Menu

イベントレポート

「第31回 LINK-Jネットワーキング・ナイト UTECによる共同事業化〜ベンチャーエコシステム活性化に向けて〜」を開催(6/17)

  • twitter
  • Facebook
  • LINE

6月17日、「第31回LINL-Jネットワーキング・ナイト UTECによる共同事業化〜ベンチャーエコシステム活性化に向けて〜」を日本橋ライフサイエンスビルディング2階にて開催いたしました。

株式会社東京大学エッジキャピタル/東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)は、2004年の設立以来、科学技術や人材の成長発展を核とするベンチャー起業への投資活動、研究者や起業家らとの共同事業化に取り組んできました。今回のナイトでは、このUTECが手がけたスタートアップの実例を紹介しながら、資金提供だけでなく、共にビジネス、市場、産業を創出していく活動とその意義、舞台裏を明かしていただきました。

UTEC1.JPG

【基調講演】 
UTEC代表取締役社長/マネージングパートナー 郷治友孝氏

【企業紹介】
堀本勝久氏(ソシウム株式会社 取締役) 
森口茂樹氏(ブレインイノベーション株式会社 取締役) 
古塚正幸氏(株式会社Epigeneron 取締役)
市川満寿夫氏(Repertoire Genesis株式会社 取締役)
平塚誠司氏(オリシロジェノミクス株式会社 代表取締役)
細川正人氏(bitBiome株式会社 取締役)

【パネルディスカッション】
司会:宇佐美 篤氏 UTEC パートナー/LINK-Jサポーター
大門良仁氏(bitBiome株式会社 代表取締役)
市川満寿夫氏
平塚誠司氏
細川正人氏

基調講演

まず郷治友孝氏による基調講演が行われました。同氏は、大学が民間資金を利用して市場に進出するためのベンチャー創出について経産省時代から考え始め、2004年に1号ファンドを設立しました。以降、投資家のサポートを受けて、15年間で4号、540億円のファンドを立ち上げ、累積101社に投資しました。そのうちIPO 10社、M&A等11社がエグジットを果たし、一定の成果を投資家に還元できるまでに成長しました。

UTEC2.JPG

郷治友孝氏(UTEC代表取締役社長/マネージングパートナー)

中でも大きく成功した案件は、1号ファンドのペプチドリームです。ペプチドリームは、そのペプチド創薬プラットフォームシステムにより、世界の約20社の創薬企業と共同開発を行い、東証一部上場、時価総額7000億円とまでになりました。

ペプチドリームへの支援は、UTEC・東大TLO(知財専門企業)・研究者の3者で起業に必要な資金や共同創業者などについて議論を重ねることで、発明から1年後にペプチドリームを創業、その2年後にUTECが投資を開始という流れとなりました。

郷治氏は、「創業当時、私たちは未経験であった。そのため時間がかかったが、15年で経験を蓄積し、今回ご紹介する企業に対してそのノウハウを活かすことができた。また、UTEC自身も拡充しており、常勤20人の中には知財や人材採用の専門知識を持ったメンバーがおり、チームワークづくりや人材紹介までサポートしている」と述べました。本日のナイトでは、「創業に至った経緯を理解し、それぞれが取り組む事業の理解を深める、あるいは新たなチャレンジのために何がポイントになるのかを感じて欲しい」と語りかけました。

創薬データサイエンスのエコシステム

ソシウム(株)は、産業技術総合研究所の持つ特許を技術移転して創業したベンチャーで、創薬や医薬品開発の支援を行っています。同社は主にドラッグ・リポジショニング、ドラッグ・レスキュー、層別化マーカー探索、薬効機序の解明など4つのサービスを提供しています。

IMG_8614.JPG

堀本勝久氏(ソシウム株式会社 取締役)

ソシウム(株)が製薬企業に提供しているソリューションの一つの薬効機序の解明として、リン酸化経路を発見するためのシステム「Phospho-Totum」についてご紹介頂きました。このシステムを利用すると、リン酸化の有無によって標的組織におけるパスウェイ(遺伝子やタンパク質の相互作用に関する経路)の変化を観察することや、どのキナーゼ(リン酸化酵素)がどの程度活性化しているかを観察することができ、疾患に対する薬効メカニズムの解明につなげることができるとご説明頂きました。

