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イベントレポート

大阪大学社会実装をめざす先端研究シリーズ第2弾 「大阪大学免疫・がん免疫研究の社会実装について」を開催(4/13)

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2022年4月13 日(金)、LINK-Jは大阪大学医学系研究科長・医学部長である熊ノ郷淳先生にご協力いただき、大阪大学医療分野の先端研究について紹介するネットワーキング・トークイベントを開催しました。シリーズ第2弾は『大阪大学免疫・がん免疫研究の社会実装について』をテーマとして、がん免疫研究に携わる3名の先生方にご講演頂きました。

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登壇者
高倉伸幸 先生(大阪大学微生物病研究所 教授/ 大阪大学 総長補佐)
保仙直毅 先生(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)
小山正平 先生(国立研究開発法人国立がん研究センター 先端医療開発センター ユニット長)
座長:熊ノ郷淳 先生(大阪大学大学院医学系研究科 研究科長・医学部長、教授)

熊ノ郷先生は冒頭挨拶で「がん治療はここ5年ほどの間に医療革命が起きている。遺伝子変異や血管のメカニズムなどの観点から、様々な分子標的薬、がん免疫療法が開発され、アンメットニーズに対する様々なシーズが豊富に生み出されている」と述べ、「この機会を通じて、連携やつながりを持っていただきたい」とコメントいただきました。

「腫瘍微小環境の制御と腫瘍免疫」

高倉伸幸 先生(大阪大学微生物病研究所 教授/ 大阪大学 総長補佐)

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高倉先生からは、腫瘍内の血管をコントロールすることで、薬剤の送達性を高め免疫細胞の浸潤を誘導できることなどをご講演頂きました。

1) 血管新生・腫瘍血管新生の概要
2) 腫瘍血管の制御:効果的な腫瘍免疫治療のためのvascular promotion
(ア) LPA4活性化による血管バリア形成
(イ) apelin/APJ系による静脈形成の誘導

がん組織の血管は、ペリサイト(内皮細胞を取り囲むように存在する細胞)が少なく、いびつな構造をしているため、血管が不完全な状態で、さらに、血管新生に関わる血管内皮増殖因子 (vascular endothelial growth factor:VEGF)が、内皮細胞のジャンクションを開いてしまうため、間質圧が高くなっています。これらのことは、抗がん剤の送達性の減弱や、腫瘍免疫の抑制の原因になっています。このことから、高倉先生は腫瘍微小環境における血管形成や構築の制御・正常化の概念であるvascular promotionという試みの実施について発表頂きました。
高倉先生は、LPA(lysophosphatidic acid)に内皮細胞同士のジャンクションを高める機能があることを見出し、LPA受容体のひとつであるLPA4が活性化することでバリア機能を高めること、マウスへの長期間投与や抗がん剤との併用により、強い抗腫瘍効果が確認されたことを示されました。
さらに、免疫細胞が、がん細胞に浸潤できないケースに対しては、リンパ節に発現している高内皮細静脈(high endothelial venule:HEV)を誘導することで、改善できるのではと考え、受容体Tie2のある細胞の遺伝子発現解析からApelin分子を見出されました。Apelinを過剰発現することで、血管が細静脈様に太くなり、NKT細胞が誘導されることを示されました。

CAR-T細胞療法」

保仙直毅 先生(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)

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保仙先生は、CAR-T細胞療法のメカニズムと血液がんへの有効性を述べた上で、多発性骨髄腫における新たなCAR-T細胞療法への取り組みと今後の展望を発表されました。

1) CAR-T細胞療法とは?
2) 多発性骨髄腫に対する新規CAR-T細胞療法の開発
3) 今後の展望

がん特異的な細胞表面抗原を標的とする様々なモノクローナル抗体が、がん治療薬として非常に重要な役割を担うようになっています。CAR-T細胞療法はその一つで、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子を患者さんのT細胞に入れることで作製します。患者さんへ投与したCAR-T細胞は体内で増殖し、がん細胞を死滅させます。大阪大学血液・腫瘍内科においては、びまん性大細胞性リンパ腫と診断された方の多くが寛解しています。
保仙先生は、多発性骨髄腫の治癒に対してもCAR-T療法が有望な方法と考え、骨髄腫特異的細胞表面抗原の同定を目指し研究に取り組まれました。その結果、翻訳後修飾で立体構造が腫瘍でのみ変化していることに着目され、骨髄腫細胞株に結合する抗体としてMMG49を見出されました。MMG49抗体が認識しているタンパク質がIntegrinβ7であることを突き止め、MMG49 CAR-T細胞を骨髄腫に対する新たな治療薬として、大塚製薬へ独占的ライセンスアウトをし、治験が実施されています。

CAR-T細胞療法は、血液がんの一部においてしか有効性が示されていないこと、がん特異的抗原が欠如していることを指摘され、タンパク質の翻訳後修飾により変化する構造の探索や、臍帯血由来NK細胞を用いた新たな細胞療法の必要性を述べられました。

「がん免疫複合治療が標準化した現状におけるバイオマーカーの役割と今後の展開」

小山正平 先生(国立研究開発法人国立がん研究センター 先端医療開発センター ユニット長)

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小山先生からは免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor:ICI)におけるバイオマーカーの変遷と、併用時代のバイオマーカーの役割についてご講演頂きました。

1) ICI治療におけるバイオマーカーの変遷
2) 併用時代の次世代型バイオマーカーの役割
3) すてにある技術を活用すれば?

