療サービスの創造を目指しています。

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ベンチャー大賞を受賞したSmart Eye Cameraは、スマートフォンにアタッチして簡単に眼を診断できるポータブル医療機器です。前眼部から中間地点に特化して診られることが特徴で、目の表面や目の中のほかドライアイも診断でき、従来の顎を乗せて診る大型機器と同等の性能のエビデンスも出されています。

Smart Eye Cameraの開発は、2017年10月、矢津氏らが所属するNPOでベトナムに白内障手術に行った際に課題を発見したことから始まりました。現地には診断機器が1台しかなく、多くは目視で診断するため、白内障かどうかわからない人に手術を行ったり、重症、軽症にかかわらずとりあえず手術を行ったりしている状況でした。世界の失明の50%以上を白内障が占めていますが、白内障は診断さえできれば失明を防げる疾患です。

眼科医は光を目にあてて跳ね返ってきた光を拡大して診断するため、光とカメラと拡大部分を備えたスマートフォンであれば作れるのではないかと矢津氏は考えました。何度も自分たちの目で実験を行い、動物モデルでエビデンスを作って安全性と既存機器との相関を証明。そのエビデンスを基に届出をし、今年6月に医療機器としての登録が完了しました。医療機器として認可されたので、現在はヒトのエビデンスを集めて今年9月の販売を予定しています。また、資金調達が完了したことにより、新たに2名がチームに参加しました。

2025年に世界の失明を50%減らすことをゴールに設定し、今年もベトナムでNPOに機器を寄付したり、モンゴルで学校検診を行っている先生に使用してもらったり、ザンビアの医療キャンプの先生に使ってもらうなど、幅を広げていきます。「昨年は開発段階だったが、大学発ベンチャーとして一歩ずつステップを踏んでいる」と矢津氏は胸を張りました。

米国資金調達で得た学びについて

第3回健康医療ベンチャー大賞社会人部門で優勝されたIcaria株式会社は、代表取締役の小野瀨隆一氏と名古屋大学の安井隆雄先生と2名で起業し、サイエンスとビジネスの両方に理解の深い市川氏を経営陣に加えました。

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同社は、がんを早期発見し最適な治療を行うことを目標に、細胞同士の情報伝達を担う物質、エクソソーム・miRNAを取り扱っています。がんに深く関与するバイオマーカーであるmiRNAはここ数年注目を浴びていますが、捕捉が難しいことが課題でした。そこで同社では酸化亜鉛ナノワイヤデバイスを用いることで、ブレイクスルーを起こしました。これは静電相互作用を用いて、エクソソームを網羅的に捕捉するデバイスです。従来法では200〜300種類を捕捉するところ、我々のデバイスにおいては1300種類ものmiRNAを検出できており、これは世界でも類を見ない検出数となっています。

この技術を用いて、患者のプロファイルを機械学習により解析して作成したがんの早期発見アルゴリズムは高い精度を誇っています。今後、臨床試験を経て、来年中の製品化を予定しています。

また、今年5月に米国で資金調達をしてきた小野瀨氏は、そこで得た実感について話されました。米国では日本の40倍の資金がベンチャーに投入されており、資金的な強さはあります。一方で、日本には面白い技術があり、ここ数年で大企業やアカデミアが面白いシーズがあれば積極的に投資を行う環境に変わってきたので、チャンスはある、と述べられました。

同社は、来年からは米国に拠点を置いて事業展開も検討しています。小野瀨氏は、「少数のサンプルで成果を上げられることを強みに資金と人材を集め、日本の技術で臨床試験を行いながら、様々な疾患の共同研究や事業を日本から展開し、大きな成果を上げたい」と決意を述べました。

アトピー見える化アプリ-アトピヨ

第3回健康医療ベンチャー大賞Plamed賞(企業賞)を受賞されたRyotaro Ako 氏は、慶應義塾大学の理工系出身、公認会計士を経て、現在はベンチャー企業に勤務されています。自身もアトピーと喘息と鼻炎という3つのアレルギー疾患を抱え、救急搬送された経験からアレルギー疾患に対する問題意識を持ち、アトピーを見える化したアプリ「アトピヨ」を開発しました。

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アトピーは良くなったり、悪くなったりを繰り返すため症状の管理ができない。また、肌が荒れると外に出たくないので、アトピーについて相談できる友達がいないという、患者側の課題に取り組み、Ako氏は昨年、日本初のアトピー専用の画像SNSアトピヨをリリースしました。

アトピヨには症状を記録して画像で検索できること、症状や悩みを共有できるという2つの特徴があります。画像で症状を見える化し、症状を記録できるアプリは他社にはない強みで、アイフォンで簡単に操作できることも大きなメリットです。症状を記録することで、アトピーの悪化をコントロールでき、医師にも経過が分かりやすくなりました。悩みや症状の共有、ユーザー間サポート効果では、ポジティブな感情が2倍以上に増えました。

リリース1年で、ユーザー数7500、投稿数7800と、特に投稿数は10倍に増加。さらにベンチャー大賞後はユーザー数3倍、投稿数5倍に増えました。また、半年にわたって皮膚科医の先生にアンケートを行ったところ、「画像があることで診療に役立つ」と半数の先生が回答しています。特に評価できることとして、症状の写真記録ができるため、前回の診療から1カ月〜2カ月間の症状がわかることが挙げられました。

Ako氏は、今後のビジョンとして、「アトピヨにある約8000枚の画像データを医療機関に提供することで、ヘルスケアとメディカルの架け橋になりたい」と述べています。「8000枚の画像をAIに学習させ、製薬企業や医療機関に提供して治験や診療のサポートに役立てたい。そして、一人で治療する世界から、みんなでアトピーを治す時代を実現したい」と抱負を語りました。

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講演後は、ホワイエにて懇親会が行われました。当日は民間企業、大学関係者など幅広い層の方から、約100名の方にご参加いただき、誠にありがとうございました。参加者からは、「大学の教授・学生の両方から実体験を踏まえたお話を聞けて非常に面白かった」「各ベンチャー企業様の講演、想いがあって素晴らしかった」「慶應義塾大学の本気度が伝わってきた」など多数のご意見を頂きました。

慶應義塾大学では『健康医療ベンチャー大賞』を毎年開催しております。第四回を迎えた今年は、一次審査をポスター発表形式に変え、参加者間の繋がりを増やすなど、これまで以上に魅力的なコンテストに進化しています。
2019年12月8日に決勝大会を予定しており、出場者の応募締め切りは9月18日に迫っておりますので、興味のある方は是非ご応募ください。

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