堀本氏は、「オミックス解析の一翼を日本発で出したいという想いで開発しております。革新的リン酸化解析技術を利用し、抗がん剤の開発支援を行っていきたい」と意欲を述べられました。

アルツハイマー病新治療薬で世界の皆様に脳の健康を

森口氏は、アルツハイマー病に対する新規治療薬の開発のため、2018年8月にブレインイノベーション(株)を起業しました。現在のアルツハイマー病治療では既存薬である4剤の効能は、いずれもアルツハイマー病患者の認知機能障害認知機能障害です。また、多くの製薬企業ではアルツハイマー病患者の脳神経細胞で確認されておりますアミロイドβならびにタウ蛋白質の抑制を標的として開発化合物の臨床試験を進めておりますが、上市に至っておりません。

IMG_8619.JPG

森口茂樹氏(ブレインイノベーション株式会社 取締役)

ブレインイノベーション(株)では、アルツハイマー病治療薬の開発実績を持つメンバーがチームとなり、新しいコンセプト(MOA)による治療薬の開発を行っています。アルツハイマー病の患者数は世界中で急激な増加が確認されておりますので、早急な治療法の確立は急務です。ブレインイノベーション(株)では「世界の皆様に脳の健康を届けます」という目標を達成するため、今後も事業を推進されると述べられました。

エピジェネティック創薬と遺伝子変異の検出

(株)Epigeneronは、エピジェネティクス(エピジェネティック制御)に注目した創薬ターゲットの探索や遺伝子変異の検出技術を行う会社です。エピジェネティック制御とは、DNAの塩基配列の変化を伴わない、遺伝的な形質の維持に関わる制御機構を指します。

IMG_8630.JPG

古塚正幸氏(株式会社Epigeneron 取締役)

同社は、クロマチン免疫沈降法(ChIP法:クロマチン(DNAとタンパク質の複合体)を抗体などで単離する手法)を用いて、疾患に関連した遺伝子のターゲット領域に対して生化学的な単離を行い、300~400程度の関連分子から、最終的に約10~30まで絞り込めるとのことです。例として、がんに関わるp16遺伝子とPD-L1タンパクの遺伝子発現修飾が確認されたデータを示しました。

また、同社は20塩基程度の短いRNAを用いて、標的とするDNA配列の増幅を阻害する「ORNi-PCR法」を開発しています。この技術は、遺伝子変異を効率的に見つけることができるため、ゲノム編集の変異導入の確認など、様々に応用できると考えられています。

合同会社として2015年に設立された(株)Epigeneronは、2018年にUTECから投資を受けて事業拡大を進めています。古塚氏は、「自社の研究パイプラインについてはヒット化合物まで進め、2019年末から2020年頭にかけてシリーズBの資金調達を考えている」と抱負を述べられました。

次世代型免疫療法のキーテクノロジー

2014年に創業したRepertoire Genesis(株)は、「治らないをなくす」をミッションに、免疫多様性解析技術を用いた新規の診断、治療法を開発しています。

IMG_8632.JPG

市川満寿夫氏(Repertoire Genesis株式会社 取締役)

同社は、免疫状態を抗原と抗体の両面から解析する技術を持っています。前者は、患者個人のがんの目印となるペプチド断片を見つけ出すことのできる「ネオエピトープ解析」。後者はT細胞やB細胞のレパートリーを解析する「レパトア解析」です。これらの解析技術により、抗原性の高い治療標的や、がん特異的な免疫細胞などを10の18乗もの免疫細胞の中から検出することができます。

これらの技術は、「Nature」や「Cell」などの主要なトップジャーナルでも高く評価されており、現在、米国や韓国、ドイツの研究所との共同研究が始まっています。市川氏はUTECのサポートについて、「設立資金だけでなく、チーム編成やビジネスプランの作成から、レイターステージにおける事業拡大の全てをフルサポートしていただいた」と評価しました。市川氏は、「これからは免疫多様性解析で、治らない疾患をなくす世界を叶えたい」と語りました。

合成生物学産業の可能性を解き放つ無細胞

平塚誠司氏が創業したオリシロジェノミクス(株)は、2019年3月にUTECから投資を受け、本格的に活動をスタートさせたばかりの会社です。同社では、細胞を用いずにDNAの連結や増幅を実現する技術を基盤に、バイオエコノミーの発展とそれを支える合成生物学の分野に寄与していくことを目指しています。