肺癌診療ガイドラインでは、ICIである抗PD-1抗体・抗PD-L1抗体が一般的に使われるようになっています。胃癌においても、慢性感染、遺伝子変異の背景、免疫学的表現型を臨床レベルであらかじめ評価した上で有効な治療の選択ができるようになり、米国ではかなりの数のICIが開発され、標準化されています。

単剤におけるバイオマーカーの場合、T細胞が「がん」を認識するための抗原は、がん細胞の遺伝子変異によってもたらされ、ペプチド化して細胞表面に提示されるとT細胞に監視されやすくなりますが、遺伝子変異を重ねることで、免疫監視を逃れる頻度も起こります。
コンパニオン診断薬として、PD-L1の発現が高ければ効果が高いと考えられますが、臨床試験の結果では、全てのがんに一様ではないことが報告されています。腫瘍遺伝子変異量(Tumor Mutational Burden:TMB)とPD-L1発現マーカーを組み合わせることで、評価を高める方法が用いられています。

ICIによって多くの患者さんに恩恵をもたらすためには、抗がん剤や分子標的薬などを組み合わせた併用療法を用いることが有効です。しかし、最近の臨床試験の結果では抗がん剤とICIを併用したケースでは、ICIの長所であるロングテールの効果が抗がん剤によってキャンセルされているのではという指摘もあるとされています。

「ICIと何を併用するのか?」治療内容の選別は医師に委ねられているため、サポートする情報が必要です。がん細胞の遺伝子変異によってICIの腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte:TIL)が抑制されるケースがあるとされており、小山先生は、これを遺伝子パネル検査で評価し、TMBの評価やICI感受性予測にも十分活用できるのではと提案されました。がん細胞の抗原性が保たれているにも関わらず、免疫細胞が浸潤できず、ICIの効果を発揮できないことが多くあるため、パネル検査の活用と、病理評価の際にT細胞上のPD-1を調べることなど、組織診断を活用する、複合的な解析の必要性を述べられました。

パネルディスカッション

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熊ノ郷先生が座長に就かれ、高倉先生、保仙先生、小山先生の三名に対し、視聴者からの質問も交えながら、前半の講演内容を補足するような形でQ&Aを進めました。

熊ノ郷先生:CAR-T細胞療法が固形癌には効かないという障壁がありますが、がん細胞周辺の間質圧が高いことが影響しているのでしょうか。

高倉先生:血液癌と固形癌の周辺の間質圧を比較すると、固形癌の方が高いという特徴があるとされており、T細胞浸潤を抑制する、薬剤の送達性を抑制している可能性があります。

熊ノ郷先生:T細胞はヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen:HLA)で規定されることや、固形癌の問題などがありますが、NK細胞に対しても維持が難しいという指摘があります。

保仙先生:T細胞と比べるとNK細胞は体内に長く残れない細胞のため、T細胞ほど抗がん作用がないのではと考えられていますが、デザインを施すことで長持ちするNK細胞をつくることができればと考えています。HLAに対するもう一つのアプローチはゲノム編集を使ってTCRを除くという方法があります。

熊ノ郷先生:ICIの導入によって、効くがんと効かないがんが明確になってきましたが、大腸がんに対してはどんなストラテジーがありますか。

小山先生:大腸がんにICIは効かないと考えられていますが、ミスマッチ修復酵素の変異が高いことが知られています。治験では重点的に行われており、現在は、抗がん剤、放射線、ICIの併用によって、効果が確認できる場合もあります。患者さんの治療前後の検体を調べることで、どのような併用方法がいいのか検討していくことが今後の課題です。

熊ノ郷先生は、「アカデミアだけの研究の話ではなく、日常の臨床の中で用いられている内容で、学生に対して講義をする際も1年前の内容をガラリと変えるくらい、新しい手法が次々と導入されてきている」と強調されました。がん遺伝子パネルなどをはじめ、患者さんがもっている遺伝子情報やシングルセル解析なども導入されており、各先生がたの研究領域の中でどう生かされているか、今後の展望なども踏まえお聞きしました。

本イベントは、オンラインにて配信され、285名の方にご視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様ありがとうございました。大阪大学社会実装をめざす先端研究シリーズですが、今後もテーマを変えて継続開催を予定しております。詳細が決まりましたらHPに掲載しますので是非ご参加ください。

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