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イベントレポート

「"東北大学先端技術×ライフサイエンス"シリーズ vol.1 東北大学病院が進めるスマートホスピタルと現場観察ABCの最前線」を開催(1/31)

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2022年1月31日(月)にオンラインにて「"東北大学先端技術×ライフサイエンス"シリーズ vol.1 東北大学病院が進めるスマートホスピタルと現場観察ABCの最前線」を開催しました。(主催:LINK-J、共催:国立大学法人東北大学オープンイノベーション戦略機構)
ぜひYouTubeアーカイブをご視聴ください。

なお、本シリーズ続編として「vol.2 イノベーションと働きかた改革を両立するためにはコ・クリエーションが必要だ~東北大学病院での経験から~」を3月17日にオンライン開催いたします。立場の異なるプレイヤー同士の共創や新たな価値創造、オープンイノベーションに関心のある皆様、ぜひご参加ください。

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東北大学病院 特任教授
Experience Design & Alliance Section:EDAS-TUH 東北大学病院産学連携室デザインヘッド 中川敦寛氏
「東北大学病院が定義する『スマートホスピタル』」
「ニーズ探索、医療現場観察のABC:60社、1500名のみなさんの受け入れ経験から」

中川氏より東北大学病院が推進するスマートホスピタルプロジェクトをご紹介いただきました。
同病院では、患者さんに優しい医療と先端医療との調和を目指し、患者さんにとって居心地がよいことはもちろんですが、医療従事者にとっても心地よい病院を目指し、企業アライアンスとテクノロジー導入を積極的に推進しています。医療現場では労働力制約が強まる一方で業務の高度化・多様化が進んでおり、スマートホスピタルを実現するためには、イノベーションと働きかた改革を同時に行う必要があると強調されました。
その際に必要となるのが、医療現場において解決すべき課題を明らかにし、根源的に解決することです。課題の全体像を俯瞰し構造を理解した上で、根治に解決することで、業務を大幅に減らすことができた、しかも評価指標は大幅にあがった!(Less is More)という状態を目指したいところですが、それを実現する上でデザイン思考は非常に有用、という説明から講演が始まりました。デザイン思考をプロセスに落とし込むため、東北大学病院では、事業化に資するニーズ・課題を医療現場での観察から見つけるプログラム「アカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)」を立ち上げました。そのプロセスでの最初の重要なステップは医療現場観察です。中川氏は、現場観察でないと出来ず、かつ最もやるべきことは、取り組むに値する課題かどうかニーズを見極めることだと述べます。また、多様な視点からの意見を得ることでアイデアがブラッシュアップされると言います。
ASUでは、8年間で50社以上、1500名に上る企業開発研究者を契約ベース(6カ月単位)でプログラムに参加いただきました。これほど多くの企業が現場観察・ニーズの見極めを目的として参加する一つの要因として、ASUでは課題探索からはじまるプロセスのピットフォール(落とし穴)を避けるためのさまざまな工夫が行われていることが挙げられます。
その点に関して、続く小鯖氏よりASUで企業から参加するチームの現場観察からニーズの定義づけまでの支援を行うクリニカルチーム、自ら国内外で医療従事者・関係者として従事した経験に基づき、"言語化されていない"、"事業化に資する"ニーズ探索のポイントとピットフォールを事例を含めてご紹介いただきました。

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東北大学病院臨床研究推進センター バイオデザイン部門 助手、クリニカルチーム
小鯖 貴子 氏
「現場観察のサポートから見えるポイントとピットフォール ~現場観察からインサイト発見まで~」

クリニカルチームとして企業からASUに参加されるみなさんの現場観察からニーズの定義づけまでを中心に支援をしていて、参加者が感じられているのは、"事業化に資するニーズ"は、"現場に行きさえすれば"簡単に手に入る、というものではないことと、会社の戦略、特徴、状況をふまえた上で、観察したことを"事業化に資する"ニーズの定義に反映させていくことは、容易ではなく、実際、すべての企業のみなさんがさまざまな試行錯誤をされているように思います。目や耳から入る情報だけでは、"事業化に資する"ニーズをみつけることは難しく、せっかく現場に入ったのに、既に多くの人が言葉にしている(言語化された)困りごと、既に製品化されてしまった(けど売れないさまざまな"願望")ことに近いものしかでず、企業に戻っても、現場に入った割に、陳腐だな、と思われてしまうようなこともないわけではありません。そこで、感性を働かせ、感性にひっかかるところを中心に患者さんを含め関係する人、ことの関係を注意深く観察し、紐解き、可視化していくことで、はじめて当事者たちも"言われてみれば、そうだな"と気づくような、"言語化されていない"ニーズにつながる気づき(インサイト)を得ることができます。さらに、会社の戦略、特徴、状況に常に立ち帰ることで、ニーズをみたすことで得られるインパクトが事業の面から合理的で、現実とはかけはなれなくすることができるように思います。同時に、企業マネジメントの理解と支援が得られ、現場で得られたインサイトを医療従事者の協力も得ながら深堀りが進むように思います。こうしたポイントをおさえることが、"事業化資する"もので、かつ、製品化された時に、カスタマーが"こんなものが欲しかった!"とうなるような、まだ当事者が言葉にすらできていない"言語化されていない"にニーズの定義づけにつながる、という一連の流れをご説明されました。