IMG_8643.JPG

平塚誠司氏(オリシロジェノミクス株式会社 代表取締役)

無細胞によるDNA増幅技術は、25種類のタンパク質と増幅したいDNA試験管内で一定温度に保つことで複製を行うものです。この技術を用いることで、クローニングに要する時間をこれまでの約10分の1に短縮できます。さらに、配列を選ばずにDNAの増幅ができるため、研究の効率化と対照範囲の拡大が可能となり、新しい技術開発につなげられることが大きな強みです。また、本技術は遺伝子組み換え実験ではないため、実験施設の規制の観点からもメリットがあります。この基盤技術を用いて、微生物や植物のゲノム改変や、次世代の遺伝子診断や治療、IT分野などの幅広い分野への応用を考えています。

カオスから価値を生む次世代マイクロバイオーム解析で新産業の創出へ

早稲田大学の細川正人氏は、JSTのさきがけ事業で開発した技術を元に、2018年11月にbitBiome株式会社を設立しました。

IMG_8650.JPG

細川正人氏(bitBiome株式会社 取締役)

同社は、シングルセルによる微生物ゲノム解析を行うことで、従来の全体像としての微生物の特徴ではなく、個々の微生物の能力や特徴を把握し、整理されたマイクロバイオームのカタログをつくることを目指しています。現在、国際微生物ゲノムデータベースには約10万のデータが蓄積されていますが、同社はこれを超えるデータ量を、この1〜2年で獲得する計画をたてています。マイクロバイオームの論文数は10年で約10倍となり、2018年には米国FDA(Food and Drug Administration)がマイクロバイオーム製剤開発を支援する動きなども出てきています。将来、マイクロバイオーム検査がコンパニオン診断の一つになることが示唆されており、微生物の作用機序や解明が求められています。細川氏は、「世界最大の微生物ゲノムデータを構築し、AIやIoTや合成生物学のアプローチで、新たな抗生物質の創生や、オーダーメイド腸内細菌解析など、多様な分野への応用を考えている」と述べられました。

パネルディスカッション「共同事業化の舞台裏」

最後のプログラムは、共同事業化の舞台裏というテーマで、パネルディスカッションを行いました。

IMG_8665.JPG

まず、ベンチャーを起業した経緯やUTECへの思いが語られる中で、細川氏は「立ち上げのときは何もわからない状態で、そこを伴走してくれるUTECがいなかったら実現できなかった。特に人材戦略について丁寧に説明してもらえたことで信頼関係が築け、今に至っている」と振り返りました。また、市川氏は「土日、夜間も関係なく相談に乗ってくれ、投資担当者だけでなくUTEC全体が無償でサポートしてくれた。スタート時にお金のないベンチャーにとって、非常に価値がある」と述べました。

次に、今後望む支援のあり方について聞いたところ、大門氏は「様々な形態で働きたい人をUTECさんや第三者的なLINK-Jさんがプールし、人材のリストとして持っていたら、スタートアップは声をかけやすくなるのではないか」と提案すると、平崎氏は「私たちのような小さい会社はこれはという人が一人いればいい。その一人に出会うために高いマインドを持った人材と出会える機会を多く持ちたいし、そうした場が業界全体として増えるといい」と要望しました。

一方、市川氏は「グローバルなビジネス展開を考えると、海外のリーガル面での相談を弁護士事務所に頼むには大きなコストがかかる。そうしたファンクションがあるといい」と希望を述べました。

最後に司会の宇佐美氏は、「皆さんのお話にもあったように最大のテーマは人材だ。LINK-Jには引き続き、人と人、組織をつなぐことを目的に新たな企画をしていただきたい」とリクエストし、パネルディスカッションを締めくくりました。

UTEC10.JPGのサムネイル画像 UTEC11.JPGのサムネイル画像

講演後は、日本橋ライフサイエンスビルディング10階ラウンジにて、ネットワーキングが行われました。

当日、100名を超える多数の方にご参加いただき、参加者からは「良いアイディアを持っても起業の仕方がわからないというアカデミアの先生も多いので、このような機会を増やしてほしい」「共同事業という観点で、どうやって組むか、誰と組むかをきけて、参考になった」「起業の際の生の声がきけてよかった」などのご意見をいただきました。

ご参加いただいた皆様、ご登壇いただいた皆様、ありがとうございました。

pagetop