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東北大学大学院医学系研究科 糖尿病代謝内科学分野 助教、ビジネスリエゾン
高橋 圭 氏
「東北大学糖尿病代謝科におけるオープンイノベーションとクリニカルイマージョンのご紹介」

続いて高橋氏より、糖尿病代謝科におけるオープンイノベーションとクリニカルイマージョンについて紹介いただきました。糖尿病代謝科は、臨床・研究実績、科学的発信力、地域ネットワーク、官とのつながりなどの強みを持っており、これらを生かしたオープンイノベーションを進めています。具体的には、同科が企業のインターフェイスとなってステークホルダーへの通訳の役割を担うこと、医療ネットワークを活用した検証、臨床現場観察を通して企業にニーズを探索してもらう「クリニカルイマージョン」、といった医療機器の上市までのプロセスに必要な様々なサポートを提供することができます。最後に、企業とのコラボレーションによりオープンイノベーションを進めていきたいと述べられました。

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株式会社フィリップス・ジャパン Solution CoE HTSコンサルティング部 リーダー、デザインシンキングコンサルタント 北原 雄高 氏
「ヘルスケア改革に向けたPhilipsのコ・クリエイションの取り組み」

続いて北原氏から、ヘルスケア改革に向けたコ・クリエイションの取り組みについて紹介いただきました。同社では、医療機関や企業と長期的なパートナーシップによってイノベーション創出を進めています。それはつまり、患者さんの体験、職員の業務、環境空間的な体験を俯瞰することにより、課題・解決策を部門横断的な参加者と共創していく取り組みです。
北原氏は、ヘルスケアソリューションの軸は患者さんの価値向上にあると言い、患者さんを中心に上記プロセスを描くことにより、部門にまたがる課題を見つけ、解決策をデザインする際には利害衝突を収斂させることができると強調しました。

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<パネルディスカッション登壇者>
・講演者4名
・東北大学大学院医学系研究科 発生・発達医学講座 小児病態学分野 助教、ビジネスリエゾン 大田千晴 氏
・帝人株式会社 ヘルスケア新事業部門 医療機器事業推進班 研究員 西脇泰美 氏
・デンカ株式会社 ライフイノベーション部門 事業推進部 藤井健治 氏
・日本特殊陶業株式会社 ビジネスクリエーションカンパニー ビジネス戦略部 ベンチャーラボ東京課 副主管 鈴木健二 氏
・東北大学オープンイノベーション戦略機構 統括クリエイティブ・マネージャー 特任教授 内田渡 氏
・一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)常務理事 曽山明彦

講演後、ASU参加企業・現場観察をサポートするビジネスリエゾン(医療従事者としての専門領域をもちながら、デザイン思考と事業のながれについて理解することで、医療従事者と企業の協働をファシリテートする人材)に加えて、内田氏と曽山も参加してパネルディスカッションが行われました。

現場観察のインサイト、つまり定義付けられたニーズをどのように見つけるかというテーマについて各々の視点から議論やアドバイスが行われました。
最後にイノベーションを起こす上でのアカデミアの役割について、内田氏からは「事業開発の答えは現場にあり、医療現場と企業との共創により新しいものを生み出すことが必要」とコメントをいただきました。それを受けて中川氏は、良い仕事をしていくうえで協調と競合がバランスよくできる場がアカデミアだと締めくくられました。
また、LINK-J曽山の総括として、患者さんに医療サービスを継続的に提供するためには医療従事者のニーズが大事であり、そうした課題に取り組むデジタルヘルス系スタートアップと大学・大企業がコラボレーションすることも考えられると提案がありました。

講演・パネルディスカッションの詳細についてはYouTubeアーカイブをご視聴ください。

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